大部恭平が率いる演劇ユニット「おぶちゃ」が全国行脚第1弾として、2017年に初演、2023年に再演し好評を得た作品『LALL HOSTEL』を早くも再々演する。小さな宿で小さな問題に振り回される人々を描く、リトルジャーニーコメディとは?
作品を代表して、脚本・演出を手掛ける大部恭平と、主演を続投するおぶちゃメンバーの未菜、そして新しくW主演を務める髙畑岬に話を聞いた。
モノ作りの原点といえる作品
―――まずおぶちゃ代表の大部さんにお伺いします。好評作の再々演ということですが、そもそもこの作品はどのような経緯で誕生したのでしょうか?
大部「2017年に書き下ろした作品で、ひょんなことからできた作品なんです。
僕の高校時代の友達が結婚直前に別れてしまったと聞いて、翌朝、仲いい男友達と地元へ励ましに行くぞと行ったら、それが先週の話で実はこの数日間によりを戻して、なぜかプロポーズされて結婚することになったと。
すごくちっちゃいことで喧嘩して、ちっちゃいことで仲直りして、それが優しい理由で、なんだそれって思ったんです。それで別れた人たちの話を書いてみたいなと思ったことがきっかけですね。
僕自身がこの作品を書いてから、現実の人をそのまま物語に投影することが最近ブームになっていまして、そういう意味では今の自分が主流としているモノ作りの原点ともいえる作品です」
―――とても手ごたえを感じた作品だったと。
大部「コロナ禍も活動をなんとか続けていく中で、ひとつ自分をモデルにした話を書いて区切りがついた時に、次にやるなら何をやるんだろうと考えたら、新しい仲間と今までやってきた作品を新しく作るみたいなことをやろう、と。それで再演を決めました。
未菜は元々の活動を一区切りして新たな道にという初舞台のタイミングで、メンバーの小谷(嘉一)も他のキャストも不思議なぐらいお互いの何かがハマったんです。ぜひこれを福岡や全国に届けられる作品にしたいねって、僕よりもキャストが話してくれて、こんなことは初めてだったんです。
今まで1人だったおぶちゃに未菜とコニー(小谷)が加わり、3人の想いを繋いでくれたのがこの作品だったりするので、改めてすごく新鮮な気持ちがあります」
―――未菜さんは舞台デビュー作品が本作とのことですが、いろんな挑戦があったと思います、振り返っていかがでしたか?
未菜「初舞台でまず稽古というものが初めてで、初めてのことだらけすぎて自分のことでいっぱいいっぱいになっていたんですけど、主演の堀田怜央さんをはじめ、みんなが支えてくれました。
私はガチガチで台本を握りしめて、何もみえないままでしたが、一緒にやろうってセリフ合わせをしてくれたりとか、稽古ってこうやっていくんだとわかったら、それがすごく楽しくて。早く稽古に行きたいし、稽古場から帰りたくないって思うぐらいでした。
結婚詐欺師・坂間役の鈴木翔音さんが、毎回何か違うものを仕込んできたり、みんな作品への愛が強くて、それはやっぱり大部さんが作る雰囲気もあると思うんですけど、ほんとに終わりたくないなと。こんなことを大人になって思えるのってあまりないですよね。しかもみんなもそう言っていて、またこのメンバーでやりたいとずっと言っていたので、再演は嬉しいです」
―――女優のスタートとして良い作品に出逢えましたね。
未菜「本当にそうですね。当時BiSを辞めたばっかりのタイミングで、女優としての活動も考えていた時にいくつか舞台のお誘いをいただいて、この台本を見た時に『これはやりたい!』と、運命の出会いですね」
―――綿貫勇人役の髙畑さんはこの2024年版に初参加になります。今回出演する経緯をお聞かせください。
髙畑「僕自身、おぶきょ(大部)とはかなり昔から付き合いがありまして、それこそ初共演は10年近く前になるんですね。そこから大部作品に何作か出演しました。
私事ですが去年1年間、俳優活動をお休みさせていただいた時期があり、その時期にもおぶきょとは連絡を取っていて、復帰したら是非っていうことで今回叶いました」
大部「(髙畑)岬は僕をモデルにした作品で僕役をやってくれたんです。新しい仲間が入ったおぶちゃに、古い仲間の岬や、おぶちゃの旗揚げ公演に出ている藤代海を7年ぶりにキャスティングしたり、僕の中では新作に昔の仲間を呼び戻してみたい想いもありました」
「今年のエルホスはこうだった」と語って欲しい
―――大部さんの想いが詰まった作品ですが、台本の印象や役についてお聞かせください。
髙畑「やはり再演という難しさを感じています。実は前回の時に稽古を手伝っていまして、前回の綿貫役を演じた(堀田)怜央の芝居を見ているので、そこがひとつ良い所であり、難しい所でもあって。僕がやるからには、また怜央とは違った綿貫役をやれたらなとは思っていますね。
僕自身あまり事前に芝居プランを作る人間ではなくて、稽古場でそのシーンをやって、あぁ、なるほどなって感じるタイプなので、たぶん稽古場の空気感でどんどん作っていく流れにはなると思いますね」
―――大部さんが感じる髙畑さんと未菜さんの魅力とは?
大部「岬は器用なんですよ。器用だからこそ不器用とも言えるみたいな」
髙畑「(笑)」
大部「未菜はある意味真逆で、自分では不器用と言っていても突出する瞬間があるんです。器用では作れないとんでもない魅力を急に爆発させてくるから、みんなが見てしまうみたいなところがある。
子役からずっと活動していて酸いも甘いも経ての役者人生の岬と、フレッシュな未菜を並べた時にタイプが違うからこそ、はまった時にお互い輝くんじゃないかなっていう期待、面白そうだなっていう気持ちはすごくありますね」
―――出演者として今回挑戦と感じるところや、現在考えていることを教えてください。
未菜「私が演じる水瀬ひまり役は、20代後半で5年間付き合っている彼氏と結婚を考えている設定が私自身とかけ離れてすぎていて、前回は20代後半ぐらいの人に出会う度に結婚観をすごい聞いて、いろんな話を吸収して挑んだので、今回もそれを意識したいです。
新しい挑戦としては、綿貫役が変わるので、そうなるとひまりも変わるんじゃないかと思っていて。岬さんがどんな綿貫勇人になるのか、その場で感じ取ったものが出せるようにしたいなって思います」
―――ひまりちゃんは自分とはかけ離れてすぎとのことですが、性格的な共通点は見つかりましたか?
未菜「ちょっと視野狭くなりがち、一直線なところは似てるかも(笑)。彼女は結婚の焦りもあって、ちょっと怒っちゃうシーンが多いんですけど、その気持ちはわかりました」
髙畑「挑戦としては再演組の未菜先輩に追いつけるように、遅れを取らないように頑張りたいと思います」
―――それぞれ注目して欲しいポイントをお聞かせください。
未菜「結婚を考えていたのに彼と別れて、ずっとモヤモヤしてるひまりちゃんは、周りの人を巻き込んだり、自分も内心反省してるところがあったり、とても人間味溢れている役どころです。結婚は人生の中ですごく大事な大イベントだからこそ感情的になっちゃうところは、お客様にもきっと共感してもらえるポイントかもしれません。
それに対して小谷さんが演じるオーナー役は人生経験が豊富で冷静な人で、ひまりちゃんとは対照的でその対比が面白いですし見どころです」
髙畑「勇人はたぶん自分から進んで動くタイプでなく、他の人たちの行動から巻き込まれて動いていく人物だと思うんです。ざっくり言うとすごく日本人に多いタイプだなって思ったんですね。自分から発言して行動するよりは周りが言ったから自分もやってみようかなとか、そういうタイプ。
でもその中でも勇人には自分がやりたいことを探している葛藤が色々見えるので、ぜひそこに注目していただいて、男性も共感できる部分が多い作品だと思います」
―――未菜さんと髙畑さんの人間味が交わることでまた面白さが深まりそうですね。大部さんとしてのこだわり、伝えたいことをお聞かせください。
大部「プロデュース面では今回、おぶちゃJourney 1stとして福岡公演があります。未菜の地元に凱旋します。コニーをはじめ、2023年版の仲間が半分以上出演してくれるので、絶対に成功させたいという想いです。そして日本全国からいずれは海外にも行きたいと思うくらいの志を高く広く楽しく持っていきたい気持ちが今のおぶちゃのマインドだったりするので、小さくまとまらずに、でも丁寧にやっていきたいです。
ドラマとしては日常の普遍的なものにフォーカスを当てているので、敷居を低く観ていただきたいです。キャスト達も作品の解像度が上がってるからこそ、新鮮に生まれる瞬間をいかにみんなで稽古で作る準備ができるか、ここが勝負だなって思っています。
去年観た人もぜひ来てほしいです。ワインみたいに熟成されて、絶対に違うものになっているので、今年のエルホスはこうだったと語って欲しいです」
おぶちゃのコンセプトは“人間肯定、人生讃歌”
―――オーナーのポリシーに「Live and let live-互いに許しあって生きていく-」をモットーとしてありますが、それにちなんで皆さんが生きる上で持っているモットーや座右の銘をお伺いしたいです。
髙畑「僕の生きるモットーとしては、“腹8分目”という言葉がとても好きです。人間って何をするにおいても、もちろん満腹、満点、満たされることがとても重要だと思うんです。ただいざ満腹まで食べてしまうと、満たされすぎてその後動けなくなっちゃうんです。それが色々なことにも関係してるなと思ってて。なので僕は腹8分目で抑えることが、次の行動にも繋がるし、美味しかったなって思える最高の状態だと思っています。
ただ芝居において腹8分目だと自分の中ではうまくやったぜ、とはならないので、腹8分目を意識しつつ満腹を目指す、みたいな感じで生きてます」
大部「僕はモットーでもあり、おぶちゃのコンセプトにも掲げてる“人間肯定、人生讃歌”これに尽きます。生きててよかった、人生最高と思って死にたいです。まじめ陽キャ男なんで、それを掲げまくって生きていこうと決めています!」
未菜「座右の銘ではないですが、NaNoMoRaL(ナノモラル)という音楽ユニットの曲で、“頑張ったっていいや、頑張らなくてもいいや”っていう歌詞が最近すごく気に入っています。自分が頑張りたい時と頑張れない時が存在するから、他の人もそうで。誰かが頑張れない時に、逆に何かあったのかなと気付ける優しい人間でありたいと。自分にも相手にも寄り添って生きていきたいなって思っています」
大部「このメンバーはみんな優しいんです! 本当に素晴らしいメンバーが揃いました。だからこそおぶちゃが、いよいよ僕だけのものでなくなったことが嬉しいし、知ってほしいって想いが強いです。知ってくれれば絶対好きになってくれるかなって」
―――最後にメッセージをお願いします。
未菜「初めてこの作品の台本を読んだ時、一気に読んでしまったほどテンポが良く、ポップで軽くて構えずに観られる素敵な物語です。とても魅力的なキャラクターが出てきて、普段演劇を観ない方も楽しめる作品になっていると思います。おぶちゃ全国行脚第1弾、ファーストなので今が狙い時です!」
髙畑「再演組の良さを残しつつ、さらに僕たち新しい4人の出演者でまた新たな“エルホス”を作っていけたらなと思います。絶対にいい作品になると思いますので、皆様ぜひご覧になってください」
大部「“Live and let live”は、人は人、自分は自分みたいな、一見突き放すニュアンスも英語の言葉に入って、僕はすごい面白いなと思って。劇場を出た後に同じ世界なのに捉え方がそれぞれ変わってちょっと優しくなれるような、そんな作品を目指しています。日常の会話劇として自信作品です。
おぶちゃを知らない人は、まずこれを観てほしいし、おぶちゃを知ってる人は、また観てもっとおぶちゃに巻き込まれてほしいです。お待ちしております」
(取材・文&撮影:谷中理音)
プロフィール
大部恭平(おおぶ・きょうへい)
1988年8月17日生まれ、神奈川県出身。「おぶちゃ」主宰。脚本家・演出家・プロデューサー・俳優として幅広く活躍中。俳優としてキャリアを開始し、舞台やドラマに出演するほか、脚本・演出として多くの作品を手掛けている。代表作に、キミに贈る朗読会『ほむら先生はたぶんモテない』『無人駅で君を待っている』、おぶちゃ7周年記念公演『Joie!』などがある。
未菜(みな)
2000年2月2日生まれ、福岡県出身。2019〜2022年7月まで、アイドルグループ「BiS」にて“チャントモンキー”名義で活動。脱退後の2022年8月より、俳優・シンガーソングライターとして、ライブや舞台・MVほか多方面で精力的に活動中。2023年3月に舞台デビュー、演劇ユニット「おぶちゃ」のメンバーとなる。2nd EP「HEART BEAT」好評発売中。2022年10月よりBezzyにて「もぐもぐ未菜散歩」連載中。
髙畑 岬(たかはた・みさき)
1993年8月7日生まれ、神奈川県出身。舞台を中心に活躍中。主な出演作品に、映画『CROSS』、劇団四季『ライオンキング』ヤングシンバ役、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ 浜守一郎役などがある。2024年6月12日より、m sel.プロデュース 舞台『それしか、知らない』への出演が控えている。
公演情報
おぶちゃ Journey 1st
『LALL HOSTEL -TOKYO & FUKUOKA-』
日:2024年5月15日(水)~19日(日)
※他、福岡公演あり
場:MsmileBOX渋谷
料:最前特典席9,000円 ※枚数限定
特典席8,000円
通常席4,800円
(全席自由・入場整理番号付・税込)
HP:https://ofcha.biz/lallhostel2024
問:おぶちゃ mail:info@ofcha.biz