1人60役⁉  コロナ禍に生まれた新感覚朗読劇が新たなステージへ 『5 years after』-ver.12- 新国立劇場小劇場で上演

1人60役⁉  コロナ禍に生まれた新感覚朗読劇が新たなステージへ 『5 years after』-ver.12- 新国立劇場小劇場で上演

 堤泰之の脚本・演出で好評を博し、2020年より赤坂レッドシアターにて定期的に上演されてきた“役替わり”朗読劇『5 years after』がこの度、新国立劇場で上演される。3人の男性キャストが主人公 水川啓人の20歳・25歳・30歳の人生をそれぞれ担当し、脇役を含めて約1時間で20役を演じる。さらに配役は回替わりになることから、1人の俳優が合計で60役を演じることになるのだ。本編終了後、すぐに3キャストが60役を振り返りながらトークをする30分の「反省会」が行われるのも話題である。新国立劇場設立以来、最も簡素なセットで行われるという本作。今回はそんな『5 years after』初出演となる赤澤遼太郎、安里勇哉、伊崎龍次郎に話を聞いた。

―――『5 years after』の話は過去の出演者から聞いたことはありますか?

安里「今回で12回目ですからね! 噂には聞いていました」

赤澤「久保田秀敏さんから『次の芝居、60役もやるから大変なんだ』と聞いて、何だその舞台は⁉と思っていましたが、この作品のことだったか!と。他にも出演が決まったことを話したら、陳内将さんから『椅子に座っていれば何でもいいから、それだけは覚えておくようにね!』と言われて、どういうこと⁉ どんな舞台なの⁉と、顔合わせまでは身構えていましたね(笑)」

伊崎「そのルール、僕も聞いています。ただ、椅子ごと動いた方やお尻に“椅子”と書いた紙を貼って動き回った方がいたらしくて、よりルールが厳密になったとか……。過去公演の出演者があの手この手でルールを脱法しようとした結果、禁止事項が増えて僕らの抜け道がどんどんなくなっていくんですよね(笑)。僕は納谷健さん、杉江大志さん、長江崚行さんの回を観たことがありました」

―――改めて、出演が決まった時のお気持ちは?

伊崎「観劇した時に役者が凄く生き生きと楽しんでいる姿が印象的でした。あとは終わった後に反省会があるというのが衝撃で……。でも、いち観客としては役者が何を考えてお芝居をしていたかを本番直後に知ることができるのは凄く贅沢だと思いました」

―――反省会にはプロデューサー・難波さんもご登壇されるので、歴代キャストからは「公開ダメ出しのようで緊張する」という意見もありますが……。

伊崎「確かに……」

赤澤「そうですよね。難波さんがいっぱい喋ってくれるだろうから安心だ! なんて思っていましたが、覚悟しないといけないですね(笑)」

―――赤澤さん、安里さんはご出演が決まっていかがですか?

赤澤「ありがたいことに、2.5次元の舞台でシリーズものに出演させていただく機会も多いので、新しい役に出会える機会自体が、1年の中でどれだけあるのかという中、1つの舞台で60役も演じるチャンスをいただけるというのは、役者冥利に尽きるありがたい話だと思いました」

安里「脚本・演出の堤さんに何度もお世話になっていますが、朗読劇でご一緒するのは初めてなので楽しみです。朗読とはいえ、堤さんワールドが炸裂しているなと。僕ら役者が大変な分、おもしろくなるのが堤さんの作品ですからね。今回も、60役もやらされて……」

赤澤「やらされて、って言っちゃった(笑)」

―――伊崎さん、赤澤さんは堤さんの作品に出演するのは初めてだと伺いました。安里さんが思う堤さん作品の魅力とは?

安里「ぶっ飛んでいる、起こりえないようなことが起こる、ファンタジーのようで何故か登場人物に共感できることが多いというのが魅力な気がします。笑いどころも多くて、観た後に明るい気分になれる。ほっこりした夕暮れのような優しいオレンジのイメージが堤さんの作品にはあります」

―――舞台ではなく、朗読劇だからこそ意識したいことはありますか?

伊崎「舞台役者の一番の武器って“動き”だと思うのですが、“椅子からお尻を離してはいけない”、“台本から目を離してはいけない”というルールで、それを封じられる。勝負するべきところは“声色”でしょうか。すでに一度稽古をしたのですが、こんなに1つの作品でコロコロと声色を変えることもないな……と思いました。お客さまにも新鮮な気持ちで観ていただけるのではないかと思います」

安里「先日の稽古で、20歳・25歳・30歳の3パターン全部の水川啓人を演じました。……脇役も含めて60役はこんなに大変なんだなと。信じられないくらい疲れちゃって(笑)」

伊崎「3回通したから、マチネ・ソワレともう1公演やったようなものですよ(笑)」

安里「『この役、さっきやったっけ? いや違うな……』って、途中で頭がおかしくなりそうだったんですが、だんだんと慣れていく感覚はありました。女性役をやることもあるのですが、そこは座り方や仕草まで気を遣ってみたり。本番までにさらに精度を上げて、60役を演じ分けていきたいと思います。老若男女を朗読でどう演じ切るのか、ぜひ楽しみにしてもらえたら嬉しいです」

赤澤「僕はまだ1パターンの水川啓人しか稽古できておらず、60役も演じる自分が今はまだ想像がつかないです……! 朗読劇って情景描写が多い台本もありますけど、今作はどちらかというと会話がメインだと思います。説明台詞よりもとにかく会話!という感じなので、演者としてはやりやすい一方、テンポが上がってしまいやすい。お客さまを置いてきぼりにすることがないように、丁寧に物語を紡ぐことを忘れずにいきたいと思います。お客さまに想像の余地を与える“間”も大切にしていきたいですね」

安里「でもあれだけ台詞があると、噛んじゃいそうで怖いなぁ。まあ遼太郎は噛まないで有名だけどね?」

伊崎「噛んだことないもんね?」

赤澤「おっと……そうですね。僕は噛まないです!!(笑)」

一同「(笑)」

安里「60役の中で、舌ったらずな役を多めに作ろうかな……」

赤澤「噛んだ?と思われても『役作りでした!』って言えるもんね」

伊崎「そんな抜け道を作ろうとしていいの⁉(笑)」

―――すでに両チームとも一度は稽古をしたとのことで、他のキャストのお芝居に魅力を感じた瞬間は?

安里「台本から目を離してはいけないので、他の2人のお芝居が見られなくて! 耳だけで聞いているんですけど、正直初回は台本を追うのに必死で余裕がなかったです。松本(幸大)くんがvol.11に出演したばかりの経験者なので、この形式にすでに慣れていて色々教えてもらいました。このチームは彼に引っ張ってもらいます!」

赤澤「この形式に慣れていて……って冷静に考えるとおもしろいですね。慣れってなんだ?っていう(笑)」

伊崎「本当だよね(笑)。でも経験者だからこそハードルが上がってしまうというか、すでにお客さまに60役分の手の内を明かしてしまっているが故に、どうアップデートしようという悩みもあるみたいで……。今回新しくチャレンジしたいこともありそうでした」

安里「ホームページに誰が何歳の水川啓人を演じるかは公表されているので、松本くんのファンも前回観ていない年齢の水川啓人があったら観てほしいし、もちろん僕らのファンの方もできれば全パターン観てもらえたら凄く嬉しいです」

―――前半チームは赤澤さん・冨岡健翔さん・小早川俊輔さんの3人ですね。

赤澤「僕らのチームは全員が初挑戦で、かつ初共演同士も多くて。関係値も含めて探り探りでしたが、ライブ感や熱量など、それぞれが何を大事にしてお芝居をしているのかが分かりあえる、いい稽古でした! 僕もまだ自分の台本を追うのにいっぱいいっぱいですが、とてもいい化学反応が起こりそうな3人だと思います」

―――これまで赤坂レッドシアターで公演されてきた『5 years after』ですが、初の新国立劇場進出となります。改めて意気込みをお願いします!

赤澤「この作品でしか観られない顔がきっとあると思います。60役を演じるのももちろんですし、反省会も……普段は役者が積極的に話したがらない、話す機会がないことを聞けるので、レアなイベントだと思います。演じたてほやほやの熱量や、お芝居に対する愛が伝わればいいなと思います」

伊崎「本当に遼太郎くんが言った通り、レアな公演だと思います。“新国立劇場で朗読劇を観る”という体験も含めて、本当に。由緒ある劇場で、スポットライト3本、椅子3脚と役者3人だけで、ただただ芝居に没頭してもらう。そんな機会はなかなかないですよね。言葉だけでどこまでみなさんをこの物語に没入させられるか、役者としてプレッシャーや責任を感じていますが、ぜひ楽しみにいらしてください」

安里「演じる人によってガラッと変わるというのはよく言うことですが、60役もあると本当に、演者が変われば別作品かというくらい見え方や感じ方が変わると思います。だから12回も上演されるんですよね。これまでの11回に出演してきた仲間たちの気持ちを背負って新国立劇場に立ちたいと思っています! まぁ反省会はね、僕らのチームはきっと反省することがないと思うので、お楽しみ会だと思って楽しんでください!(笑)」

伊崎「ポジティブ!」

赤澤「お客さまも一緒に『enjoy your life!』してもらって!」

安里「そうそう。『enjoy your life!』って公演サブタイトルがあるのに反省している場合じゃないからね! 前半チームから盛り上げていただいて……むしろ前半にかかってるんじゃない?」

赤澤「ちょっと……先輩、いきなりプレッシャーかけるじゃないですか」

安里「反省会でお客さまに聞くからね? 『前半チームが良かったから、こっちのチームも観に来てくれた人ー?』って!」

赤澤「それは分が悪いな!(笑)」

安里「頑張ってもらって(笑)。何はともあれ、お客さまにとって夏の終わりのいい観劇体験になったらいいなと思って僕らも頑張ります!」

(取材・文:通崎千穂 撮影:間野真由美)

プロフィール

赤澤遼太郎(あかざわ・りょうたろう)
1997年1月11日生まれ、神奈川県出身。近年の主な出演に、MANKAI STAGE『A3!』シリーズ 七尾太一役、『マッシュル-MASHLE-』THE STAGE マッシュ・バーンデッド役、ミュージカル『コードギアス 反逆のルルーシュ 正道に准ずる騎士』枢木スザク役など。

安里勇哉(あさと・ゆうや)
1987年12月4日生まれ、沖縄県出身。近年の主な出演に、舞台『Paradox Live on Stage』シリーズ 神林匋平役、Action Stage『エリオスライジングヒーローズ』ディノ・アルバーニ役、舞台『フルーツバスケット』シリーズ 草摩紫呉役など。

伊崎龍次郎(いざき・りゅうじろう)
1994年1月17日生まれ、大阪府出身。近年の主な出演に、舞台『刀剣乱舞』シリーズ獅子王役、MANKAI S TAGE『A3!』シリーズ 飛鳥晴翔役、舞台『Collar×Malice』シリーズ 笹塚尊役など。

公演情報

役替わり朗読劇『5 years after』-ver.12- ~enjoy your life!~

日:2024年8月30日(金)~9月3日(火)
場:新国立劇場 小劇場
料:7,000円(全席指定・税込)
HP:https://no-4.biz/5yearsafter/ver12/
問:エヌオーフォー mail:info@no-4.biz

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