京都の人気劇団、初めての2役もので恒例の全国ツアー 明治のデマが、令和で何を起こすのか? 時代をとりまく不安を明るく笑う会話劇

 ユーモア満載の会話から、現代社会に潜む様々な危うさを浮き彫りにしていく、劇作家・演出家の土田英生が主宰する京都の劇団 MONO。毎年冬の終わり頃に行われるツアー公演の季節が、今年もめぐってきた。2年ぶりにフルメンバーが出演する新作は、タイトル通り流言蜚語(デマゴギー)がテーマ。デマが生まれる過程と、それに翻弄される人々の姿を、2つの時代に分けて見せるコメディだ。


「陰謀論がSNSを席巻して、知性より感情で人が動く傾向がどんどん悪化しているのを感じたのが、執筆のきっかけです。僕の身近にいるリベラルな人すら、YouTubeで流れる陰謀論に蝕まれかけたりして、このままだと本当に世界がひっくり返るんじゃないか?と。この芝居を作ることで、人の気持ちを変えようというつもりはないけれど、僕が今持っている恐怖心に、共感してくれる人がいればいいなあ……と思いました」

 舞台となるのは、幕末頃に建てられた民家。昔の人たちが軽い気持ちで作ったデマが、現代の人々に思わぬ影響を与えるさまを、明治・令和の両方の時代を行き交いながら見せていく。

「明治の人たちが、庭にあるただの石を、ある理由から『神様の石』と言うようになります。それが現代で『神の石だから触るな』と、信じかけてる人たちがいるという状況です。俳優たちは、明治編と現代編で2役を演じます。現代の人たちは全員明治の(キャラの)子孫で、過去の因縁が絡んだ笑いもありますね。明治編はベタな物語だけど、現代編は少しクールなので、その違いも楽しんでいただけたら」

 土田作品は、時間もあまり飛ばない一幕ものが基本だが、MONOの前回公演『御菓子司 亀屋権太楼』では、抽象的な美術を用いて次々にシーンを変えながら、10年のスパンの物語を描いてみせた。その好評を受けて、今回は「同じ場所を舞台にして、違う時代の人物を演じ分ける」という新たな趣向に挑む。

「若い時は他人の評価を気にしたけれど、今は自分の中から『このままでいいのか?』という疑問が湧くようになっています。それで昨年辺りから、自分の芝居を見つめ直して、ここからまた新しい発見や、脱皮をすることができたら……と考えるようになりました。だから今はすごく悩んでるし、自信がなくなっているんですけど、その自信のなさが心地良いんです。このまま新しいものを探し続けた結果、急にミュージカル劇団になるかもしれませんが(笑)、誰になんと言われても『これ、面白いだろ!』って言えるものを作りたいという気持ちは、ずっと変わらないと思います」

 ちなみに土田自身は、デマに惑わされないよう日頃から心がけているが、たまに思わぬ引っかかり方をすることがあるそうだ。

「科学的根拠がない迷信やデマは信じないんですが、科学に説得されてしまった途端にコロッとだまされるということが、結構あるんです。柔道で力を入れすぎると、逆に技をかけられやすいのと同じ。最近だと『アーモンドは健康に良い』という説を信じて、毎日大量に食べていたら高血圧症になってしまって、お医者さんにめちゃくちゃ怒られました(笑)」

 大いに笑った後には、ちょっとした教訓や共感が残る。演出や演技がアップデートされたとしても、このMONOの最大の特長はきっと変わらないだろう。

「登場人物たちが明らかなデマを信じていく姿を『それ、デマだから!』と笑ってもらうことが、今回の芝居の目的。デマを作ったり信じたりする人たちを面白がりつつ、劇場を出たあとで『こういうこと、意外と周りにあるな』と顧みる機会になっていただけたらと思います」

(取材・文&撮影:吉永美和子)

プロフィール

土田英生(つちだ・ひでお)
立命館大学の演劇サークルに所属していた土田英生、水沼健らによって、1989年に結成(当時の劇団名はB級プラクティス)。同年『狂い咲きシネマ』で旗揚げし、以後土田が全公演の作・演出を担当。ユーモアにあふれながらも、「集団」にまつわる諸問題を鋭く描いたコメディで注目される。1998年上演の『その鉄塔に男たちはいるという』で、土田が「第6回OMS戯曲賞」大賞を受賞。1996年上演の『約三十の嘘』が2004年に映画化された。

公演情報

MONO 第52回公演『デマゴギージャズ』

【東京公演】
日:2025年2月28日(金)~3月9日(日)
場:吉祥寺シアター
料:一般4,800円 平日夜割[2/28、3/3・5・6 19:00]4,500円 35歳以下3,000円
  25歳以下2,000円 ※35歳以下・25歳以下は要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://c-mono.com
問:サンライズプロモーション東京 tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)

【大阪公演】
日:2025年2月14日(金)~17日(月)
場:ABCホール
料:一般4,300円 初日割引[2/14]4,000円 35歳以下3,000円
  25歳以下2,000円 ※35歳以下・25歳以下は要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://c-mono.com
問:キューカンバー tel.075-525-2195


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