【「板尾のめ゙」第五回】南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』/「この見せ方は、ちょっとワクワクしましたね。」

【「板尾のめ゙」第五回】南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』/「この見せ方は、ちょっとワクワクしましたね。」

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第五回は、2024年3月に上演された、南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』。映画『ジュラシック・パーク』のテーマである”テクノロジーの暴走”を、南極ゴジラらしくゆかいに突破するワンダフルであたらしいSF 青春群像劇、とのこと。

<作品紹介>

恐竜を生で見ることができる娯楽施設《ジュラシックパーク》 かつて栄光でピカピカだったパークもすっかりくすんでしまい、 起死回生のリニューアル計画が始動! そんな中、園内では 奇妙な姿かたちをした人間が目撃されはじめ・・・ ジュラシックパークで生まれ育った主人公・湾田ほんとを軸に、 一等賞の同僚、いつも着ぐるみの友人、怪しいセールスマン、 かつての映画スター、冷血動物症の科学者など、 登場人物10人の瑞々しい生活を描く。

舞台の映像というより、ちょっとドラマっぽかった

──多くの演劇公演の配信とはすこし違った、独特な撮影方法でしたね。いかがでしたか?

ワンカメでずっと撮影している独特な映像でしたね。多分お客さんが入っていない状態で撮ったのだと思うんですが……この見せ方って、凄くアリだなと僕は思います。
カメラマンさんが見せたいところにアングルが向いてるので、カメラマンさんの主観を見ているような感じがする。恐らくカメラマンさんは手持ちのカメラを担いで舞台の上で撮影されているんでしょう。この見せ方は、ちょっとワクワクしましたね。

──舞台公演の映像というよりも、またひとつ別の作品のような映像でしたね。

俳優や小道具をクローズアップしていたりと、実際に公演を観るのとは全然違う印象なんでしょうね。もしかすると、照明も公演の時とは違うのかもしれない。

──カメラが動いてさまざまな角度から映すので、決まった客席に座っていたら見えない角度や距離から観られますね。私は劇場でも観劇していたのですが、「こんなふうになっているんだ〜!」とたくさん発見がありました。

舞台袖が映っていたりと、通常ならあまり見せたくないだろう所が見えることもありましたね。舞台の映像を観ているというより、ちょっとドラマっぽい印象をうけました。

──たしかに。ドキュメンタリーのようでもありました。『(あたらしい)ジュラシックパーク』では実際に、手持ちカメラ1台と複数の固定カメラで撮影しているそうです。

ナマっぽく感じますよね。多少は編集しているみたいですが、ほとんど(映像が)繋がったままのように見えますね。配信は配信として舞台とは違う形で成立をさせようとしている感じがします。

子どものような表現で、大人のしがらみを描く

──演劇作品としてはいかがでしたか?

今自分が生きている社会全部を、ジュラシックパークの施設の中で表現したかったのかな。
人間関係とか、職場の上司や先輩後輩としての関係とか、会社や世間の動きとか、そういうものを全部描こうとしているようにも感じました。国や政府や大企業といった大きなものに翻弄されていく。世の中の悲情さや、人間の闇の部分をちゃんと描いているから、登場するキャラクターがはっきりしてくる。漫画っぽいくらい強めに描かれていますね。
あと、演出家の方がピュアなのかなぁ。特にに前半の設定あたりから、セサミストリートのような雰囲気を感じたんです。いい意味での子どもらしさのような。段ボールで作った恐竜を始めとした手作り感が、Eテレみたいで、小学生ぐらいの子が見ると凄く楽しいかも。そうやって恐竜や『ジュラシック・パーク』のように入りやすい入口で、大人のしがらみを描いていく。きっと日々、世間や社会に対していろんな疑問や不満があるんやろうな、満足してないんやろうな。訴えたいものがすごく詰まってる感じがしました。それが、天井の照明を映したりするカメラワークにもあらわれているのかなと。

──印象的だったシーンやキャラクターはありますか?

「第1話」「第2話」……と区切って、ドラマのような作り方にしているのは、多分その方が見やすいからだとは思うんです。でもそういう構成は舞台やこういった演技で見たことはなかったですね。

──全1,324話のうち1〜4話を上演します、という設定でしたね。「この先まだ1,320話あるんだ」という。

「第何話」とつけるとことでまだ続くぞって感じがありますよね。一話ずつ区切りはついているけど、ちゃんとストーリーは繋がっている。 
いろいろやっている分、力が分散してしまってる所はある気はするので、もうちょっとしっかり物語をシメる人物や、ストーリーを繋ぐ人物や、そういうところがもうすこし脚本に組み込まれているとより観やすいかもしれません。ただ、あくまでも映像で見た感想なので……。この作品が演劇としてどうかというのは、客席で見ないと何とも言えないんですよね。作り込まれた舞台美術やたくさんの小道具を劇場の公演でどれほど活かせているのかは、映像で観ているだけでは判断出来ないかなと。少なくとも映像からは、自分たちが表現したいことを自由にやっている印象を受けました。

南極ゴジラ×この映像

──たしかに作品として、劇場と映像では受ける印象が違います。美術や小道具でいうと、座った客席の位置によってよく見えたり全く見えなかったりしました。

劇場だとより、目で楽しませる効果が高いんじゃないでしょうか。美術も小道具もたくさん出てくるし、お話もいくつものエピソードが入り乱れている中で、色んな人がドタバタと出たり入ったりするのは、総合的に生(ナマ)の舞台の楽しさがあるんでしょうね。

──劇場公演と映像を比較すると、劇場でステージ全体を見ている方が視界に入る要素は多いけど、映像で見ている方が情報量が多い印象かもしれないです。

情報量は多いでしょうね。カメラワークにも意味があるし、エピソード自体もいろんな話があって未消化のままどんどん進んでいく。劇場で観ていないから断言できないですが、映像で「ごちゃごちゃ感」が強くなるんじゃないかなと。この「ごちゃごちゃ感」って良い意味だし、あえてそう作っていると思うんですよ。キャラクターの個性も、セットも飾りもごちゃごちゃしている。それがいい。ただ、映像で寄りになると全体像がわからなくなったり、劇場にいたらスルーしている舞台袖や背景に映っているものも映像だと意味を持って見えてしまう。そうすると、客席で観るのと比べて、ちょっと散らかった印象にはなるかもしれないですね。

──たしかにクローズアップになると、高低差や、演技している場所とかはわからなくなりますね。劇場で観ている時は無意識にいろんな情報を脳が処理しているんだというのも、聞いていて気づきました!

そうですね。全然感想が違うんだろうなと思いながら観ました。

──すでに劇場で観た方が配信を見ても、また別の作品としても楽しめそうですね。試みとして面白いので、この撮影方法を極めていったら、何か新しい面白さが発見できるかもしれないです。

魅力的なところもいっぱいあるし、若い人たちが試行錯誤しているのもいい。これからいろんなことにチャレンジしていくといいですね。

──継続して試行錯誤していけるのは、ひとつ、劇団であることの強みを感じました。近年は公演ごとのプロデュース団体も増えてきましたが、南極ゴジラは「劇団!」という感じがします。

劇団で長いことやっていこうというのは、やっぱりすごく大変だと思いますよ。相当脚本と、演出と、劇団員とが、自分達の個性を出していかないといけない。作品を観ただけではどういう作り方してるのかはわからないけど……みんなで意見を出し合ってるのかもしれないし、演出家がほとんど決めているのかもしれない。でも、すごく可能性のある劇団だと思います。自分達のスタイルがある。劇団だけで作る怖さもあるし、魅力もあるけれど、ぜひ続けていっていろんな挑戦をしていく様子を見たいですね。

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』配信中!

カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

 
南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』
脚本・演出:こんにち博士
出演:
端栞里 / TGW-1996 / こんにち博士 / 九條えり花 / 古田絵夢 / 瀬安勇志 / ユガミノーマル / 和久井千尋 / 井上耕輔 / 揺楽瑠香

ビデオ編集:瀬安勇志 / ユガミノーマル

[視聴券販売期間]
2024年8月15日(木)10:00~2025年8月15日(金)23:59
[配信期間]
2024年8月15日(木) 10:00~2025年8月22日(金)23:59
※レンタル視聴可能時間7日間(168時間)
[視聴券]1,000円(税込)
 

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

 

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 ※第三回以前はリンク先にて公開中!

(第一回~第三回)


【第一回】□字ック『剥愛』
【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』
【第三回】画餅(えもち)『サムバディ』

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