【「板尾のめ゙」第七回】劇団スポーツ#10『略式:ハワイ』/「多分同年代の人がこの作品を観ると「自分も舞台に出てみたい」と思うんじゃないでしょうか。」

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」。第七回は、2024年5月に上演された、劇団スポーツ『略式:ハワイ』。2017年には同じタイトルでの三人芝居を上演。それから7年、今度の『略式:ハワイ』は、出演者7人による、後悔を引きずり続ける“ぼくたち”の、戻れない過去を丸ごと一からやり直す《青春記憶改竄コメディ》だ。これは再演なのか──。作品の感想とともに、板尾にとっての「あの頃」の作品もまた、振り返ってもらった。

<作品紹介>

片田舎の高校で出会った山戸(やまと)と斜(はす)。体罰の激しい部活に所属し、疲弊していく山戸に対して、斜は何度も部活をやめるよう説得する。山戸は次第に部活以外の世界を知り、高校生活を謳歌していく。しかし結局、部活を辞めることができなかった。その後、二人の青春はあっさりと終わりを迎えてしまう。
十年後。山戸はふと、斜と過ごした高校時代を思い出す。もしもあの時、部活を辞めていたら、今どうなっていただろう。もしもあの時、斜を引き留めていたら、今どうなっていただろう。あり得たかもしれない世界を求めて、過去をやり直していく。

テンポが速いのは「今の感覚」なんだろうな

──『略式:ハワイ』、まずは第一印象としていかがでしたか?

出演者の方々が若い事や作風が、フレッシュでしたね。一生懸命伝えようとしている感じがして、好感が持てました。
みんなで話し合って作ってんねやろな、という感じもしました。そんなに大きくない空間に、結構な人数が出てくるから、セットも工夫して「これはこうしよう」という色んな決め事があるんだろうな。その工夫が見られるから、観ていて飽きないんですよね。

──テンポよく空間が変わっていきますね。

テンポ感が、今の感覚なんだろうなと思いました。僕の感覚だと、余韻みたいなのを残すというセオリーがある。台詞もゆっくり、会話のやりとりの中での気持ちを味わって展開していく。でも、多分世代なんでしょうね、前のシーンをちょっと思わせながら次のシーンに移行していくという見せ方は。「お、ポンポンポンポン進んでいくな」っていうぐらいが若い方は見ていても心地いいんだろうな。きっとアップテンポで見たり、聞いたりすることに、慣れているんだと思います。

──確かに…単なる流行りということではなくて、今と比べると前のほうが、舞台の転換に物理的に時間がかかっていた。けれども今は、技術の変化やいろいろなことが理由で、速く場面転換ができるようになったんでしょう。

映像を見慣れているのもあるのかなと思いますよ。映像だとスイッチングが速いですし。それに、最近では動画を1.5倍速くらいで見る人たちも多いみたいですね。
でもこの作品では、もしかしたらその“速さ”が青春感を生み出しているのかもしれないです。役者が気持ちよく楽しく演じられている印象を受けるので、若さや爽やかさが際立ちますね。テンポがいいから、とてもシンプルなストーリーを気持ち良く飽きずに観られる。その分、最後の展開がじっくりと届く感じがします。

多分同年代の人がこの作品を観ると「自分も舞台に出てみたい」と思うんじゃないでしょうか。

──今作で印象的だった事や、ぐっときた所はありますか?

少しずつ変化していく演出が面白かったですね。なんというか……この芝居の稽古風景が見えてくる感じがしました。構成と演出と美術によって、本番なのに稽古を見ているような気持ちになって、完成しているのにあえて未完成な感じになっていて、それがいいんですよね。

──あえて外側から観るような演出と、観客を巻き込むスピード感があり、この後どういう展開になるんだろうとか、いつどのようにタイトルの「ハワイ」と繋がるのかとか、色んな疑問が、最後にぐっと盛り上がる興奮もありました。

そう。さりげなくハワイが美術の中とかにも散りばめられていて、そしてそれが……というのも良いですね。この劇団の他の作品は違うのかもしれませんが、少なくとも今回の作品には、劇団感のようなものが感じられて、それが作品の若さや勢いと相まってとても好感が持てました。多分同年代の人が観たら、「自分も舞台に出てみたいな」って思うんじゃないでしょうか。

今ならもっと色々出来るだろうなと思うのは『王将』ですね。

──この作品は過去に同タイトルの舞台が上演されています。演劇の「再演」というと、二度と同じ作品にはならなかったり全く違う作品になっても、それを確かめようがないのが面白いところでもあります。板尾さんは再演作品に出演されたことはありますか?

あると思いますけど、自分が同じ作品に出ない限りは気にしないので、覚えていないんですよね。自分で同じ作品に出た、ということはないので……。

──では再演したい舞台や、もう一度出てみたい舞台はありますか?

そうですね……今ならもっと色々出来るだろうなと思うのが、『王将』(2000年、本多劇場)ですね。松尾スズキさんの演出で、荒川良々さんとかが出演されていたんですよ。当時は(吉本)新喜劇くらいしかやったことないし、しかもしっかり旅公演があるような演劇は初めてだったんです。だから芝居も出来るわけがない。マネージャーから「なんか大人計画の方がやる芝居があるんですけど、どうされます?」と言われたんですけど、多分僕がその2年くらい前に「やる」って言ったから連絡が来たんでしょうね。「そんなん言うてたな。その時の俺、やるって言うたもんな、じゃあやらんとな」ということで、受けたんですよ。そしたらどうやら松尾さんも、俺がオッケーするんやったらやるか……という感じだったらしくて、当時はなんだかわからないままに始まった舞台でした。

──あれよあれよと上演に向けて……

その頃はまだ、大人計画のことは観たことがなかったので、皆さんには初めて会いました。クドカンが稽古場で『池袋ウエストゲートパーク』の原稿をガラケーで書いていたのが印象的でしたね。稽古場に直しの電話がよくかかってくるので、「勝手に変えてくれてええのにな」って言いながら脚本を書いていたなぁ……と。
芝居自体は、なんかもう、訳の分からない感じでした。

──『王将』といえば映画、舞台共に名作として人気ですよね。大阪の将棋棋士・坂田三吉の生涯を描いた作品で、板尾さんの演じた坂田役を、舞台では緒形拳さん、植木等さん、笑福亭鶴瓶さんなどが演じて来られました。

そうなんですが、松尾ワールドなので。荒川良々が関根(金次郎)八段役なんですが、フック船長の手みたいなのをつけていたり……。出演者もみんなふざけていて、佐藤二朗も楽しそうだったな。真面目にやってたの、片桐(はいり)さんくらいちゃうかな。

──それは、当時見てみたかったです(笑)

今やったら違うものが出来るでしょうね。その時はその時で、批判もあったけれども良かったんでしょうけど。旅公演だったので、若手は美術の搬入も立て込みもバラシも全部したりしました。ただ、やっぱり右も左も分からない所もあったので、今やればもっと色んなことが自分も出来るし、今やることの良さも多分あるんだと思います。そういう意味で、もう一度やってみたいなとは思いますね。
 

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

劇団スポーツ#10『略式:ハワイ』配信中!

カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

 
劇団スポーツ#10『略式:ハワイ』
作・演出:内田倭史
出演:
内田倭史 田島実紘 竹内蓮
武田紗保 タナカエミ てっぺい右利き(パ萬) 
端栞里(南極ゴジラ)

[視聴券販売期間]
2024年10月15日(火)10:00~11月15日(金)23:59
[配信期間]
2024年10月15日(火)10:00~11月22日(金)23:59
※レンタル視聴可能時間 7日間(168時間)
[視聴券]2,400円(税込)
 

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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(第一回~第五回)


【第一回】□字ック『剥愛』
【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』
【第三回】画餅(えもち)『サムバディ』
【第四回】いいへんじ『友達じゃない』
【第五回】南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』

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