ミュージカル『ボニー&クライド』で主演 柿澤勇人インタビュー

1930年代、世界恐慌下のアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した実在の人物、クライド・バロウとボニー・パーカー。鬱屈した社会の積もりに積もった不満を解消するかのように、太く短く人生を駆け抜けた二人の生き様は今も語り継がれる名作映画『Bonnie and Clyde』/邦題「俺たちに明日はない」で、日本でも一躍その名を轟かせ、”アンチ・ヒーロー”の代名詞として語り継がれている。

この二人の人生を、『ジキル&ハイド』『デスノートTHE MUSICAL』『ケイン&アベル』などの傑作ミュージカルを創り続ける作曲家、フランク・ワイルドホーンが音楽を手掛けたミュージカル『ボニー&クライド』が、3月東京日比谷のシアタークリエで幕を開ける。

2011年12月にブロードウェイで開幕した作品は、2012年に日本初演。のち2022年ロンドン・ウェストエンドでブラッシュアップを加えて再演、2023年には宝塚歌劇団雪組にて上演され大きな話題を集めた。今回の上演は演劇界を代表する劇作家・演出家の1人、瀬戸山美咲上演台本・演出による、新演出版となっている。 そんな作品で矢崎広とWキャストで主人公クライド・バロウを演じる柿澤勇人が、作品や役柄に感じる思い、また稽古を通じて感じる共演者の魅力について語ってくれた。

──まず作品について、感じていらっしゃることを教えていただけますか?

クライドがボニーと出会ったのは21歳くらいで、そこから一気に人生を駆け抜けていく。クライドは刑務所に入れられても脱獄して犯罪を繰り返し、短い時間の中で、周囲の人物よりも濃厚な人生を生きていたと思うんです。
それを約二時間半の上演時間で見せていくためには大きなエネルギーが必要です。スピード感、疾走感を大事にしたいなと思っています。こんなにかっこいい二人がいて、最後は潔く散っていった、そんな生き様を見せられたらと思います。

──お役柄についてご自身で感じていることや、ここを大事にしたいとか、こう演じたいというところはどこですか?

今は一場面ごと丁寧に稽古して、自由にやらせていただいている段階なんです。瀬戸山さんからこちらへ委ねてもらっている部分が今は多いんですね。
取捨選択していく稽古終盤までは、こうだ、とは決めつけず、色々な可能性を慎重に探っていこうと考えています。

──ご自身としても、方向性を敢えて決めないということでしょうか。

そうですね。役者ってやっぱりどうしても早く正解を見つけたいし、早く安心したいんですよね。でもそこに落ち着いてしまうと、もうそれ以上の成長もないし、後は惰性になっていく気がしてしまうんです。あれでいいのかな、これでいいのかなと日々考えながら、稽古をしています。

──なるほど、俳優としての在り方のお話でもあるのですね。そのなかで、クライドとボニーはアウトローだけれども大人気を博したのは、大恐慌の鬱屈した時代とリンクしている、という趣旨のお話を製作発表会見でされたのがとても印象的でした。つまり今の時代にも通じていることなのではないかなと。

今の時代も、毎日を本当に幸せに生きている人って、残念ながらそれほど多くない気がしています。物や情報は溢れているけれど、心が豊かになのかというと、そういう実感は薄いし、未来に希望も抱きにくい。
世界は本当にこのままでいいの?と感じる時もあると思うんです。
クライドとボニーの生きた時代も似たところがあるんじゃないかと感じるし、その空気感をリアルに表現できるのが演劇の魅力だと思っています。

──そういうちょっとおかしい、このままじゃいけないんじゃないかと感じていても、諦めてしまっているところが自戒も含めてあるのかなと。

誰かが先駆者となって、この世の中をもっと希望のあるものに変えたいと、狼煙をあげようとする。
クライドとボニーは悲惨な最期を遂げるのでストーリーとしては悲劇なのですが、苦しい時代に、もがいていた可哀想な人たちがいました、というだけのお話ではないと思うんです。閉塞感のある時代を駆け抜けた二人の姿をエネルギッシュに描くことで、現代のお客様にも突きつけるテーマを持つ作品だと感じています。

──観る方に感じとってもらいたい、という演劇って深いなと思うところでもありますが、そうした深さを内包しつつ、この作品はなんと言ってもフランク・ワイルドホーンの楽曲の魅力が、もうひとつ大きいかなと思います。柿澤さんはワイルドホーン作曲の作品に多く出演されていますが、これまでの作品と今回の作品で、楽曲の魅力や特徴に違いを感じられる部分はありますか?

ワイルドホーン作品の多くに共通して、キーが高く、歌い上げるようないわゆる大ナンバーがありますが、『ボニー&クライド』にはそれが無いんです。
二人が出会った時も、運命の出会いだぞ!みたいな曲調ではなくカントリーロックのテイスト。ひょんなことで突然出逢ってしまった、という感じが出ていて、フランクは台本と役者の心情に寄り添って曲を書いているんだろうなと感じますね。
もちろん壮大なナンバーやカッコいい曲もあるのですが、二人が出逢う時のナンバーは、この作品の音楽の、ある意味象徴的な曲だと思いますね。

──そのなかで、ワイルドホーンメロディの魅力を改めて語っていただくとすると?

登場人物全員の心情を歌の中で表現しているところですね。
対照的な想いを持つ人たちが互いの愛について歌ったり、一人の女性について、立場も想いも全く違う二人の男性が同時に歌ったり。
登場人物それぞれが違うベクトルを向いて物語が進んでいく中で、1人1人に寄り添っているのがとても素敵だなと思います。

──ありがとうございます。観る側としてもすごくヒントになります。また、お稽古で感じる共演者の皆さんやカンパニーの雰囲気、印象などはいかがですか?

演出の瀬戸山さんがかもし出す雰囲気が温かいこともあって、伸び伸びとやらせてもらっていますね。役者の意見をすごく聴いてくださって、ディスカッションしてから稽古に入るのですが、毎回それに応えられるものを提示したいと思っています。
これから稽古が進むにつれてギアを上げていきたいですね。

──Wキャストの矢崎さんとのお稽古についてはどうですか?

僕が気づいてないところや、これはどういうことなんだろうと感じているところを、矢崎くんに教えてもらえるのはWキャストならではの良さだと感じています。
もちろんお互いが役の解釈が全然違ってもいいし、矢崎くんはその点を自然にわかってくれるのでやりやすいですね。矢崎くんが演じるのを見ながら、あぁこういう動きをしたらこう見えるのか、僕はどうしようかな、と常に考えさせてもらえます。

──ボニー役のお二人の印象についてはどうですか?

玲香(桜井)とはこれまで何作品かで共演しているんですが、こういったがっつり恋人同士という関係性は初めてなんです。
『ジキル&ハイド』では婚約中の恋人同士という間柄でしたが、ここまで密接な関係は初めてなので、とても楽しみですね。彼女にとってもいままで演じてきたのとはまたちょっと違う役みたいで、それもまた刺激になります。役の二人が出逢った時に「こっちに来いよ」と最初から引っ張って行くのがクライドなので、役を魅力的に見せることで、二人がその後進んでいく道に最後まで説得力を持たせられたらと思います。

海ちゃん(海乃)に関しては、宝塚を退団されて最初の舞台で、色々と慣れないこともあって大変だろうと思います。それでも毎日ニコニコと稽古場に来て、終わった後も遅くまで残って練習している姿を見て、すごく真面目な方だと思っています。

──では改めてこの作品ミュージカル『ボニー&クライド』を楽しみにしている方たちにメッセージをお願いします。

生きていて嫌なことや、納得のいかないことが全くないという方はいないだろうと思います。そんな、どこかにぶつけたい気持ちを、クライドとボニーが皆さんに代わってぶつけていくので、その姿を応援していただけたら嬉しいです。 皆さんに愛されるカップルになれるよう頑張ります。劇場でお待ちしております。

左から、瀬戸山美咲・桜井玲香・柿澤勇人・矢崎広・海乃美月

取材・文・撮影(製作発表会見):橘涼香/公演ビジュアル写真提供:東宝演劇部
ヘアメイク:松田蓉子/スタイリング:千野潤也(UM)

公演情報

ミュージカル『ボニー&クライド』
3月10日(月)~4月17日(木)@シアタークリエ

脚本:アイヴァン・メンチェル
歌詞:ドン・ブラック
音楽:フランク・ワイルドホーン
上演台本・演出:瀬戸山美咲

出演:
柿澤勇人/矢崎広(Wキャスト) 桜井玲香/海乃美月(Wキャスト)
小西遼生  有沙瞳 吉田広大/太田将熙(Wキャスト)
霧矢大夢 鶴見辰吾
石原慎一/彩橋みゆ 池田航汰 神山彬子 齋藤信吾* 社家あや乃*
鈴木里菜 焙煎功一 広田勇二 三岳慎之助 安田カナ(*スウィング)

《全国ツアー》
【大阪】2025年4月25日(金)~30日(水)@森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーションTEL.0570-200-888(11:00~18:00、日祝休み)

【福岡】2025年5月4日(日)~5日(月祝)@博多座
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センターTEL.092-263-5555(11:00~17:00)

【愛知】2025年5月10日(土)~11日(日)@東海市芸術劇場大ホール
〈お問い合わせ〉メ~テレ事業TEL.052-331-9966(平日10:00~18:00)

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