生演奏とガーデニングで「生」を体感 “みんなちがってみんないい”大人も子どもも楽しめる、心温まるファンタジー

 ミュージシャンによる生演奏や、本物の植物を使ったガーデニングとのコラボレーションで徹底的に「生」にこだわり続けている演劇ユニット「ノックノックス」。今回、上演するのは、魔女やかいじゅうが出てくる、まさにファンタジー。どんな舞台になるのか、作・演出を務めるヤストミフルタ、出演する藤田奈那、田野聖子に話を聞いた。


―――『かいじゅうのまち』はどんなお話なのでしょうか?

ヤストミ「田野さんが演じる魔女が『寂しいから』という理由で、魔法で“かいじゅう”をつくるところから始まります。でもかいじゅうたちは、言うことを聞かなかったり、勝手にどこかに行ったりして、なかなか魔女の思い通りにはいかない。魔女はかいじゅうたちを森に閉じ込めてしまうのですが、そこに藤田さん演じる人間の女の子……アメリアがやってきて、かいじゅうたちの面倒を見る……というシンプルなお話です」

―――ファンタジーでハートウォーミングなお話ですよね。決して、ダークファンタジーではないですね?(笑)

ヤストミ「ではないです(笑)。めちゃくちゃポップなお話です。僕が作品をつくるときは、子どもさんでも楽しんでもらえるように作っています。いつもはだいたい小学校4、5年生あたりを対象にしているんですけど、今回はもう少し年齢を下げて小学校1年生でも分かるような内容でして。小さなお子様にも楽しんで頂けると思います」

―――それぞれ演じる役はどんな役になりそうですか? 演じがいがありそうなポイントがあれば合わせて教えてください。

藤田「アメリアは訳あってちょっと悪い子になっちゃったんですけど、根は純粋で明るくて良い子なんです。それがちゃんと伝わるように役作りをしたいですね。かいじゅうのまちにやってきても、結構すぐにかいじゅうと仲良くなれる。それは、アメリアがもともと持っている明るさや優しさがあるからだと思うので。
 13歳、14歳ぐらいの子どもの設定なんですけど、ちゃんと子どもに見えるようにやりたいなと思います。純粋で、明るくて、やさしい女の子ということを一番伝えたいです」

田野「ヤストミ氏から難しい課題を突きつけられたなと思っています。実はかいじゅうたちと触れ合うシーンがほとんどないんですよ。シーンがないのに、愛情とか、寂しさとかを出さないといけない。離れたところにいる魔女はどうやって愛を知っていくのか。そこの表現が難しいです」

―――キャスティングの理由を改めて教えてください。

ヤストミ「まず田野さんですが、魔女の役が絶対似合うと思うんですけど、これまでやったことがないって言うんですよね。それはもったいないと。黒い衣装を着て、『ほーっほっほっほ』というセリフを言ってくれたら、もうそれだけで満足ですよ(笑)。
 難しい役どころではあるんですけど、田野さんは達者なのでやってくれると思います。それに、空気感なのか、芝居なのか、田野さんって、何か包んでくれる感じがするんですよね。いくら魔女が冷たくて生活感がなかろうが、そういう包む感じがじんわり出るといいなと思います」

田野「光栄でございます(笑)」

ヤストミ「藤田さんに関しては、きゃぴきゃぴしている子をやってほしいなとずっと思っていたんです。もちろんノックノックス風にですけど。一番最初に関わった『人魚姫』では、まだ本人に会っていない段階で本を書きましたし、そのあとも本人とそんなに解離がない等身大の人間を書くことが多かったです。
 しっかりしているし、考え方も見た目も大人っぽい印象だから、そういう役が多いんだと思うんですけど、もっと純なところや子どもらしさが出たら面白いことになるかなと思って。今回は13、14歳という年齢の役をやってもらっています」

―――ノックノックスの見どころを教えてください。

藤田「やっぱり生の植物を使って舞台を作っているところ! 初めて聞いたときは想像ができなかったんですけど、実際の舞台を見て、これはすごいと思いました。それは他にはないことですし、一番魅力だなと思います。
 『人魚姫』に出演した時も、観に来てくださったファンの方や知り合いの方が“新鮮だった”と言ってくれましたし、“植物があるから世界にすっと入り込めた”とも言ってくれました」

田野「そうですね、植物は絶対ノックノックスは語るうえでは欠かせない要素ですよね『人魚姫』の時はわざわざ海のゴミを持ってきてくれたり、『おぉーい。』だったら枯れ葉を取り入れたり。綺麗なものだけではない、自然が舞台にあるんです。作られた植物の木を置くのとはわけが違って、リアルに生きて朽ちていくことを感じられる舞台です。
 プラス生演奏も魅力的。役者の呼吸にミュージシャンも合わせてくれますし、役者にとっては贅沢な空間だなといつも思っています」

―――「生」へのこだわりはどこから。

ヤストミ「僕が自然と植物が好きというところが出発点なんですけど、まぁ嘘がない方がいいと思ったんですよ。本物だったらいいなと思ったときに、今ガーデニングを担当してくれている柵山(直之)さんに出会って。劇団員になってもらって。以降一緒に舞台をつくっています
 生演奏に関してもそう。人間が生でやっていることなので、毎回呼吸の間やセリフの尺によって、1秒とか2秒変わるってことがあるかもしれないのに、CDで音楽を流していたら、それにうまく対応できない。それが好きじゃないんです。
 演劇ってポータブルにできないので、その場に行ってやるしかない。それが強みでもあると思うし、どうせならその空間に偽物がない方がいいなと思ってやっています」

―――中学生以下入場無料というのも特徴的ですよね。

ヤストミ「僕が育ってきた環境がそうなだけかもしれないですけど、子どもの頃、あんまりお芝居を観る機会がなかったなと思って。それこそヒーローショーや人形劇は確かにあるんですけど、意外と出会えないんですよ。子どもたちの最初の観劇体験って、お父さん・お母さんに連れて行ってもらうしかないんで、それならば子どもたちはタダの方がいいなと思って。それで子どもたちが『また観たい』と言ってくれたら、劇団としてもいいサイクルになると思うんです。子どもは未来ですから。どこまで裾野が広がるか分からないですけど、うちはそう信じてやっています」

―――最後に観客のみなさんにメッセージをお願いします!

ヤストミ「今回の作品では“みんなちがってみんないい”というテーマを掲げています。コロナ禍もあって、生きづらい世の中なんですけど、観て下さった方の肩の力がふっと抜けるような作品になるといいなと思っています」

藤田「コロナ禍でネガティブな気持ちになることが多いと思うんですけど、今回の作品はファンタジーで、現実からかけ離れている“かいじゅう”がいっぱい出てきますから、観ている間は日頃のことを忘れられると思います。
 思い切りこの世界観に浸ってもらって、楽しんでもらえたら。観終わった後に、心が軽くなったり、楽しかったと思ってもらえたりしたら、それが一番嬉しいです。ぜひ現実逃避をしに来てください」

田野「今回はノックノックスの中でも、小さいお子さんでも楽しんでもらえるような、明るく楽しい作品になると思っています。難しいこと考えず、現実逃避して、楽しんでもらいつつ、家に帰ったら、反抗期だった男の子が『お母さん、ありがとう』とか言っちゃうような、そんな芝居になればいいなと思います。ぜひ観に来てください」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

ヤストミフルタ
1983年5月10日生まれ、東京都出身の愛知県育ち。
作家・演出家・作曲家。専門学校を卒業後、ミュージシャンを経て演劇の世界へ。舞台の脚本を書き、演出し、また自身も俳優として舞台に立つようになる。ケーブルテレビ制作のショートドラマの脚本や舞台作品をいくつか創作したのちノックノックスを立ち上げ、以降すべての作品の作・演出を担当。2016年より創作の拠点を愛知から東京へと移し、主に自然環境と家族をテーマに、大人から子どもまで楽しむことのできる舞台作品を精力的に創作している。

藤田奈那(ふじた・なな)
1996年12月28日生まれ、東京都出身。
2010年「AKB48 第10期研究生オーディション」に合格し、同年AKB48劇場デビュー。2015年9月「第6回AKB48グループ ソロシングル争奪じゃんけん大会」で優勝。ソロデビューすることが決定し、同年12月にシングル『右足エビデンス』でソロデビューした。2019年1月、AKB48を卒業。現在、舞台を中心に俳優として活動中。

田野聖子(たの・せいこ)
1971年5月4日生まれ、千葉県出身。
日本大学芸術学部映画学科入学後、劇団俳優座新人オーディションに合格し、千田是也の遺作となった『カラマーゾフの兄弟』リーザ役でデビュー。劇団俳優座に所属しながら、外部の舞台出演が多く、その他ドラマ、映画、吹き替えなど多方面で活躍。2018年、劇団俳優座を退団。現在、ACT JP エンターテイメントに所属し、活動を続けている。

公演情報

ノックノックス『かいじゅうのまち』

日:2021年12月10日(金)~19日(日)
場:CBGKシブゲキ!!
料:5,000円(全席指定・税込)
HP:https://knock-knocks.jp/
問:ノックノックスお問い合わせフォーム https://knock-knocks.jp/contact

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