【「板尾のめ゙」第六回】ウンゲツィーファ『動く物』『旅の支度』/「やっぱり脚本がいいんだと思います。上手いですね。」

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第六回は、2024年4月に上演された、ウンゲ演劇集 ふたりぼっちの星『動く物』『旅の支度』ウンゲツィーファによる2本同時上演が、神保町の小スペースPARAにて上演された。劇場とは異なる場で行われた2作品を視聴し、作品や空間について語った。

<作品紹介>

『動く物』あらすじ

檻の中の動物は幸せだろうか。
ムジナとマミは小さな部屋で喧嘩を繰り返しながらも共に暮らしていた。
とある夜、二人が飼っている謎の小動物「ミチヨシ」がケージから脱走し、散らかった部屋のどこかに隠れてしまう。
探すうちに忘れていた色々なものを発見し、過去のことや未来のことが思い起こされる。その先で二人は、ヒトという動物の矛盾と罪に対峙することになる。

生々しさとポエジーとユーモアを演劇的イリュージョンで包んだ成人向け童話。

『旅の支度』あらすじ

旅の支度こそ旅だった。
母が再婚し、式をハワイでやるらしい。
弟は出発前夜まで連勤が続いたが、ようやく仕事を終え、旅行のはじまりに浮足立つ。
旅行慣れしてない上に母と関係が悪い姉を空港に連れていく為に部屋を尋ねる。
そこには到底運びきれない量の旅行荷物が積まれていた。
姉は弟の指示のもと荷物を減らす作業を始める。
しかし一向に荷物はまとまらず、夜は更けていく。
姉は旅が嫌いだった。

切り離せないものたちと、それでも旅を始める夜間飛行劇。

普通の舞台でやるよりも、出来ることがあるでしょう

──今回は同時上演の2作品をご覧いただきました。いかがでしたか?

覗き見しているような感覚でしたね。お客さんも、この近い距離でぎゅっとして観ているので覗き見ている感覚だと思うんですが、それをさらにカメラで観ているのでよけいに覗き見感がありました。
だからなのか、脚本ってどれぐらいあるんだろうなって思いました。おそらく台詞は決まっているんでしょうけれど、そうは感じさせないくらいリアルというか…親近感が持てます。映像で観てるからだとは思いますが、映画を観ているみたいでした。いろんなところをクローズアップで観て楽しんでるみたいな感覚です。
 

──空間も普通の部屋のようですし、その部屋にある置物のような感覚で観ていられますね。

空間が狭いし、客席と近いから、俳優さんは緊張するだろうし立ち位置とか難しそうな気はするけど、でもあんまり気にすると違和感のある演技になっちゃうから、それが自然にリアルに見えるように演じられている。お客さんとしてもどこに座るかで見えるものも変わってくるでしょうね。

──座席も二面ですしね。

作・演出の方(本橋龍さん)が客席の並びにいて照明とかを操作されているのも面白い。最初は関係者の方だと思わなくて、なんか急に壁のスイッチを触り出したから、ちょっと変わったお客さんかと思いました。「危ないんじゃないの?大丈夫?」って。

──確かに。照明がその部屋の明かりだから、操作しているのも全部見えてますね。

そう思うと、本番やけど稽古を観ているような不思議な感覚もありました。演劇というか、イベントというか、展示というか、ライブというか…いろんな要素が混ざっている。

──ウンゲツィーファはこれまで劇場以外の上演の多い劇団だったことも影響があるかもしれません。自宅や、屋外での上演もされていました。

なるほど。いろんな形での公演をやっていらっしゃったんですね。なんというか、演劇やお芝居をやるにあたっての超原点のようにも感じたんです。友達とか家族に見せるような感覚があって、凄く面白かったですね。小さなイベントスペースに落語を聴きに行っているような気持ち良さがある。いわゆる普通の舞台でやるよりも、出来ることがあるんでしょうね。そんなに難しいことをやっているわけではないけど、これをやり続けていることが素敵ですね。

色んなやり方を試行錯誤して研究してきたなかで「こうすればいいんだ」という落としどころが見えたんだろうなと感じさせるほど、空気感のバランスが良かったです。

やっぱり脚本がいいんだと思います。上手いですね。

──『動く物』と『旅の支度』の2作品をご覧いただきました。それぞれ恋人と姉弟の2人芝居です。作品についてはいかがでしたか?

凄くリアルというか… 実際に劇場ではなく部屋の中というリアリティのある空間で、ちょっと不思議な脚本でしたね。普段ならあまり外には出さないような、彼氏や彼女や兄弟といった関係でのやり取りや感情が見えてくる。
2作品とも、どちらの登場人物の気持ちも分かるんですよね。この関係性であったり、それぞれが感じていることを、バランスよく描いていく。やっぱり脚本がいいんだと思います。上手いですね。ちょっとファンタジーの要素がありつつ、あまり無理のない展開で、最終的には「結局、いい関係だな」「頑張ってほしいな」と応援したくなりました。

演出や空間の作り方も面白かったですね。テレビを上手く使ったり、美術もよく見えるから手を抜いていない。劇場での公演だったら想像力で補うものも、実際にこの空間に存在しているので、役者さんも舞台上で演じている感覚とは違うのかもしれない…分からないですが。ちょっとしたガチャガチャという音もお客さんによく聞こえるし、観客としても「うん、これ、寝てられへんわ」という感じがもの凄くしました。その空間の中に観客自身もいるので、登場人物と気持ちがシンクロしやすいかもしれません。

──映像での観劇としてはいかがでしたか?

カメラの切り替わりも効果的でしたね。ほぼ固定カメラが何台かあるだけで、その組み替え方が見やすかったです。整理されていて、映像の作品として成立していました。客席にあるカメラの位置に実際に座って見ているようでした。

セットがうまく座っていると、劇場体験の満足度が上がる

──こういったいわゆる劇場ではない小スペースでの上演はご覧になりますか?

ないんですよ。劇場ではないところでの上演は観たことはあるんですが、これほど小さな空間でこんなに近くで観たことはない。だから行ってみたくなりましたね。

──では逆に、劇場で観劇することの面白さはどういうところに感じますか?

もちろんお芝居としては脚本とかが大事ですけれど、やっぱりハコ(劇場)の大きさに合わせて計算されたセットとか、客席とステージとの距離感が、きちっとハマっている時の気持ちよさはいいですね。僕は演劇祭をやっているんですが(※『関西演劇祭』のフェスティバル・ディレクター)、そこではちょっと大きめな舞台でいろんな劇団が上演する。すると、いろんなことに対応できる一方で、空間がちょっと広すぎたり、上に余分なスペースができたりしてしまうこともあるんです。でも劇場と作品の空間がうまくマッチしていると、満足度が上がりますね。セットがうまく座っている感覚といいますか…。たとえば、その演劇だけのために作られた専用の劇場ってあるじゃないですか。ブロードウェイとか、劇場に入った瞬間からすべてが演出されている。そこまでいくと気持ちいいですね。

──同じ芝居でも、劇場が変わるとまったく同じようにはいかないですよね。

ツアー公演をしていると、舞台から見える景色も変わりますね。客席が高かったり、お客さんが遠かったり、2階席や3階席があるところもあるし、見切れがある場合もある。舞台の広さも違ったりする。すると、距離が少し遠くなるだけで芝居が増えるし、間も違ってくる。やっぱり同じ演目でも全然感覚が違いますね。

──そういった微調整が得意な演出家や俳優もいらっしゃいますね。

そうですね、劇団さんはいろんなところで公演して、その都度、空間に合わせて作っていく。役者が「ちょっと距離が遠いな」と感じたら演技で調整したりする。それは仕事であり、技術ですね。

──演劇、とひとくちに言ってもいろんなシチュエーションがありますね。板尾さんはこういう場所で芝居をしてみたい!というのはありますか?

やっぱり、そのお芝居のために計算されて作られた劇場ではやってみたいですね。贅沢ですけどね。
 

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

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ウンゲ演劇集
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脚本・演出:本橋龍
映像撮影・編集: 櫻井潤
ED曲:松井文『うぶごえ』『トンネル』
アニメーション・宣伝美術:柚木海音

出演:
『動く物』:藤家矢麻刀、高澤聡美
『旅の支度』:黒澤多生、豊島晴香

[視聴券販売期間]
9月15日(日)10:00~11月14日(木)23:59
[配信期間]
9月15日(日)10:00~11月21日(木)23:59
※レンタル視聴可能時間 7日間(168時間)
[視聴券] 1,000円(税込)
 

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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(第1回~第4回)


【第一回】□字ック『剥愛』
【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』
【第三回】画餅(えもち)『サムバディ』
【第四回】いいへんじ『友達じゃない』

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