美意識と品にこだわり、愛に焦がれるものたちの物語を描く 芝居であることを忘れるような「何気ない日常」を目指して……

美意識と品にこだわり、愛に焦がれるものたちの物語を描く 芝居であることを忘れるような「何気ない日常」を目指して……

 「裏と表。知らない間に絡みつく想い……」──主要キャストに三津谷亮、中尾隆聖ら、演出にわかぎゑふを迎え、昭和40年代の東京を舞台に、ある家族と家族を求める者達の姿を静かにたおやかに描く。
 これまで毒と色気を感じさせる作風で熱烈な大人のファンを増やしてきた西瓜糖。観客だけでなく、俳優からも「出演したい!」との声が相次ぐ。西瓜糖メンバーである劇作家・女優の山像かおり(筆名:秋之桜子)、同じく西瓜糖メンバーの女優・奥山美代子がこだわり、愛情と信頼を持って声をかけたメンバーがここに集った。西瓜糖にとって新たな扉ともなりうるのではと予感させる次作『刺繍』について、稽古にのぞむ前の興奮と緊張感あふれる思いを語ってもらう。

映像のような脚本からうまれる、生身の人間の舞台

───第9回公演『刺繍』はどんな作品になりそうですか?

山像「家族の物語を書きたいなと思っていたんです。まず、演出をわかぎゑふさんがしてくださることになり、次に好きな俳優に声をかけて集まってから書き始めます。中尾さんや三津谷さんの出演が決まって、親子の話が書けたらいいな、どんな親子がいいかな……と書き進めていきました」

奥山「今回もというか、一口に言ってとても面白い本だと思います。ちょっと傾向が変わってきたかなと思いもありますけど、9回目ともなるとそりゃそうかなと。西瓜糖は今まで毒と色気がある作品が多かったですが、今回もなくはないけれど、少し違う。洗練されたという印象が強いです」

山像「1番怖いです。彼女に気に入ってもらわないと演出家にも読ませられない(笑)」

───2度目の出演となる三津谷さん、初出演の中尾さんはいかがでしょう?

三津谷「タイトルの『刺繍』からもイメージできるように、表と裏では見えるものが違う。他人には見せない裏の闇をどう見せずに、表面的な光や明るさをどう見せるかでどんでん返しがきいてくる。方言も登場するのですが、良い仕掛けになっています。台本の時点で『間違いない!』と自信があります。なにより、お客さんとして前作を観劇した後に、また西瓜糖に出演したいと思って『出させてください!』と言いに行ったほどなので、出演できることが嬉しいですね」

中尾「私も楽しみですね。ファンの方がたくさんいて『いいな!』『出て欲しかった!』とたくさん声をいただいてプレッシャーです(笑)。初めての役どころなので、日常を淡々とどう演じられるのかを考えたいです」

───あて書きなんですよね?

山像「そうです。最初に本名で戯曲を書くんです。私は自分も役者だからか、役者さんの顔が見えた方が物語が浮かぶんです。『この人にこんなこと言わせたいな』『この人がこれを言ったら色っぽいな』『嫌な顔をさせたいな』と考えるんです。みなさんの顔を思い浮かべながら書いているからか、演出家さんに『すごく映像っぽい脚本だね』と言われることが多いんですよ。自分が演出をしないので、具体的に舞台でどう見せるかはまったく考えて書かないので、スタッフさんとかは困らせちゃうかも(笑)。
 今回もたぶん衣装の早変わりがたくさんありそうなんですけれど、書いている時にはまったく気にしてなくて……他にも、いろいろな無茶ぶりがありそうなのですが、心強いスタッフを集めておりますのできっと『わかった』と言ってくれると……全面的に甘えて物語のことだけを考えています」

奥山「映像的な脚本だというのは、私も読んでいてすごく感じます。『女性の首筋にしたたる汗』みたいなものをイメージさせる箇所があったりね。そこは舞台からは見えないんですけどね(笑)。
 あと、台本にもっと登場人物のことをかき込んでもいいんじゃないかという余白があったんですけれど、実際に演じてみるとまったく気にならない。やっぱり役者の芝居で埋まるように、役者が魅力的に見えるように書いているんでしょうね」

三津谷「たしかにそうですね。読みやすいんです。西瓜糖さんの台本は舞台上での見せ方よりも、人がそこで生活している状態が文字から浮かび上がってくる。人が生活している香りって、その人が演じるからこそ出るものがある。西瓜糖さんの台本にはそれを感じます」

“なにものない物語”をどう演出するか、どう演じるか

───演出も公演ごとにいろんな方がつとめられますが、今回わかぎゑふさんとご一緒したのはなぜでしょう?

山像「わかぎさんの作品のファンで出演もさせて頂いたこともあり、その時『一緒にやりたいね』とお話していたんです。わかぎさんは着物や伝統芸能の造詣も深いし、そこに笑いのペーソスも入ってくる。外側から人間の可笑しみを描き、人間を愛らしく見せるところがすごく好きなんです。丁寧さと面白さがとても上手にミックスされる脚本を書かれる方です。なによりわかぎさんの演出がすごく好きで、いつも役者をどう活かすかを考えていらっしゃる。細やかに演出されているのに、細かくはないという……逆に怖いです」

三津谷「泳がされているような……」

山像「そうそう、『ちゃんとやれよ』って(笑)」

───『刺繍』はわかぎさんが演出をされることも意識して書かれた戯曲なんですか?

山像「そうです! わかぎさんの世界と私の世界が合わさったらどうなるのかなと興味があって、とにかく“なにもないような物語”を書いて、わかぎさんがどう料理してくださるのか……。すでに脚本は読んで頂いていて、『これで大丈夫!』と言ってくださったので、楽しみです」

中尾「“なにもない物語”というのはものすごく難しい。なにかある方が演じやすいです。出来事とか、人間の本質とか、それを表に出さないなにもない日常をどう演じるのか課題ですね。仕事がら、極端な役を演じることが多いので、“普通”というものには憧れます。声優は、普通にしゃべっているように聞かせるのが技術であって、本当に普通にしゃべっていてはいけない。だから“普通”の難しさについては、きっと死ぬまで悩むでしょうね」

奥山「演技をしていると、ふだんどうやって喋ってるんだっけ、と思う瞬間もありますものね」

山像「舞台では文字どおり“普通に”しゃべっていたらいけないんですよね。日常をちゃんと表現しないとお客さんには伝わらない。この戯曲を書いたのは、難しいことをやりたいからなんですよ。今回も『なにも起こらなくていい。でも、そこでなにか、お客さんの心をざわつかせるのが役者の仕事。役者が一番しんどいのが、面白いね』とおっしゃっていました」

みんな「おお……(笑)」

山像「なにもないけれど、でもなにかはある。お客さんは客席でほんわかしながら観ているうちに感じるようなものにしたい。素敵な俳優さんが集まってくださったので楽しみです」

「美意識」の高さを大事に、こだわっていく

───この『刺繍』にむけて、なにが1番楽しみですか?

中尾「私は、山像さんと夫婦役なのが楽しみですね」

山像「夫婦役にしちゃいました、脚本家の役得です(笑)。前に『夫婦役やればいいのに』って言ってもらったこともあったので、ついにやっちゃおう、と。逆に、三津谷くんと奥山さんの役はどんな役なのか……これは劇場で楽しみにしていてほしいですね」

中尾「いろんな意味ですごい役なので……(言葉をにごす)」

三津谷「これは実際観てのお楽しみですよ。僕、台本を読み終えた瞬間につい『おもしろい……』って言っちゃいましたもん」

───それは楽しみです!

奥山「本当に。メンバーには好きな方ばっかりにお願いしているので、ものすごく楽しみです。先日、山像と電話で話していた時に『なんか、美意識の高いものがやりたいよねぇ』と言ったら、『ほんとそれ! ほんとそれ!』と2人で盛り上がったんですよ。
 考えてみたら、これまでの演出家さんもそういう意味ではすごい方ばかり。今回のわかぎさんも強烈に美意識を感じる方です。
 やっぱり西瓜糖は、チラシにしてもこだわりぬいているし、そのこだわりがみなさんに喜んでいただける秘訣なのかもしれないなと感じています。『刺繍』ではどう我々の美意識が伝わるのかを楽しみにしています」

山像「役者さんがとにかく綺麗に美しく素敵に見えることを大切にしているので、いろんな俳優の方々も『西瓜糖に出たい』と言ってくださるのかな。
 それぞれの役者がそこで生きて、生活して、お客様が観ているうちにお芝居だということを忘れて、気がついたらお芝居を観ていたんだなとなるのが1番理想的です。だから、どうお客様を引き込めるかというのが毎回テーマ。知らないうちに終わっていたというのが、私も1番楽しい。
 そのうえで綺麗であることが大事で、すごく着物が出てくる芝居ではないけれど、立ち振る舞いの美しさなどは、着物に造詣の深いわかぎさんの演出だからこそ見せられるんじゃないかなと思っています。お客さんが思わず『綺麗……』とつぶやいて頂けるような場面が生まれれば……。品のある舞台を西瓜糖は目指したいですね」

(取材・文&撮影:河野桃子)
※本インタビューは2020年3月中旬に実施されました。

プロフィール

山像かおり(やまがた・かおり)
大阪府出身。筆名・秋之桜子。2017年に文学座を退団、フクダ&Co.所属。2004年に芝居ユニット「羽衣1011」、2012年に文学座の奥山美代子と演劇集団「西瓜糖」を旗揚げし、全公演の脚本&出演。脚本家としては中小の劇団やプロデュース公演の他、映画シナリオ・小説など幅広く活動。大正~昭和という時代を背景に人間の「欲求」を色濃く描き出す物語を創作。近年の作品は、PARCOプロデュース『桜文』。役者としても多くの舞台で活躍中。近年の参加は、T-works #3『愛する母、マリの肖像』(主演)、流山児★事務所公演『ヒme呼-ひみこ-』など。また、洋画・海外ドラマなどの吹き替えで、主演・メインキャストとして多数出演。G-up presents『猿』で第16回劇作家協会新人戯曲賞・優秀賞、劇団昴『暗いところで待ち合わせ』(脚色)でシアターグリーンBIG TREE THEATER賞受賞。日本劇作家協会所属。

奥山美代子(おくやま・みよこ)
北海道出身。文学座所属。山像かおりと共に「西瓜糖」を主催する。1989年、鵜山仁演出『グリークス』でデビュー。文学座作品に多数出演。セリフの切れ味と繊細で狂気を感じさせる演技、コメディなども得意とする演技の幅の広さで他劇団にも多数出演。『あうん』、『ドドンコ!ドドンコ!鬼が来た』、『ヴェニスの商人』、『マクベス』、『ハムレット』などのシェイクスピア作品で主演を務めている。西瓜糖公演は旗揚げから全作品に出演。2022年出演は、文学座全国公演『一銭陶貨』など。

中尾隆聖(なかお・りゅうせい)
東京都出身。3歳で児童劇団に入団。5歳で文化放送のラジオドラマ『フクちゃん』のキヨちゃん役でデビュー。声の出演に、『それいけ!アンパンマン』(ばいきんまん役)、『ドラゴンボール』シリーズ(フリーザ役)、NHK「おかあさんといっしょ」の人形劇『にこにこ、ぷん』(ぽろり・カジリアッチⅢ世)などがある。第25回日本映画批評家大賞“アニメ部門最優秀声優賞”、第11回声優アワード“富山敬賞”を受賞。1992年より関俊彦とともに劇団「ドラマティック・カンパニー」を主宰する。2019年5月には初の書籍「声優という生き方」(イースト新書Q)を刊行した。

三津谷 亮(みつや・りょう)
青森県出身。2007年俳優デビュー。主な出演作に、手塚治虫生誕90周年記念事業 PARCO PRODUCE 2019『奇子』、□字ック 第12回本公演『滅びの国』、ゴツプロ!第七回『十二人の怒れる男』、プリエールプロデュース『サンセットメン』、オフィスコットーネ『加担者』などの舞台のほか、NHK大河ドラマ『真田丸』やTBS『3人のパパ』、映像作品など幅広く活動。西瓜糖へは2018年第6回公演『レバア』に出演している。

公演情報

西瓜糖 第9回公演『刺繍』

日:2022年10月5日(水)~11日(火)
場:中野 ザ・ポケット
料:5,000円 ※当日は+200円(全席指定・税込)
HP:https://no-4.biz/suikato8/
問:西瓜糖 mail:info.suikato@gmail.com

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