東京バレエ団の十八番で、ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』。注目の集まる5月の公演では、秋山瑛・中島映理子と共に、足立真里亜がジゼルを務める。
「1幕と2幕の雰囲気がガラリと変わるというのが大きな特徴の演目です。1幕では、村人たちが収穫を喜びお祭り騒ぎをするというような、“命が散りばめられている明るい世界”が広がります。しかし、2幕では一転して“死の世界”へと移り、精霊・ウィリたちが踊ります。精霊とはいっても、『ジゼル』の精霊たちは哀しみや苦しみを持った存在です。それぞれの幕の体感温度の違いがこの作品の魅力だと思います」
足立がジゼルを踊るのは今回が初めてとなる。ジゼルに対する想いとは―― 。 「ウィリたちが拒絶して、命を奪おうとしているアルブレヒトをジゼルだけは許すのですが、それはまだ愛を諦めていないから。とても悲劇的ですが、彼女は命を落として肉体がなくなった後に愛を知ったのだと思います。ですので、彼女を演じるときは、体温はなくとも魂の温度はなくしてはいけないと思っています」
さらに足立は、「私にとって、『ジゼル』は大きな課題」と話す。 「今回、芸術監督から『今、あなたがやるべき、取り組むべきだ』と言っていただいて出演が決まりました。きっとこの年齢、このキャリアでジゼルに挑むことに意味があるんだと感じています。これは私の人生のターニングポイントの1つになると思います。ぜひ全身全霊で踊るジゼルを観ていただきたいです」
2022年秋には、文化庁芸術祭において『ラ・バヤデール』で大賞を受賞し、バレエ・ブランの群舞が高い評価を得た東京バレエ団だけに、『ジゼル』においても、コール・ド・バレエの一糸乱れぬ踊りは大きな見どころの1つだ。
「1ミリの狂いもない、均整の取れた精霊の動きには、冷たさが感じられると思います。思わず背筋が伸びてしまうような、ピリッとした空気はきっと客席にも伝わり、作品の世界観を伝えられるのではないでしょうか」
7月にはこの『ジゼル』を携え、コロナ禍以後中止を余儀なくされていたオーストラリア公演も予定されている東京バレエ団。3人のダンサーが紡ぐ、ジゼルの至高の愛を堪能してもらいたい。
(取材・文:嶋田真己 撮影:山本一人(平賀スクエア))
プロフィール
足立真里亜(あだち・まりあ)
千葉県出身。3歳よりバレエを始める。2015年、東京バレエ団に入団。同年6月、『ラ・バヤデール』で初舞台を踏む。2022年4月にソリストに昇進した。主なレパートリーに、ブルメイステル版『白鳥の湖』(四羽の白鳥/ パ・ド・カトル/ ナポリ)、『ドン・キホーテ』(キューピッド/ 4人のドリアード)、『くるみ割り人形』(フランス)、『ラ・バヤデール』(パ・ダクシオン/「影の王国」第1 ヴァリエーション)、『海賊』(オダリスクのヴァリエーション1/ 海賊の女性たち/ 薔薇)、『ジゼル』(パ・ド・ユイット)などがある。バレエ団初演作品に、2017年『パリの炎』(パ・ド・ドゥ)、2018年バランシン『セレナーデ』、2018年『アルレキナーダ』(パ・ド・ドゥ)、2019年『くるみ割り人形』(フランス)、2021年、世界初演の金森穣『かぐや姫』第1幕のかぐや姫などがある。
公演情報
東京バレエ団 ジゼル 全2幕
日:2023年5月19日(金)~21日(日)
場:東京文化会館 大ホール
料:S席13,000円 A席11,000円 B席9,000円
※他、各種席種あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.nbs.or.jp/
問:NBSチケットセンター tel.03-3791-8888(平日10:00~16:00/土日祝休)