演出家・野坂実を中心に、ミステリーの舞台を製作しているノサカラボの新作『TASTE OF SOUND WAVE Readings with Live music; Sherlock Holmes #4』が2024年7月13日(土)~14日(日)に大手町三井ホールにて上演される。
2021年からスタートした本シリーズは、山寺宏一がシャーロック・ホームズ、水島裕が相棒のワトスンを演じ、毎回レジェンド級の声優をゲストに迎えることで知られる人気企画。公演を重ねるたびに進化を続け、第3弾では効果音も生演奏スタイルとなった。
シリーズ第4弾では、お馴染みの大塚明夫に加え、新キャストとして谷山紀章・細谷佳正が加わり、新たな物語を紡いていく。
コンビがいい具合に発酵してきました
―――夏の風物詩として浸透してきたシリーズですが、皆さんはいつ頃になるとソワソワするのでしょうか?
野坂「僕は春ぐらいからソワソワが始まります。正確に言うと、上演があった時には次の演目を決め始めないといけないんです。今年の場合だと、年末あたりには1編目を書いてもらうイメージで動いているので、年明けくらいには何度か(脚本家と)キャッチボールしています」
―――では山寺さんと水島さんは、ビジュアル撮影などがあるとスイッチが入ると。
山寺「僕はその前に、キャストをどうするかの相談が来るので、誰が出てくれるんだろうと、そこが1番ソワソワしますね。そしてどの話をやるんだろうと、たくさんある作品の中で野坂さんが選ぶわけだから、今のソワソワは、脚本はどうなってんだろうってね」
一同「(笑)」
山寺「原作は決まればすぐ読むんですけど、それをどう朗読に落とし込むかがこの作品の肝なので。もちろん我々の演技もちゃんとしてなければ成立しませんけども。ソワソワの方向が違って、ずっとソワソワしてます」
水島「今日の取材の時点(5月末)ではまだ公演の2か月前じゃないですか。でも先月、ノサカラボから僕の事務所に来年のスケジュールの問い合わせがありまして(笑)。だからソワソワしている間がない! もう来年もやれるんだという想いですね」
―――ソワソワの肝がちょっとずつ違いました。
水島「それがこのチームなんですよ、ラフィングライブ(野坂・山寺・水島の演劇ユニット)からのね」
野坂「小屋入りするまでぐらいは、僕が結構ナーバスな状態にはなってるかな。曲とかもそうですし、セリフの変更をギリギリまでするので。でも幕が開くと途端に『大変ですね』っていう感じの方に切り替わる(笑)。本番はおふたりにお任せしています。
色々と試行錯誤しながらやりましたけど、ホームズシリーズも4回目。おふたりでしかできないシャーロックとワトスンというコンビが、良い具合に発酵してきました」
負けたくないから、やる気とエネルギーのぶつかり合い
―――毎回進化し続け、前回から効果音も生演奏になったことから、タイトルも『TASTE OF SOUND WAVE』になりました。チームに慣れながらもアナログ要素が加わり、ハードルが上がっていくイメージですが、振り返っていかがでしょうか。
山寺「僕は効果音を生でやりたいって聞いて、アイデアはいいけど無理だろ、絶対失敗すると思って。やる方も大変だし、こっち側の合わせもどうなの?って思ったら、面白かったですね。
すいません! 疑っちゃってごめんなさいって感じで(笑)。時代と逆のアナログさ、まさに手作りの感じがして、いいなって僕は思いましたね。よく頑張ってくださいました」
野坂「はい!」
水島「電気を通さない音っていうのかな、マイクは使うけども、楽器で言うと例えばエレキギターではなく、生の楽器の生演奏なんです。そして更に生効果音もすごく面白くて、やってみて初めてわかったこともありましたよね。そういう試行錯誤、楽しいんだよね」
野坂「前回、色々面白いことが起きました。ピストルの音は風船を割って出そうとしたんですけど、静電気で割れちゃうんですよ」
水島「熱もあったらしいよね」
野坂「ただ置いてあるだけなのに、空気がゆっくり動いてるからこすれて割れちゃう。そんなことやってみないとわからなかったから勉強になりました。しかも白い風船にしちゃうと、そっちに目がいっちゃう。あくまでもお芝居を見せたいから、急遽黒い風船を探してもらって」
―――それを伺うと、きっかけや手数が多そうで、お稽古も大変なのではと。
水島「何回ぐらいやってると思います?」
山寺「大変です、くらいにしていた方がいいじゃないですか?(笑)」
野坂「役者の皆さんが入ってくる前は代役で本読みをして、その動画を各スタッフさんに共有して、曲はこのタイミングでこういうニュアンスでと全部作って、それに合わせながらやっています。大変そうです」
水島「野坂さんのスタッフの皆さんが頑張ってくれて、しっかり作ってくれてるから、僕らがそこにポンと入っても回っていくんだと思います」
―――それぞれのスキルが高い現場ですね。
水島「稽古も面白いですよ。去年もそうですが、毎回ゲストがみんな、こうきたか!と稽古ごとに進化してるんですよ。回数が少ないが故にいい意味での切磋琢磨みたいなものがすごく感じられて。
津田健次郎くんなんて、稽古1日、場当たり1回。やれちゃうんじゃなくて、やるんですよ。みんながそれぞれ負けたくないから。やる気とかエネルギーのぶつかり合い」
シャーロックは山ちゃん、ワトスンは裕さんだなと広めてほしい
―――山寺さんと水島さんは相棒の関係を重ねていますが、改めて相棒だなと思った瞬間、エピソードはありますか?
野坂「今日、久しぶりに3人で会っていますが、僕がおはようございますとメイクルームで喋っていたら、裕さんが入ってきて『はぁ~』と言ったら山寺さんが、『裕さん、またため息ですか』とツッコんでて」
山寺「口が悪いんですよ」
水島「1年ぶりにツッコまれました(笑)」
野坂「ラフィングライブはもう何年もやって、『山ちゃん~』『裕さん~』のツッコミを何年もくり返してきてのシャーロックとワトスンなんで、そのやりとりが聞こえてくると、”始まった、始まったな”っていう感じがします」
山寺「裕さんが優しいし寛容だからね」
水島「いえいえ、僕はね、山ちゃんのシャーロックが大好きなの。だから相棒でもあるし、愛情でもあるんだなって思いますね。しかも誰よりも1番近くでセリフを聞けるしね。これはやっぱり幸せですよ」
山寺「ありがとうございます。もうそのままお返ししたいと思います。裕さんとこのシリーズの1回目をやった時から感じましたけど、もうその後、原作とか読んでも、裕さんの声で聞こえてくるっていう」
水島「ああ~嬉しい~!」
山寺「それがもう当たり前みたいな感じになっちゃいますよね」
―――このおふたりでホームズのアニメなども作って欲しい想いです。そして野坂さん、今回の演目は、『赤髪組合』、『青いガーネット』、『オレンジの種五つ』の3本で、色にまつわる作品がセレクトされました。
野坂「今までは女性キャストが入っていた関係から置いていた作品があったんです。それが『青いガーネット』と『赤髪組合』。今回はこの2作をやりたいと思っていたので、男性キャストを揃えました。
そして『オレンジの種五つ』は、ストーリー的に今まで絡めることが難しかったのですが、やってみようと。でも難しくて、作家さんもたぶん1番苦しんでるし、僕も構成をしている時に苦しみました。でも、苦しんだ分、この3つが揃って楽しくなりそうです」
―――初の男性キャストのみの上演というお話が出ましたが、今回の見どころの1つですね。
山寺「毎回そうですが、今回も本当に素晴らしいメンバーが揃いました。初参加の2人も含めて、すごく良い座組になったと感じています」
水島「僕は谷山さんと細谷さんは初共演になります。楽しみですよ! どんな演技をする人なんだろうと思って。しかもゲストは3役演じなきゃいけないんですよ、ゲストなのに」
山寺「そうなんです、大変なんですよ。我々2人以外の人の方が大変なんです(笑)」
一同「(笑)」
―――では最後にメッセージをお願いいたします。
野坂「最初にやり始めた時、おふたりと作品を作ろう、この作品をどうお届けしようか、いい作品を作るだけでもなく何が売りなんだとか、いろんなことを考えていたんです。まずは豪華な山寺さん・水島さん2人のお芝居と声、そこに焦点を合わせていこうと思いました。
その次に何がいいのだろうと、全てが生音だったらこんな豪華なことはないじゃないかと、生演奏が加わり絵画のイメージです。美しい絵があったとして、額縁が良ければもっとより面白いだろうとか、より美しく見えるだろうと、その発想から出てきたものが生効果音だったんです。
ちょっと不思議なことをやったりもしますが、僕が1番見せたいのは役者さんたちのお芝居で、山寺さん・水島さん2人の演技です。そこはぶれないまま第1回目からずっとやっています。ぜひぜひ今年もこの2人の面白いお芝居を楽しみに観に来てください」
水島「去年からですが、生効果音でとても驚いたし、これは面白いと。昔、ラジオドラマを録った時に効果さんがいらっしゃって、セリフと一緒に生でやってたのをふっと思い出しました。僕らの言葉はマイクとスピーカーを通しますが、肉声と楽器の生演奏、あの空間にいることが豊かな時間だと感じます。
野坂さんは毎年1人ずつ演奏者を増やしながらフルオーケストラにしたいと言ってますが、それは別としても、少しずつ毎年毎年この豊かな時間を更に良質なものにしていけたらいいなと思っています」
山寺「本当に空間を楽しんで欲しいという想いです。物語はだいぶ昔に書かれたものですが、日本でアレンジした小説もいっぱいあり、なぜいろんな人が夢中になるのか。その愛される理由が、この作品を観ていただければ更にわかるんじゃないかと思います。
そして僕としてはですね、どこかで笑ってほしいなっていう(笑)」
一同「(笑)」
山寺「どんな台本になっているかわかんないですけどね」
水島「毎年あるよね、山ちゃんの笑いのリクエストというかオーダーが(笑)」
山寺「周りを気にせず笑ってほしい。あともう1つ付け加えると、これをやっているおかげか、Eテレでシャーロック・ホームズを朗読するお仕事をいただきまして、またホームズ関係の仕事が増えないかなと(笑)。
業界の人も観てもらって、やっぱりシャーロックは山ちゃんだな、そしてワトスンは裕さんだなと広めてほしいです。そういう下心、いえ、気合いを入れてやりますので、ぜひ劇場に足を運んでください」
(取材・文&撮影:谷中理音)
プロフィール
山寺宏一(やまでら・こういち)
1961年6月17日生まれ、宮城県出身。声優デビュー後は映画の吹替、ラジオパーソナリティや俳優・タレント・歌手ほか幅広く活躍中。第14回声優アワード 外国映画・ドラマ賞受賞ほか、多くの受賞歴がある。日本テレビ『それいけ!アンパンマン』レギュラー。近作に、ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』、NHK BS 藤子・F・不二雄SF短編ドラマ『3万3千平米』、アニメ『異修羅』など。2024年8月21日より、舞台『VOICARION XVIII〜Mr.Prisoner〜』が控えている。
水島 裕(みずしま・ゆう)
1956年1月18日生まれ、東京都出身。特撮『愛の戦士レインボーマン』の主題歌で芸能界デビュー後、声優をはじめラジオパーソナリティ・歌手、バラエティー番組出演などで人気を集め、多数の作品で活躍中。アニメでは定番のキャラクターソングをいち早くリリースするなど、アイドル声優の先駆けとして知られている。キッズ声優養成所の講師の顔も持つ。世田谷FMで「水島裕のせたがやFun Time」を放送中。青空文庫オーディオブック『再度生老人』(佐々木俊郎 著)、キングレコード「キング80’sアニメ声優ディスカバリーコレクション」が配信中。2024年9月7日には、デビュー45周年LIVE「星空の抱擁」を開催予定。
野坂 実(のさか・みのる)
1974年生まれ、福井県出身。2002年に、クロカミショウネン18を旗揚げ、結成6年目に動員2000人を突破。解散後は、翻訳劇・漫画原作の舞台など、様々なジャンルの舞台演出を手がける。ノサカラボでは「シャーロック・ホームズ」シリーズの他に、関智一と木村良平の朗読劇「アルセーヌ・ルパン」シリーズの構成・演出を務めている。また水島裕・山寺宏一らと演劇ユニット ラフィングライブの共同主宰をするなど、活躍の場は多岐にわたる。2024年8月には、井上和彦50周年記念公演Kazz’S『エニグマ変奏曲』(演出)、朗読劇『アルセーヌ・ルパン#4 カリオストロ伯爵夫人』(演出)が控えている。
公演情報
TASTE OF SOUND WAVE
“Readings with Live music; Sherlock Holmes #4”
日:2024年7月13日(土)・14日(日)
場:大手町三井ホール
料:一般8,000円(全席指定・税込)
HP:https://nosakalabo.jp
問:サンライズプロモーション東京
tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)