こまつ座 第141回公演「貧乏物語」
【東京公演 】 2022 年 4 月 5 日(火)~ 24 日(日)
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
◆作品紹介◆
日本のマルクス経済学の先駆者であり、大正時代にベストセラーとなった「貧乏物語」の作者でもある河上肇の評伝劇。
服役中のために主人不在となった河上家を舞台に、河上の妻、娘、お手伝いなどの女性6人 が、表現も、言論も、思想ですらも厳しく制限されていた時代でもたくましく生きる姿を通じて、「貧乏とは何か」「思想の転向」「家族のあり方」といったテーマを、井上ひさしの鋭くも暖かいまなざしで描きます。昭和初期の時代を映した平成の作品が令和の日本に届ける、色褪せないメッセージ。 1998 年の初演以来、様々な劇団によって上演されてきた本作、こまつ座では初演以来となる 24 年ぶりの再演となります。
河上肇著
『貧乏物語』とは―
第一次世界大戦をきっかけに日本で社会問題化した「格差社会」「貧困」を取り上げた河上肇の評論。
1916年に大阪朝日新聞に連載され、翌年出版、ベストセラーとなりその後の日本の思想に大きな影響を与えた。なぜこの文明国に多数の貧乏人が生まれるのか、貧乏を初めて経済学の問題として 提起した本書は現代においても問い続けられる普遍的な課題として、今も色焦ることなく存在感を放つ。
◆あらすじ◆
1934年の春、東京・中野区にあるマルクス経済学者・河上肇の自宅。京大教授を辞し、実践運動に加わったことで前年に治安維持法違反の容疑で逮捕、懲役 5 年の実刑判決を受けて服役をしている彼を慕う女性 6 人の物語。獄中の夫を励まし続ける妻ひで、日本共産党の運動に身を投じ、銀行強盗に関与して起訴猶予中だが拷問で脚を痛めた娘ヨシ、彼女に付き添う女中の初江。彼女らが住まう河上家に、夫の不実により婚家を飛び出した元お手伝いの美代と早苗、隣家の貧しい新劇女優クニが居候として転がりむ。
河上を慕う彼女らが逆境の中にあっても明るく 、たくまし く暮らしている中、河上やその家族に対して警察などの国家権力による揺さぶりが迫る。河上の刑期を切り上げる代償として、時代の良心ともいえる河上に転向声明を書けというのである。悩みぬいた末にひでが下した結論は…
◆みどころ ◆
演出は1998 年の初演に引き続き栗山民也、博士の留守宅を預かる妻ひで 役 には 抜群の演技力 が光る保坂知寿 、娘ヨシには映画やドラマ に 幅広く活躍中の安藤聖 、元河上家のお手伝い美代には安定感ある演技で 舞台に彩り を 添える枝元萌 ら実力派女優を迎える 。
舞台は昭和初期。 日本の女性たちが自身の社会的な立場や在り方を模索し始めた時代。質素な長屋に集う個性豊かな 6 人の どこか可笑しくも考えさせられる軽快な会話劇 。 繰り広げられるやり取りから垣間見るそれぞれの抱える事情や思想、そしてあるべき姿とは。
初演から24 年の時を経て、新たなキャスト を迎え 現代に生まれ変わります。時は進んだかのように見せかけて、いつの時代も変わらぬテーマを題材に、今、再び女性たちの持つエネルギーをお届けします。
◆演出家・ 出演者コメント ◆
■栗山民也 (演出家)
「貧乏物語」再演
24 年ぶりなのです。なんだか、この「貧乏物語」の物語が頭にポカンと浮かびました。マルクス経済学者であった河上肇の、その周りを惑星のようにめぐる 6 人の女性たちに、どうしても会いたくなったのかもしれません。また、あのおしゃべりが無性に聴きたくなったのかも。
だけどこの物語は、そう簡単なものではありません。河上家の一つのちゃぶ台を囲みながらのあの賑やかで屈託なく続くおしゃべりは、政府からの黒く熾烈な思想弾圧の影に取り込まれ、壊され消されていきます。
どこか、ぽっかりと穴の空いてしまった今の時代だからこそ、この物語が必要だと思ったのかもしれません。
■保坂知寿 (河上ひで 役)
こまつ座公演『貧乏物語』に出演させて頂くことになりました。 言うまでもありませんが、素晴らしい戯曲です。エネルギーと、愛に満ちています。なんてキラキラした、力強い、芯の通った女性たち。台本から人物が飛び出して来そうです。そんな世界に身を置く機会を頂き、光栄に思っています。この混迷の時、当たり前にそこにあった演劇が、当たり前ではなくなりました。それでも、宝箱のような時代の産物は、今を生きる糧に、そして未来へ向かう力になるはず、だから、皆様に届けたい!そんな風に思っています。
こまつ座さんは初めて参加させて頂きます。井上ひさしさんの聖地で、栗山民也さん演出、楽しみ過ぎます。
■安藤 聖 (河上ヨシ 役)
念願のこまつ座さんに出演させていただくことになりました、安藤聖です。
こまつ座さんのお芝居はこれまでも拝見していますが、自分がいざ舞台に立つ側になるのだと思うと、とてつもない緊張感と高揚感でざわつくばかりでいます。
井上先生の書く戯曲からは、強い生命力を毎度受け取っています。今回やらせていただく「貧乏物語」にも強い生命力はもちろん、登場人物が女性のみ、その女性達の凛と生きる逞しさ、勇ましさ、優しさ、美しさ、包容力、思考力、判断力、、、ここに上げきれないエネルギーがそこかしこに書かれています。
私の身体と声と脳と言葉をフルに使って、この物語を生きてみます。よろしくお願いします!
■山﨑 薫 (加藤初江 役)
井上ひさしさんの言葉にはいつもハッとさせられ、身の引き締まる思いになります。
「貧乏物語」を読んで、朗らかな気持ちになり、勇気をもらいました。井上さんの言葉に触れるたび、自分がついつい忘れてしまいがちな事、そして世の中や世界に、誠実に愛を持って接したくなります。また魅力溢れる俳優の皆様との共演に心踊っております。
「日本人のへそ」では小学生、やくざ、ストリッパー等たくさんの役を演じましたが、今回は一役!
井上作品において、ひとりの役を演じるのは初めてで、不思議な緊張感があります。
早替えがないのだな!と。。
稽古時の栗山さんの言葉が早く聞きたくて、書き留めたくて、体現してみたくて、今から稽古が待ち遠しいです
■枝元 萌 (田中美代 役)
こまつ座に出演させて頂くのは、この作品で3回目になりますが、回を重ねる度、緊張感で背筋が伸びる思いです。
それくらい井上ひさし先生の作品には生きる力がみなぎっていて、腹の底から溢れ出る言葉言葉!その言葉に圧倒されるのです。自分がそこにちゃんと立っていないと作品に負けてしまいそうになる。
今回の作品も凄いです!パワフルです!女6人舞台の上でどう生きるか、助け合い鼓舞し合い、この座組にしかできない「貧乏物語」を作っていけたらと思います。
■松熊つる松 (竹内早苗 役)
デビューして30年目の節目に、こまつ座さんに出演出来るとは、夢にも思っていませんでした。
キャスティングの知らせを受けた時には、電話口で「やったー!」と叫びました。
幼い頃に観た「11ぴきのねこ」。養成所の卒業公演(故鈴木完一郎演出)で、「日本人のへそ」のヘレンさんを演じさせて頂いてから、こまつ座さんの公演を拝見する度に憧れが増しておりました。
「貧乏物語」の竹内早苗は、設定年齢が28歳。私の実年齢を考えると笑ってしまうくらいギャップがありますが、物語の中での彼女の「気付き」や成長を応援したくなる気持ちでいっぱいです。演じるのが楽しみです。
お客様にも楽しんで頂けるよう頑張るぞー!と胸を熱くしております。
■那須 凜 (金澤クニ 役)
初めてこまつ座さんに参加させていただきます。そして初めて井上ひさしさんの本に 挑みます。お芝居を始める前に客席から観ていたこまつ座さんの舞台は、可笑しくて愚かしくてそして愛に溢れていて、何も分からなかった私にも深い感動を与えてくれました。まさか自分がその舞台に立つことになるなんて、夢のようです。
私は27歳新劇女優の役です。私自身、27歳のそして現代の新劇劇団の女優です。 最初は思わず笑ってしまいましたが、彼女達を取り巻く時代の荒波の中で「舞台に立ち たい!」と渇望し叫ぶ彼女に、今私たちがこうして舞台をお客様に届けられることの重みと 奇跡を強く感じました。怒涛の時代の中でも、力強く美しく高らかに生きる女性達に敬意を持って演じたいと思います。劇場でお待ちしております!
◆こまつ座とは◆
1983年、作家・劇作家の井上ひさしが座付作家として立ち上げ、 1984 年『頭痛肩こり樋口一葉』で旗揚
げ以来、井上ひさしに関係する舞台を専門に作り続けています。
近年の演出には栗山民也氏、鵜山仁氏を始め、東憲司氏、長塚圭史氏、田中麻衣子氏、故・蜷川幸雄氏など様々な方々をお迎えし、出演者、スタッフとも作品ごとに依頼をし、その作品だけのカンパニーを組むプロデュースシステムをとっています。カンパニーが創り出す完成度の高さ、精鋭なるスタッフ陣の集結により、俳優にとっては「井上作品に出演したい」とひとつ目標としていただき、出演された俳優がその演技にて名だたる賞を受賞されているのも大変特徴的です。スタッフも同様に、各演劇賞にその名が挙がる一流のスタッフ陣にこまつ座の活動は支え られています。
<受賞作>
2003年 読売演劇大賞最優秀作品賞(『太鼓たたいて笛吹いて』)
2010年 読売演劇大賞芸術栄誉賞(井上ひさし)
2012年 紀伊國屋演劇賞団体賞(「井上ひさし生誕 77 フェスティバル 2012 」の舞台成果)
2016年 読売演劇大賞優秀作品賞(『マンザナ、わが町』)
2017年 文化庁芸術祭賞の演劇部門において関東参加公演の部で大賞を受賞(『きらめく星座』)
2020年 第 5 回『澄和 Futurist 賞』(顕彰事業)受賞
その他にも受賞歴多数。
「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに ゆかいなことをまじめに 書くこと」
――井上ひさし
*チケットについてのお問い合わせ こまつ座 03 3862 5941
*その他公演に関するお問い合わせ こまつ座 03 3851 5165(制作部)