関西小劇場界で年がら年中活動している劇団壱劇屋から、全国区での知名度獲得と活動拠点拡大を目指し2019年秋に発足した『劇団壱劇屋東京支部』。
竹村晋太朗が作演出・殺陣構成を手がける、劇中に台詞が一切なく、殺陣のみで物語を紡ぐ“ワードレス×殺陣芝居”は壱劇屋東京支部唯一無二の作風である。身体表現のみで語られていく複雑な心情の絡み合いは観客の心を揺らし、次々と繰り出される多彩なアクション、波や火、風、弓矢までも舞台上に出現させる「人間CG」を駆使した演出は、視線を惹きつけて離さない。
コロナ禍を経て、5年ぶりとなる新作“ワードレス×殺陣芝居”『九十九 -つくも-』が、2024年7月18日(木)~7月21日(日) 、シアターグリーン BIG TREE THEATERにて上演される。
稽古も大詰めとなってきた頃、作演出・殺陣構成であり、“和時計”に魂が宿った九十九神・刻を演じる竹村晋太朗と、劇団制作を担い、“槍”に魂が宿った九十九神・槍を演じる西分綾香に、今作にかける想いを聞いた。
槍-やり- / 西分綾香 (劇団壱劇屋)
―――“ワードレス×殺陣芝居”の新作上演は5年ぶりとなりますが、この5年の間に東京支部の発足、コロナ禍、法人化など大きな変化がありました。5年前と比べて創作の過程や心境に変化はありましたか?
竹村 この5年間の間に劇団内外の様々な現場を体験したことで、お客様が演劇に期待するものだとか、今自分がいる環境、この世界に思うことなどを、より一層作品に反映するようになりました。大人になったといいますか、何かしら社会人・演劇人としての成長のような気がします。
西分 2019年秋に東京支部が発足してすぐにコロナ禍になり、活動できない期間が2年ほどありました。去年くらいから、発足時にやりたいと思っていたことができるようになってきたなと実感しています。コロナ禍を経験する前と後では、創作に対する感覚は結構違っていますね。公演を打って完遂することは当たり前じゃないと思い知らされた2年間でした。ある程度落ち着いた今は、初日を迎えられる喜び、千秋楽まで辿り着ける喜びに加えて、作品を作る喜び、責任、重みも感じているので、この5年で劇作に向き合う心境の変化があったと思います。
―――「台詞のない演劇」と聞くと“ノンバーバル”というワードが連想されますが、あえて“ワードレス”と呼んでいる理由は何でしょうか?
竹村 ノンバーバルは「非言語コミュニケーション」という意味合いなんですが、僕が作っている作品は、「言葉は使わないけど言語コミュニケーションは存在する」というものでして。ノンバーバルを冠するには本質の部分が異なるのと、実際に喋らなくてもコミュニケーションは成立できるというところを推しているので、その点を印象的にするためにワードレス=言葉がないという単語を用いて名付けています。
―――台詞はないけど舞台上に言語コミュニケーションは存在するから“ワードレス”なんですね。
それでは、西分さんにお伺いします。今回の『九十九 -つくも-』のアイデアを聞いたとき、台本を読んだとき、どのような印象を持ちましたか?
西分 ネタバレになってしまうので具体的なことは言えないんですが、ラストシーンが印象的だなというのはアイデアを聞いたときからずっと思っています。お客様にはオープニングから主人公である菜花に寄り添い、その人生を追体験していただくことになります。ラストシーンに辿り着いたときに、この『九十九 -つくも- 』という作品がどのように見えるのかがとても楽しみです。あと、九十九神というモチーフが個人的に好きなので、お客様にも気に入っていただけるように頑張りたいです。
―――“ワードレス×殺陣芝居”の新作上演は、東京支部発足以来初めてとなります。このタイミングで新作の“ワードレス×殺陣芝居”をやろうと思ったのはどういう意図があったのでしょうか?
竹村 自分の演劇的感覚として、台詞の有り無しに強いこだわりがあるわけではなく、面白い作品になるならどちらでもいいと思っているんです。2023年は台詞ありの作品を3本上演したんですが、そんな昨年に壱劇屋と出会っていただいたお客様に、台詞が無くても物語は伝わるんだよということを伝えたいなと。それで今年、新作の“ワードレス×殺陣芝居”をやろうと思った次第です。言葉の有無に左右されない感覚を、お客様と共有できたら嬉しいです。
西分 台詞が有る作品も無い作品も、どちらも上演するのが壱劇屋東京支部の特徴にしていきたいんです。というのが前提として、台詞の無い作風、しかも殺陣芝居にこだわった上演形態というのはよそではあまり見られないものなので、今後劇団として規模を拡大していく上で重要なカードというか、セールスポイントになってくると思うんです。なので、このタイミングで“ワードレス×殺陣芝居”に出会ってもらって、こっちの作風も好きになってもらえたらなという気持ちです。
―――今作と、これまで上演してきた“ワードレス×殺陣芝居”とで違う点はありますか?
竹村 僕の書く主人公は、誰かを守ったり、救うため必死に頑張って戦う人が多くって。そういう主人公像が今までの“ワードレス×殺陣芝居”の基本といいますか、真ん中にある軸でした。今回も必死に頑張っているヒロインなんですが、好きな人が帰ってくる場所を守るという対環境的な視点があります。攻め込む戦いではなく、その場を守る戦いというところが、これまでの作品との一番大きな違いじゃないかと思います。
西分 今作のヒロイン・菜花は、ただただ守りきるために全力を尽くす人なので、過去に“ワードレス×殺陣芝居”を見たことがある方もこれまでと違う印象を持つと思います。あとは、登場するキャラクターたちのキャッチーさが、今までと少し違うなと。台詞有りの作品で培われたキャラクターたちの個性が抽出されて、“ワードレス×殺陣芝居”に還元されたのかも。クセが強い人たちというか、神様たちがたくさん出てきますよ!
―――以前“ワードレス×殺陣芝居”を観劇した際に、五感で物語を汲み取っていくのが新鮮で、終演後しばらくは興奮していました(笑)。今作ではお客様に観劇後どうなってほしいですか?
竹村 帰り道にお茶してください!台詞は無いものの、作演出視点での物語の正解はもちろん存在します。でもお客様には正解・不正解は気にせずに、好きなように受け取って解釈していただきたいと願っています。観劇後、あのシーンはこういうことかなと想像しながら、近くのファミレスでお茶したりして作品を反芻してほしいです。
西分 日常のふとしたシーンに思い出すような、人生に溶け込む作品になったら嬉しいです。観劇後の帰り道でも、翌日でも、1週間後、1か月後、1年後でも折に触れて、この『九十九 -つくも- 』という作品やキャラクターたちの生き様を思い出していただけるような、大切な人や物を大切に想う瞬間に寄り添うような作品になっていたらいいなと思います。
―――芯が通ったキャラクターが多い竹村さんの作品ですが、西分さんはこれまで多数出演してきてご自身への影響はありましたか?
西分 竹村さんの作品の登場人物って、根っから悪い人もいるにはいるんですが、大事なもののために自分の身を犠牲にして戦う人が多いんです。そして作品の根底には、そんな頑張っている人たちが報われてほしいという願いがある。作品の中に流れている、頑張っている様を見てくれている人がきっといて、ピンチになったら世界の誰か一人は味方になってくれるはずだという信念が、自分の中にも根付いたように思います。俳優としても劇団制作としても、自分が思ってもいないところで誰かに後々褒めてもらえたり、感謝してもらえたりすることがあって、あぁこういうところで巡り巡るんだな、見てくれている人はいるんだなと実体験を伴って感じています。
―――“ワードレス×殺陣芝居”では役作りをする上で、話し方や言葉遣いといった言葉のヒントがありませんが、どのように役へアプローチしているんでしょうか?
西分 この部分はきっと俳優によって十人十色だと思うので、あくまで個人的な話にはなるんですが、台詞が有る時と無い時とで挑み方は然程変わらなくて。プロフィールを細かく決めて組み立てていく人もいるだろうし、私生活から役柄を馴染ませていく人もいるだろうし、いろんなキャラクターの作り方があると思うんです。私個人としては、台本から受け取れるもの以上のことをあまり付与せずに、書かれているものに忠実にありたいと思って役に向き合っています。これは昔の恩師からの教えでもあるんですが、台本に書かれているものを適切に、齟齬なく、魅力的にお客様に届けることが俳優の仕事だというのが軸にあるので、台詞が有っても無くても、物語にどういう影響を与えられたら自分の仕事を達成できるのかということを考えながらやっています。
―――今作では2022年入団の若手俳優、黒田ひとみさんが初主演を務めますが、抜擢の決め手はあったのでしょうか?
竹村 努力家、みんなに好かれている、いつも笑っている、そして演劇が好き。羅列したらいっぱいありますけど、“演劇が好き”がやはり一緒に作品を創る上で一番大きいと思います。お客様に好かれる役者さんは世の中にいっぱいいると思うんですが、演劇が好きで演劇に好かれる人はなかなかいないと思うので、今回は黒田だなと。
―――ゲストの3名(氏家蓮さん、守上慶人さん、栗田政明さん(倉田プロモーション))もかなり個性的な役どころのように思います。一緒に稽古してみていかがですか?
竹村 3名とも、勝手知ったる…とまでは言わないんですが、この人たちの輝き方というのは自分の中で想像がついていて。蓮君のまっすぐなかっこよさだったり、守上君のポップさを搭載した愛らしさだったり、栗田さんの圧倒的技術だったり。それぞれが持つ魅力がしっかり活きているので、3名とも最高にかっこいいです。
西分 栗田さんは3度目のご出演で、氏家君と守上君は初めての壱劇屋出演です。栗田さんの動きは、殺陣・アクションを突き詰めた極致だと思うんですよ。その確固たる技術を最大限に活かす立ち回りと役柄なので、お客様には栗田さんの凄さを浴びてアドレナリンをばんばん出してほしいです。立っているだけで迫力とオーラがあって、視線を引っ張る力がある方なので、そのあたりも楽しんでいただけたらと。氏家君と守上君は、竹村さんが作演出した外部の公演でご一緒させていただきました。とにかく二人ともいい人です。そしてめちゃくちゃ演劇が好き。氏家君は役によって人が全く変わる。どうやって役に寄り添っていっているのか想像がつかないくらい毎回印象が違うんです。今回の火箸役でも氏家君ならではのキャラクターの色付けをしてくれていて、それがアクションにも芝居シーンにも存分に活かされているので注目です。守上君が演じる内裏は本当に可愛いんですよ。男の人に可愛いと言う是非は置いておいて、可愛いです。私、内裏の殺陣シーンのとあるシルエットが大好きで、見る度に声を出して笑ってしまうので、楽しみにしていてください。
―――壱劇屋といえば、終演後のアフターイベントが毎回抱腹絶倒で楽しみのひとつとなっています。このホスピタリティはどこで生まれたのでしょうか?
竹村 昔アルバイトをしていたときに、先輩から「料理を出す前に皿に飛び散ったソースを拭け」と言われたことがあって。その一手間が付加価値になるし、お客様が喜ぶんだよということを教えてもらって、なるほどなと思ったんです。作品の本質部分プラス、その周りにも手を掛けたり気配りをすることで楽しんでいただける幅が広がるなら、そんなものは絶対にやったほうがいいじゃないかということで、アフターイベントは基本愉快に、サービス精神旺盛にやっております。
西分 どうせやるなら客席も舞台上も楽しい方が双方いいじゃないですか。今回初日が「タイ九十九」っていう全身タイツのイベントなんですけど、大丈夫かなって思っています。初日で、そこにいるお客様全員が作品を初めて見た直後の、まだ咀嚼が終わっていない段階で急にタイツイベントが始まるんですよ。ご来場予定のお客様はどうか心をうまく切り替えてください。デザートは別腹みたいな感じで。同じフォルダに入れると意味がわからない記憶になってしまうので、絶対に分けて記憶してください。そこのところよろしくお願いします。
―――九十九神にちなんで、お二人の大切な物を教えてください。
竹村 僕、物はとても大事にするんですが執着がないんです、厄介なことに。いろんな物を大事にしていて、家にずっと変わらずあるものがたくさんあって、どれも捨てるのは嫌なんですが、何が大事かと聞かれたら思いつかないです。気にも留めてないけどずっと使っている物が一番大切な気がするので、我が家にある全ての物ですかね。
西分 昨年上演した『煙突もりの隠れ竜』で一緒にたぬき守役を演じたたぬきのぬいぐるみです。ぽんすけといいます。毎日一緒に寝ています。
―――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
竹村 ワードレスという冠がついてはいますが、演劇でございます。今、いろいろな現場を体験させていただく毎日を過ごしておりまして、これはつくづく演劇が好きじゃないと続けられていられないなとすごく感じています。そして、お客様に見てもらえたりお仕事としていただけるのも、自分が演劇が好きで、好きだということが伝わっているからかなと思うので、お客様にも演劇を好きになってもらいたいという気持ちがすごく強いです。映画やアニメ、ゲームなど世の中には数え切れないほどのエンタメがある中で、演劇であることの楽しさと演劇であることの面白さを体感してもらえたらいいなと思っております。
西分 壱劇屋東京支部の5年ぶりの新作“ワードレス×殺陣芝居”、やはり台詞がないというところで敬遠されてしまう方もいらっしゃると思いますし、その気持ちもわかるんですけど、もし何か少しでも気になったり引っかかる部分があるなら、一度飛び込んでもらえたらなと思っています。私たちは、ワードレスであることを特別なものだと思いすぎずに、あくまで面白い作品を、お客様に伝わる演劇作品を作りたいという気持ちでやっているので、この記事を読んでくださっている方の中に悩まれている方がいたら、一旦信じて劇場に来ていただけたら嬉しいです。理解できなかったらどうしよう、正解と違う解釈をしてしまったらどうしようなど難しく考えずに、受け取ったものが正解です。劇場でお待ちしています!
(舞台写真・ビジュアル撮影:河西沙織)
劇団壱劇屋東京支部「九十九 -つくも-」
ワタシと神様たちの
此処を護る物語
愛する者の帰還を信じ 家を守る一人の女性と
長い長い年月を経て “魂”が宿りしモノとの邂逅
― 劇中に台詞は一切無し
俳優の一挙手一投足で全てを描く
ワードレス×殺陣芝居 ―
公演期間:2024年7月18日(木)~7月21日(日)
会場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
7月18日(木) 19:00★A
7月19日(金) 15:00★A/19:00 B
7月20日(土) 14:00★B/18:00 A
7月21日(日) 12:00 B/16:00 A
※受付開始は開演45分前・開場は開演30分前
※上演時間は100分予定(途中休憩はございません)
※A/Bそれぞれで、一部配役変更がございます
※★マーク回は終演後にアフターイベントを実施
・チケット
SS席(非売品特典付):7,500円
S席:6,500円
A席:5,500円
学生席:3,500円 ※各回席数限定/小学生以上24歳以下の学生のみ入場可
(全席指定・税込)
(当日券は各料金+500円)
・出演
黒田ひとみ
淡海優
藤島望
竹村晋太朗
西分綾香
柏木明日香
丹羽愛美
日置翼
石川耀大
八上紘
雨宮岳人
今泉春香
(以上、劇団壱劇屋東京支部)
氏家蓮
守上慶人
栗田政明(倉田プロモーション)
磯優貴乃(倉田プロモーション)
イワセイクエ
奥住直也
熊野ふみ
酒井昂迪
佐松翔
鈴木亮吾
・スタッフ
作・演出・殺陣:竹村晋太朗(劇団壱劇屋)
舞台監督:新井和幸/北島康伸
舞台美術:愛知康子
照明:小野健((株)NEXT lighting)
音響:椎名晃嗣((株)NEXT lighting)
サンプラー:大谷健太郎(S.H.Sound / BS-Ⅱ)
衣装:車杏里
小道具:劇団壱劇屋
当日運営:中宮智彩(江古田のガールズ)
宣伝美術:河野佐知子
写真撮影:河西沙織(劇団壱劇屋)
劇団制作:西分綾香(劇団壱劇屋)
グッズデザイン:伊藤たえ(劇団壱劇屋)
ビジュアル撮影協力:撮影スタジオ「いせやほり」
企画・制作:劇団壱劇屋東京支部
主催:株式会社GOSAI