どこにでもいる家族の愛やつながりを描いた、普遍的な物語 戦争や社会について改めて考えるきっかけになるはず

 ハルベリーオフィス設立10周年記念舞台として、劇作家・高橋いさをが父親の戦争体験をもとに執筆した『父との夏』が上演される。文化庁子供舞台芸術鑑賞体験支援事業として、高校生以下は無料で観劇可能となっている。
 主人公・野川孝太郎役の中尾隆聖、その息子・哲夫役の是近敦之、哲夫の妹・洋子と孝太郎の妻で哲夫の母・政江の2役を演じる光月るう、哲夫の婚約者・順子役の田野聖子にインタビューを行った。

―――まずはお話をいただいた時の思いを教えてください。

中尾「高橋先生から知り合いを通じて本を読ませていただき、とても光栄だと思ってお受けしました」

是近「昨年、高橋さんの作品に初めて出演させていただきました。前回とはまた違う雰囲気の作品に呼んでいただけて嬉しいなと。父と息子の空気感や歯痒さを見ていただき、皆さんにいろいろなことを感じていただきたいです」

田野「(中尾)隆聖さんといえば声のお仕事を第一線で続けている方。一緒に舞台に立つことで役者としてすごく勉強になると思いました。
 また、このお話をしたら色々な人から『あれはいい作品だ』と言われたのも大きいです。前回出演した(高橋)いさをさんの作品もとても良かったので、また出演できることに心が躍りました」

光月「私は昨年宝塚を卒業し、女性として演じる1作目です。私も現在、父と2人暮らし。共感できる部分もあります。戦争のお話で家族の再生の物語なので、家族の関係、女性同士の関係を濃く作れるのが楽しみです」

―――台本から受けた印象やご自身が演じる役の印象を教えてください。

中尾「こんなにシビアなお話は演じたことがないです。高橋先生の『バンク・バン・レッスン』が大好きで、(所属していた)劇団でも何度もやりました。この作品は知らなかったので、お話を読んで、『こんな役をできるとは』と。難しいけど、皆さんに助けていただきながら挑戦しようと思いました」

是近「世の中的にも戦争が身近になってきていますよね。作中で戦地に行って戦う描写があるわけじゃないけど、何気ないところから滲み出る“戦争”を考えてみたり、改めて意識したりしないと、世の中的にもどう流れていくかわからない。作品を観る中で、戦争がすぐ隣にあることを感じていただけたら良いなと思っています」

田野「おっしゃった通り、『戦争反対!』とか戦争の悲惨さを描いている作品ではない。2人の青年の思い出と今に続く歴史、誰もが経験したことが書かれているお芝居です。
 今回、いさをさんが新たに書き加えた役が存在することで、すごく未来を感じる芝居になりました。改訂版を読んだ時、最後のシーンがすごく好きだなと。私の役は(主人公たちの)家族の中では外様。バランサーの役でもあると思うので、いい意味で印象に残らない役割でいたいです」

光月「本を読んだ時、浸ってしまって抜け出せませんでした。今って、“自分のために”という時代になっている気がして。国のために戦っている青年の“誰かのために”を、現代を生きるものとして思っていたいと感じました。
 私は当時の話を聞いている役ではないですが、家族だからこそ話さなくてもわかりあう何かをしっかり表現できたらと思っています」

是近「2役やりますもんね」

光月「後半では政江さんを演じます。政江さんから洋子さんが生まれているので、そこのつながりを見せたいですし、魅力的に表現できたら」

田野「過去の部分も中尾さんがそのままで出る。若い人をわざと出さないアンバランスさも面白いですよね」

―――今お話にあがったように、中尾さんは17歳と75歳を行き来しながら演じます。

中尾「17歳は自信あるんですけど(笑)」

一同「(笑)」

中尾「75歳は実年齢に近いけど、実感がないので(笑)。でも、8月くらいに必ず戦争についての特集をするでしょう。妻の実家に行って祖父と話している時にふと『この人、この時代を生きてたんだな』って思う。僕らにとっては教科書で知ったことだけど、オンタイムで生きてきた人を見ると思うところがありますよね」

―――他の皆さんは役作りについて現時点で考えていることはありますか?

田野「まだ始まってないからなんともいえないけど、皆さん初めまして。一から作っていくのが楽しそうです。あと、いさをさんの稽古ではシアターゲームなどをして座組を和ませてくれるので、今回もあるのかなと思います」

是近「いさをさんのお父さんの実話なんですよね。だからなんとなく、息子を演じる僕は『いさをさんの役だ』と思って見てしまいますね」

―――戦争をテーマにした作品ですが、戦争を経験していない私たちにとってもどこか身近で、身構えずに観られる作品だと感じます。皆さんが思う見どころ、注目してほしいポイントはどこでしょう。

中尾「やなせ(たかし)先生と話した時と同じ感覚があったんです。やなせ先生が描いた『アンパンマン』のアニメが今年で開始から36年になりますが、最初の頃からずっと話していたのが、『本当にお腹が減った時にもらったあんぱんが忘れられない』ということ。
 この作品でいえばおにぎりですよね。やなせ先生が亡くなるまでおっしゃっていた『人生はどれだけ人を喜ばせるかだよ』に通ずるものを感じました」

是近「田野さんのお話にもありましたが、お孫さんが出てきたり、僕が息子役だったり。家族のバトン、出会いや人の愛、絆のつながりというものは普遍的に存在するというメッセージを感じていただきたいなと。親もいつまでもそばにいるじゃないし、当たり前のものが当たり前じゃないと再認識できるんじゃないかと思います」

田野「過去と現在が行ったり来たりするのと、るうさんが2役目でどう出てくるのか。私の役は聞いて、見ているシーンが多いので、そこはお客様のような気持ちで楽しもうと思います。お客様も、いろいろなことを感じながら現代と過去を行き来するのが楽しいんじゃないかと思います」

光月「私の役はそこに割って入っていくのも難しいですよね(笑)。お稽古でしっかり作っていこうと思います」

―――戦争をテーマにした話であると同時に家族の話でもあると思います。大人になってからの家族との思い出、印象深いエピソードなどはありますか?

中尾「この歳になってくると訃報の便りばかりになってきて寂しい限りですよね。70歳までは『こんなもんか、まだ大丈夫だ』と思っていたら、この主人公じゃないけど体調を悪くすることがありまして。それがきっかけで劇団も引退しました。確実に終わりに向かっているという感じがするし、自分が思っているより3倍くらい体力がない。今もスノボやスキーはガンガンやる方だけど……これだけ聞くとかっこよく思うでしょ?」

一同「かっこいいです!」

中尾「(板を)持って歩いてる姿を見てないから(笑)。1年ごとに体力が落ちていくのを実感しています。今まで見えなかったことが見えてきて楽しい部分もあるし、悲しい部分もある。仕事もそうだけど、ありがたいと思えることが増えますね」

是近「物語の設定と僕のリアルな家庭環境が似ているんです。母が亡くなって父は1人で住んでいたり、妹がいたり。中尾さんと父が同い年でもあって、どことなく運命的なものを感じます」

中尾「そうですね。(是近の年齢が)息子と一緒くらいだ」

田野「私は、先日母を連れて長期の旅行に行きました。子供の目から見たら、中尾さんがおっしゃったのと逆で、『元気だった母がこんなにゆっくり歩くようになった』、『こんなに力がない』とか、知らなかった部分が見えてきました。
 旅行から帰って台本を改めて読み、娘と息子がお父さんを見て感じることって本当にたくさんあるんだろうなと。戦争のことを今まで話さなかったお父さんが語りたくなる年代に差し掛かっているのを、子供世代は感じながら芝居をするんだろうと思いました」

光月「私の父は、中尾さんと同じ誕生日なんです。そして、私は2人姉妹で、姉が是近さんと同い年。父と2人暮らしなんですが、父に対してああいう口調になる娘の気持ちがよくわかる(笑)。後から『強く言いすぎたな』と思ったりもするし、重なる部分がすごくあります。
 でも、兄という存在を知らないので、本当の兄妹になれるように稽古で作っていきたいです。私の父は中尾さんよりもずっと上の世代なんですが、本当に昔の話をよくします。気弱になっている部分もすごくわかるので、お芝居でもそういう部分を乗せて、中尾さんとだからできる親子を作っていきたいと思います」

―――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

中尾「今まで色々な作品をやってきましたが、私にとって初めての挑戦が多い作品です。自分も楽しみですし、観る方にも楽しんでいただけたら嬉しいです」

是近「自分がリアルに40代半ばになる中で、改めて家族の大切さを感じます。夏休みの帰省など、家族に会う機会も多いと思うので、改めてこの作品を観ていただき、新鮮な気持ちで家族との時間を過ごしていただけたらと思います」

田野「“戦争ものの芝居”と思う方もいるかもしれませんが、そうではなく、今の現代、どこにでもいる家族の話です。この作品の息子と父の関係じゃないですが、年1回しか帰省しないとしたら、数えるくらいしか会えないんだなと思いました。この作品を観た後に、家族に会いたいなとほっこり思っていただけたら嬉しいです」

光月「人の根本的な部分、愛情が描かれていて、見ている方がスッと入り込める作品だと思います。カンパニーの一員として、皆さんにどっぷり浸かっていただけるように頑張りたいと思います」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

中尾隆聖(なかお・りゅうせい)
声優プロダクション 81プロデュース所属。2022年に解散した劇団ドラマティック・カンパニーに所属し、劇団公演や外部の舞台作品・朗読劇に出演。声優としての主な出演作品に、アニメ『それいけ!アンパンマン』(ばいきんまん役)、『ドラゴンボール』シリーズ(フリーザ役)など、他多数。受賞歴に、第25回日本映画批評大賞アニメ部門 最優秀声優賞、第11回声優アワード 富山敬賞。

是近敦之(これちか・あつし)
1978年1月5日生まれ、神奈川県出身。俳優。映画・ドラマ・舞台・CMなど多方面にて活躍中。近年の出演作に、ドラマ『ブルーモーメント』、舞台『あなたはわたしに死を与えた―トリカブト殺人事件―』、映画『日本で一番悪い奴ら』などがある。

田野聖子(たの・せいこ)
1991年、劇団俳優座に入団。ドラマ・映画への出演、吹替などで幅広く活躍。2018年に退団し、現在は舞台を中心に活動している。出演作に、劇団四季『サウンド・オブ・ミュージック』、劇団俳優座『ヘッダ・ガーブレル』、名取事務所『ホテルイミグレーション』、舞台『幕が上がる』など。

光月るう(こうづき・るう)
2002年に宝塚歌劇団に入団、2018年11月より月組組長として活躍。2023年の月組公演『応天の門』『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』をもって退団し、本作が退団後初のストレートプレイ出演となる。出演作に、『エリザベート』、『1789―バスティーユの恋人たちー』、『グレート・ギャツビー』など。

公演情報

ハルベリーオフィス設立10周年記念公演第2弾
『父との夏』

日:2024年7月31日(水)~8月6日(火)
場:中野 ザ・ポケット
料:前売6,000円 当日6,500円
  小中高生同伴者チケット3,000円
  小中高生チケットご招待
  ※小中高生同伴者チケット・小中高生チケットは枚数限定/団体のみ取扱(全席指定・税込)
HP:https://x.com/HaruberryOffice
問:ハルベリーオフィス
  mail:haruberry_yoyaku@live.jp

インタビューカテゴリの最新記事