2011年に代表のAzuki、副代表の岡田奏が旗揚げしたteamキーチェーン。最新作第19回本公演「ゆらりゆられ」が東京・吉祥寺シアターおよび大阪・大阪市立芸術創造館にて上演される。上演に先駆けて、先日、関係者ゲネプロが行われた。
本作では、母子家庭の母親が筋萎縮性側索硬化症、通称【ALS】を発症するところから物語は描かれていく。元気で、時折冗談をいいながら場を明るくするロック好きな母親・村井優香子を劇団おぼんろ所属のわかばやしめぐみが演じている。健全な状態から、体が硬直し呼吸すらままならないような病状まで悪化していく様を時間経過とともに見事に演じていく。また、優しく面倒見の良い長男・圭悟をマナベペンギン、しっかりもので責任感の強い長女・美優を山本華、末っ子で多感な時期に母親の病気と直面する香奈を伊藤萌々香が演じる。
本作ではALSという誰しもが発症する可能性があり、そして身近に起こりうる病気を題材にしている。
ただ物語の主軸はALSを患ってからの家族4人とそれを取り巻く人々の心の再生の話でもある。
長男・圭悟は経済面で支えるため働きに出かけ、帰ったら周りに気を使いながら明るく振る舞う。長女・美優は大学進学をあきらめ母親の介護をするヤングケアラーとなるものの、次第に精神や身体を蝕まれ悩み続ける。香奈は、弱ったり、満足に食事のとれない母親を見るに堪えられず、やりようのない感情を露わにしていく。順調にそして幸せな雰囲気に包まれていた家族が、難病を境に、徐々に心のズレを表す。
時間の経過とともに「介護」「病気」という現実に直面し、1シーン1シーンごとに、セリフ・所作で変わる機微が際立つ。一方が明るく振る舞えば、一方がやり場のない表情を浮かべる。一方が懸命に母親を介護しようとすれば、一方は精神が疲れ呆然としている。そんな対比が目を引く。
一貫して明るかったのは母親である優香子だった。周りに冗談や明るい言葉を投げかけるからこそ、より家族の感情のコントラストが浮き上がってくるので、ドラマとして見入るものがあった。
もう一つドラマとしての見ごたえとして、家族だけの話ではなく、環境を取り巻く人々たちにも焦点が当てられていく群像劇でもある。
優香子の会社の部下として慕っている島（演・岡田奏）、友人として介護にも協力的な紗希（演・うえのやまさおり）そして、その娘でミュージシャンでもある夢叶（演・前田有華）、香奈の担任で香奈のとある場面に遭遇したことで物語を動かす矢部（演・神谷康太）、圭悟の恋人であり祖母の介護経験を活かし村井家に馴染んでいく茉莉子（演・田中愛実）といった周りの人々が、支えとして物語を彩っていく。
また、ALSをきっかけに出会っていく人物たちも各々が物語を背負っている。訪問診療の主治医の浜野（演・今井裕也）、その看護師の山本（演・北澤友梨枝）、発話できない人のために目線で音声会話できるシステム開発者の相馬（演・熊野仁）、そして、同じくALS患者で車椅子で生活をしている井口昌弘（演・田名瀬偉年）、その弟でヤングケアラーの朝晴（演・三澤康平）らはこの難病により苦しむ家族の手助けとなるきっかけを作る人たちだ。
香奈のバイト先のコンビニ店長坪内（演・澤野泰誠）、先輩の兵頭（演・高良紗那）そして、そのコンビニによく来店するホームレスの仁科（演・岩出清志郎）も日常的なシーンで描かれ、影響を与えていく。特に、井口兄弟とのやりとりは、障害を持つ客と店員という変哲もないシーンだが、細かな描写がよりリアリティである。
そして、もうひとりの家族、優香子の元夫で家族の父親でもある悟（演・山本佳希）だ。医師という仕事のため家族と別れ、そして長男の圭悟とは険悪な関係だ。ただ、誰よりも家族のことを思い、影で支えていった。故に家族との接し方が繊細で、かつ関係性が複雑であることをがうかがえる。
突然、難病にかかってしまった母親。次第に家族がバラバラになってしまうさまは、介護の厳しさを物語っていた。ただその周りの他人が支えながら、家族が再生していく姿は心を暖かくしてくれる。この作品を通して、teamキーチェーンの掲げる「人を想う」ことを感じていただければと思う。
公演は、11月12日（日）まで東京・吉祥寺シアター、11月17日（金）～19日（日）まで大阪市立芸術創造館にて上演。
公演情報
teamキーチェーン第19回本公演『ゆらりゆられ』
公演日：【東京】2023年11月8日（水）〜12日（日）
【大阪】2023年11月17日 （金）～2023年11月19日（日）
会場：【東京】吉祥寺シアター 【大阪】大阪市立芸術創造館
料金：4,900円（全席指定・税込）
HP：https://www.teamkey-chain.net/
お問い合わせ：teamキーチェーン
mail：teamkeychain1221@gmail.com