大人の麦茶 ラストオーダーは、演劇に夢中だった“あの頃”の作品で 前作の好演が光る奥谷知弘と、舞台の活躍めざましい山岸理子を迎えた、珠玉の一杯

 演劇の脚本・演出をするかたわら、多くのCF(コマーシャル・フィルム)や広告イベントを手がけてきた塩田泰造が主宰する、劇団「大人の麦茶」。2002年に旗揚げし、塩田の脚本・演出作品を上演し続けてきた通称“オトムギ”が、この4月に、遂にラストオーダーを迎える。
 最後の一杯に選んだのはこれまでに何度か再演を重ねてきた『ネムレナイト』。今回は今年の30.5杯目公演『すいません、どうかしてました。』でも主役を務めた奥谷知弘と、アイドルグループ「つばきファクトリー」の初代リーダーとして活躍し、昨年のグループ卒業後は舞台女優として活動を展開する山岸理子を主演に迎え、脚本を大幅に改訂しての公演となる。
 作・演出の塩田と、主演の奥谷・山岸に話を聞いた。

―――ラストオーダーに新作ではなく『ネムレナイト』を選んだ理由を聞かせてください。

塩田「そうですね。最後は、自分が演劇に夢中で他のことを何も考えられなかった、がむしゃらだった時代の作品を、やりたくなったんです。
 この作品を書いた当時、僕は29歳で会社員でした。CFディレクターの師匠に師事していたのですが、この巨匠が凄く忙しいので、自分の自由になる時間がほとんど無い。それでも書きたくて書きたくて書いていた頃です。凄くやる気が満ちていました」

―――この作品は何度も再演をしてきていますね。

塩田「演劇は映画などの他の表現に比べ、よりスピード感があります。事件が起きれば、それをすぐに作品に取り込むことも出来る。だから常に時代と共にある“今”を映す作品を心がけてきました。大人の麦茶の作品は再演が少なかったのだけど、この作品は作品そのものが時代を超えた力を持っていると思い、今また取り組みたいと思いました」

―――山岸さんですが、塩田さんとは演劇女子部などの舞台で一緒されているようですね。

山岸「ハロプロ研修生からつばきファクトリーになって、その後に塩田さんにお会いました。『サンク ユー ベリー ベリー』に時の脚本を担当されて。だから演出をつけていただくのは初めてです」

塩田「山岸さんは妹が沢山いる苦学生で、バイトがあるから合唱部に出られないし、友だちも居なくてひとりぼっちという役柄でした。おでん屋さんでバイトしていて『おでんの歌』を歌うんですが、歌唱指導の先生から『もっとおでんの気持ちになって!』と指示が飛ぶんです。でもこの歌、実は書いた自分としては、友だちが欲しいという気持ちを歌った歌でした。そしたら、山岸さんも同じことを感じてくれていたことが、歌から伝わってきて、嬉しかったです。意志が強くて、自分の頭で考えている人だなあ、と頼もしさを感じたことを覚えています」

山岸「あの『おでんの歌』は周囲にも好評で、今でも歌われていますよ(笑)」

塩田「最後の公演にあたって、山岸さんの役柄にピッタリだと思い、お願いしました。実現することになって、有り難いです」

―――グループを卒業された後、舞台女優として活躍されてますね。

山岸「20歳を過ぎた頃から、25歳くらいからは新しいことをやりたいと思っていました。そしてお芝居が好きな自分がいたので、この道を選びました」

―――奥谷さんは前回公演から引き続きの登板ですね。しかも主役で。

奥谷「30.5杯目(前回公演)の時に、大人の麦茶が次回で最後だとは聞いていました。公演が終わってアリさん(大人の麦茶 岩田有弘)とやりとりしている中で、オファーをもらいつつ、僕からも『大人の麦茶が大好きになったので、最終公演に関われるなら関わりたい』とお願いしました。皆さん面白い方ばかりで、毎日ビールを飲み干してましたが(笑)。この作品に声をかけてもらえたのは、ご縁がご縁を呼んだということで、有り難いと思っています」

塩田「この公演は劇団員だった今川宇宙の脚本・演出で、自分は直接関わっていなかったのですが、稽古場で見学していて奥谷さんの芝居に熱くなりました。わからないまま、こなすのではない、真摯な力強さに打たれ、是非ご一緒したいと有弘に相談したんです」

―――幽霊と人間が織りなす物語だそうですが、お二人は……幽霊側ですね?

塩田「新人幽霊の都蘭(トラン)が山岸さん。先輩格の美治(ミハル)が奥谷さんです。都蘭は美治が好きで、その恋のゆくえが見所のひとつですね」

山岸「私にとって幽霊役は新しいので、とても愉快な舞台になりそうです。『美治!』って連呼するところがあって、本当に都蘭は美治が大好きなんだなと思いました。また歌もありますしね」

奥谷「今取りかかっている舞台では人より5倍不幸な男の役で、5人の妖怪(座敷童)と関わる脚本なんです。30.5杯目の時もオバケがらみだったので、オバケ系の作品が3作続くことになって、とても縁を感じています(笑)。芝居の途中に曲が入りますが、ミュージカル要素とコメディが混じる、今までやったことがないキャラクターですね」

―――塩田さんが持っているお二人への期待はどうですか。

塩田「期待感で一杯です。今はお二人を思い浮かべながら脚本を書いているので、現実とごっちゃになっていて、変な親近感が凄く湧いています。これまでの作風を踏襲するのではなく、お二人とちゃんと向かい合いたいです。どんな美治と都蘭になって物語を引っ張ってくれるかが楽しみです」

―――ところで、大人の麦茶メンバーは4チームに分かれていますが、劇団員は主役の幽霊ではないんですね。

塩田「さっきも申し上げたように、これは僕が29歳の時に書いた脚本で、今回も当時からの仲閒が出るわけですが、初演の時に20代だったメンバーは自分と同じだけ歳をとっているわけです。かといって年齢に合わせて書き直すのも限界がある。幽霊は亡くなった年齢で時が止まった姿で現れるという設定なので、歳を重ねた劇団員が演じるのは無理があるんです。その分、人間側の役で、円熟した多彩な演技を披露してもらいたいと思い、このような配役になりました」

―――奥谷さん、山岸さん。お二人のファンの皆さんからの反応はいかがですか。

奥谷「皆さんは再び大人の麦茶作品の主演を務めることに喜んで下さってます。それに前回公演で大人の麦茶ファンの皆さんにも認識してもらえたようで、そちらからもまた主演なんだという反応があり嬉しいです」

山岸「りこりこが出るの?って驚く人が多かったです。アップフロントと大人の麦茶は昔結構コラボしていたのですが、ファンの皆さんはそれを知っているので、この組み合わせを凄く喜んでくれています」

―――では皆さんの抱負を聞かせてください。

奥谷「歴史ある大人の麦茶のこれまで全てを知ることは出来ませんが、前回関わっただけで劇団の雰囲気や人の良さ、歴史や物語を感じたので、今回も関わる事が出来て嬉しいです。お芝居が大好きな皆さんの中に入れるのは有り難いです。皆さんの締めくくりであり、門出でもあるこの機会を良いものに出来るよう頑張りたいです」

山岸「私を選んで下さったことが嬉しいです。ラストオーダーになりますが、いらっしゃる皆さんには一杯ずつ、じっくり味わっていただいて、最後にはお腹いっぱいになってお帰りいただきたいですね」

塩田「奥谷さんにいただいた『門出』という言葉は、嬉しいです。一緒にやってきたメンバーにも、今後、更に活躍の場を広げて行ってほしいですから。そしてお二人から素敵なコメントをもらって、やる気が更に漲っています。
 劇場に入る前と出た後では違う気持ちになっている……そんな作品にして、有終の美を飾りたい。皆さま、どうぞ、期待して劇場にお越しください。御来場、心からお待ちしています。」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

奥谷知弘(おくたに・ちひろ)
埼玉県出身。テレビ朝日系列「BREAK OUT」や舞台『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』シリーズ、舞台『ジョーカー・ゲーム』シリーズなどで活躍。「Candy Boy」のメンバーとしても活動中。大人の麦茶 30.5杯目公演『すいません、どうかしてました。』では主演を務める。さらにtvk(テレビ神奈川)の情報バラエティ番組「猫のひたいほどワイド」には「猫の手も借り隊」のメンバーとして水曜日に出演。特技はバスケットボールや写真撮影。またアロマからコーヒー関連など多彩な資格を多数保持。

山岸理子(やまぎし・りこ)
千葉県出身。2012年にハロプロ研修生に加入。その後、2015年に「つばきファクトリー」を結成、リーダーに就任。アイドル活動と並行して演劇女子部などで『サンク ユー ベリー ベリー』、『気絶するほど愛してる!』、『続・11人いる!東の地平・西の永遠』など多くの舞台に出演。2023年、グループ卒業と共に舞台女優の道を進むことを表明。今年3月の『ブラック・ジャック』漫劇!! 手塚治虫 第5巻 The Fusion of Comics & Theaterではピノコ役で出演。

塩田泰造(しおた・たいぞう)
東京都出身。TV-CF(テレビ・コマーシャルフィルム)のディレクターとして多くの作品を手がけ、ACC賞や電通賞を受賞。並行して脚本家・演出家として自身の作品を上演する劇団「大人の麦茶」を旗揚げ、主宰として活動。最近では、函館港イルミナシオン映画祭2021 第25回シナリオ大賞において、グランプリを受賞している。

公演情報

大人の麦茶 ラストオーダー『ネムレナイト』

日:2024年4月10日(水)~21日(日)
場:下北沢 ザ・スズナリ
料:前売5,000円 当日5,500円
  U-30[30歳以下]4,000円
  学割3,000 円 ※要学生証提示
  (全席指定・税込)
HP:https://otomugi.amebaownd.com
問:大人の麦茶 mail:otomugi@gmail.com

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