2012年旗揚げ、「5454」と書いて「ランドリー」と読む「劇団5454」の最新公演『ねもはも』が、11月22日より札幌で幕を開け、12月4日から東京公演も行われる。青空の下になびいている真っ白いTシャツのように、日常の汚れた気分を“ゴシゴシ(5454)と洗い流したい”、というのが名前の由来となっている同劇団。今作では文字通り“ねもはも”ない噂を巡って錯綜する人間模様が描かれる。
脚本・演出を務める劇団主宰の春陽漁介、劇団員の高品雄基、客演として出演する神田莉緒香・榊原美鳳に、改めて「5454」作品の魅力と今作の見どころを聞いた。
―――今作は東京公演の前に札幌公演から始まり、弦巻楽団「秋の大文化祭!2024」に参加されるのですよね。
春陽「そうなんです。劇団創設から12年目になり、今までよりもいっそういろいろなところに顔を出していこうという中で、昨年も弦巻楽団の『秋の大文化祭!2023』に参加させていただいたのですが、今年もこうして参加させていただくことになりました。昨年大賞をいただいた『TGR札幌劇場祭』にもエントリーしています」
―――今作『ねもはも』のイントロダクションを拝見しました。“小学生になる子どもがいる”と噂される旧友に会いに行ったら、子供どころか、妻も、恋人もいなかった……という、なんだか不思議なストーリーですね。
春陽「イントロダクションはアイデアスケッチのようなものなので、文のままのストーリーにはならないかとは思いますが、まさに“ねもはも”ない噂がもとになって生まれた、実態のない存在が一人歩きするという……ファンタジー寄りのSF作品を作りたいなと思ったんです。
人の噂によって自分の印象が変えられてしまったり、はたまた自分が他人に実際とは全く異なる印象を持ってしまったり……ということは日常的にあると思うんですけど、それをもう少しデフォルメして、“人の噂によって自分とは別の自分が出来上がってしまう”様子を描けたらなと」
高品「劇団員の僕が言うのもなんなのですが、5454の作品はどの作品も僕たちにとって身近なテーマを描いていて、観た後にそのテーマについて、いろいろなことを考えるきっかけを与えてくれるんですよね。今回だと“噂”がテーマになっていて、観終わった後に、今まで意識していなかった他人との会話や、世間に溢れているニュースについて、今まで以上に敏感になれると思うんです。作品を観ていただいた方の価値観や視野が広がったらいいですね」
―――“ねもはも”ない噂、というと、SNSが1番に思い浮かびました。
春陽「昨今だとそうですよね。ただ今作ではどちらかというと、人から人に話が伝わる時に、どんな風に話に尾ひれがついていくかの過程や、人の記憶の曖昧さ、危うさの方にもフォーカスが当たっています」
―――曖昧な記憶で、悪気なく、事実とは違うことを広めてしまったり……?
春陽「そうです。話しているうちに自分の記憶すら改ざんしてしまうこともあると思うんです。“自分の記憶とは違うけれど、みんなが言うならそうだったかな”と人のイメージが多数決で決まってしまうこともありますし……。あとは、こうやって取材を受けている時も盛り上げようとしてちょっと話を盛っちゃうこともありますしね(笑)」
―――神田さんは今作で5454への出演は3作目とのことですが、改めてこの劇団5454の魅力は何だと思いますか?
神田「自分の心に寄り添ってくれる、自分の心の隣人のような劇団であることです。日常の延長線上を描くこともあれば、近未来SFや、少し怖い物語を描くこともありますが、どれも舞台上にいる知らない人の物語ではなくて、“自分にも通ずる物語を観させてもらったな”と思えるんです。まさに心の洗濯をしてもらっているというか……。
劇団員の皆さんも、こんなにいい人達が集まっている劇団があるんだなって思うくらい、接していると心が晴れやかになる皆さんで、大好きです」
―――榊原さんは今回初めて5454の作品に出演されると伺いましたが、きっかけは?
榊原「前回のワークショップオーディションを受けたことです。大学生の時に初めて5454の作品を観たのですが……」
春陽「何年前?」
榊原「もう10年くらい前です。『ト音』の初演でした(※第2回公演)」
高品「わ! 僕も初めて観た作品がそれだ!」
榊原「それ以降も何作品か観ていて、ずっと出演したいと思っていたので……念願が叶います」
春陽「10年前にもワークショップかオーディションに来てくれてたよね。高品も最近劇団員になってくれたばかりですが、2人ともそんなに昔から5454を知ってくれていて、本当に嬉しいです」
―――そんな榊原さんから見た5454の魅力は?
榊原「フィクションではあるけれど、めちゃくちゃ突飛な人が出てこないところでしょうか。“身の回りにいるなぁ、こういう人……!”と思えるような登場人物たちが出てくるところが好きです。だからこそ自分の価値観が広がったり、発見があったりするんだと思うんです。押し付けられている感覚はないのに、いろいろなことを学べる、そんな舞台を作るところが魅力です」
―――今作で皆さんが演じるのは、どんな人物でしょうか?
春陽「実は決まった役があまりなくて……主演の高品が演じるのが“噂をされる人”、他のキャストが演じるのが“噂をする人”という構造になっていて、高品以外は色々な役どころを演じる形をとっています。高品は噂に翻弄される役というか……人々が自分に向ける印象の違いに脅かされる役ですかね。
ただ、ふと自分たちの日常を振り返ってみると、仲間同士でいる自分、家族といる自分、友達や恋人といる自分……などで、些細かもしれないけど自ら違う顔を見せているんじゃないかな、とも感じていて」
榊原「結果、多面的というか……」
春陽「そうそう。一貫している人間は本当はいないんじゃないかって」
―――高品さんご自身は、一緒にいる人によって見せる顔が変わる自覚はありますか?
高品「あんまり変わらない方だとは思っているんですけど……どうなんだろう。今よりもっと若い頃は明確に変わっていたかもしれませんが」
春陽「高品って僕らから見たら弟っぽくてかわいいなって思うんですけど、後輩にめちゃくちゃ慕われるんですよ。高品一派とか、高品軍団って呼んでるんですけど(笑)」
高品「何ですかそれ(笑)」
春陽「その子たちに聞くと『高品兄さんには引っ張ってもらっています!』、『この前、怒られちゃいました』なんて言ってるので、いい先輩やってるじゃん!って。
僕らはそういう部分をあまり見ないので、後輩と一緒にいる時に見せる違う顔があるんだろうな、って思いますよ」
―――神田さん、榊原さんはどうですか?
榊原「僕は30歳になりましたが、20代のころは長い物には巻かれるタイプで、人によって態度が違ったかもしれないです(笑)。大人になるにつれ、誰の前でも飾らなくなりました。そういう薄っぺらさって、結局バレるなって思うようになったんですよね。素直でいるのが1番いいなと思って」
春陽「昔、ワークショップに来てくれた時は、(榊原さんのことを)上手いんだけど人に合わせちゃう子だなって思っていたんだよね。でも、前回のワークショップオーディションにまた来てくれた時、ニュートラルに、楽しそうに芝居をしていて、凄く魅力的になっていて!」
榊原「嬉しいです、ありがとうございます! 昔は尖っていたんですよ……特にワークショップオーディションなんて、周りはみんな敵だと思っていました(笑)。今は一緒にいる人たちと、いい演劇を作ろう!っていう気持ちで受けられるようになったので。演劇って1人じゃできないですからね」
春陽「今が素で、昔はきっと気を張っていたんだよね」
榊原「本当にその通りです……」
春陽「莉緒香ちゃんはアーティストだから、逆に尖っているくらいじゃないとやっていられないのでは?」
神田「私は場面場面でいろいろな自分を使い分けていますね。友達の中ですら、知り合って3年の友達と10年の友達だと、見せられる範囲が変わりますし」
春陽「それ、(見せていい部分を)間違えちゃったりしないの?」
神田「結構、気を張っています!(笑)」
―――正直なところ、ファンの人に見せる顔は、素の神田さんとは少し違いますか?
神田「これがまた細かい分類があるんです。まずライブで見せる顔があって、配信をやる時に見せる顔があって、さらにその配信の中でも、YouTubeで配信する時とツイキャスで配信する時で、見せる顔を使い分けていたりして……」
春陽「僕らもライブを見に行かせていただいたことがあるんだけど、印象が全然違うんだよね。ぶっちゃけ、どこが1番莉緒香ちゃんの素を見られる場なの?」
神田「どれも素ではあるんですよ! でも……そうですね、ツイキャスは深夜にだらだらと電話しているような感覚で配信しているので、かなり素に近いかもしれないです。本当にコアなファンの人だけが聞いてくれているっていう安心感があるので」
春陽「なるほど、安心感……。こういう話を聞くと思うけど、誰かの期待に応えようと思えば思うほど、素の自分から遠ざかっている感覚ってあるよね」
高品「確かに……」
春陽「このなんともいえない感覚を、今作を通じてぜひ舞台上から伝えられたらいいなと思います」
―――ありがとうございます。それでは最後に、観に来てくださるお客様にメッセージをお願いします!
榊原「自分が初めて5454の作品を見たときのような体験を届けられたら素敵だな、嬉しいなと思います。ご覧いただければ、何かしら気付きや発見があると思いますし、そんな公演になるように僕も頑張ります。
北海道でも公演できるということで、今まで5454を観たことがない人にもこの劇団の素晴らしさが届くというのも楽しみです。お待ちしています!」
神田「自分の聞いた噂は、一体誰のことを指しているのか……面白さとちょっとした怖さを肌で感じてもらえたら嬉しいです。それぞれの目線で、噂の正体を発見してください!」
高品「5454を観に来てくださるお客様には、笑ってもらいたい、楽しんでもらいたいというのがまず第一にあります。噂という実態をつかめないものを題材にしますが、僕らが必死につかんだ噂というもののカタチを、お客様に届けられるように頑張りたいと思います」
春陽「同世代の俳優たちで構成されたカンパニーで、いい意味で学生っぽく、楽しく作れそうだなと思っています。『日常生活の中での気付きが増えた!』と思っていただける作品にしたいです。制作チームが頑張ってくれたおかげで、今作は文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業)に採択され、18歳以下の方は無料で観られる公演もあります。
劇団5454は小劇場好きの方は勿論、まだ演劇に触れたことがない方にも楽しんでいただける場所になるように、という志を大事にしているので、こういう施策ができることをとても嬉しく思います。この機会にぜひ、沢山の方に5454の作品と出会っていただけたら幸いです」
(取材・文&撮影:通崎千穂(SrotaStage))
プロフィール
高品雄基(たかしな・ゆうき)
1990年2月20日生まれ、千葉県出身。2011年より活動開始。数々の演劇・映像作品に参加。2024年劇団5454のメンバーとなる。相手とのコミュニケーションを大切にし、常に会話を楽しむ。主な出演作に、NHK Eテレ「ボキャブライダー on TV」、WOWOW 連続ドラマW-30『ドラフトキング』、映画『有り、触れた、未来』など。
神田莉緒香(かんだ・りおか)
1992年3月26日生まれ、千葉県出身。シンガーソングライター・ラジオパーソナリティ。ストレートで等身大な歌詞は世代を超えた人たちから熱い支持を受けている。直近では、自身のレギュラーラジオ「KANDAFUL RADIO」の楽曲制作企画で生まれた「sunday night bubble」をデジタル配信リリース中。
榊原美鳳(さかきばら・よしたか)
1994年6月3日生まれ、東京都出身。2013年に舞台デビューし、その後、数々の舞台や映像作品に参加。2016年には、演劇ユニット「ハダカハレンチ」を旗揚げする。主な参加作品として、舞台『オッドタクシー 金剛石(ダイヤモンド)は傷つかない』、映画『恋のいばら』、ドラマ『メンタル強め美女白川さん』、CMかんでん暮らしモール「かんでん保険ブルー」篇などがある。
春陽漁介(しゅんよう・りょうすけ)
1987年6月2日生まれ。脚本家・演出家。2012年に劇団5454(ランドリー)を旗揚げ。イキウメ・前川知大氏に師事して脚本を学び、劇団5454 第2回公演『ト音』が劇作家新人戯曲賞の最終選考に残る。多数の商業演劇のほか、沖縄国際映画祭出品作品である映画『じしょう米子』の脚本、Every Little Thingの20周年アルバム豪華版にて、持田香織の歌詞を物語にする「リリックストーリーブック」を執筆するなど、舞台に限らず活動中。
公演情報
劇団5454 2024年本公演『ねもはも』
日:2024年12月4日(水)〜8日(日)
※他、札幌公演あり
場:赤坂RED/THEATER
料:【劇場】
前売・車椅子席5,000円
当日5,500円 ※12/4は各500円引
(全席指定・税込)
【配信】3,000円 ※Confetti Streaming Theaterにて12/4より配信(税込)
HP:https://5454.tokyo
問:劇団5454 mail:nemohamo2024@5454.tokyo