ある問題が起きた時、それぞれに言い分があり、「みんな言ってることが違うなぁ」とか「誰の気持ちもわからなくないよなぁ」ということがある。ではそんな時、私達はどう対応すればいいのか。劇団MONO『悪いのは私じゃない』は、分断し対立する社会のスキ間を探す喜劇である。ゆるくて、どうしようもなくて、でも真面目で、切実で、優しくて、憎めない素敵な人達。観ていてなぜだか好きになってしまう。そんな人々が集まるMONOの芝居が、北九州・岡山・東京・大阪をめぐる。
喜劇をとおして、ハラスメントへの答えを探してみたかった
──どういうきっかけで生まれた作品なんでしょう?
「最初は『12人の怒れる男』みたいなものを書こうと思っていて、ある会社で辞めた社員から『社内イジメ』があったと内容証明が送られてきて調べなきゃいけない……という始まりです。きっかけとなったのは、僕はここ数年ハラスメント対策について関わっていて、そのなかで“どうしたらいいのかな?”と思っている答えを演劇の中で見つけたいなと思ったことです。今は価値観の変わり目にあって、絶対にアップデートしていかないといけない。MONOのメンバーはもともと穏やかなのでお互いに気をつけあっていますし、もちろん僕自身も気をつけています。
ただ難しいのは、たとえばワイドショーで、なにかの理事会で末端の人が異議を唱えると、理事長が悪の権化のように報道されることがあるでしょう。視聴者は告発した側の人に感情移入していく。ハラスメントについても被害者の側に感情移入されがちです。でも、事情を聞いてみると加害者の側に理解を感じることもあるんですよね。けれどもハラスメントは絶対に良くない。……そういう状況を書きたいなと思ったんです。タイトルの『悪いのは私じゃない』とは、行為自体は悪くても、それぞれに言い分があってそれぞれに欠点がある、というところからきています」
──お互いの主張がかみ合わない時ってありますよね。
「そうなんですよね。世代が違えば方法も違う。『あの時は良かった』なんて言葉を聞くこともありますが、現代では他の方法があるかもしれない。過去の時代を生きた人の状況も汲みつつ、ダメなことはダメだということにしたい。
あと、『それパワハラですよ』と言われた時に『そうか、ごめん。気をつける』と言えるかどうかは重要だと思うんです。でもほとんどの人が最初に『これはパワハラじゃない』って言うんです。そうなると相手も『いや、パワハラじゃないですか。だって……』と反論して、『いやでも、あれは……』と折り合いがつかなくなる。最初に認めて謝れば、被害者とされる人も『それでいいです』と言って終わるかもしれないのに。人間関係の解決策で『yes but法』というものがあって、最初はYesから始めて『そうですね。ただ、僕はこう思いますよ』と言うと相手も受け入れやすいけど、『それは違うよ』から口にするとケンカになるという」
──『イエスバット(yes,but)法』は演劇のワークショップなどでも使われますよね。
「そうそう。揉めた時に謝りあえたらいいんですけどね。まず『Yes』『ごめん』と言うことを、自分のためではなく相手のためにできたら……と考えて、それが芝居でできないかなと思って今作を書いています」
──コミュニケーションの仕方によってこじれることってありますよね……
「コミュニケーションって大きいですね。人はやっぱり自分を正当化するものなので、自分が権力を持った時に、いかに下の言うことに耳を傾けるかということは、僕の年齢的にもすごくビビットな問題です。ただ、途中はわりとくだらない喜劇になってますけどね(笑)」
劇団員9人が仲良く芝居にとりくめるために
──ハラスメントへの切実さを感じますが、MONOはいつも仲が良さそうですよね。
「劇団30周年(2019年)の時に『劇団を長く続ける秘訣は?』というのをたくさん聞かれたんですけど、僕にもよくわからない。ただ『トラブルは小さいうちに対応するようにはしています』とはよく答えていました。悩ませてしまっているなとか遠慮しあってるなと感じた時に、LINEと電話をして『どう思う?』と話をし、お互いにちょっと謝ったりすると、次の日は気持ちよく稽古できる。すこしでも気になったらその場でなるべく解決するようにはしてます。勝手に想像して嫌な気分になると良くないなと」
──やはりコミュニケーションが大事なんですね。
「そうですね。僕は演出家であり作家でもあるので立場上は権力を持ちやすいんですが、演出家兼作家の言動がパワハラになりがちな理由って、権力があるだけでなく、劇団員たちvs演出家1人になるからなんですよ。
というのも、俳優はそれぞれ自分の役で台本を読むから自分の役の矛盾にはすぐ気付くんですが、作者は“このシーンを盛り上げよう”と思うと『みんなで騒ぐ』とか書いてしまう。そうすると『この流れでは騒げないんですけど』という役者が出てくるんですよね。騒いでもお客さんはそんなに矛盾を感じなかったとしても、役者は感じるんですよ。気持ちはよくわかります。
ただ、その意見が俳優の人数分やってくるので、さすがに僕のキャパシティがいっぱいになってくる。ここで『いいから騒げ!』と言わずに、『なるほどね。どうしたら騒げるかな?』とか『ここで一言“え?”っていう反応を入れたら騒げますか?』ということを全員分やらなければいけないので、単純に疲れます。それでも今回は芝居の内容がハラスメントに関連しているので、いつも以上に苛立ちを見せないように気をつけてますね。『うんうん!うんうん!』って笑顔で聞く。やっぱり、自分の行動と書いていることを一致させようとしますから。それは良いことだと思っています」
──若手の劇団員が増えて3年ほど経ちましたが、団体内での関係に変化は?
「劇団員9人がわりと混ざってきました。稽古場での役者達の座り位置も自然とバラバラです。だから、たしかに今回の芝居は特定の集団でのハラスメントを描いてはいますが、MONOとはまったく違いますね。長年のお客様はよくわかってくださっていて、いつもアンケートに『仲が良さそうでよかった』とコメントくださいます。だからこそ、今回のようなテーマに喜劇として取り組めるのかなぁと思っています」
(取材・文:河野桃子)
プロフィール
土田英生(つちだ・ひでお)
1967年3月26日生まれ。愛知県出身。劇作家・演出家・俳優/劇団MONO代表。立命館大学在学中に演劇の世界に足を踏み入れ、89年、MONOの前身となるB級プラクティスを結成。作・演出の多くを手がける。
99年、『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞を受賞。01年、文学座に書き下ろした『崩れた石垣、のぼる鮭たち』により第56回芸術祭賞演劇部門にて優秀賞を受賞。03年には文化庁の新進芸術家留学制度で1年間ロンドンに留学した。
劇作と並行してテレビドラマ『斉藤さん』、『崖っぷちホテル!』、『映画『約三十の嘘』などの脚本も多数手がけている。2020年は初監督映画『それぞれ、たまゆら』が劇場公開した。
公演情報
MONO 第49回公演
『悪いのは私じゃない』
日・場:
2022年3月11日 (金) ~20日 (日)
吉祥寺シアター
2022年3月23日 (水) ~27日 (日)
ABCホール
※他、岡山(3/5・6)公演あり
料:一般【東京】4,200円【大阪】4,000円
25歳以下【共通】2,000円※前売のみ/対象25歳以下/入場時証明書を確認します
(全席指定・税込)
HP:https://c-mono.com/