劇作家・演出家の岡本一馬が主宰するACTMENT PARKは、旗揚げから継続してオリジナル・ミュージカル作品を発表し続けている。立ち上げから本年までの3年間に5作品というのはなかなかのペースだが、この夏、いよいよ6作目を発表する。しかも今作は我が国を舞台にした“和”の要素をこめた作品にするという。
そんな作品作りに欠かせない音楽家の津村友華、振付師のユキジ、そして主演に迎える3作目の参加となるHKT48の豊永阿紀と、若手ながら注目を集める秋野祐香、5人に新作についての話を聞いた。
―――今作『雫の星語り~Only God Knows~』ですが、これまでと違って舞台が日本のようですね。
岡本「今作で6作目の劇場作品になりますが、これまでが外国をイメージした街を舞台に、内容も外国寄りで創ってきました。ですが、今回は初めて日本を意識した、いわば“和物”になります。
“一ノ瀬”という架空の町を舞台に、日本らしさの象徴である神道や、伝承や歴史、神話などを意識しつつ、俗に言う純粋な和物ではなく、ACTMENT PARKらしい、外国のエッセンスをミックスした作品にしていきたいですね」
―――音楽や振付についてはどうでしょう。
津村「音楽面では、今作でもテーマパークのようにオールジャンルを盛り込みます。ベースは“和”ではあるんですが、ポップスはもちろんファンク、メタル、ラテン、さらにインド音楽など、とても多彩になる予定です。神様も出てくるなど色々なシーンがありますが、それぞれのシーンをリズムの変化で表現できればなと思っています。
楽器も色々な物を取り入れています。リズムは世界中から持ってきていますが、メロディを和の要素にしているので、新しくもどこか親しみやすさを感じていただけると思います」
ユキジ「音楽が多国籍なので、振付も“腰を落とす”という和風の動きだけでなく、和洋が融合した新たなジャンルというべきものになりそうです。視覚で楽しむ要素も多いのがダンスですから、客席で観ながらACTMENT PARKらしい、世界を旅するような作品にしたいです」
―――台本を少し拝見しましたが、セリフに方言が使われていますね。
岡本「ええ。岡山・兵庫・鳥取・島根エリアを意識しています。日本の古き良きと言いますか、どこか懐かしい田舎のような雰囲気を出したいと思いまして。
架空の町“一ノ瀬”をこのエリアに設定したのは、今作のタイトルを『雫の星語り~Only God Knows~』にしようと決めたとき、日本一星が綺麗に見えるという岡山の美星町の観光協会さんに色々とお話を聞きに行ったのがきっかけです。ご挨拶に伺った際、実際に美星町を散策したんですが、まさに今作でイメージしている場所だったと言いますか、今作で描きたい世界観にピッタリだったんですよね。ですので、今作はその町をイメージした世界観になっています。岡山市から車で1時間くらいかかるので少し遠いですが、神秘的な場所ですよ」
―――音楽と振付はいつも短期間で凄い量のオーダーがあると聞いています(笑)。
津村「今回は更に時間が短いです(笑)。でも、公演の度に鍛えられていますから、苦しみを乗り越えてもはや楽しくなっています。いろんな事を乗り越えちゃいました」
ユキジ「同じく短いですが、もう慣れました(笑)。振付は、脚本と音楽が完成した後、つまり一番最後だから、どうしても押し迫ってしまうんですね。ですが、時代も場所も内容も全てオリジナルですから、客席で初めての土地に来てしまったような、そんな気持ちになってもらえればいいなと思って創っています」
―――さて主演のお二人ですが、豊永さんはACTMENT PARK 3作目ですね。
豊永「私はHKT48以外での初作品がACTMENT PARKさんの作品で、自分の成長に欠かせない場所になっています。しかも今回は主演ですから、まだ信じられない気分です。
毎回、武者修行の気分なんですよ。最初の時は稽古着に何を来たらいいかもわからなくて(笑)、もう食らいついていくのに精一杯だったのが、いつのまにか自分より経験が浅いキャストも増えてきましたから、今までで一番荷が重いです」
―――秋野さんは洗足学園音楽大学ミュージカルコースを出られていらっしゃいますね。
秋野「子供の頃からずっとクラシックバレエをやっていてダンス一辺倒でしたが、歌も好きだったのでミュージカルに興味を持って大学を選んだんです。そこを出てからまだ3作目なのに初主演のチャンスを頂いて、もうドキドキ、ガクガクです」
―――お二人を主演にされた決め手はなんでしょう。
岡本「今作の主役であるシズクは本が好きな女の子で、明るい性格の中に、どこか、危うさや儚げも兼ね備えたキャラクターです。時に、自分は前に進めているのかと不安になるけれど、自分の信念はしっかりある人、そして、周りを惹きつけられる人。
豊永さんは、これまで築いてきた信頼があったので、間違いなく魅力的なシズクになるだろうと、すぐに思い浮かびオファーさせていただきました。
そして、豊永さんと同じように周りを惹きつけられるダブルキャストのもうひとりを探していたときに、たまたま秋野さんが出ている舞台を観たんです。その時の秋野さんが、凄く良くて。一緒に観に行っていたうちのスタッフと共に『シズク、いたー!!』となり、パンフレットでお名前を調べて、すぐにマネージャーさんに連絡をとりました。
その舞台では、秋野さんはセリフもソロも無かったんですが、演じているキャラクターがまさにそこに生きていて、その魅力に目が離せなくなりました。モップで床を拭くだけの場面で、このキャラクターの感情そんなに見せられるの?って(笑)。ある意味、ファンですね(笑)」
秋野「そのシーンは覚えています。もうひたすら楽しんでやっていました(笑)」
津村「実は、秋野さんはACTMENT PARKの別の作品でオーディションに来てくれていたことがあるんです」
岡本「そうなんですよ! 舞台を見てパンフレットで名前を調べた時に、この名前……え! あの子だ!ってびっくりしました(笑)。全然気づかなくて」
津村「その時の実力が凄くて、そのオーディションでも出演をお願いしたかったんですが、スケジュールの関係もあり、その時はご一緒する事ができませんでした。だから今回名前が出たとき大賛成だったんです」
ユキジ「私もです」
秋野「嬉しい……! その時のオーディションが、すっごく楽しくて、オーディション終わるなーって思ったのを覚えています」
岡本「ははは! ちなみに、ACTMENT PARKでの豊永さんの1作目は何も知らない女の子、田舎のノーマ・ジーンという等身大の役。2作目もほぼ豊永さんの等身大イメージだったのが、今回は今までの彼女とは、また少し違ったキャラクターですね。ここまで築いた信頼の上にチャレンジしてもらう役柄です」
豊永「ハードルが上がってく〜……! でも、私がACTMENT PARKさんに出演することで、ミュージカルが好きになって、他のミュージカルも観に行ったというファンの方もいらっしゃるので、私の自信にもなっています。だからこそさらに頑張りたいと思っています」
秋野「実は私、豊永さんが出演されていたACTMENT PARKの1作目を観ていたんです」
豊永「えー!(笑)」
秋野「もうその時からキラキラで可愛くて、そんな方とダブルキャストだなんて、本当に緊張しますが、すっごく楽しみです」
―――今作のキャストですが、3チームもあって結構な人数です。年齢の幅も広いですね。
岡本「10代から60代の大ベテランの方までいらっしゃいます。これだけ幅があるのはACTMENT PARKで初めてです。だからこそ、これまでのACTMENT PARKとは一味違う、深みや幅を皆様にお届けできるんじゃないかと思って。自分自身、ワクワクしています」
―――それでは観客や読者に向けてのメッセージをお願いします。
ユキジ「振付で参加して今作で4作目になります。一馬さんは常に次のプランを持っているから楽しみだし、この世界観は私もすごく好きなので、楽しく出来そうで、愉しんでもらえそうなことが想像できています。ダンスを踊る人にも、その楽しさを見つけてもらいたいので、ぜひ普段はミュージカルを見ないようなダンス関係者にも観てもらいたいです」
津村「ACTMENT PARK毎度のことですが、2幕は伏線の回収が凄いんです。そんな2時間を観客のこころを動かす音楽で埋めたいと思います。総勢50名を越えるキャストの声をどのようにまとめるかを考えています。シアターサンモールは音響も魅力ある劇場なので、それを存分に活かしたいですね、是非劇場へお越し下さい」
秋野「初主演で胸の高まりが止まりませんが、その物語の世界観に入り込んで、皆さんと作品を創るのが楽しみです。どんなシズクが生まれるか、そして生まれた姿を皆様に自信を持って披露できるようにしたいです」
豊永「これまでACTMENT PARKを観てきたお客さんには、ACTMENT PARKによる“和”の世界が想像しにくいかも知れませんが、気づいたらその世界に居る……そんな感覚がすでに台本に現れています。その世界に皆さんをお連れできるようにしたいです。
しかも変則のトリプルキャスト。色々な組み合わせがありますから化学変化が期待できるでしょう。ファンの皆さんも楽しみにしていますので、皆さんがミュージカルを好きになってもらえるよう頑張ります」
岡本「我々が大事にしていることは、ただ単に『劇場に観に来る』だけでなく、今回ならシズクを中心に広がる世界に遊びに来て『体感してほしい』ということなんです。シズクと共に本や“一ノ瀬”の歴史の中に入っていき、その世界へ旅することを楽しんでほしいです。この夏の旅行先として、是非我々が生み出す架空の町“一ノ瀬”に遊びに来て下さい」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
岡本一馬(おかもと・かずま)
奈良県出身。立命館大学卒業後、関西にて舞台公演プロデュースを始める。芝居や演出技法、芸術者としての心得を現場で学んだ後、2017年にACTMENT PARKを旗揚げ。2021年に、それまでのシアターレストランでの上演から劇場公演にシフトチェンジし、法人化。海外作品の再演が多い昨今のミュージカル界において、脚本・音楽・振付など全てをゼロから制作する完全オリジナル作品が人気を博し、劇場での公演は今作が6作目となる。
豊永阿紀(とよなが・あき)
福岡県出身。HKT48の4期生として、「HKT48夏のホールツアー2016~HKTがAKB48グループを離脱?国民投票コンサート~」福岡公演でお披露目。現在は3代目チームHキャプテンを務める。HKT48の舞台公演や、北九州映画実行委員会『めぐり逢わせの法則』に出演の他、九州各地のテレビ局により制作されるバラエティ番組などに多数出演。ACTMENT PARKへの出演は3作品目となる。
秋野祐香(あきの・ゆうか)
埼玉県生まれの神奈川県育ち。子供の頃から地元のバレエ教室でクラシックバレエに親しみ、やがて歌や演技もあるミュージカルに興味を持ち、洗足学園音楽大学ミュージカルコースに進学。卒業後、舞台版『HUNTER×HUNTER』THE STAGE 2にマチ役として出演し、3作品目となる本作で初主演に抜擢された。
津村友華(つむら・ゆか)
大阪府出身。幼少期よりクラッシクピアノ、吹奏楽、マーチングバンドやミュージカル、新体操などに親しむ。専門学校サウンドクリエイター科を卒業後、バンド活動の傍ら、奥華子や清水ミチコなどメジャーアーティストの編曲を行い、作・編曲家としての活動を本格化させる。代表作に、ACTMENT PARK MUSICAL『From Broadway with Love~ブロードウェイより愛を込めて~』、短編映画『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-』内の「CHOSTING」などがある。
ユキジ
茨城県出身。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。卒業後はプレイヤーとして舞台出演、ライブバックダンサーとして活躍。コロナ禍をきっかけに指導やクリエイターとしても力を入れ、ACTMENT PARK では『Written by…~恋のゴーストライター〜』以降、『あの鐘の音と共に-The Bell-』、『Moon of Ruined Castle〜クランベリームーン〜』の全シーン振付を担当。得意とするジャズダンスでは、ジャズダンス芸術協会主催全国JDAダンスコンクールにて一般部門2023年第3位、2024年第2位を受賞。プレイヤー×講師×振付師の3足のわらじで活動中。
公演情報
ACTMENT PARK
MUSICAL『雫の星語り ~Only God Knows~』
日:2024年6月29日(土)~7月7日(日)
場:シアターサンモール
料:SS席12,000円 S席8,500円 A席6,800円
U22割チケット[22歳以下・A席]5,500円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://actmentpark.com
問:ACTMENT PARK tel.03-6824-4484