KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督を務める劇作家・演出家・俳優の長塚圭史が、自身初となるオリジナルミュージカルを手がける『夜の女たち』の製作発表会見が7月15日KAAT神奈川芸術劇場で行われた。
──まず、企画の意図や作品への意気込みを教えてください。
長塚 今作は1948年に溝口健二監督が撮った『夜の女たち』という作品を題材としております。この作品を観た時の衝撃が忘れられなかったんですね。1948年ですから、まだ日本がアメリカの占領下にあった時代です。その時代にこの映画はまさにその釜ヶ崎で撮られていて。実際に当時は街娼ですね、身体を売る女性たちが立っていた。そこに撮影にいって、田中絹代さんの主演で撮られているわけなんですけれども、依田義賢さんの脚本の劇映画なんですけれども、これがほとんどドキュメンタリー映画のように見える。社会の逆転の中に生きている、その状況下に置かれた日本というのが、まざまざとある角度から描かれているんです。
僕は1975年生まれなんですけど、占領下の時代ということについて、はっきりとした教育を受けていない印象があります。もちろん教科書的には分かっているんですけれども、その時代がどうあったかということが、何か切り離されてしまっているところがあって。でもあの時代が確実にあって、そこから僕らの現在に繋がっている。今年、沖縄が1972年に本土に復帰して50年になりますけれども、やっぱり大戦からある歴史が脈々と繋がっている。その中で占領下にあったということ、ましてや沖縄のことを考えれば、現在に確実に繋がってるんですよね。このことが忘却の彼方にいってしまってはいけないという思いが、まずこの作品をどうにかしなければ、何かにしたいなと思った入り口でした。どうしようかと思ったとき、僕も劇作家なので……(登壇者に)大丈夫ですか?話し過ぎているかな…(登壇者が大丈夫という風に笑顔)この作品を舞台にしようと思った時に、その時代のことの勉強のような作品になってはいけないなと。なので、何か方法がないかなと考えたのがミュージカルでした。価値観がひっくり返った辛い時代なんですけれども、自分たちが昨日まで正しいと思っていたことが、まっさかさまにひっくり返るその時代を描くのに、ミュージカルだったら、心の内を話すことも、歌い上げることもできるし、その時代の空気を歌にすることもできる。そうすると、そこでものすごいエネルギーを持って生きた人たち、ある種逆境のような状況をどうにかして生き抜こうとした人々の姿を鮮やかに描き出せるんじゃないかと。そう思って音楽家の荻野清子さんにも相談したことからはじまりました。
そして僕がKAATの芸術監督になったこともあって、劇場にその話を申し上げたところ「ぜひそれやってみましょうよ」と。尚かつこれを非常に優れたミュージカルの俳優さんたちとやりたいかというと、それはそれで素晴らしいものになると思ったんですけれども、いや、この時代、本当に日本人にとっての新時代を迎えたところなので、これは何かそういうことに長けていない、初めてミュージカルをやるような人たち、いわゆるストレートプレイを生業としている俳優たちと作ってみたらどうだろうと。歌とある種新鮮に出会える、そういった人たちとやってみたらどうかと話しましたら「是非その方向で」ということになって。セリフから歌へが当然ではないことで、あるエネルギーを持って歌へと転進することができるんじゃないかと、そういうチームを編成していきました。
KAAT神奈川芸術劇場は毎年そのシーズンにタイトルを設けていまして、去年は冒険の「冒」がタイトル。今年は忘却の「忘」。やっぱり色々なことを忘れずにという意味で、「忘」というタイトルをつけたシーズンのこれが第一作目になります。様々な作品が上演されますが、本当に今年ウクライナのこともあり、やっぱり人間は様々なことを繰り返しますね。そのことをまた深く受けとめながら、でもやっぱり時代の変換期に、庶民が力強く生きたエネルギーを暗い話のように見えますけれども、エネルギッシュに描きたいなと思っていますので、皆様ぜひご期待いただければ幸いです。
──キャストの皆さん作品についての印象と共に、カンパニーへの期待を教えてください。
江口 ミュージカルは初めてなのでね。毎日稽古場で、楽しいと思ったり、楽しくないと思ったり(笑)、あっちいったり、こっちいったりしながらやっておりますが、ミュージカルなんですが、一緒にやる俳優の皆もミュージカル畑の人じゃない、私と同じ人ばかりなので、ちょっと心強いし、大丈夫だと思います。
前田敦子 私ももちろんミュージカルは初めてなので、最初はちょっとびっくりしました。歌の練習から入って、いまはセッションをする形で、台本を読み合わせながら歌に自然と入っていくという流れを作っていただいてる最中で。でもやっぱり歌にはすごいパワーがあるなとやりながらすごく感じています。とにかく頑張ります。
伊原 長塚さんも仰っていたんですけど、この作品を初めて見たときに、衝撃がすごくて。この作品をミュージカルでどう表現するんだろう、どうなっていくんだろうとはじめはすごく思っていたんですけど、楽曲を聞いたときに、セリフのイントネーションがそのままメロディになったような楽曲ばかりで。これは歌というよりも、心情を音楽に乗せて届けることができる作品になるんじゃないかと、すごくワクワクしました。今本読みをしていても、すごくフラットで、自由なキャストの皆さんばかりなので、これからの稽古が楽しみだなと思っています。
前田旺志郎 僕もミュージカルは初めてなのですが、歌稽古があって、皆さんと一緒に歌っているときって、とても楽しくて。たくさんの人の声の力というか、歌の力なのかもしれないんですけど、みんなで一緒に歌うシーンですごくワクワクするというか、気持ちがすごく上がるんです。でもやっぱり1人になると、ソロ曲があるんですが、なかなか人前で歌を歌うことに慣れてないので、めちゃくちゃ緊張して不安で。言葉すら出ないぐらいいつも稽古場で緊張しているんですけど、徐々に慣れて、皆さんの前で届けるときには、自信を持って、胸張って、歌えるようになりたいなと思います。
大東 今、本番1ヶ月半前ですけど、既にすごく稽古してるんですよね。歌稽古で譜面を見ながら歌うところからやっていますが、気づいたら圭史さんって「ちょっと立ってみようか」と、立ち稽古が始まるんです。とにかくこの作品、楽曲が素晴らしくて。譜面を見ながら、みんなで歌うという状態で聞いてるときから素晴らしい曲だなと思ったんですけど、いざ立ち上がってみて、俳優の人たちが自分の役をちょっと重ねて、言葉と歌の狭間のような音楽が始まったときに、血が流れている感じがするというか。映画で見たドキュメンタリーのような、戦後すぐの情景が歌に乗って見えてきたというか。「ミュージカルすごい!」と思っています。これで僕が歌わなかったらめちゃくちゃ楽でいいなと思っているんですけど(笑)、素晴らしい歌を個人個人にいただいたので、9月(小声で)ちょっと楽しみにしていてください。
北村 『夜の女たち』という台本を最初に読んで、タイトルからして大体想像はしてましたけど「これを舞台でやるの?大丈夫なの?できるの?どうやるの?」という思いは、すごくありました。でもそういうときに限って火がつくんですよね。どうなるかが本当にわからないという作品の、その匂いにつられてしまう本能的なものが役者ってあったりするんですけども、まさにこの作品はもうそんじょそこらのエネルギーじゃ太刀打ちできない。戦後間もない頃のカオスを、我々のこの具体的な肉体で歌い上げて表現をしなければならないという。もう想像力をふんだんに膨らませて、がむしゃらに。まさに今、練習をがむしゃらにやってますけれども、そのがむしゃらを本番、お客様にぶつけていくしかないんじゃないかなというぐらい、ものすごい作品になっております。どうぞ皆様お楽しみに。
──ストレートプレイの役者の方々を揃えられたわけですが、今回この俳優陣の方々をキャスティングした一番の決め手をそれぞれ教えてください。
長塚 江口さんはこの話をやろうと考えた最初から頭にあって。僕もオリジナルミュージカルをやったことがないし、なかなか困難な道がはじまることは間違いないんですよ。ただこの10年、江口さんと舞台をやっているんですが、僕は非常に信頼をしていて、厄介な時、難しいことにチャレンジするときに、声をかけたくなるというか。それは実は大東くんも、北村さんもそうで。やっぱりややこしそうなことをやるときに必要な俳優たちが参加してくれたらいいなと。その方たちが引き受けてくれたわけだから、そこはとてもいい稽古場になると予想していましたが、そうなっています。まず決定的なのはその信頼でした。あとは、前田敦子さんとは共演したことがありますが、伊原さんとか旺志郎さんとは初めてですが、やっぱりそこは新しい風がその中に入って、そういうチャレンジ精神を若い方たちに繋いでいってほしい。全部旧知の仲だけで作っていくんじゃなくて、新しいフレッシュな力や、様々な舞台にチャレンジしている前田敦子さんのチャレンジ精神が加わると、きっと面白いだろうなと思いました。非常に理想的なカンパニーが、ここに今日登壇してない方も含めて集まったなと思います。
──江口さん、いまのお話をを受けてですが、まず台本を読まれてどうでしたか?
江口 台本を読んでまず思ったのは、思いのほか歌がいっぱいあったことですかね。歌だらけと思いました。
長塚 だってミュージカルだもん(笑)。
──実際に歌われてどうですか?
江口:楽しかったり、楽しくなかったりですよね。とても難しいです。(隣の前田敦子に)難しいよね。
──前田敦子さんは江口さんの妹の役柄ですね。
前田敦子 のりこさん大好きなので、共演も嬉しかったですし、歌っている姿がすごく愛おしくて、早く皆さんに見てほしいです。
──他のキャストの方々については?
前田敦子 皆さん生きる力が強い方たちが今回集まってる感じがするんですけど、でも私は人のことは言っていられないぐらい自分が不安です。
──他の皆様も、稽古に入られていかがですか?
伊原 やっぱり事実としてこういう時代があって、そこで過ごした人がいてという中で、今自分が持っている感覚と、当時生きていた人の感覚と物の捉え方が全然違うなと思うので、私は久美子という役をやらせていただくんですが、夏子さんたちとかにすごく憧れがあるし、明るい力がある女の子だなと思うので、この時代だからこそ新しく流れ込んできたものに対して憧れる気持ちなどを、もっともっと皆さんと話し合って、作り上げていけたらなと思っています。
──女性3人の場面もおありですよね?
伊原 この間はじめて3人での歌稽古をさせていただいて、いよいよはじまるんだなとワクワクしました。
前田旺志郎 僕は長塚さんの演出を受けるのが初めてなんですけど、みんなで円陣を組んで台本のこととか、1947、48年ぐらいの時代背景のこととかをディスカッションして、すり合わせをしていく時間が稽古の最初にしっかりと取られていて。それが僕にとっては新鮮な体験で、こうやって舞台を作っていくんだということがとても面白くて。長塚さんのお話もそうですし、役者さん同士で飛び交う会話にも感心したり「確かに!」と思ったりしています。ああいう時間ってこれまであまりなかったので、すごく幸せだなと思いながら、毎日稽古をさせてもらっています。
大東 この映画、本当に静かな映画で。これがミュージカルになってどうなのかなと思ったら、意外と歌を合わせてみたら(隣の長塚に)違和感なく進んでいますよね?
長塚 作品として完成しているけれども、映画だからセリフも少ないし余白があるじゃないですか。ミュージカルは心理を歌うこともできるし書き込むこともできるし、新たに角度を加えることもできる。この作品はミュージカルとの相性がいいんじゃないかなと思ったら、やっぱり良かった。
大東 この言葉をセリフとして吐くのはちょっと難しい、というようなセリフでも、詩のように、心から血のように鼓動のように出るメッセージを音楽として届けられることがあります。歌うってかなりハードル高いなと思っていたんですけど……いや、高いんですけど(笑)、なんかすごく希望を持ってやっています。ただ、毎回稽古の前にボイトレというか、声のアップをやるんですけど、先生が「(横隔膜を指しながら)ここに声の玉を持って、それを上にあげてみて!」と言っているんです。みんなもやっているし、僕も分かっているような顔でやっているんですけど、本当は全く意味が分かっていなくて(笑)。これいつになったらわかるのかなと(笑)、早く声の玉を見つけられるように頑張ります!
──大東さんの役などは、舞台化するにあたって肉付けしている部分があると伺いました。
長塚 そうですね。背景とかは描かれていないんですけど、やっぱり敗戦の中にあった男たちの空虚というか、それは時代そのものなので描きたいと思って、そういう側面を書き足していったというのはあります。旺志郎くんの役も大分肉付けをしているし、その時代そのものを俯瞰的に見つめるような役割を北村さんにちょっとお願いして作っています。その辺りは完全にオリジナルです。
──北村さんから是非稽古場の雰囲気を。
北村 小学校の音楽の授業みたいなね、そんな雰囲気かしらっていう。自分がちょっと萎縮していたり、照れていたりね。なかなか慣れていないから、多分みんなのそういうキャリア、ミュージカル経験が少ないから何とかテンション上げて、セルフコントロールして「できるできる、自分はできる」という風にしています。メイキングのビデオとか絶対入れないような雰囲気ですね(笑)。基本稽古期間って、本当に恥ずかしい試行錯誤の期間だけど、今の歌の稽古は特にね「関係者以外立ち入り禁止!」みたいな感じでやっています。まぁ、それだけ伸びしろがあるということで、初日には絶対に間に合うと思います。
──江口さん、これだけ長塚さんの作品に出続けていらっしゃるのは、どこに魅力を感じているのですか?
江口 えー(思わずイヤそうに声が漏れたので場内爆笑)、それ考えたこともないですけど、誘われたらやってしまうんですね。ちょっと自分でもそれは不思議です。だって今回だってミュージカルって聞いてなかったし!(周りから「えー!?」という反応に)聞いてなかったよ、私!いつの間にかミュージカルって。
長塚 いやいや、スタジオで歌ったじゃない!(作曲家の)荻野さんも一緒にいて歌ったじゃない!
江口 だって知らなかったもの!「空いてる?」って訊かれたから「空いてる」って言ったら「ちょっと荻野さんと一緒に歌ってみない?」って言うから行ったら、荻野さんすごく優しいから「『東京ブギウギ』知ってるでしょう?あれ歌ってみない?」って言いながら、私がひとりで歌うのは恥ずかしいだろうと思ってくれて「圭史さんも一緒にやればいいじゃない」って言って、ふたりで「東京ブギウギ~♪」ってスタジオでね。
長塚 そうスタジオで歌ったね。
江口 それで帰る時にKAATの制作さんとかがいらして「お疲れ様でした、よろしくお願いします」って言われて。「えっ?やるの?私がミュージカルやるんですか?」って圭史さんに訊いたら「え?やるの?」って言って(爆笑)。「いや『やるの?』じゃなくてやるの?」って言ったら「お前どうなの?やりたいの?」って。
長塚 そんな言い方したかな(笑)
江口 そんな言い方だったからずるいなって(爆笑)。そんな感じでいつの間にか仮チラシができていたから「そうか、私、やるのか」って(笑)。
長塚 面白いですね(笑)。
──お二人の絶大な信頼感を感じますが、長塚さん、今回ミュージカルならこの作品を舞台化できると考えられたということですが、そのミュージカルの力を感じた何かきっかけは?
長塚 歌には力があるというのは、この数年確信しているところで。コロナが蔓延して劇場で全然舞台ができないという事態が起きた時に、ちょうど僕は子供向けの作品を準備していたんです。それはミュージカル作品では全くなかったのですが、やっぱりできれば歌や踊りのシーンを入れたい、劇場で出会う喜びを全部詰めたいなと思ったんです。その時に歌って力を持つということを体感したのが大きなことのひとつでした。それからこれは自分がやってみて感じたことですが、ミュージカルって嘘が多い。普通人は会話していていきなり歌い出すことはないし、たくさんの嘘が重なっている。それを上演する為には信じるお客さんが必要で、その気持ちの総量が決まった形ではなく、生み出されるようにつながっていくと、不思議なエネルギーが増すこともあるんだなと感じています。タイトルの歌のフレーズがある場面で流れただけで、その瞬間にその場面の匂いが漂ったりする。言葉のいらない音楽の力で表現する、それを歌声で表現することは、説明のつかないエネルギーになるんだとやりながら強く感じています。それが俳優たちのなかで生み出された時にすごく面白いんですよ。実体のある歌への導入みたいなものがどこかで見出せそうで楽しいです。
──初ミュージカル挑戦の方々が多いカンパニーですが、稽古に入られてミュージカルのここが面白いな、或いは難しいななど感じるところは?
北村 カラオケに最近行っていないんですけど。ドラマの撮影の打ち上げなどでよく行っていましたが、それがいまはパッタリないので、人前で歌うこと自体が、気がついたら本当になかったんです。以前にある演出家さんに「北村くん歌はどう?」と訊かれたことがあって「歌は好きです。上手いか下手かは周りで判断してください」と答えたのですが(笑)、そういう意味では音を外そうが、歌うこと自体がストレス発散になると思います。だからこれだけ街にもカラオケ屋さんがあるわけで。ですからまずは自分をそこに持っていって楽しく。まず自分が楽しくならないと観ているお客さんに伝わってしまうと思いますから、そういう意味では楽しんでいますね。あとはお客さんが判断してください(笑)。
前田旺志郎 僕も元々歌うことは大好きでカラオケ屋さんにはよく行きますし、家でもほぼ毎日歌っているくらい歌うことは好きで……
北村 何を歌うの?
前田旺志郎 「Mr.Children」とかですね。
北村 ミスチルが好きなんだ、歌い上げてるの?
前田旺志郎 大好きです。歌い上げてます!
北村 キーが高いじゃない?
前田旺志郎 結構高い声は得意なんです!
北村 そうなんだ!
大東 あの…それ、後で終わってからやってもらっていいですか?(爆笑)
前田旺志郎 すみません!(笑)ですから歌は大好きなんですけど、ミュージカルの曲って、僕が普段歌っているミスチルとは違うんですよ。
北村 そうだよね。
前田旺志郎 ひとつ一つの歌詞にも役が生きてきたバックグラウンドとか、感情とかが歌のなかに正直にまっすぐに書かれていて。「歌う」ということよりも、もっと大切なものが込められている気がするので、すごく難しいですが、このメンバー、キャストの方と一緒に挑戦できるというのが楽しいなと思います。
前田敦子 私は楽譜を読むことを教えてもらうところからはじめたのですが、ずっとポップスを歌うグループAKB48にいたので、先生からも当たり前にわかると思われていたんですけれども、わからないので。でも新しいことをやっているなという気持ちです。まずはちゃんと音程にそって歌うようにならないといけないというのがありますが、そこからどうやってセリフとつなげて落とし込んでいくんだろう、とまだわからないことだらけで。でも皆様がいるからそうやって役に落とし込んでいく作業はすごく楽しいなと思っています。
江口 私はこの作品をミュージカルにすると圭史さんに伺って映画を観た時に、すごくエネルギーのある映画なんだけれども、静かな映画で。この静かな映画をどうしてミュージカルにするのか「どこに音楽をいれるの?どこで歌うの?」がすごく謎だったんです。でも実際に稽古をしてみて、台本にあるシーン、セリフを歌うことによってエネルギーがグンと底上げされるんです。それを感じた時に、あの映画をストレートプレイではなく、ミュージカルにする意味が腑に落ちたと言いますか。歌うことによってグッと持ち上げられるエネルギーが、舞台でセリフを歌う楽しさなのかなと思いました。
伊原 私は元々ミュージカルが大好きで色々な作品を観たりするのですが、そのミュージカルが大好きな理由が、開演ブザーが鳴って幕が開いた瞬間に、本当に非日常的な創りあげられた世界に没頭できることなんです。日常を忘れてのめり込めるのがミュージカルの魅力だなと感じていました。でも今回は非現実的なことではなく事実なので、この世界をミュージカルとして歌と踊りに乗せて伝えられるというのが、また私の知らないミュージカルの魅力を知るきっかけになる作品になると思ってワクワクしています。
大東 自分の過去のことを思った時に、苦しい時期、人には話せない気持ちって、声にならない声。口から煙りのように出るものが音楽のように思える時があって。とにかく命を燃やして自分と向き合って、自分のなかにある心のひずみみたいなものが音楽になるんじゃないかなと思ったりして。まさにこの作品は、戦後すぐの皆が生きることに必死で命を燃やしていた時代だと思うんです。ですからこの作品でいま歌稽古をしていて、自分としては、もちろん技術も高めながら、如何にこの役に命を燃やすか、心音みたいなものを歌に乗せていけるか?を考えています。コロナ禍でなかなか外に出ずらいこともあって、行きたいところにもいけない、人に会う機会も減って家で携帯やテレビばかり見ていると、心の感度が下がっているような気がするんです。「なんかボーッとしてるな俺」と。でもいま稽古場で僕らはありがたいことに、色々な人生や歴史背景を肌で感じられる機会があって、音楽もそうですし、ものすごく生きている本なんです。これをKAAT神奈川芸術劇場に来てもらって体験してもらえるというのは、いまこの作品をやる意味がすごくあるなと思いながら、声の玉をいま探しています!
公演概要
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「夜の女たち」
原作: 久板栄二郎
映画脚本: 依田義賢
上演台本・演出: 長塚圭史
音楽: 荻野清子
振付: 康本雅子
出演: 江口のりこ、前田敦子/伊原六花、前田旺志郎、北村岳子、福田転球/大東駿介、北村有起哉
石橋徹郎、中山義紘、入手杏奈、山根海音、篠崎未伶雅、山口ルツコ、小熊綸、加瀬友音
会場: KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
日程: 2022年 9月3日(土)~9月19日(月・祝)
公式サイト: https://www.kaat.jp/d/yoruno_onnatachi
主催・企画制作: KAAT神奈川芸術劇場