俳優・演出家の串田和美が長野県松本で20年務めた芸術監督の仕事を終え、「フライングシアター自由劇場」と名乗って作品を創り始めてから、1年と少しが経った。そしてこの秋、4作目となる『ガード下のオイディプス』の上演準備に入っている。ギリシャ神話に出てくるオイディプスに惹かれた訳を串田はこう語る。
串田「オイディプスの物語は、古代ギリシャの吟遊詩人たちが語っていたギリシャ神話の中に登場し、その後ソポクレスや沢山の人が競って戯曲化していて。僕も彼らに倣いつつ、今回はオイディプスを現代と結びつけて考えてみようと思いました。戦後の日本を匂わす“ガード下”が出てくるから(舞台は)アテネではありませんが、自分たちが表現できるオイディプスはどういうものになるのかと思って」
取材時はまだ台本の無い、プレ稽古の最中。串田は「プレ稽古から始まるのが面白くて、凄く贅沢な時間」だと語る。
串田「台本があると、自分の役にしか思考回路が動かなくなってしまう。しかし、演じる設定がなんだかわからない環境を一度作ることで、他人のことも考えるし、なぜオイディプスなのか? オイディプスとは何か? なぜ演劇をするのか?というところまで考えが及びます」
前々作にも参加した大空ゆうひも、このプロセスを愉しんでいるようだ。
大空「普段はまず脚本があって自分の役をどうするかを考えることが多いのですが、串田さんの場合、皆で話しているうちに予想もつかない方向に行って、稽古が始まっても着地点がわからない。役者にとっては安心できないけれど楽しいという不思議な時間になります。長年串田さんと一緒の大森(博史)さんですら毎回凄く怖いって言うんですから(笑)。でも他の現場では味わえないこの感覚が、私にとって魅力的に感じます」
音楽を担当するDr.kyOnもまた、脚本のないこの時点から創作に関わっている。
Dr.kyOn「串田さんの作品で音楽を任されるのは6回目くらいですが、毎回楽器の編成や音楽のスタイルが全然違うんです。今回は僕も出演者の1人としてプレ稽古から参加していますが、楽しいですね。しかもここは稽古場と劇場が隣り合わせ。音楽の現場だとそんなことが出来ませんから。今は最寄り駅に着いただけで気分が高まっています」
フライヤーは宇野亞喜良による印象的なイラストで彩られている。
串田「オイディプスだったら宇野さんかなと思って。長年の友人だし」
そう語る串田の笑顔から、創作を楽しむ喜びが伝わってきた。
(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)
串田和美さん
「仕込みや舞台稽古で劇場に入ったらまず、舞台の1番前から空の客席をじっと見る。初日が空いて小屋入りしたら、毎日楽しく口笛をふく」
大空ゆうひさん
「ついついケータリングコーナーをチェックしてしまう。楽屋に着くと早く準備すればいいのについコーヒーを飲んでまったりしてしまいます。方向音痴なので楽屋から上手、下手への導線を最低1回は間違えます」
Dr.kyOn
「初めて出る劇場だと必ずサウンドチェックが始まるときに客席を一回りしますね。前列、右側、左側、奥の方、2階席も同じ感じで椅子の座り心地を確かめながら。最後はお客様用のトイレも使ってから楽屋に戻ります」
プロフィール
串田和美(くしだ・かずよし)
東京都出身。1966 年、劇団・自由劇場を結成。1975年、オンシアター自由劇場と改名、1996年、解散。Bunkamura シアターコクーン、まつもと市民芸術館の初代芸術監督を歴任。2023年から自身の新たな演劇活動を求めて「フライングシアター自由劇場」を立ち上げる。
大空ゆうひ(おおぞら・ゆうひ)
東京都出身。1992 年、宝塚歌劇団に入団。2009年、宙組 トップスターに就任。2011年、第32回松尾芸能賞・優秀賞を受賞。2012年に宝塚を退団後は、唐十郎作、蜷川幸雄演出『唐版 滝の白糸』など様々な作品に主演として参加。更に自らのプロデュース公演なども開催する。
Dr.kyOn(どくたー・きょん)
熊本県出身、大阪育ち。ルーツ・ミュージックを基盤にしたロックバンド、「BO GUMBOS」のメンバーとして活躍。同時に佐野元春、Char、高橋幸宏などから銀杏BOYZ、堂珍嘉邦など世代・ジャンルを超え幅広いアーティストをサポート。佐橋佳幸とのユニット「Darjeeling」としてもアルバム4作を発表。
公演情報
フライングシアター自由劇場 第4回公演『ガード下のオイディプス −スフィンクスの謎解き–』
日:2024年10月18日(金)~28日(月)
場:すみだパークシアター倉
料:一般7,800円
ペアチケット[2枚1組・枚数限定]15,000円
U-25[25歳以下・枚数限定]5,000円 ※要身分証明書提示
※他、各種席種あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.k-jiyugekijo.com
問:フライングシアター自由劇場
mail:flyingtheatre.jg@gmail.com