新たな演劇づくりの可能性を追求するクリエーターたちの挑戦が結実 村上春樹の人気短編をベースに日英の俳優たちが2年かけて舞台化!

 KAAT神奈川芸術劇場が、スコットランドの劇団ヴァニシング・ポイントとタッグを組み村上春樹の短編『品川猿』、『品川猿の告白』を原作とした舞台作品を上演する。本作は同館が2021年より取り組んでいる新たなプロジェクト「カイハツ」の一環で創作された。創作過程に数年間かけた、稽古場と上演会場を持つ劇場ならではの独自プロジェクトである。ワークショップ、プレリハーサルからクリエイションに参加してきた那須凜に話を聞いた。

 「2年前の夏、最初は演出家のマシュー・レントンさんと日本の俳優たちで可能性を探り、上演する作品を選ぶためのワークショップを行いました。次は実際にマシューさんが芸術監督を務める劇団ヴァニシング・ポイントの拠点 スコットランドのグラスゴーに行き、現地の俳優さんも含めてワークショップを実施。そんな過程を経て、切磋琢磨したものが形になりました」

 1つの舞台のために、それぞれの国の俳優たちが2カ国を往来し、創作に時間を掛ける。スケジュールに追われる現代の演劇界において貴重な体験だ。

 「とてもレアな経験でありがたいと思っています。舞台って先のスケジュールが決まっていて、半年とか1年先の舞台のために1人で粛々と準備を進めなくてはいけないじゃないですか。でもこれはみんなで一緒に創って、しかもスコットランドの劇場に出掛けることができた。グラスゴーの劇場なんてワークショップのために2週間使わせてもらったんです。しかも来年はそこで上演もします。ともかくワクワク度が全く違いますね」

 ここで気になるのがセリフの問題だ。日英どちらかの言葉に寄せるのか? 片方の言葉だけでは俳優たちの実力を発揮できないのではないだろうか。

 「両国語が入り交じっています。言葉については色々と話をしました。ワークショップでも時間を掛けたところです。日本人はうっすら英語がわかるので、セリフの終わりとかに反応できますが、英語と一口に言ってもそれぞれ訛りがあって、俳優さんはそれぞれの英語を話しています。逆に向こうの俳優さんは日本語が全くわからない。でも一緒にやっているうちにお互いニュアンスの違いがわかるようになって、だんだんやり取りがスムーズになっていきました」

 さらにこの作品には人形遣いエイリー・コーエンによる人形が数体出演するという。日英9人の俳優たちと人形が魅せる新たな演劇の形。次の可能性を考えるならば、これは見逃せないだろう。

(取材・文:渡部晋也 撮影:立川賢一)

プロフィール

那須 凜(なす・りん)
東京都出身。2015年、劇団青年座に入団。以降、舞台を中心に活躍。2022年、『アルビオン』、『春の終わりに』、『ザ・ドクター』で第29回読売演劇大賞 杉村春子賞を受賞。近年の主な出演に、舞台『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』、『ケエツブロウよ‐ 伊藤野枝ただいま帰省中』、『お目出たい人』、ミュージカル『イザボー』、舞台『夜叉ケ池』、『おやすみ、お母さん』、NHK連続テレビ小説『らんまん』など。

公演情報

日英国際共同制作 KAAT × Vanishing Point『品川猿の告白

日:2024年11月29日(金)~12月8日(日)
  ※11/28(木)プレビュー公演あり
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:一般6,500円
  プレビュー[11/28]5,500円
  ※他、各種割引あり。詳細は劇場HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.kaat.jp/d/shinagawa_monkey
問:チケットかながわ 
  tel.0570-015-415(10:00~18:00)

 

 

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