アオガネの杜 第2回公演『座標と初恋』が、9月12日から14日まで東京・アトリエ春風舎で上演される。
作・演出を務める中村馨が「無謀」とも溢す今回の創作に興味が沸き、稽古場を訪れた。
アオガネの杜は昨年設立された演劇団体。盛況のうちに幕を閉じた旗揚げ公演(『みにまむごっず』)から1年ぶり2作目の上演となる。
今作のタイトルは『座標と初恋』。
争いを繰り返す架空の国「S国」と「P国」を舞台に、互いの国家元首を親にもつ若い2人が、「感情を排して、理屈で」戦争を止めようとする物語。


前作『みにまむごっず』は、子供を失った母親が深い悲しみを乗り越えるため、量子物理学から般若心経までを往復しながら、我が子の存在を理論的に証明し、世界を解釈し直そうとする物語だった。
今作でも、主人公たちは理論を武器に巨大で複雑な課題に挑もうとする。それは、「戦争」。
これが主宰をして「無謀」と言わしめる所以なのか——

身構えていざ稽古場を訪れると、実力と経験を兼ね備えた俳優陣によってリラックスした雰囲気で言葉が交わされながら、じっくりと稽古が進められていた。
しかしひとたび芝居が始まると役者の周囲には集中力が張り詰め、一つ一つの台詞や表情に重みが宿り、目には強い意志のようなものが漲る。


「戦争」を「理屈」で止めるという挑戦——、そのため文字通り理論的な説明が行われるシーンもある。
自身で演出もする中村馨は、「講義」という言葉を引き合いに出しながら概念的な台詞の「わかりやすさ」を担保しようとする一方で、「感情をもっと見えるようにしたい」との要望も伝える。
それを見ていた他の出演者も交えてその絶妙なバランスや見え方を左右する要因について意見が交わされたあと、この日、全体では2回目となる通し稽古が行われた。




演劇で戦争を扱うということは、どういうことなのだろうか。アオガネの杜は、そのことにどう挑もうとしているのか。それを見ている私自身、戦争についてどう考えればよいのか。頭をフル回転させながら、稽古を眺めていた。
作・演出の中村馨と今作についてやりとりをする中で、次のような言葉が印象に残った。
「絶対に完全にはできないけど為政者の心情を想像してみる、みたいなこと。あと、本当に戦争止めるにはって考えたときに、理屈で詰めていってみたらどうなるか」
「日本から見た戦争って視点とか、戦闘のシーンとかじゃなくて、戦争の発生源の中心部に突っ込んでいかないと、もうダメなんじゃないか。せめて思考だけでもそこに入っていけないか」


演劇は、戦争を考えるということにどれだけ手を伸ばせるのだろうか。
アオガネの杜の挑戦を、ぜひ劇場で見届けて欲しい。
(文・撮影:カンフェティ 齋藤)
【公演情報】
アオガネの杜 第2回公演 『座標と初恋』
作・演出:中村馨
2025年9月12日(金)~9月14日(日)
会場:アトリエ春風舎
《あらすじ》
大国S国と『西の海」を挟んで位置している島国P国のお話です。
P国とS国は、歴史上何度も戦争を繰り返してきました。
P国の首を母に持つハユと、S国の首を親に持つシュウが、
S国工科大学で、互いの素性を知らずに出会ってしまいます。
戦争と学問を通して理論的に向き合いながらも、
国民の感情に寄り添った政治を目指したいという志で、二人は互いに惹かれあっていきます。
しかし、そのうちS国とP国の間で、再び戦争が起きてしまいます。
原因は、P国が、S国唯一の貿易ルートである『西の海』を封鎖したからでした。
どうして戦争を起こすのか?全人類で世界平和を目指せば戦争はなくせるのではないか?
ハユとシュウは心からそう思います。戦争を続ける親を理解できません。
そんな折、シュウの父が病に倒れ、シュウがS国の臨時国家示首になります。
シュウは戦争を止めようとします。ハユは母を命を賭して止めようとします。
そんなシュウに、シュウの父が言います。
「S国とP国がこの座標に位置している限り、きっとお前にも戦争を止めることはできない」
《出演》
伊藤拓(青年団)
稲川悟史(青年団)
小林史明
瀬戸ゆりか(青年団)
結木千尋
《スタッフ》
作・演出:中村馨
照明:白石浩喜
音響:菱沼裕大
舞台監督:葉純勇太
舞台美術:斎藤渓
宣伝美術:岸裕真
デザイン:小林千秋
制作:実灯
協力:青年団
チケット
一般:4000円
U-22:3000円
応援チケット(特典付き):5000円
※全席自由・税込
※未就学児入場不可
《タイムテーブル》
9月12日(金) 19:00
9月13日(土) 14:00/18:00
9月14日(日) 13:00★/17:00
★…アフタートーク予定
※受付開始、開場は開演の30分前です。
※上演時間は90分を予定しております。
アオガネの杜 公式HP:https://sites.google.com/view/aogane-no-mori/home