2021年上演『オーレリアンの兄妹』が第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選ばれるなど、観る者を虜にしてきた小沢道成主宰「EPOCH MAN」の最新作が8月に上演される。
本作は得意としてきた一人~二人芝居から、実力派俳優の池谷のぶえ、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろーを迎え、“宇宙”、“死”というテーマを最新ギミックを用いて小劇場表現の限界に挑む。作品を代表して、小沢道成と池谷のぶえに話を聞いた。
小沢さんは演劇界の中島みゆき!?
―――おふたりの出会いについてお伺いしたいです。
小沢「俳優の森下亮さんのイベントで2021年に初めてお会いしましたが、僕はもちろん一方的に存じ上げておりました。のぶえさんが『鶴かもしれない2022』を観にきてくださって、その(感想の)ツイートで『今後演劇界の中島みゆきさんと呼ぼう』と書いてくださって、これは好印象に違いない!と(笑)。
昔からのぶえさんには勝手に親近感を感じていたのと、一緒にやりたかった気持ちがあったので、今がその機会じゃないかなと。森下さんが繋げてくださったご縁ですね」
池谷「もちろん私も存じ上げてはいまして、森下さんのイベント帰りに方向が一緒だったんですね。初めてお会いしたのに、小沢さんからいきなり恋愛相談を受けるという」
一同「(爆笑)」
池谷「面白い出会いです。そして観劇を通してまた更に距離が縮まり、とても興味深い方という印象ですね」
―――それからこの新作につながるのですね。本作が生まれたきっかけなどをお聞かせください。
小沢「僕はナショナル・シアター・ライブ(※英国で上演された話題の舞台を世界の映画館で気軽に観劇できる上映イベント)が大好きで、日本ではなかなか観られない良質な舞台が破格の値段で見られるということが素晴らしいし、あんな演劇を作りたいと常日頃思っていて。
今回もその意識が強いのと、それが出来るかもしれない色んな出会いが重なったことがきっかけですね。LEDディスプレイを壁一面に置くことができるのも、パペットを作っていただくことが出来るのも、全てが出会いのおかげで、“やりたいこと”と“やれるタイミング”が合わさったのが今だった、という状態です。
僕は考えることと楽しめることが混ざった演劇が大好きなんですけど、最近出会ってなくて。これだけ実力を持った信頼する俳優さんにも集まっていただいたので、“こんな演劇久しぶりに観たなぁ!”と、そんな感覚になってもらえるような作品を創りたいと思っています」
―――過去どの作品も“楽しませよう”の想いが伝わる作品ばかりだと思いました。池谷さんに伺いますが、台本を手にした時の印象は?
池谷「小沢さんの作品を2本しか見ていないのですが、台本としていただくのは初めてで、しかもこの人数の作品は初めてだと思います。キャラクターのひとりひとりがとても愛おしくて、ちょっと変てこな人たちがロードムービーのように出てきて、こんなにたくさんの人の物語を書ける方なんだと、それが第一印象ですね。
だからこれからどんどんお仕事が来ちゃう! 絶対にそうなると思いました。その時はまた私も出演させてもらわないと(笑)。皆さんと素敵な作品を創りたいと思いました」
―――独り語りがたくさんあるそうですね。
池谷「ありますね(笑)。小沢さんも大変だったらおっしゃってくださいと気を遣ってくださって。ただ一人芝居をやっていらっしゃる方にそんなこと言えないと思って(笑)」
これは大人の人が子供を演じるものではないなって
―――今回は完全新作として、様々な初めてが詰まった作品になると思います。過去に小沢さんは女性役も多く演じられてきて、今回はパペット(人形)である少年・星太郎(しょうたろう)を動かしながら演じると伺いました。
パペットである理由・意味をとても想像してしまいます。なぜ今回はパペットだったのでしょうか?
小沢「女性が男性を演じることや男性が女性を演じる、大人が子供を演じるという演劇のスタイルが大好きな人間で、それこそがまさにザ・演劇だなって思うんです。
ただ、今回の台本を書きながら、これは大人の人が子供を演じるものではないな、という感覚がどこかにあって。設定としては無口な少年にしようとは思っていました。喋らないからといって頭の中で何も考えていないことではないから、むしろ頭の中で伝えられない想いというか、思考が巡りまくっている人ってたくさんいると思うんです。
それを象徴した形が僕の中でパペットだったんです。命が宿っていない物に対して、登場人物の5人がみんなキュッと重力に引き寄せられるように集まっていく。それが何故なのか。何かしらお客様に届くのではないかと期待しています」
―――お話を聞いているだけでゾクゾク、ワクワクします。パペットはどう動かしていくのでしょうか?
小沢「実際の子供の身長に似た100㎝位の大きさで、糸は無く人間が手で動かすことにこだわっています。ちゃんと肌と肌が触れ合っている状態といいますか。チラシにもこの子がいますが、この子の演技力が凄くて」
池谷「写真だけでもインパクトがありますよね」
―――パペットとのお芝居について、いかがでしょうか。
池谷「パペットさんは初ですね。本格的な稽古はこれからですが、息子として対峙した時これからどんな気持ちになるのか自分でも未知の世界です。このお話の中で星がたくさん出てくるのですが、人間も星の様にも思えたり、色んなことを感じるのかもしれないと思っています。稽古が楽しみです」
一筋縄ではいかないキャラクターを描いてくださって嬉しい
―――役どころについて伺います。
星太郎はいなくなった父を探してさまよいます。この少年の行動や感情は、子供の頃に胸に秘めていた死生観を思い出しましたし、共感する方もいるのではと思いました。
この少年は過去の小沢さんなのでしょうか?
小沢「星太郎に限らず、今回登場する人物たちはみんな僕が持っている感情ではあります。ただ一番自分に近いのは、母親の陽子(ようこ)さんかなと。心配になってしまう気持ちだったり、勝手に被害妄想でいっぱいいっぱいになってしまったり。他の人物もそうですが、きっと誰かに共感できると思います」
―――星太郎の母として、共感する部分はありますか?
池谷「陽子さんが星太郎を追って物語が進んでいきますが、普通の演劇だったら女優さんが気持ちよくやれそうなドラマチックさ、そういう要素があるのかなと思いますが、私はこの作品では逆にないと感じて(笑)。でもそれが凄いと思ったんです。よくそう書けるなって。たぶんお客様は私の役にはあまり共感ができないかもしれないなと」
小沢「確かに(笑)。ただ最後には(母親と)同じような気持ちになってもらえたら嬉しいですね」
池谷「そうですね、最後はそこに着地しないと、とは思っていますが、途中は共感できないと思うんです。周りの人たちのセリフがとても素敵で、そこに共感していく構成になっていて、それが面白いし、それをどう演じようかといま考えている所です。この人を好きにはなりづらいだろうけど、とても人間らしくて、みんなが持っている部分があって、挑戦し甲斐がある役どころです」
小沢「そういうのぶえさんを見たかったんです!」
池谷「一筋縄ではいかないキャラクターを描いてくださって嬉しいです」
―――こうはなりたくないけどなってしまう母親像を先に見せられるザワザワ感と言いますか……
池谷「そうですね、自分にもある部分だけど見せたくない部分ですよね。でも陽子さんはそれが漏れてしまうくらい大変だという事なんでしょうね」
トップクリエイターによるこだわりの世界観に期待
―――小沢さんによる演出と美術、映像には新保瑛加氏、音楽にはオレノグラフィティ氏、下司尚実氏のステージングなどトップクリエイターたちのコラボレーションも大きな見どころです。
小沢「みんな演劇が好きな方々ばかり。面白いものを作りたいという気持ちを持つ、とても素敵なメンバーが揃ったので楽しみです。
僕が10代の時に観た演劇で印象に残っているのが、劇団四季の『キャッツ』と、NODA・MAP『オイル』なんです。猫が客席に来た!とか、装置が動いた!とか、その瞬間子供ながらに凄いとかキラキラしているとかとても感情が動いたんです。心が動いた時のその景色が今でも記憶に残ってる。
そういう舞台を創りたいので、純粋に僕の目標としては、どれだけ心が動く瞬間をご用意できるか。そういった意味でも、映像や音楽やステージングが今回は特に大事になってくると思います。小劇場でもこんなことができるんだと、楽しんでもらえたら嬉しいです」
池谷「台本として言葉たちがとても素晴らしくて、台本が読み物としてとても素敵なんです。たぶん不変的な事を主軸にしているから、きっと『鶴かもしれない』みたいにどんどん発展していく、熟成していく作品になるのではと予感がします。その土台となる初演にたずさわれることがとても嬉しいです。きっとお客さまは誰かの言葉が刺さるとか、そんな瞬間がたくさんあるのではと思っています」
小沢「お友達にオススメしたくなるような作品を作れるよう、みんなで頑張ります。劇場でお会いしましょう」
(取材・文&撮影:谷中理音)
プロフィール
池谷のぶえ(いけたに・のぶえ)
5月22日生まれ、茨城県出身。1994年、劇団「猫ニャー」(後「演劇弁当猫ニャー」)の旗揚げから解散まで参加。2020年に、パルコ劇場1オープニング・シリーズ“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』にて、第28回読売演劇大賞 優秀女優賞を受賞。舞台にとどまらずドラマや映画に活躍の場を広げている。近作に、舞台『外の道』、『重要物語』、『帰ってきたマイ・ブラザー』、映画『銀河鉄道の父』、TVドラマ『妖怪シェアハウス』など。紅子役を務める、TVアニメ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』が現在放送中。
小沢道成(おざわ・みちなり)
1985年10月17日生まれ、京都出身。脚本家・演出家・俳優。鴻上尚史主宰「虚構の劇団」の主メンバーとして全公演に出演。主宰する「EPOCH MAN」では出演のほか、脚本・演出・美術・企画制作なども手がける。2021年上演『オーレリアンの兄妹』が第66回岸田國士戯曲賞 最終候補作品に選出。2022年に本多劇場で上演した一人芝居『鶴かもしれない2022』では1,300人を動員。脚本・演出作に、DMMTV 2.5次元的世界 言劇『仔狸綺譚』、THE RAMPAGE・陣一人芝居『Slip Skid』など。俳優としても、いのうえひでのり、小林顕作、中屋敷法仁、根本宗子、杉原邦生など数多くの演出家の舞台に出演。
EPOCH MAN
俳優・小沢道成が、2013年から始めた演劇プロジェクト。人の心の中をえぐり出すような作風と、繊細かつ粘り気がありながらスピード感ある演出が特徴のひとつ。問題を抱えた人物が前進しようとした時に生まれる障害や苦悩を丁寧に描きつつも、演劇ならではの手法で会場を笑いに誘う。
公演情報
EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』
日:2023年8月2日(水)~13日(日)
場:新宿シアタートップス
料:5,500円 U22チケット[22歳以下]2,500円
※要年齢証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://epochman.com/uchu2023.html
問:EPOCH MAN
mail:epochman.info@gmail.com