バレエを愛し、平和を愛した。愛に満ちたオマージュを踊る 牧阿佐美バレヱ団のオリジナル作、12年の時を経て全幕再演

 牧阿佐美バレヱ団が、この秋『時の彼方に ア ビアント』を再演する。芸術に深い造詣を示された高円宮憲仁親王殿下へのオマージュとして2006年に初演したオリジナル作品で、12年ぶりの全幕再演となる。今回、リヤムを清瀧千晴、カナヤを青山季可、冥界の女王を佐藤かんなが踊る。

清瀧「リヤムは殿下をオマージュしたキャラクター。殿下は自然を愛し、スポーツや芸術、そしてご家族を愛した、本当に愛に溢れる方。島田雅彦先生が“踊る英雄像”として肉付けして書かれたということですが、まさに真の英雄のイメージがあって。とても難しいけれど、心が滲み出るように表現できたらいいですね」

青山「カナヤは妃殿下がモデルになっています。上品で、凛としていて、つらいこととも向き合うことができるしなやかな女性。そんなキャラクター像をイメージしています」

佐藤「冥界の女王は死の世界の女王様。死の世界を支配しつつ、一方でリヤムとカナヤが会うチャンスを与えるなど、優しさも持っている。女王の威厳と美しさをどう表現できるかが課題です」

 作家・島田雅彦の台本、作曲家・三枝成彰の音楽のもと、美しく壮大な物語が描き出される。

青山「とても綺麗で詩的な物語ですが、それをバレエで表現するとなると難しい。絵画のように流れつつ、起承転結を伝えられるよう踊れたらと……」

清瀧「時空を超える、というのも1つのテーマ。楽器もシンセサイザーと胡弓が使われていて、音楽も独特の世界観に寄り添っているのを感じます」

佐藤「冥界の女王のテーマ曲がとてもかっこいいので、曲に負けないよう頑張りたいと思います(笑)」

 振付は牧阿佐美、ドミニク・ウォルシュ、三谷恭三の共作で、亡き師とのこんな想い出も。

青山「前回、私とかんなちゃんが出会う場面を3日がかりで練習したことがあったよね」

佐藤「一歩歩くだけで、『違う、違う!』と言われて(笑)」青山「阿佐美先生が見せ方にこだわられていて、その精神性を伝えてくださった気がします」

 12年の時を経て、作品のメッセージを今に伝える。

清瀧「永遠の愛もそうだし、テーマはすごく深いですね。今世界的にも色々なことが起きていて、死生観を考え直すことも多い。それでも前に進んでいく強さを感じる、ある意味救いになるような舞台になるのではないかと考えていて。また次の一歩を踏み出せる、そんな気持ちになってもらえたらと思います」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:友澤綾乃)

 

劇場でついついやってしまうことは?

青山季可さん
「楽屋入りすると、荷物を全部出さないと気がすまないみたいです。自分の物に囲まれてリラックスできるのかもしれません。ただ、終演後、楽屋を出るのはだいたい一番最後です」

清瀧千晴さん
「公演で色々な劇場に行きますが、時間に余裕があればよく劇場内をうろうろしています。特に客席が気になりがちで、2~3階席まであがって、一番後ろや壁際の席からの舞台の見え方を確認することもあります」

 

プロフィール

青山季可(あおやま・きか)
A.M.ステューデンツ、橘バレヱ学校、英国ロイヤル・バレエ・スクール等で学ぶ。2001年、牧阿佐美バレヱ団入団。2006年、『白鳥の湖』で主役デビュー。『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』、『アルルの女』、『ライモンダ』、『リーズの結婚』などで主演を務める。中川鋭之助賞、服部智恵子賞、舞踊批評家協会賞、牧阿佐美賞を受賞。

清瀧千晴(きよたき・ちはる)
A.M.ステューデンツ、日本ジュニアバレヱ、ボリショイ・バレエ学校、橘バレヱ学校等で学ぶ。2009年、牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』で主役デビュー。『ドン・キホーテ』、『ロメオとジュリエット』、『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』、『アルルの女』などで主演を務める。

佐藤かんな(さとう・かんな)
日本ジュニアバレヱ、A.M.ステューデンツ、新国立劇場バレエ研修所で学ぶ。2011年、牧阿佐美バレヱ団入団。『くるみ割り人形』雪の女王、『眠れる森の美女』リラの精、『白鳥の湖』大きい4羽の白鳥、『ル・コンバ』クロリンダ、『飛鳥』黒竜など、主要な役を踊っている。

公演情報

牧阿佐美バレヱ団『時の彼方に ア ビアント 全幕』

日:2024年10月31日(木)17:00開演(16:15開場)
場:新国立劇場 中劇場
料:S席13,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.ambt.jp
問:牧阿佐美バレヱ団 
  tel.03-3360-8251(10:00~18:00/土日祝休)

 

 

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