持続可能な演劇を!劇作・演出家 今城文恵の最新作がいよいよ迫る!【新作公演特別企画】今城文恵×松尾貴史対談

持続可能な演劇を!劇作・演出家 今城文恵の最新作がいよいよ迫る!【新作公演特別企画】今城文恵×松尾貴史対談

劇作家・演出家の今城文恵が手掛ける、持続可能な演劇―How do you survive?シリーズ3作目が2025年12月17日(水)~20日(土)にニュー・サンナイで上演される。

社会に対する風刺を、ユーモラスな世界の中で表現する今城作品。

今回は対談企画として、今城文恵とも親交の深い俳優・松尾貴史が登場。
会場のニュー・サンナイでの対談は、今城作品にとどまらず、演劇の魅力まで語り合うものとなった。


──まずはじめに、松尾さんから見てここニュー・サンナイの印象はどうですか?

松尾「ここはプレオープンの時から来させてもらっています。その時から何かやりたいって言い続けて、まだ1回も自分が出るのはやってないんですが。」

今城「めちゃくちゃいいスペースだなって私は思うんですけど。」

松尾「本当にそう思いますよ。」

──舞台にちゃんと高さがあって仕切られた印象がありますね。

松尾「舞台上に台を作ったら落語もできるようになりますね。」

今城「松尾さん、ここのオーナーである俳優の山内圭哉さんともう長いですよね?」

松尾「長いですけど、山内さんがリリパットアーミーに最初に出演した、その前の回まで僕は出てたんですよ。」

──山内さんとはご一緒してないんですね。

松尾「被ってないんです。ただ、もちろん客演で出た時は山内さんも出てる時がありましたけどね。あとはG2演出でご一緒したり、後藤(ひろひと)くんが演出ので一緒になったりっていうのと、飲む、みたいな感じになってます(笑)」

今城「(笑) ライブバーはいっぱいありますけど、こんなに演劇フレンドリーのとこってあんまりないですよ。」

松尾「あとやっぱり『出し物』ができる空間にしてくれてるじゃないですか。舞台のツラがあって、これがね、結界の役割を果たせる時もあるわけですよ。だけど一緒になって盛り上がることもできる、ほどのいいステージですね。」

リアルに感じさせるすっとんきょうな発想

──松尾さんは、ニュー・サンナイで今城さんの過去作、「How do you survive?#1、#2」をご覧になったそうですね。今城さんの作品の印象は、どうでしたか?

松尾「今城さんの持ってる、なんていうんでしょう。すぐには死なせない毒みたいなのが、塩梅よく散りばめられててますよね(笑)」

今城「なるほど(笑)」

松尾「その毒が風刺の毒なのか、見てる人を蝕んでいく毒なのかは、その時には分からない。でもひょっとしたら、あれは何かの象徴なのかなとか。これはひょっとしたら今の世相を批評しているのかなとか。でもこれはいつの時代でもありがちな心の動きだなとかっていうのを、少しムードの違う設定にすることで表出させるみたいな。

そういうことが毎度あるような気がします。」

今城「すごい嬉しいです。毒って確かに。あと『今城はめちゃくちゃ人に怒ってるんでしょ』って言われたことがあって、確かにムカつく人をメモしとくっていうのはすごいあるから。」

松尾「題材になりますよね。でも、昔、滝大作さんって演出家の方がいらして。元NHKの方で、NHKで最初に武さんとタモリさんを使ったっていう、あとは萩本欣一さんなんかもすごいお世話になったらしいんですけどね。

とにかくすごい演出家の方がいらっしゃって、その方が立川談志さんについて話しているときに、僕が『いつも怒ってらっしゃいますよね』って言ったら『優しいから怒るんだよね』って。」

今城「うわ!」

松尾「つまり、初めに設定されている人間に対する期待度が高いんですよ。でも自分がそれを期待したって現実は変わらないから結果怒ることが多くなっちゃうんだよ、人間のことが好きなんだよ、って仰って。」

今城「うわー、多分そうです。嬉しいような恥ずかしいような、ですね。だから毎回ムカつくなとか、この人なんでこんなこと言うんだろうって人をモデルにしてます。」

松尾「やっぱり、『自分はこれがデフォルトのレベルである』っていう設定と比べて、人は不幸に感じたり幸せに感じたりするんですよ。」

今城「やばい、また自分に返ってくる…」

松尾「『自分はこれぐらいのポジションでいていいはず』っていう設定があるでしょう。それとの落差でいちいち怒ったり、悲しんだり、苦しんだり、悩んだりするんですよね。」

今城「はい、お見通しです。でも怒りとか毒っていうのは嬉しいかもしれない。」

松尾「毒って、ちょうどいい濃度だと薬なんです。」

今城「はいはい。」

松尾「その濃度を変えることで毒にも薬にもなる。だから、演劇の劇はやっぱり劇薬の劇なのかなって気がします。」

今城「今まで見ていただいた中で覚えてるキャラクターとなると、オーギソヨソヨ(※2019年浮世企画「誰そ彼」劇中のキャラクター。愛嬌たっぷりだけどなんでも食べてしまう妖怪。本公演キャストのぎたろー演)ですか?)

松尾「そうですね。あれも善意だって思っていることが実は無自覚な悪意だったり、『自分はこの欲望を優先するだけさ』みたいな人が他人に不幸を与えてしまう。

それぞれの設定がみんな違う、その差がドラマを生むのかなっていう感じがあります。だから脚本ではそこの設定をどううまく裏切っていくかが、ポイントになるのかなと思いますね。

いろいろ裏切られて楽しかったもん(笑)

『また裏切られた!まさかコレないと思ったら、また来たねコレ』っていうような。」

今城「それめちゃくちゃ嬉しいな、ありがとうございます。」

松尾「あとは設定を不条理に近づけると、やっぱりやってる人がうまくないとっていうポイントがいっぱい出てきますよね。」

──そうですね。今城さんの作品は、どの作品も本当に俳優さんの力があると思います。

松尾「リアルに感じさせるすっとんきょうな発想、っていう両極端があったときに、たとえばマグリットとかダリの絵ってすっごい写実的で、それなのに意味が分からないじゃないですか。」

今城「すごい好き。」

松尾「それが面白いんだと思いますよ。演劇も写実の手腕というか、技量を持った人が多く関わっていくと、その発想の面白さがもっと際立つのかな、という気がします。」

今城「そうですね。本当に。そしてなんだったら今後『ダリみたいな作品です』っていう大口を叩いていきたいなって思いましたよ(笑)」

松尾「言ってください(笑)」

個性は独特の批評性

──そんな今城さんの渾身の今作は、どのような内容ですか?

今城「1作目は多夫多妻で、2作目は医療のサブスクとか闇バイトがモチーフだったんですけど、今回はもっと時代がいって、地球がディストピアになってしまったっていう。」

松尾「そこから逃げていた主人公。」

今城「そうそう、そこからスペースコロニーに自分だけ行っちゃったっていう。仲間を見捨ててスペースコロニーに逃げてた人がひょっこり15年ぶりに帰ってきて、お前何してたんだよって言ったら、『いや、なんかちょっとまず逃げてごめん』みたいな。急に仲間たちに謝り出すみたいな感じです。」

松尾「また地球に帰ってきたい、定住したいってことですか。」

今城「彼はある目的を持って戻ってくるんですけど…」

(ネタバレ中)

松尾「…面白いですね。宇宙飛行士の人たち、科学の最先端の粋を集めて作られたものに乗って粋を集めた作戦に成功して帰ってきたら、みんな信心深くなるそうですよ。」

今城「へえ!」

松尾「それまでスケプティックだった人も、帰ってきたら神を信じるようになっちゃう。よく生きよう、あるいは世の中のために生きていこう、っていう気持ちになるんだとか。だから今イメージとして想像しやすかったです。」

──おもしろい意見ですね。松尾さんから見て、今城さんの作品の個性はなんだと思いますか?

松尾「個性は、独特の批評性を持っていると思います。」

今城「ありがとうございます。」

松尾「得がたいセンスを持っていらっしゃいますよ。」

演劇は体験する芸術

──もうひとつお聞きしたいのですが、松尾さんが思う演劇の良さとは何ですか?

松尾「今日ある劇場の人と劇作もする作家さんと3人でご飯を食べてたんですけど。その時に、人物がリアルな大きさで投影されるような大きなスクリーンで、演劇を最初から最後まで定点で撮ったものを映写する、それをみんな客席に座って見るっていう会に行ってみたらつまんなかった、という話が出たんです。

僕はそれ聞いて、やっぱり演劇は体験するものであるということを思いました。演劇は鑑賞というよりは体験っていうようなもので、演じてる方も観客も体験している。だから演劇は生じゃないといけないんだね、っていうふうに思います。

そこを『観客と一緒に作るものだ』と表現する人が多いですけど、まさにそういうことなんでしょうね。同じ空気の中で同じ興奮をした人たちが集まって、なぜか目に見えない掛け算が生まれてきた、っていうのが演劇の世界なのかなと思います。」

今城「私もそう思います。」

──というのは?

今城「私も個人的に見てて好きなお芝居って、ストーリーがしっかりあって、というのももちろん素敵なんですけど、突然突拍子もないことが始まったり、みんながちょっと困ってる瞬間とかが、やっぱりおもしろいなと思うんですよね。」

──なるほど。物と物がぶつからないと音が発生しないのと同じように、物語も人と人がぶつからないと始まらないって作家さんから聞いたことがありますが、日常で生きてると作られた反応ってないですからね。偶発的なアクシデントに面白さってありますよね。

松尾「唐十郎さんの『少女仮面』、今年に入っていろんなところががやってますよね。渡辺えりさんもやられたし、この間は原田芳雄さんの娘の麻由ちゃんが少女の役で。観客が入場するまでの整理券配った状態で、『それではただいまから車道の向こう側で始まります』って。みんなが後ろ向いたら、車道の向こうで衣装を着た老婆役の人と少女役の人が二人で芝居をして、4、5分かな、それで建物の中に入っていく。そこでまた係の人が『はい、それではこれから入場していただきます』と案内するんですよ。

いきなり脅かされるというか、驚かされるというか。70年代80年代によくあったハプニングっていう手法、後にパフォーマンスと言う人もいますが、ハプニング的な空気が残った演出でした。

面白かったですね。巻き込まれた感じがありましたよ。」

今城「最近見に行った阿佐ヶ谷スパイダースもその匂いを感じました。」

松尾「だから演劇は鑑賞というより、体験を共有するっていうことでしょうか。」

今城「そうですね。だから、AIが発達しても別っていうか。」

松尾「そうなんですよ。技術的にはもちろん発達するに越したことないんだけど、やっぱり演劇は生の人間が演じるものを生で一緒に体験するっていうのがすごく大事なんだろうな。

普通の空間芸術といえば絵画とか彫刻とか、時間芸術だと音楽とか映画とかありますけど、時間芸術と空間芸術両方の要素があって、なおかつ観客が体験する芸術という。

だから演劇って、これはもちろん何を重んじるかにもよりますけど、得がたい手法の芸術だなと思いますね。」

今城「ここだったらご飯も食べられますしね。」

松尾:「そうですね。五感すべてを。」

今城「五感すべてを使った体験を楽しめます!」

カウンター席にて。開演前や終演後に、ドリンクやスパイスエビカレーなどのフードも楽しめる。

(編集:カンフェティ)


公演情報

How do you survive? #3

●日程:2025年12月17日(水)〜20日(土)
●会場:ニュー・サンナイ (丸ノ内線中野富士見町駅 徒歩2分)
●脚本・演出:今城文恵
●出演:村上航(猫のホテル) ぎたろー(コンドルズ) 松本D輔

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松尾貴史出演作

「チェーホフの奏でる物語」
●東京公演日程:2026年1月23日(金)〜2月2日(月)
●会場:東京芸術劇場シアターウエスト
他、大阪公演あり

●作:ニール・サイモン
●翻訳:小田島創志
●演出:内藤裕子
●出演:イッセー尾形 安藤玉恵 福田悠太 小向なる 松尾貴史

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