「能楽堂に着いてから、帰るまでずっと楽しい」そんな公演を目指して 2つの流儀による、能を代表する2作品を1日で楽しむ

「能を初めて観る人へ」をコンセプトに掲げ、幅広い層へ能楽鑑賞の間口を広げている『ひとつのはな』シリーズ。その第19回と第20回公演が12月26日に開催される。能の名作2曲を一度に観ることができるだけでなく、『羽衣 盤渉』を宝生流シテ方・小倉健太郎が、『黒塚 白頭』を喜多流シテ方・佐々木多門が勤めるという立合共演が見どころだ。

小倉「『羽衣』は能の中でもよく知られた演目ですが、今回は『盤渉(ばんしき)』という特別演出で上演します。通常よりも囃子(音楽)の調子が少し上がり、軽やかさとともに、やわらかく華やかな印象になります。それによって舞も変わります」

佐々木「『黒塚』は安達ヶ原の鬼が出てくる演目で、最後は独特の寂寥感を感じさせる作品です。こちらも『白頭(はくとう)』という演出になりますので、般若の面に白頭(白髪)で登場します。通常の赤頭(赤髪)の場合は鬼の“怒り”を表現していますが、白頭では“悲しみ”をより強く描き出します」

『羽衣』の“天女”と『黒塚』の“鬼”。能の世界を象徴するような2作品を同時に鑑賞でき、しかも異なる流儀の能楽師が同じ舞台に立つのを観る機会はとても珍しい。それについてGlobal能楽社代表・清水美穂子はこう説明する。

清水「1日で2流を観ることができる公演は少ないのですが、『ひとつのはな』シリーズでは3回目。喜多流にご出演いただくのは初めてです」

さらに本公演では、日英対応の音声ガイドで能楽師が同時解説したり、宝生能楽堂の広いロビーを利用して飲食ブースを出したりするなど、他の能公演にはない仕掛けが用意されている。

清水「本物の能楽をご覧いただくという軸はもちろんズラさず、その間口を広げるために、能楽堂に“着いてから帰るまで”楽しんでいただける企画を考えています。アメリカンフットボールのハーフタイムショーのイメージです」

小倉「色々な仕掛けを楽しんでもらい、幅広い方々に観ていただきたいと思いますが、だからといってわかりやすくやるつもりはありません。能役者としてやるべきことは決まっていますから、それをしっかりやるだけです」

佐々木「同感です。他流の同世代が同じ舞台に出ているのは刺激を受けますし、我々の流儀の能をしっかり見せたい。“立合い”に臨むような感じもしています」 

ただ演じるだけでなく、能役者としてのプライドを見せつける舞台。年の瀬にそんな舞台に“立ち会って”みるのはいかがだろうか。

(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

小倉健太郎(おぐら・けんたろう)
千葉県出身。宝生流シテ方能楽師。小倉敏克の長男として生まれ、1976年に入門。18代宗家 宝生英雄、19代宗家 宝生英照に師事。初舞台は1977年、『国栖』子方。初シテは1997年、『箙』。

佐々木多門(ささき・たもん)
岩手県出身。喜多流シテ方職分。佐々木宗生の長男。喜多宗家内弟子を経て、現在は塩津哲生に師事。2021年、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の能楽監修を担当。

清水美穂子(しみず・みほこ)
東京都出身。元能楽協会事務局長。2016年、Global能楽社を設立。初心者も愛好者も、皆が楽しめる公演『ひとつのはな』を展開する。また、ドラマ『SHOGUN』の能楽シーンのプロデュースをし、広く柔軟に能の普及に尽力している。

公演情報

ひとつのはな #19 宝生流『羽衣 盤渉』 / #20 喜多流『黒塚 白頭』

日:2024年12月26日(木)12:30/15:00開演 場:宝生能楽堂
料:【通し券】SS席13,200円 S席11,000円  A席8,800円 B席6,600円
【入替席】正面普及席5,500円 脇正面普及席3,900円(全席指定・税込)
HP:https://nohgaku-experience.com/aflower/
問:株式会社Global能楽社 mail:aflower-info@nohgaku-experience.com

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