現代に生きる人々のミニマムな関係性(親子・夫婦・友人など)に焦点を当てた作品を中心に上演を続けるPLAY/GROUND Creationの本格的劇場公演の第2作。シカゴを拠点に活動する劇作家ジョン・コーウィンの初期戯曲『Navy Pier』がアジア初上演となる。
自分の居場所を探してシカゴ・サンフランシスコ・ニューヨークの3都市を巡る4人の若者達の過去を、モノローグ(独白)の手法を用いて、2バージョンの演出と3バージョンのキャスティングによって描く画期的作品だ。
個性の異なるそれぞれのステージはどんな光景となるのか? マーティン役の青柳尊哉、永嶋柊吾、渋谷謙人、そしてside-A・Bの演出を務めるPLAY/GROUND Creation代表の井上裕朗に話を聞いた。
―――本作はアメリカの若者がそれぞれの居場所について問いかけるモノローグ劇ですが、アジア初演となります。井上さんはどんな作品だととらえていますか?
井上「僕自身が大きな社会や集団を描くメッセージ性の強い作品よりも、家族や友達、恋人同士という近しい人間関係で起こりうる話を少人数の役者で描くのが好きで、第1回のハロルド・ピンター作の『BETRAYAL 背信』も3人のドラマでした。その後、第2回公演を模索する中で何か面白い作品はないかと(今回一緒に演出を担当する)演出家の池内美奈子さんに聞いたところ、今回の作品を勧められました。『BETRAYAL背信』が本格的な大人のしっとりとした作品で、次やるならば若い人達の作品をやりたいと思っていたので、ちょうどいいなと思いました。本作では4人の登場人物達が『昔、こういうことがあった』と客席に向けた独白を4人の掛け合いのように見せています。」
―――世代の異なる役者達が3つのバージョンを演じるのは興味深いです。
井上「前回の公演では3人の登場人物達の若い年代に合わせたキャストと、ある程度年齢を重ねた世代のキャスト、2チームを作ってそれぞれの視点から戯曲を探ってみたらすごく面白かったんです。加えてチーム分けをする事でそれぞれに与える影響もあって、今回も最低でも年代の違うダブルキャスト(side-A/B)でやりたい気持ちがありました。
リアルタイムで進む会話劇ではなくて、みんなが少し過去を振り返りながら答えに向かっていくストーリーなので、登場人物と俳優の年齢差はあまり気にならないと思います。
加えて池内さんも『私もやりたい』となって、池内演出でやる3チーム目(side-C)ができたわけです。今日、この場にいる3人が演じるマーティンはちょっと一筋縄ではいかないキャラクターで、表面上は淡々と生きているようでも、自分の中にコンプレックスや不安といったドロっとしたものを抱えている複雑な人物。俳優にはそういう人は多いですが、マーティン役の起用については、一見そうは見えないけども実は……みたいなタイプを選びました」
―――青柳尊哉さん(side-A)、永嶋柊吾さん(side-B)、渋谷兼人(side-C)はそれぞれマーティン役を演じます。脚本を読んだ印象は?
青柳「先日、読み合わせを終えたばかりで現段階ではこのマーティンという役がどういう人間かは詳しく語ることができませんが、第1回の『BETRAYAL 背信』では青柳個人と役者、それぞれが持つ葛藤をえぐりだす難作業がありました。大分苦労しましたが、井上さんに助けてもらいながら千秋楽まで走り切ることができました。『Navy Pier』出演にあたり、自分がこれまで目を背けてきた部分ともう一度向き合いたいと思っていたので、その過程がマーティン役と重なることで良い表現につながればいいなと思っているところです。『BETRAYAL背信』でもそうでしたが、限られた時間の中で精一杯のものづくりをする時間はとても贅沢で、その過程が重なってより戯曲が濃厚になっていくと感じました。今回もそこに逃げずに飛び込んでさらけ出していきたいと思っています」
永嶋「海外作家の作品に出るのが久しぶりで、個人的にも外国に行った経験がないので、今は作中に出てくる地名などをグーグルマップで検索しながらイメージを膨らませているところです。基本的に登場人物達一人ひとりが自分に起きたことを振り返って進めていくので、お互いに影響を与えながら役作りができたらいいなと思っています。マーティンは真っ直ぐに生き抜こうとした人という印象で、不器用ですがカッコよさも感じました」
渋谷「今回、同じチームのカート役を演じる林田航平くんとは普段から海外戯曲を読み漁っていて、実はオファーをいただく前にこの作品に出会っていました。それぞれの心情が繊細に描かれており、魅了され、そして、マーティンを演じたいと思いました。なので、出演と共演のダブルの念願が叶ってとても嬉しいというのが率直な想いです。井上さん、池内さん、A・Bチームの意見も参考にしながら創り上げていければと思います」
―――それぞれにどんな違いを持たせたいですか?
青柳「あまり年齢による違いは意識していないですね。三者三様、みんな捉え方や表現方法が違うし、純粋に尊敬できる人達とこの作品を創れるので、上だから下だからは関係ない。むしろ得られるものが多いはずなので、僕のチームが出来ることでお客様を魅了できたら良いと思います」
永嶋「僕は器用ではないので、等身大の自分しか見せられないと思います。世代の違いを意識しながらも、結果的には自分が出てしまうのではないかと。それが結果的に他チームとの差別化につながるかもしれません」
渋谷「物語はモノローグを中心に進んでいくので、リレーでつないでいく感覚で、みんなの呼吸を大切にしながらマーティンという役のイメージを膨らませていければいいなと思っています。Cチームは音楽も違い、またムービングディレクションを受けたり、とにかく楽しみです。いろんな要素がエモーショナルにリンクしてけたらと思います」
井上「僕は常々、役と俳優自身が持つパーソナリティを完全には切り離さないで延長線上にあるものに出来たらいいなと思っていて、マーティンとカートの役を出来れば元々知り合いや友達という間柄の人達で選べたらその関係性が生かせて面白いことになるだろうなと思っていました。例えばside-Aの青柳君と渡辺邦斗君は友人であり、Cに関しても渋谷君と林田君が別作品で共演していたのを観ていて、なんて良いペアだろと感じていました。まさか日頃から2人で読み合わせをする仲だとは驚きましたね。またBだけはそういう選び方をしなかったのですが、後から聞いたら永嶋君と岸田タツヤ君は10年来の友人だったと知って、ちょっとしたミラクルが起こりました」
―――観客側としてはどんな視点を持って観るとより楽しめますか?
井上「4人の登場人物の誰かというより、全員に共感できる要素があると思うので、お客様次第でこれという正解はありません。終わったあともずっと考えさせられる作品だと思います。コロナ禍でのステイホームで多くの人が自分自身と必然的に向き合う時間ができたので、自分はどんな人間か、何が大切かということを考えたのではないかと思いますが、僕自身はその時間が貴重だったなと思えて、お客様もこの作品を通してその感覚を共有できる機会になるんじゃないかなと思います。
3チームのキャストには役の人物としてだけでなく、演じる本人にも、己は何者かを自問自答しながら千秋楽まで走って欲しいです。
俳優はいろんな役を経験する中で自分が何者か分からなくなる時があると思うんです。俳優本人がその自問自答をする過程がそのまま役作りになるんじゃないかと。舞台に立っている人間が本当にその自問自答をしていれば、それが客席にも伝わる。劇場全体でみんながその自問自答をするような、そんな作品になればいいなと思っています」
―――最後に読者にメッセージをお願いします。
青柳「2人の間に何か意見を交わして共有できるものがあると、その時間はより濃くなると思うんですよね。そういう意味でお芝居はデートには最適だと思います。クリスマスシーズンの横浜レンガ倉庫の雰囲気ならなおさらかと。
本作は劇空間や戯曲の構成としても楽しめるものになっています。私はこの人、いやこっちが良いという会話やりとりでも、何かに置き換えたら戯曲や映画にもより身近になると思います。劇場に来たときと後で景色が変わる作品。夕方開始で夜終わるという時間的にもそう。なぜ埠頭でやるのかも含めてデザインされた舞台なので、是非多くの人に楽しんでもらいたい。2021年の締めくくりにこの作品を選んでくれたら嬉しいです」
永嶋「劇場で見聞きする行為は考えの入り方や時間の流れ方が特別だと感じています。身近な話ですのでひとつひとつ共有できたらいいなと思います」
渋谷「この1年、自分は何をして生きていきたいかを改めて深く考えました。そして、やはり自分は演じたいし伝えたいと思った。その想いを精一杯この作品に込めて、お客様に何かひとつでもお届けできればと思っております。心よりお待ちしております。」
井上「この作品を観て欲しいというよりも、この作品を演じている12人の俳優を観に来て欲しいです。
役になりきっているわけでもない。かと言って素の本人というわけでもない。本人でありながら役を生きる俳優はそのどちらとも違う。僕はそれが魅力的な姿だと信じています。是非劇場にその姿を観に来てください」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
青柳尊哉(あおやぎ・たかや)
1985年2月6日生まれ、佐賀県出身。
2002年17歳の時に上京。翌年、ドラマ『ライオン先生』で俳優デビュー。徐々に活躍の場を広げ、2016年放送の『ウルトラマンオーブ』で演じたジャグラスジャグラー役が人気を博す。2018年日本初演となった舞台『BLOODY POETRY』では初の翻訳劇出演を果たす。以後海外戯曲作品へ積極的に参加する。近年の主な出演作品として、舞台『受取人不明 ADRESS UNKNOWN』、『迷子』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、『ウルトラマンZ』などがある。井上氏とは2020年公演の『BETRAYAL 背信』以来2作目の共作となる。また2022年1月には自身初となる自主公演を、下北沢OFF・OFFシアターにて開催を予定している。
永嶋柊吾(ながしま・しゅうご)
1992年6月12日生まれ、福岡県出身。
主な出演作品に、舞台『りぼん,うまれかわる』、『世界が消えないように』、『野生の恋』、ドラマ『最高のオバハン 中島ハルコ』、『相棒 season19 元日スペシャル』、『うつ病九段』、『コールドケース ~真実の扉~』、『グッドモーニング・コール』シリーズ、映画『ある殺人、落葉のころに』、『ヤウンペを探せ!』など。テレビ・舞台・映画と幅広く活動。2021年、ロックバンド「sunsite(サン サイト)」ボーカリストとして自身初となる音楽活動を開始。5月にデビュー・アルバム「Buenos!」をリリース。
渋谷謙人(しぶや・けんと)
1988年生まれ、神奈川県出身。
8歳で子役デビューし、2002年『どっちがどっち!』で初主演を務める。以降はテレビドラマを中心に『WATER BOYS』、『戦力外捜査官』などの話題作に数多く出演している。その他の主な出演作品は、舞台『コルトガバメンツ』、『HISTORY BOYS/ヒストリーボーイズ』、『Take me out』、『アンチゴーヌ』、映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋』、『アイアムアヒーロー』、連続テレビ小説『ひよっこ』、『ケイジとケンジ~所轄と地検の24時~』、『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』、『ソロ活女子のススメ』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』などがある。
井上裕朗(いのうえ・ひろお)
1971年10月24日生まれ、東京都出身。
PLAY/GROUND Creation代表。東京大学経済学部経営学科卒業後、外資系証券会社に勤務。退社後、2002年より北区つかこうへい劇団養成所にて俳優活動を開始。以降、TPT・地人会新社・流山児★事務所・T Factory・演劇集団 砂地・乞局・箱庭円舞曲・DULL-COLORED POP・Theatre des Annales・イキウメ・風琴工房・serial number・TRASHMASTERS・unrato・ピウス企画など、小劇場を中心にさまざまな団体の作品に出演。2015年、自身が主宰するユニット「PLAY/GROUND Creation」を立ち上げ、俳優主体の創作活動をスタート。2016年1月には、シアター風姿花伝にてワークショップ公演 the PLAY/GROUND vol.0『背信 | ブルールーム』を企画・上演。『背信』を演出する。また2019年2月には、劇団DULL-COLORED POPにて『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』を演出。2020年9月、PLAY/GROUND Creation初の本格的な劇場公演『BETRAYAL 背信』にて翻訳・演出を担当。
公演情報
PLAY/GROUND Creation #2『Navy Pier 埠頭にて』
日:2021年12月18日(土)~26日(日)
場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
料:一般7,000円
U-24[24歳以下]3,500円
(全席指定・税込)
HP:https://www.playground-creation.com/navypier
問:PLAY/GROUND Creation
tel. 070-8541-0753