インディーズ発の創造のフェスティバルが開幕! 同じセットを使い異なる演出と物語で国産ミュージカル3作品を上演

 日本のインディペンデント系ミュージカル・シーンの興盛と発展を目指して行われる「ワンアクト・ミュージカル・フェスティバル」が10月9日に開幕する。
 同じセットを使いながら異なる演出と物語でミュージカルが上演されるという今回のフェスティバルには、Group B、DAWN PROJECT、nooの3団体が参加。普段は独立した劇団、またはユニットとして主に小劇場演劇の場で活躍している団体がそれぞれに1幕物のオリジナルミュージカルを披露する。
 Grop Bによる『檸檬SOUR』に主演する上野哲也、DAWN PROJECTによる『ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!』に主演する工藤広夢、そしてnooによる『モイ・ミリー〜ユリウス・フチーク 最後の手紙〜』に主演する前田隆太朗の3人にフェスティバルへの想いやそれぞれの作品について話を聞いた。


―――このフェスティバルについて最初にお話を聞いたときに皆さんはどう感じましたか?

上野哲也「1つの劇場で、同じ日に違う作品を観ることができる機会はそうあることではないので、そうしたやり方もあるんだと驚きましたし、面白いなと思いました。どの作品も1幕物なのでテンポ良く進んでいくと思います。そのテンポ感はこのフェスティバルの魅力だと思いますし、これまでさまざまなミュージカルをご覧になってきたお客さまも、また違う視点で楽しんでいただけるのではないかと思います」

前田隆太朗「役者目線になりますが、1日2公演がないというのはすごくありがたいなと思いました(笑)。最初に聞いたときからすごく楽しそうな企画だと思いましたし、上野さんがおっしゃったように、マチソワで違う作品を上演しているというのはこのフェスティバルの魅力なのかなと思いました」

工藤広夢「僕は新作やオリジナル作品に参加したいと常々思っていますが、新作でも3時間40分あるような作品は観劇する方もなかなか大変です。今、ショート動画などが流行っていて、人の興味関心が長い時間続かない流れになっていると思うので、短い時間でいろいろな作品を観ることができるという企画はすごく面白いなと思いました。少人数でガッと作り込めるというのも小劇場ならではで魅力的でした」

―――今、お話にありましたが、同じ劇場で違う作品を上演するからこその演出や作品作りの仕方があるのかなと思いますが、実際に稽古をされていてそうしたこのフェスティバルならではのことを感じますか?

前田「同じ舞台で上演するので、同じセットを使うんですよ。もちろん、その作品によって置いてあるセットの位置は変わりますが、同じものを使うというのはすごく新鮮な試みだなと思います」

上野「だからこそ、3作品を観て、演出がどう作品に影響しているのかを見比べるというのも面白いのではないかなと思います。普段、劇場が変わったり、期間が空いたりすると演出の違いをそれほど感じないと思いますが、短期間で同じ場所で違うものを観れば、その違いや演出の意図を強く感じるのではないかと思います。それぞれの作品のテーマも全く違うので、比べるからこそ分かる面白さもあるのかなと思っています」

工藤「今回、参加して感じているのは、この規模だからこそコミュニケーションが密に取れるということです。大きい劇場でのミュージカルはそれぞれのセクションも大きくなるので、セクション同士のコミュニケーションが希薄になってしまうこともあります。今回の作品では、コミュニケーションが密に取れているからこそ、それが作品に反映されていると思いますし、それぞれの作品の色もより感じていただけるのではないかと思います」

―――では、それぞれがご出演される作品について、今、お稽古をする中で感じていることや見どころ、演じる役柄についてなどを教えてください。

工藤「僕は『ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!』という作品でロミオを演じます。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を元に、ロミオがゲイで、ジュリエットは自分がレズビアンかもしれないと思っているクエスチョニングの2人の物語です。最初に脚本を読んだときに、友情と恋愛の境目ってなんなんだろうなと思いました。今、ロミオとジュリエットが2人で歌っているシーンでは友情を感じながら演じています。劇中のように、10代のLGBTQにとって、友情と恋愛はぶち当たるテーマなのだと思います。僕は今年、『キンキーブーツ』という作品に出演して、クィア・ミュージカルと呼ばれる作品は2本目ということもあり、自分にとってとてもタイムリーな内容でした。環境や持っているアイデンティティによっても人と人の関係性が変わるということを、この作品から感じていただけるのではないかと思います」

―――全体を通してポップでコメディな作りなのですか? それともシリアスな物語なのでしょうか?

工藤「どちらの要素もあります。7人の登場人物が出てきますが、みんな身分も階級もパーソナリティもバラバラで、置かれている環境も違います。その中で人がどう繋がっていくのかを感じられるのではないかと思います」

―――前田さんの出演する『モイ・ミリー~ユリウス・フチーク 最後の手紙~』はどんな物語ですか?

前田「僕たちが演じる『モイ・ミリー~ユリウス・フチーク 最後の手紙~』は、二人芝居です。他の2作品は出演者の方が多いので、稽古も賑やかに元気にされていらっしゃいますが、僕たちは二人芝居なので、舞台の上演中、その空間には僕たちしかいません。タイトルにもなっているユリウス・フチークという実在の人物が、ナチスドイツの時代に収容所に捕まってしまい、そこで手紙を書いたという物語です。実は、僕たちは(取材当時)まだ稽古がそれほど進んでいないんですよ。これからどんどん作品の魅力を見つけていこうと思っていますが、自分たちの決まった未来や運命を大きく変えるのではなく、小さいことが少しでも変わればいいなというメッセージをこの作品から感じています。絶対に変わらないものはありますが、それに抗うわけでもなく、ただ自分たちがいたことを伝えようとして、絶望せずに、前向きに立ち向かっている姿が僕は素敵だなと思っています。すごく明るくなれる作品ではないですが、彼からエネルギーを感じてもらえると思います」

―――あらすじだけをみると悲しく、辛い物語なのかなと思いましたが、それだけではないのですね?

前田「悲しくて辛い物語ではあるのですが、ユリウス・フチークの実際の写真を見ると笑顔ばかりなんですよ。周りの人の証言も『元気で明るい人』というコメントばかりです。僕も最初はとっつきにくい作品なのかなと思いましたが、脚本を読ませていただいて、この時代背景をあまり知らない方が観てもスッと物語に入っていただける作品だと感じました」

―――上野さんから『檸檬SOUR』について教えてください。

上野「今、稽古をしていて感じていることを一言で言うと『誇らしい気持ち』です。最初にこのお話をいただいたとき、『檸檬』という梶井基次郎の小説からインスパイアされたと聞いて、早速読んでみたんですよ。長編だったらどうしようと思ったのですが、実際に読んでみたらめちゃくちゃ短い物語で、あっという間に読み終わりました。ですが、その短い物語の中で、鮮明に檸檬の色が見えた感覚があって。これはなんとも言えない小説だなと思いましたし、今の世の中に対してのメッセージになるところがたくさんあると感じて、どんな脚本になるのかすごくワクワクしたのを覚えています。 
 僕は今回、チェーン居酒屋の店長の山城を演じますが、彼の抱えている悩みが僕自身の感じているものと重なるところが多くあります。誰しも生きることの意味がわからなくなったり、誰かの価値観と自分の価値観を比べて劣等感を感じたりして生きていると思いますが、そんなときにパーンと輝く檸檬を見たときに、自分ってそんなに悪くないんじゃないのかと思えて、その檸檬が希望の色に重なる。僕自身、こうして俳優を続けてきた中で、思い通りの人生になったかというとそんなことはありません。ただ、それでも生きて日々悩んでいる姿はきっと同世代の人に刺さると思うので、同じように悩んで生きる山城という役を演じさせていただくことで誰かの後押しをできるのではないかと思いました。毎日誇らしい気持ちで作品と向き合っています」

―――現在、お稽古をしていて、国産ミュージカル、オリジナルミュージカルを作り上げる楽しさ、難しさは感じていますか?

前田「正直なところ、僕はそうしたことは全く考えていませんでした。今は、とにかく必死に稽古をするだけです。公演まであまり期間もないということもあり、考える暇もなくて」

上野「分かります、僕もずっと台本を読んでいます」

前田「確かに言われてみれば、これが初演になるんですよね」

―――なるほど。新作だからこそ、試行錯誤しながらの稽古をされているのかなと。

工藤「稽古が一筋縄ではいかないというのは新作あるあるですが、うまくいかないところが新作の良さでもあるのかなと思います。もちろん、世界のいろいろなところで上演されている名作と言われるような作品に俳優として入るときは、動きまで全てが決まっていてそれを覚えるという作業が必要になりますが、オリジナル新作は共演する人たちとスタッフの皆さんと一緒に作って、そこで生まれる空気感で芝居が決まったりするので、自分はそうした作り方も好きです。何より自分の中で演劇をやっていることに意味が問われる年齢になってきて、その1つに人との繋がりを感じる瞬間を求めているというところがあります。みんなで一緒に作るという空間では、それに出会えるのではないかと思うので、今回お声をかけていただいて、飛び込んでよかったなと思います」

上野「僕も前田さんがおっしゃっていたように、オリジナルとか日本発ということはあまり気にしていないですね。それは、ミュージカルという文化自体が世界のものになってきているのではないかと感じるからです。近年は、ミュージカルという手法でも、リアリティが感じられないと、お客さまがその世界に没頭できなくなっていると思います。歌や踊りがお芝居の中に折り重なってくるというエンターテイメント性があるのがミュージカルですが、それさえあれば喜んでもらえるのかというと、それほど甘いものではなくなってきている。そう考えたときに、大きい作品だろうが小作品だろうが、観ている人が没入できて感動できるものでないといけないと思いますし、どんな作品であってもそれを追い求めていいものを作ろうと思います。そして、そうしてできたものは、日本人が作れば自然と日本の色というものが出てくると思います」

―――10月9日から20日の間にそれぞれの作品が上演されますが、お互いに稽古や公演をご覧になったり、交流をするという機会はあるのでしょうか?

上野「合同稽古があるそうなので、そこではご一緒すると思います。僕たちにとっても初の試みで、これまで合同の稽古というものもしたことがないので、緊張しますね」

前田「なんだか学生のときのクラスごとの発表をするような気分になりますよね(笑)。クラスごとに作り上げたものを、最後にみんなで見せ合うというような」

工藤「今日、これだけ偉そうに話していて、セリフを飛ばしたりできないですからね(笑)」

―――最後に公演に向けての意気込みや公演を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

上野「今日初めて3人の主演が揃ってこうして話をしたことで、改めて、作風が違う3つの作品が揃ったんだなという実感を持てました。ご覧になられる方は、3作品、全てを観た方が絶対にお得です。ぜひフェスティバルに来てください」

前田「すっごく頑張るので、観に来てください。僕たちの作品を観に来てくださったお客さまも、別の作品も観て、セットの使い方の違いや演出の違いを楽しんでいただきたいです。それが同じ空間で楽しめるというのがこのフェスティバルの魅力だと思うので、それぞれの違いを観て感じていただけたらいいなと思います。僕たちの作品ではなく、他の作品を観に来られる方にも、ぜひ僕たちの作品も観ていただけたら嬉しいです」

工藤「僕の出演する『ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!』は、昔からある『ロミオとジュリエット』という作品に現代の要素をたくさん盛り込んで作っているので、『ロミオとジュリエット』を知らない人も知っている人も楽しめます。昔っぽい雰囲気も、今っぽさも感じられて、僕自身も芝居をしながら、その狭間で揺れるように演じています。それぞれの作品にいろいろなテーマがあるので、どれか一つでも刺さるものになっているのではないかなと思います。ぜひ3作品合わせて観にきていただけたらと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

上野哲也(うえの・てつや)
1979年6月4日生まれ、千葉県出身。劇団わらび座出身。伝統芸能を扱う劇団で様々な芸能や日本文化を学び、現在はそこで培った能力を活かしてミュージカル等の作品に多数出演。ミュージカル『龍馬!』、ミュージカル『火の鳥』で主演を務め好評を博す。2011年には、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演。主な出演作に、ミュージカル『ミス・サイゴン』、ミュージカル『レ・ミゼラブル』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』など。

工藤広夢(くどう・ひろむ)
1996年3月5日生まれ、宮城県出身。地元仙台で俳優活動を始め、2013年のTOURSミュージカル『赤毛のアン』への出演を機にプロを目指す。主な出演作に、ミュージカル『王家の紋章』、『わたしは真悟』、ミュージカルコメディ『パジャマゲーム』、『メリーポピンズ』、日生劇場ファミリーフェスティヴァル『アラジンと魔法のランプ』、『TOPHAT』など。

前田隆太朗(まえだ・りゅうたろう)
1995年5月27日生まれ、青森県出身。2015年より本格的に俳優活動を開始。翌年、LIVEショー『ONE PIECE LIVE ATTRACTION“2”』でモンキー・D・ルフィ役を1年間務めた。主な出演作に、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 切原赤也役、ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』~うずまきナルト物語~、舞台『弱虫ペダル』SPARE BIKE篇~Heroes!!~、舞台『鬼滅の刃』其ノ弍 絆、『戦国送球〜バトルボールズ〜』シリーズなど。

公演情報

ワンアクト・ミュージカル・フェスティバル』

日:2025年10月9日(木)~20日(月)
場:シアター風姿花伝
料:前半日程一般自由席[10/9〜13]6,800円 後半日程一般自由席[10/15〜20]7,800円 ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(税込)
HP:https://1act-musical-fes.my.canva.site/#home
問:ワンアクト・ミュージカル・フェス実行委員会 mail:info.1act.m.fes@gmail.com

限定インタビューカテゴリの最新記事