話題作となったドラマ『全裸監督』の脚本や、映画『タイトル、拒絶』での監督・脚本作品で注目されている山田佳奈。昨今は映像分野での活躍が目立つが、自身で演劇ユニット「口字ック」を主宰する演劇人だ。
その口字ック15回目となる作品は、博物館などで目にする動物の剥製をつくる“剥製師”と、その家族を描いた物語。主演には、大人気バンド「ゲスの極み乙女」のドラマーでありながら、女優としても出演作が絶えないさとうほなみ(バンドでは、ほな・いこか)を迎えるほか、若手からベテランまで実に個性ある俳優たちが集められた。そんな新作について、山田に話を聞く。
―――剥製師の話は以前から暖めていたものとうかがいました。
山田「20代に縁があって剥製工房に足を運び、こうした職業については全く知識がなくて、お話をうかがいました。丁度手がけていた鶏の剥製を修復する作業で、色付けの工程を見せてくれました。
ちょっと褪せたニワトリのトサカに赤、足に黄色を足していたのですが、この時トサカの赤色が血の色だと初めて知り、『剥製は新たに命を吹き込むことだ』と聞いた話が、私の中で魚の骨のように引っかかっていました。
それ以来、いずれは剥製師の話が書きたいと思いましたが20代の私はそれをどう書いていいか解らず、でも今ならと思って書いたんです」
―――そして物語は家族の話ですね。
山田「そうですね、最近は選びがちなテーマかも知れませんが……狭い社会を描きたかった。大きな世界に対峙する何者かを書きたくて、それが家族という選択になっています」
―――――暖めていたということは、すんなりと書けたのでしょうか
山田「話を作るときはめちゃくちゃきつかったです。どういう話にするかが、プロットを書いている時点では見えていなくて。社会的な何かを孕みたいなとは思っていて、ちょうどSDG‘sが取り沙汰されていた時期だったので、動物の話を介してそこに触れてみようかと思ったら、この作品や自分が今作で言いたかったこととマッチングしなくて」
―――そこで方向転換ですね。
山田「今は人の善悪とかについて白黒付けなきゃいけない時代ですよね。でもそれに対して感じる生き辛さとか、社会と折り合いを付ける方法とか。それが作品の骨になると思ったら、目標が定まった気がしてきて」
―――「白黒付けないといけない」のは社会が、でしょうか、それとも年齢的な要素も含めたご自分が、ですか?
山田「どちらも、だと思います。自分自身は白黒付けられないタイプなのでよりそう思いますね。白黒ってある程度のルールに従って決めますよね。それはもう分かり易いから。でも私は白黒の背景まで考えてしまうんです。
例えば法律を犯していたら決着がすぐつきますが、そこに行き着くまでの白黒って凄く難しいと思うんです。さらに白黒をはっきり言える強さが求められても、言いたくともいえない弱い自分がいる。そんなハッキリしない自分がどうやって社会を渡っていけばいいか解らなくなり、考えこむことが相当に多かったんです。
結局答えは出ていないんですが、でも、自分にとってはこれでいいのかというものは見えてきた。私はジャーナリストでも記者でもなく『作家』なので、作品を通して描いていくのがいちばん良いのかなと思います。作品としてなら、受け取る人の想像力に頼れる部分がある。それぞれの解釈で落とし所を見つけてもらえるわけです。答えが出ないぐるぐるしたものを皆さんがどう捉えるかを、作品を通して問うてみたいと思いました」
―――キャストも実に個性的な面々が揃ったと思いますが。
山田「最近は自分だけの意思を通さないようにしています。自分が外で創作する機会が増えてきたせいもあると思いますが、まだ劇団員がいる時代も後半は自分の意見だけではなく、脚本も誰かに読んでもらうとか、周りの意見を貰うようになっていました。
だからキャスティングも、自分より詳しい人が居れば委ねたい気持ちが増えてきました。皆で舞台を作れるなら、そのアイデアを存分に活かしたい。その中には自分とは違う好みを持っている人もいるでしょうから。今回だと吉見一豊さん。新劇の世界との付き合いがない自分では思いつかないキャスティングで楽しみですよね」
―――主演は俳優としても注目度が上がっている、さとうほなみさんですね。
山田「私は音楽が好きだし、以前レコード会社にいたので、新しい才能には敏感だったんです。まだゲスの極み乙女がブレイクする前に、ほなみが主役のMVがあって凄く良くて、その後俳優として大成していきました。バンドのフロントでもないドラマーが、別の表現方法に飛び込んで結果を出すというのは格好いいし、どんな人か興味があったので、今回お願いしました。役と俳優の出逢いもご縁なんだと思います」
―――そうなると俳優を予想して脚本を書かれたわけではないんですね。
山田「よくあて書きかと言われるんですが、私は一切したことがなくて。むしろしてみたいですね」
―――脚本家・演出家の2つの役割をされるわけですが、その2つは別人格ですか?
山田「別ですね。全然違います。だって演出が始まる頃には脚本家の仕事は終わっていますから。
あんなに一字一句拘って考えたのに、稽古に入るとガンガン変えますからね(笑)」
―――そこをまとめてしまって、いっそ口立てで創る手もあるんじゃないですか?
山田「いつかやってみたいですが、そもそも私にはその才能はないですね。不安だから脚本を書きますし、演出家として動揺して時間を無駄にしたくない。演出家は先頭を走るイメージですから。
こういう職業の人って過去に弱い自分に向き合ってきた人だと思います。私もそのタイプで、でもリーダーシップをとらないとイケないという正義感はある。そのための準備で台本を書いている気がします。
―――ところで山田さんのプロフィールを拝見すると、どのプロフィールにも「レコード会社のプロモーター」という前職が出てきます。前職が俳優の方が多いイメージですが、必ず「レコード会社のプロモーター」と出てくるのはまた珍しい。そう記すように指定しているんですか?
山田「そんなことはないですが、面白くないですか?(笑)。こういう経緯の人はきっといないんですよ。私はJ-POPの担当でした。あの仕事に愛着があったから、今も残しているんでしょう。
レコード会社の会社員は辞めたくなかったのですが、でも中学・高校でやっていた演劇を、またやりたい気持ちが出てきてしまったので。会社員時代は寝ずに営業行ったりしていて大変でしたが、自分の頑張りがアーティストを後押しできる場所だったので面白かったですね。
でも24歳の時に演劇をもう一度と思ってしまったんです。3年でダメなら止めてレコード会社に戻ろうと思っていたのだけど、周りが思いのほか応援してくれて、かっこ悪い真似はできないと思って続いてます。当時の上司なんか今でも作品観に来てくれていますから」
―――良い繋がりですね。
山田「ぜんぶご縁だなと思います。私にはいつも身の丈よりもちょっと高いものが来ることが多くて、それをはったりでやっていると、才能や技術のなさに苦しむんですが、それを越えると出来る事が増えている。期待を掛けて貰っているわけですね」
―――ではファンや読者に向けてのメッセージをいただきます。
山田「この質問はいつも悩むんですよ。だって『是非観に来てください』としか言い様がないんですけど、時代的にそれが言いにくい。チケット代って高いじゃないですか。映画だって高い気がするんだから、演劇は“バカ髙い”と思われても仕方がない。景気は戻らないし主婦が美容室に行くことも憚られてしまう時代ですから。
私は自分が描いているような生きにくい人たちに観て欲しいし、恵まれない環境で育ち闇のようなものを抱える人が、1番多感な時期に出会うべき作品になれればいい。観ることで一助になれば良いと思うのだけど、現実にはこのくらいの価格設定は必要になってくる。
だから『観に来てください』は私は言いません。でも観てもらう以上、社会で生きる人間として感じるしんどさを理解してあげられる場所の1つになっていれば良いし、それを求めて勇気が湧くなら、是非出会ってほしいと思います」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
山田佳奈(やまだ・かな)
神奈川県出身。中学・高校で演劇に親しむが、専門学校を卒業後はレコード会社に就職。J-POP担当として勤務するが、24歳の時に演劇を再び志して退職。2010年に「□字ック」を旗揚げ。脚本・演出・選曲を担当する。また映画脚本・監督も手がけるほか、ネット配信ドラマで話題となった『全裸監督』の脚本を担当する。
公演情報
□字ック 第十五回 本公演『剥愛』
日:2023年11月10日(金)~19日(日)
※他、愛知・大阪公演あり
場:シアタートラム
料:一般7,000円
U24[24歳以下・枚数限定]3,500円
高校生以下2,000円 ※要身分証明書提示
(全席指定・税込)
HP:http://www.roji649.com/hakuai/
問:ナッポス・ユナイテッド
mail:support@napposunited.com