演劇ユニット「ピンク・リバティ」による1年半ぶりの新作 「さみしくも美しい家族劇」喪失に苦しむ家族に訪れた幻想的な夏の一幕を描く

 俳優であり、劇作家・演出家、映像監督としても活動する山西竜矢が主宰する演劇ユニット「ピンク・リバティ」が1年半ぶりとなる新作公演『点滅する女』を上演。
 舞台は初夏、緑眩しい山あいの田舎町。父、母、兄と共に実家の工務店で暮らす田村鈴子は、家族の間にある静かな歪みに悩んでいた。表面的には仲の良い田村家だったが、実は5年前、家族の中心だった長女・千鶴が亡くなってから、その関係がどこかおかしくなっていたのだ。ある昼下がり、1人の見知らぬ女が、田村家を訪れ、「千鶴さんの霊に、取り憑かれてまして」と告げる――。
 喪失に苦しむ家族に訪れた幻想的な夏の一幕を、ブラック・ユーモアを交えて軽妙に描き出す、さみしくも美しい家族劇。作・演出を手掛ける山西に話を聞いた。

―――今回の新作公演、脚本の着想はどこにあったのですか? 本作を書かれたきっかけを教えてください。

 「そうですね。今回は家族の話なんですけど、僕が今33歳で、ようやくちょっと社会性を帯びてきたというか。ここ数年で、自分の環境が変わったり、いろんな変化があったりして、『社会に出てるな、自分』という実感を、以前より感じるようになりました。そういう変化を経て、家族との関わりが純粋に増えてきたんでしょうね。今までやってこなかったんですけど、それを軸に据えた作品を作りたい気持ちになったんです。昔は『家族の話をやりたい』という気持ちがなかったですから」

―――脚本を読むと、亡くなった長女の霊に取り憑かれた見知らぬ女が出てきますよね。この設定もすぐ思いつかれたんですか?

 「そうですね。ピンク・リバティでは、こういう飛んだ設定をよくやっています。『家族の話』というのが根っこではあったんですけど、ほとんど同じぐらいのタイミングで『家族を語るときにどう語るか』を考えて、外部からの不条理、訳の分からない刺激によって家族という共同体の内臓が見えるような話がいいのかなと思って……最終的に『死んだ長女の霊が取り憑いている女性』みたいなキャラクターを思いついたのではないかなと思います」

―――ご自身にそういう経験があるのですか……?

 「幽霊ですか? ないです、ないです(笑)。でも幽霊って、すごく面白いですよね。あり得ない事象が物語に入ってきたときの方が、人間が相対的にはっきり見えるような気がして。人間模様を描くときに、SFっぽい要素とか不条理を入れるのが好きなんだと思います。前作の『とりわけ眺めの悪い部屋』も幽霊の物語でしたし、最近は個人的に幽霊ブームが来てるのかもしれません(笑)。
 あと、付け加えると、姉は亡くなっているので、実態はない。今回出てくるのは姉が取り憑いた他人だけです。そういう、実態の曖昧なものによって、実態があぶり出されるというか…..そういうところに面白みを感じて、この設定になったんだと思います」

―――今回は東京芸術劇場 シアターイーストでの公演ですね。

 「はい、嬉しいです。劇場のサイズによって、制約というか自由度が異なりますので、もちろん大きければ大きいほどいいというわけでもないと思うんですけど、今回は今までやってた箱(劇場)のサイズではできなかった演出ができると思うので、純粋に楽しみですね」

―――演出面の見どころを明かせる範囲で教えてください。

 「『蛍』かなと思います。僕の作品は、ライティングが割と強く押し出されていることが多くて。画作りみたいな意識があるんです。それで映画を撮ったりもしているんだと思うんですが。毎回、軸となる照明プランが立てられそうな、キーショットのようなシーンがある脚本を自然と書いている気がします。
 前回は、窓の外からカラオケの光が入ってくる画が軸で、さらに前だと夕焼けの中で殺人が行われる画がベースになっていたり、明かりのプランが脚本の時点で埋め込まれてることが多いんです。
 今回でいうと蛍の光が中心にあるイメージで、僕自身が楽しみに思っている演出的な情景です」

―――今回のキャストについてはいかがですか?

 「本当に素敵なメンバーだと思っています。自分の場合、セリフはキャストに合わせて当て書きで書いています。あまり自分の才能に自信のある方ではないのですが、キャスティングだけはいつもいいなと思っています。『このキャストさんと自分の作品は絶対相性がいい』とか『この座組だったら、絶対素敵なグルーヴ感になる』とか、そういう予想があまり外れたことがない気がする。今回も本当に、ピンク・リバティに合う素敵な役者さんたちに恵まれたなと」

―――改めてユニットについて聞かせてください。「ピンク・リバティ」という名前の由来は?

 「最初は『エロティックコメディをやります』みたいなことを謳っていて、いや、今や全然そんな感じじゃないんですが(笑)。そのエロティックな部分が出てる名前ということで『ピンク』をまずはじめに入れようと思ったんですね。
 でも下の句が思いつかないなと思って、所属していた劇団子供鉅人の主宰の益山(貴司)さんに『下の句、なんかいいのないですか?』と言ったら、『リバディでええんちゃう?』と言われて(笑)。意味は分からなかったのですが、響きが素敵だなと思い、そのまま命名しました」

―――山西さんは俳優としてもキャリアを積みながら、ユニットを立ち上げ、映像も撮られていますよね。ご自身としては何か棲み分けはあるのですか? 自然とそうなられたのか、何か目指しているものがあるのでしょうか?

 「最近、肩書きが多くなってきて、肩書きのスラッシュがいっぱい入っていて、ちょっと気持ち悪いんです(笑)。真ん中にあるのは、自分の思想や美学を物語みたいなものにのせて発信したいという想いだと思います。今いろいろとやっているのも、マルチアーティストになりたいというわけではなくて、発信の形式を色々探っていくうちに、自然とそうなったという感じなんです。映像には映像にしかない良さ、舞台には舞台にしかない良さがあって、今の時点では僕にとってどちらも必要なものだと思っています」

―――では、最後にお客様へのメッセージをお願いします。

 「最近、色んなことが苦しいじゃないですか。コロナもそうですし、景気も悪いし、みんなしんどい。そういう中で、生活の癒しになる作品というか、笑って泣けて観てよかったと思える作品に真っ直ぐ取り組んでみたいと思ったんです。
 どなたでも楽しめる作品になっているんじゃないかなと思うので、ぜひ劇場へ観に来ていただけたらなと思います。ご来場、お待ちしております」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

山西竜矢(やまにし・たつや)
1989年生まれ、香川県出身。同志社大学法学部卒。俳優としてキャリアを重ねる傍ら、脚本・演出について独学で学び、2016年に演劇ユニット「ピンク・リバティ」を旗揚げ。近年は映像作品も手掛け、2021年には初の長編映画『彼女来来』で若手映画監督の登竜門「MOOSIC LAB」にて準グランプリ含む三冠を達成したほか、北米最大の日本映画祭「JAPAN CUTS」で新人部門最高賞の「大林賞」を受賞するなど、高い評価を得る。その後も長久允監督・森田剛氏主演の短編映画『DEATH DAYS』のメイキングドキュメンタリー『生まれゆく日々』の監督・構成、ドラマ『今夜すきやきだよ』の脚本を担当するなど、ジャンルの垣根を越え精力的に活動している。

公演情報

ピンク・リバティ新作公演
『点滅する女』

日:2023年6月14日(水)~25日(日)
場:東京芸術劇場 シアターイースト
料:4,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://pinkliberty.net/flashing-woman/
問:ピンク・リバティ
  mail:kodomo.pinkliberty@gmail.com

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