
俳優・山崎一が2018年に旗揚げした演劇集団、劇壇ガルバ。第7回となる公演『The Weir〜堰〜』が2026年2月5日(木)からザ・スズナリで上演される。本作は、アイルランドの劇作家 コナー・マクファーソンによる傑作戯曲で、パブに偶然集まった人々が自分のお話を語る「ものがたり」を通して描かれた上質な会話劇。山崎と伊勢佳世に本作への思いを聞いた。
―――2025年、偶然にも本作はロンドンで劇作家、自らの演出で再演され、高い評価を受けたそうですね。この戯曲を上演するに至った経緯や思いを山崎さんから聞かせてください。
山崎「今回、僕のテーマとして『ものがたり』、つまり『かたる』というものをやってみたいという思いがありました。『ものをかたる』ということは、演劇や芝居においても基本中の基本なのですが、もう一度、立ち返ってそれを見つめたい。『人の話を語る』でも『自分のことを語る』でも、『かたる』ということは、自分を見つける行為に繋がり、他者と繋がる行為でもあると思うんですよ。分断の時代と言われている昨今で、繋がることを意識して作品作りをしたいというのが発端でした。
そうした中、なぜアイルランドの作品で、なぜ『The Weir』なのかというと、アイルランドの演劇にものすごく興味があったからです。僕が最初に翻訳劇の芝居をしたのは、マーティン・マクドナーの『ピローマン』です。そこから翻訳劇に目覚めて、さまざまな作品に出演しましたが、やっぱりアイルランドの作家は面白い。昨年、小川絵梨子さんが演出された『ピローマン』も観ましたが、『物語を語る』ということの奥深さを感じました。そうしたこともあり、ぜひアイルランドの作家の作品を上演できないだろうかと。
『ピローマン』のほかにも、アイルランドの作品では、コナー・マクファーソンの『海をゆく者』やフランク・マクギネスの『私を見守ってくれる人』などもありますが、それぞれ方向性は違ってもどの作品も面白いんですよ。なので、『かたる』ということにおいて、アイルランドの戯曲に惹かれて、そうしていろいろと調べていくうちに、この作品にたどりついたというのが今回の経緯になります」

―――アイルランドの作品は、どの作品も「かたる作品」という印象があるのですね。
山崎「おとぎ話的な物語が多いように思います。それは土地柄のためなのか分かりませんが、この『The Weir』にも出てきます。それから、とにかく(登場人物たちが)よく話す。以前、翻訳家の方に『なんであんなに話をするんですか?』と聞いたら、『おしゃべりなんです』とおっしゃっていましたが(笑)、そうした国民性があるのかもしれません。でも、語り合うという視点から見るとそれが面白い。それで、アイルランドの戯曲に興味を持ったというところがあります」
―――伊勢さんは最初にこのお話を聞いてどのように感じましたか?
伊勢「一さんとは『父と暮せば』でご一緒させていただいて、すごく尊敬していますし、そこで築いた絆がありますので、またご一緒できるということがとても嬉しかったです。
台本を読ませていただいたのですが、結局、何も起こらないんですよ(笑)。なので、これをどのように舞台に立ち上げて面白くするのだろうと正直、不安もありました。ただ、一さんが出演されていらっしゃる舞台を観に行くと、どの作品でも面白くしようというエネルギーをすごく感じます。その一さんがこの作品を選んでみんなでやりたいと思っていらっしゃるっていうことは、きっとただの読み物のような舞台ではなく、そこにアイデアやユーモアを乗せて作っていけるのではないかと。難しいことかもしれませんが、一さんの存在があるからやってみようと思えました」

―――山崎さんは今回、伊勢さんに声を掛けたのはどのような思いからだったのですか?
山崎「『父と暮せば』を経て、今でもやっぱり娘なんですよ。女優としても好きだし、女性としても人間としても好きなんです。そういう彼女にぜひこの作品に出て参加してもらいたいんと思ってお話ししました」
伊勢「『父と暮せば』のときは家族という関係性の役柄だったので、今回はまたちょっと違います。なので、ちょっと照れますよね(笑)。きっと稽古が始まったら馴染むのだと思うので、それもまた楽しみです。皆さんで本読みをしたときにすごくいいメンバーだなと思って」
山崎「今回、この人の語りを聞きたいなと思う人に出演をお願いしているんです」
―――先ほど伊勢さんが「何も起こらない」とおっしゃっていましたが、この作品の物語としての魅力はどんなところにあると考えていますか?
山崎「物語の部分に長ゼリフがあるのですが、ただセリフををなぞるのではなく、自分の中から出てきたお話、物語を『語り』にできたらいいなと。それは同時にお客さんとの共有時間にもなると思います。そうした作品になったら素敵だと今は考えています」
伊勢「一さんがおっしゃったように、それぞれ長いセリフがすごく多いんですよ。以前、(演出家の)鵜山(仁)さんが『長いセリフは、その人に「言いたい」というエネルギーがないと言えない。長く話したいとか、聞いてほしいという思いが強くないと、人間はなかなか話せない』とおっしゃっていて、確かに動機付けをきちんとしないと、ただセリフを言っているだけになってしまうなと思ったことを覚えています。
今回、4人が長いセリフを話すのですが、きっとその4人は何かしら聞いてもらいたいという思いがあったり、生きる上でのもどかしさを抱えていたり、満足していないことがあるのだと思います。でもそれは、今の私たちでも同じです。抱えているものの重さがここにいる4人とは少し違うというだけで、どれだけ明るい話をしていても実は心の中ではいろいろと思っていたりもする。そうしたことを読みながら考えました。
ただ、きっとお客さんが入ったら、また作品の印象が変わると思います。私がこれまで出演した舞台の中でも、一番、お客さんと一緒の空間が大事になるのではないかなと思っています」
山崎「一人ひとりが違う話をしているのに、それが最後に繋がるんですよ。最初の人は土地に伝わる妖精の話をして、次の人、またその次の人も、それを受けて違う話を語り始めます。それらを聞いていた伊勢さん演じるヴァルリーも、自分が実際に体験した不思議な話をするんです。つまり『語り』が繋がることで、心の深い部分まで見えてくる。つまり、繋がっているんです。それがすごく面白いなと思って」

伊勢「日常でもそういうことってありますよね。人とご飯を食べていて、言おうと思ってもいなかったことを話したくなってしまうというような」
山崎「それが人との繋がりであり、大切なことだなと思います」
伊勢「それから、妖精などの不思議で、スピリチュアルなお話が出てくるので、アイルランドはそうしたものが好きな国なのかなと。そうした不思議な話がこの作品に全体に漂っていて、それがアイルランドを感じさせます」
―――なるほど。お話をお伺いしていると、お客さんと一緒にテーブルを囲んで、みんなが会話に参加しているような作品になるのかなと。
山﨑「そうなれたらいいですね。劇場全体が飲み屋にいるような空気になればと」
―――そうすると、それぞれの役柄については、今はまだどういうキャラクターでどう演じたいということではないのでしょうか。
山﨑「もちろん突き詰めればあるんですが、今はまだ決めないでおきたいという思いがあります。きっと稽古を重ねるうちに、こうだなというのが出てくるでしょうし、周りの人がどう演じるのかによって変わってくると思います」
―――(取材当時)本読みをすでに2回、行っているということですが、少し掴めたものはありましたか?
伊勢「まだ掴めてはいないですが、素敵なメンバーが揃っているなと思いました。アイデアをテーブルに挙げやすいですし、気を遣わなくていいのが助かります」

山崎「そう、みんなどんどん意見を言ってくれるので、風通しはいいですよね。それが稽古場では一番かなという気がします」
―――先ほど、山崎さんから「かたる」という行為は繋がることだというお話もありましたが、伊勢さんにとって「かたる」とは?
伊勢「想像することが大事だと思います。自分が何かを伝えるときも、言いたいことを想像しながら話すと思いますし、相手はその話を聞きながら想像しますよね。この舞台では、それが大切だと思うので、ただ話すだけにならないことを意識していきたいです。お客さんの想像力を刺激して、自分の想像力もフルに稼働させて、それが溢れてくるといい舞台になるんだろうなと。ただ、それが実際できるのかはまだ分からないです(笑)」
山崎「でも、そのどうなるか分からないというのがいいのかもしれないですよね。今、この時点で『こうなるんだ』というのが分かると、そこまでしかいけないから。先が見えないことで、ひょっとしたらものすごく良いものが生まれるかもしれない。だから今は曖昧な方が良いのかなという気はしていますね」
伊勢「そうですね。先が見えてしまうとハラハラドキドキもしないですからね」
―――ありがとうございました! 最後に改めて公演に向けた意気込みと読者へのメッセージをお願いします。
山崎「どういう形になるか分からないですが、とにかく『The Weir』というパブに足を運んで、一夜を過ごしていただければと切に望みます。頑張ります」
伊勢「年明けの寒い時期にスズナリという、神聖な場所に立てるということは私にとってすごく意味があることです。今はまだどうなるか分からないところも多いですし、決して派手な物語ではないですが、お客さまと一緒にいろいろな想像ができる空間になればいいなと思っています。私もこの舞台中、“ガルバの劇団員”として精一杯、頑張って作り上げたいと思います。寒い時期なので、暖かくして観にきてください」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

山崎 一(やまざき・はじめ)
1957年9月13日生まれ、神奈川県出身。早稲田小劇場を経て、小劇場を中心に活動。『シャンハイムーン』・『父と暮せば』にて第26回読売演劇大賞 優秀男優賞を、『十二人の怒れる男』・『23階の笑い』にて第28回読売演劇大賞 最優秀男優賞を受賞。近年の主な出演作品に、NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』牧宗親役、映画『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』熊井善太郎役など。2018年に劇壇ガルバを旗揚げ。宮沢章夫が主宰する劇団・遊園地再生事業団では旗揚げ公演の『遊園地再生』から、『ヒネミ』、『ヒネミの商人』、そして『砂の国の遠い声』と同劇団の創世記を共に歩んだ。

伊勢佳世(いせ・かよ)
1981年5月30日生まれ、神奈川県出身。大学在学中に劇団俳優座養成所に入所。2008年より前川知大主宰のイキウメに参加。以降退団までほぼすべての作品に出演。退団後も映像など様々な作品でも活躍中。近年の主な出演作に、舞台『ヴォイツェック』(25/小川絵梨子演出)、『Bug Parade/バグ・パレード』(25/小沢道成演出)、『La Mère 母』(24)・『Le Fils 息子』(21・24/共にラディスラス・ショラー演出)、『て』(24/岩井秀人演出)、『Q:A Night at the Kabuki』(19・22/野田秀樹演出)、『ダウト〜疑いについての寓話』(21/小川絵梨子演出)、『父と暮せば』(18・21/鵜山仁演出)、映画『じょっぱり―看護の人花田ミキ』、『回廊とデコイ』、ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』(KTV)、『TRUE COLORS』(NHK-BSP)、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)、『心霊内科医 稲生知性』シリーズ(CX)、CM『サントリー 金麦』シリーズなど。
公演情報

劇壇ガルバ 第7回公演『The Weir ~堰~』
日:2026年2月5日(木)~15日(日)
場:下北沢 ザ・スズナリ
料:一般6,300円 前半割[2/5~8]6,000円
※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://gekidangalba.studio.site
問:劇壇ガルバ
mail:gekidangalba2018@gmail.com
