長戸勝彦率いる人気演劇ユニット「東京印」待望の最新作 “人が苦しみの中で選んだ道を、あなたは責められますか?”

 人気演劇ユニット「東京印」の26作目となる『雨月』は、コロナ禍を経てブラッシュアップ。3年超しの上演が叶った待望の最新作だ。“人が苦しみの中で選んだ道を、あなたは責められますか?”をコンセプトに、児童施設で育った青年達の人生の選択と葛藤を描いていく。
 作品を代表して、久下恭平・吉田翔吾・山木透・外岡えりかと、脚本・演出の長戸勝彦に話を聞いた。

ちょっとダークで人の心に刺さるような作品

―――2021年に新作として稽古をスタートしつつ、本番を迎えずに止まってしまった本作ですが、あれからブラッシュアップを重ね、サブタイトルも変化しました。改めてこの作品の誕生のきっかけは?

長戸「東京印は笑いがあり、アットホームでハートウォーミングなコメディ作品を中心にやってきました。しかし、そういうタイプじゃないものを作ってみたいと思って作ったのが『蒼い薔薇のシグナル』という作品です。それが好評だったんで、調子に乗ってもう1作品やってみようかなと(笑)。
 僕が昔、芝居を始めた頃には、こういうタイプのものがけっこうあったりしたんです。ちょっとダークで人の心に刺さるような芝居を作ってみようと思ったのがきっかけですね。
 サブタイトルも“見えるものだけが真実ではない”から“悪魔の証明”に変えまして、“証明できないことを証明する”という意味で、物語的にも当てはまるかなと」

―――いつもと違ったという台本の印象をお聞かせください。

久下「東京印さんのハートフルで笑って泣いてとは全然違う空気感で、東京印っぽくないなって思いました。『蒼い薔薇のシグナル』に出演した時の空気感もそうですが、観に来てくださるお客さまは、きっとびっくりしてもらえると思います」

吉田「僕も東京印さんは、すごく明るくて優しい、心温まるイメージです。笑いをどん欲に取りに行く作品にたくさん出演してきたので、同じ人が書いたのかと思うくらいダークで単純に驚きました」

山木「僕も最初、ほんとに長戸さんが書いたの?と。僕は『蒼い薔薇のシグナル』を最初に拝見して、作品の質感がすごく好きなタイプの本で、新作『雨月』の出演が決まって台本を読んだ時は早くやりたい!て思いましたね。
 僕は前回、コロナ禍の稽古に少しだけ参加したのですが、そのちょっとの稽古もすごく入り込めて楽しくて、早くお客さまに観ていただきたいという想いでした。今回またチャレンジできるのですごく嬉しいです」

外岡「私も長戸さんが書かれる作品はハートフルなイメージだったので、前回中止になってしまった公演の台本をいただいた時も衝撃を受けましたが、今回ブラッシュアップされてその衝撃がさらに大きくなっていて楽しみとともに、これをやる心構えみたいな、ちょっと怖い気持ちもあります」

―――数年を経て演じるにあたり、現在考えていることなどお聞きしたいです。
 久下さんと吉田さん山木さんは実年齢と同様に兄弟のような関係性ですね。久下さんは生まれてすぐに捨てられて保護された蒼太(そうた)役を演じます。

久下「僕はどの作品もそうですが、自分でこうやろうとあんまり決めるタイプではなくて。翔吾と透と一緒にやる中で、和気あいあいじゃない関係性の中でお芝居をやれるのは、もうそれだけで普段の久下恭平じゃない状態としてやれるので、そこが単純に楽しみです。
 あと今回、家族というテーマが根底にあると思っていますが、僕は家族とめちゃくちゃ仲が良いので、初めて台本を読んだ時は感情移入できるところが少なくて。でも世の中にはこういうことが起こり得るのかと、どこまで自分に落とし込めるのか、すごく楽しみです」

―――吉田さんは、育児放棄されて保護された過去を持つ優斗(ゆうと)役を演じます。

吉田「優斗はツンツンした印象ですね。特にこの3人の会話シーンは普段から仲いい感じだけど、その中でみんな抱えているものがあり、それを出したり隠したり、目に見えないものをお芝居で出していけたら、と。
 あと僕は母親とのシーンもあって、ここはかなり深い関係でなくちゃならないので、内弁慶というか、優斗をもっと追求し母親とも良いお芝居をしたいです」

―――山木さんは、親の都合で施設に預けられた陸久(りく)役を演じます。

山木「最初は優しすぎる部分と、まっすぐすぎる部分が良くも悪くも作用している印象がありました。でもそれが彼の良さだと思っています。
 みんな児童施設で育ち友達であり兄弟みたいなイメージですが、その中で陸久はお兄ちゃんが2人いる感じで。でもそこもズレている部分があって、その関係性は稽古をしながら作り上げていけたらと思っています」

―――そして外岡さんは、蒼太たちと同じ施設で育った聡美(さとみ)役です。

外岡「前回の稽古の記憶がすごく残っています。この役をどう表現していくか長戸さんと稽古場でお話して、じゃあ明日はこうやってみようというところで、その明日が来ないまま終わってしまったんです。ずっと消化不良のままだったので、それを踏まえながら稽古場に入りたいと思っています。
 聡美は描かれていない部分も多く、描かれている部分に繋がっていく裏側をどれだけ想像してやっていくかがすごく大事だなと思っています」

長戸「この3人や聡美との関係性がとても重要になってくるキーパーソン役を、今回アッキー(林明寛)が演じます。クセのある役どころで、彼らとどう絡んでくるか見どころです」

東京印は安心して芝居に打ち込める空気感があります

―――すでに共演も多い皆さんですが、長戸さんから見たそれぞれの魅力をお聞かせください。

長戸「みなさん本当に素敵な所がいっぱいあります! 久下君は、みんなもそうだけど個人的に彼が出ている他の舞台も観に行かせていただいていて、他の舞台に出てる久下恭平と、東京印に出ている久下恭平が違うんですよね。それはすごく役者としていいことだし、彼の持っている力だと思います。
 俺の所では見せない顔だな~と嬉しくもあり寂しいような、そういう意味の久下恭平のポテンシャルは高いなと普段から思っていますね」

久下「わ~嬉しいです」

長戸「翔吾君はなんでもやれちゃう。器用でうまい。役者として一緒に共演したこともあって、長いセリフをうまくこなすんですよね、僕はできない。もちろん役者としてのポテンシャルも高いし、いろんな役もやれる。
 あとはナイーブ。そのナイーブさをこの優斗役に落とし込みました。吉田翔吾という人間の中にある優しくて可愛い部分が大好きで、それが優斗に出てくれればいいなと思います」

吉田「お願いします!」

―――横でニコニコして待っている山木さんが愛おしいです!

長戸「じゃ最後にして(笑)」

一同「(爆笑)」

長戸「外岡さんは共演もあるしお友達でもある、普段のお芝居もとっても素直で素敵な女性です。この作品は外岡さんには挑戦になるかもしれないです。
 聡美は素直なんだけど、それを隠しながら生きていくしかなかった女性なので、外岡さんが持っている素直さをどう壊していけるか。外岡さんならできると信じています、以上」

山木「ちゃうちゃう! まだ残ってます!!」

長戸「あははは、見ての通りです。この数分で彼のキャラクターが分かると思うんですよね。どの現場でも明るくて、どの現場でも愛されています。お芝居は人間性が大切で、人となりが必ずお芝居に出ると思っていて、透くんのお芝居はまっすぐで素直で彼の人柄が出ています。
 器用か不器用かといったら不器用かもしれない。でも役者って器用だからうまいとか、滑舌が良いから芝居が上手というわけではなく、口で伝えることのできない魅力が役者には必要で、彼にはそういう魅力がたくさん詰まっています。今回も素敵な役なのでお楽しみにしていただければと思います」

山木「ありがとうございます」

―――では逆に長戸さんはどんな方ですか?

久下「いい人です!」

吉田「終わっちゃった」

一同「(笑)」

山木「みんなそうだと思いますが、プライベートでもすごく仲良くさせてもらっています。正しい表現かわかりませんが、お友達みたいな感じで飲みに行ったり、その時の長戸勝彦と現場で会う長戸勝彦は別人の印象です。
 ある現場で若い役者に張り合おうと髪を金髪に染めてきたりとか、お茶目な部分もあります!」

外岡「え~~! 知らなかった!」

長戸「『げんせんじゃ~!』の時ね。知らない若い子ばっかりだから、頑張らなくちゃって金髪にしたの」

久下「実は長戸さんが1番繊細だと思っていて、その繊細なところが作品の中ですごく心打たれる部分で、それが東京印の魅力でもありますね。稽古終わりのダメ出しもすごく言葉を選んで、言われたらどう思っているのか気にしてくださったり、安心して芝居に打ち込める空気感をずっと作ってくださっています」

吉田「あと笑いに貪欲です。本当に大好きな場面で今思い出したのが、去年の夏に役者で共演した舞台『act over』の時、長戸さんがヤクザの役だったんです。ある勘違いシーンでのやりすぎ感が凄くて、稽古場で見ていて貪欲すぎませんか?と。どこまで取りに行くんですか!っと(笑)。
 ちょっとやりすぎと思いつつ、いざ初日が開けたらめちゃくちゃウケていて、凄いと思いました」

長戸「翔吾、笑いが欲しいねん!」

一同「(爆笑)」

外岡「この3人もそうですけど、アッキーさんとかも長戸さんをすごくいじるんですよ。先輩と後輩なのに、それができちゃう関係性を築いてくださっている長戸さんがすごいなって思いながら、私もツッコミを入れてみたり(笑)、みんなに慕われています。
 最初はすごく緊張していましたが、長戸さんを知っていくと優しい部分がたくさん見えてきます」

久下「知らない人が長戸さんをいじったりしたら、ちょっとジェラシー!」

観終わってからもずっと噛みしめるような作品に

―――皆さんが東京印に多数出演されている理由、魅力がわかるお話をありがとうございます。ではそれぞれ今作で注目してほしいところ、挑戦となるところは?

久下「僕がお客さんとして観てたらシンプルな話だなって感じると思います。この作品の中で、“目に見えるものだけが真実と限らない”というフレーズがあります。物語の中でこの3人のやり取りだったりも本当に真実なのか……とか、表面だけじゃない裏側の心の蠢きみたいなところでヒリヒリさせていけたらなって。
 シンプルな言葉でやり取りしてるけど、それ本当?とか、お客さまがあれ?って気づいたり気になってくれたり、そんな質の良い会話劇をやれるように頑張りたいです」

吉田「話していて思ったのは、暗さの中にちょっと光っている温かさみたいなもの。影が濃いほど見えてくる光るものが、もしかしたら見えてくるのかな。そんな尊い部分をお客様に感じていただければ」

山木「この陸久は、長戸さんの作品で今まで演じたことがない役だと思います。だからこの本を読んだ時に陸久を演じることがとても楽しみだったんです。自分の中の葛藤みたいな部分を、全部を伝えずにいかにお客さまに感じてもらうか。たぶん全員そうだと思うんですけど、けっこう大事な部分だと思っていて、そこは自分の中でもチャレンジして作り上げていきたいです。
 あと今回バイオリンの生演奏が入ります。僕は生演奏が入るお芝居を観劇するのが大好きで、お客さまにもこの感覚をぜひ楽しんでほしいですね」

外岡「前回、東京印さんに出演した時とはガラリと違う役で、その時3人とも共演しましたが、関係性も全て変わるので、前回観ていただいた方はそこも含めて楽しんでいただけると思っています。
 今回、共演経験がある方やお芝居を拝見したことがあるとか知っている方々が多く、長戸さんと信頼関係ができている中で始まるので、より良いものを作っていけるように稽古に入っていきたいと思います。そんなみんなで作り上げる作品を楽しみにしていてください」

長戸「今回の作品のトーンは確かにダークで、いつもの東京印のイメージとは違いますが、どの作品も一貫して1つテーマがあるとしたら、ちょっと恥ずかしいですけど“愛”なんです。友情、恋人、家族、母親、父親の愛がこの『雨月』の中にも入っています。
 夜に街を歩いていて高層マンションを見上げると、あの明かりの中に1つとして同じ家族がいなくて、きっとみんな違う人生をそれぞれ生きていて、これからも生きていく。そして生きていく上で誰かに支えられて、もしかしたら誰かを傷つけているかもしれない。離れては寄り添ったりしながら人って生きていくんですよね。そういうことをこの作品で描ければ、人の愛や優しさみたいなものがお客さまに届けばいいかな」

久下「この『雨月』で長戸さんが脚本演出をしてくださり、このキャストが集まって、僕の中ではもう勝ち試合だと思っていますし、度肝を抜かせる作品になると思っています。
 観終わった後に家に着くまで、あのシーンはどんなだったんだろう、どういう意味合いだったんだろうとか、観終わってからもずっと噛みしめるような作品にしたいです。劇場でお待ちしております」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

久下恭平(くげ・きょうへい)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。舞台を中心に活動中。近作に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ、東京印 vol.25『蒼い薔薇のシグナル 2024』など。8月に劇団シアターザロケッツプロデュース公演 vol.1『雨のち晴れ』、9月にはキ上の空論 獣三作三作め『緑園にて祈るその子が獣』への出演が控えている。

吉田翔吾(よしだ・しょうご)
1992年11月2日生まれ、愛媛県出身。舞台を中心に、劇団「ポップンマッシュルームチキン野郎」メンバーとしても活動中。近作に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ、ENG10周年記念公演『FROG~新選組寄留記~』、舞台『テムとゴミの声』第二章 ~また会えたなら、などがある。

山木 透(やまき・とおる)
1995年1月25日生まれ、東京都出身。ドラマや映画・舞台など幅広く活躍中。近作に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ、劇団バルスキッチン第33回公演『どぎまぎメモリアル~まぎまぎブルーver.~』など。

外岡えりか(とのおか・えりか)
1991年6月11日生まれ、神奈川県出身。「アイドリング!!!」メンバーを経て、女優としてドラマや舞台・CMなどで活躍中。近作に、ドラマ『セレブ男子は手に負えません』、eeo Stage reading朗読劇『この色、君の声で聞かせて』、映画『バラシファイト』など。

長戸勝彦(ながと・かつひこ)
1963年8月30日生まれ、愛媛県出身。20歳の時「東京キッドブラザース」に入団し、退団まで主演を務め続ける。萩本欽一のバラエティ番組にレギュラー出演するなど、バラエティでも活躍。1998年、演劇ユニット「東京印」を旗揚げ。役者・ナレーター・作家・演出家・プロデューサーとして、多岐にわたり活躍中。

公演情報

東京印公演 vol.26
『雨月』UGETSU ~悪魔の証明~

日:2024年7月24日(水)~28日(日)
場:中野 ザ・ポケット
料:一般 前売7,000円 当日7,500円
  高校生以下5,000円
  ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:http://tokyo-jirushi.com
問:東京印 mail:mail@tokyo-jirushi.com

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