知れば知るほど面白くなる、能の魅力を発信したい シテ方能楽師佐野登× S A M 。強力タッグで長い伝統を未来へつなぐ

 宝生流能楽師シテ方 佐野登の主催で2016年に始まり、5度目の開催を迎える『未来につながる伝統』能公演。トークのゲストに登場するSAMは3年ぶり2度目の出演で、宝生流とは浅からぬ縁があるという。

SAM「実は家系図を辿ると遠縁にワキ方下掛り宝生流の能楽師がいたことがわかって――。とてもそんな血が流れているとは思えないんですけどね(笑)」

佐野「ご縁を感じますよね。僕らは同世代で高校時代はディスコ全盛期。お話していると“あそこ行ってたよね”と共通の話題が沢山あって(笑)」

 前回の出演をきっかけに、SAMは佐野登に入門。稽古を始めて半年後、早くも初舞台を踏んでいる。

SAM「最初はわからないことだらけ。すり足がまずできないし、間の取り方も難しい。何をどうしたらいいのかと、この年になってダンス初心者の気持ちを知りました(笑)」

佐野「すり足で苦労していた時は、“ムーンウォークできますよね、その逆です”とお話しました(笑)。学びの基本は指導者を真似ることで、そこはやはり上手いなと感心します」

 今回演目には名作能『安宅』を用意。弁慶役の佐野のほか、野村萬斎、宝生和英ら、豪華役者が一堂に会す。

佐野「今回は普通の能ではありえないくらい役者が出ます(笑)。『安宅』は義経と弁慶の物語ですが、その主従関係を中心に、生きた人間のドラマを描けたらと考えています」

 また野村萬斎はトークにも参加。能、狂言、ストリート・ダンスと異ジャンルの三者が集い伝統芸能の魅力を語る。

SAM「ストリート・ダンスの動きはひねくれていて、あえて体を不自然に使うことで技を見せたりもする。だけど能の動きは体にとって合理的でムダがない。なるほどと思うことが多く、知れば知るほど面白くなる。初めて能を観る人も知ることで楽しくなることは沢山あると思うし、僕もどんどん発信していきたいですね」

佐野「能は何百年も続いてて、先人がいたから今がある。でも昔と同じ言い方をしてたら伝わらずに終わってしまう。僕らがすべきは、今の人たちにわかってもらう工夫をすること。SAMさんは能の頼もしい理解者であり、身体表現は違えど共通する何かは必ずあって。こうして共にメッセージを伝えることで、次の時代に繋げていけたらと思っています」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:間野真由美)


そろそろ寒くなり始める季節。冬に向けて準備していること、楽しみにしていることはありますか?

佐野 登さん
「温かな鍋料理でおいしいお酒が飲めるかな」

SAMさん
「アウターを買うこと」

プロフィール

佐野 登(さの・のぼる)
東京都出身。宝生流能楽師シテ方。重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。18 代宗家宝生英雄に師事。全国各地での演能活動、謡曲・仕舞を指導。「生きる力」をテーマに学校・幼児教育における次世代育成の日本の伝統・文化理解、体験型プログラムや授業を実施。教員・教育関係者への講演も多数行う。海外公演への参加や中島みゆき『夜会』出演をはじめ、他ジャンルのアーティストとの交流も多く、現代に活きる能楽を目指し、積極的に活動をしている。

SAM(さむ)
ダンスクリエーター、ダンサー。15 歳で初めてDANCE のおもしろさを知る。単身NY へダンス留学。クラシックバレエやジャズダンスの基礎を学ぶ一方、ストリート・ダンス、ハウス・ダンスなどを修得。TRFコンサートのステージング構成、コリオグラフの他、SMAP、東方神起、BoA、V6 その他多数のアーティストの振付、コンサートプロデュースを行いダンスクリエーターとして幅広く活躍。また、ダンスイベントのオーガナイザーや新人アーティストのプロデュースを行う。

公演情報

「未来につながる伝統」能公演

日:2021年12月19日(日)15:30開演(14:30開場) 場:宝生能楽堂
料:S席[正面]10,000円 A席[脇正面]8,000円
  B席[中正面]7,000円
  自由席5,000円 学生3,000円(税込)
HP:https://www.nohgaku.jp/
問:一般社団法人日本能楽謡隊協会
  mail:shihoukai202@gmail.com

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