初演から15年目、あの家族が帰ってくる! 「馬鹿馬鹿しさの中にも普遍性がある、お気に入りの一作」

 2008年に上演された『なるべく派手な服を着る』は、これまで数多くの作品を生み出してきた劇作家・土田英生にとっても、少々特別な作品だという。「人間関係も含めて劇団の表現」というMONOの信条、そして初演から経た年月は、作品にどんな新しい息吹を吹き込むのか。

―――今回の『なるべく派手な服を着る』は、2008年初演の作品を再創作したものとのことですが、数多くある作品の中で、この作品を選んだ理由を教えてください。

 「長い間劇作家をやっていると、台本を書く上でのパターンが固まってしまうんですが、この作品は少し違った角度から書けました。これを書く少し前の数年間、新作が書けなくなって悩んでいたんですが、これは設定もいきなり浮かび、書き始めてからも頭をあまり使わず、指先が勝手に動いた記憶が残っています。馬鹿馬鹿しさの中に普遍性もあるし、簡単にいえばお気に入りの一作なんです。だからずっと再演したいと思ってました」

―――どことなく哀愁とユーモアが漂う『なるべく派手な服を着る』というタイトルですが、このタイトルはどのように決まったのでしょうか。タイトルに込めた思いなどありましたら教えてください。

 「これもそうですけど、私は文章になっているタイトルが好きなんですね。毎回、100個近くタイトルを考えてしっくりくるものを探すんです。
 このときも、いくつも候補を挙げたのですが、比較的候補が少なかったように思います。いきなり決まったというか。話の内容に沿っているタイトルなんですが『存在感がないことに悩む登場人物が、目立とうと派手な服を着ている』というところからこのタイトルになっています」

―――再演だからこその難しさのようなものはありますか? また、再演だからこそやってみたいこと、挑戦してみたいことなどはあるでしょうか。

 「再演の難しさは記憶との闘いですね。身体は意外に覚えているんです。ですから新しいことをやる難しさはあります。けれど、そこに挑戦したいとは思っています」

―――2008年、例えばスマートフォンもまだまだ普及していなかったり、もちろんコロナもありません。時代は「現在」ということで再創作されるのでしょうか?

 「現在ということで再創作しますが、私はもともと、あまりスマートフォンなども舞台上で使わず、メールやLINEで連絡を取り合うシーンなどはないんです。台詞で『連絡きた?』と書くことで示すだけというか。ですからあまり変える部分はありません」

―――ご自身の15年という歩みも含め、時代や時間が今回の再創作にどんな影響を与えそうでしょうか?

 「作品内容も普遍的な家族の物語なので、15年の変化に影響は受けない気がします。今回変えた部分は男女の役割とかですかね。そこは自分の中でも大きな変化がありましたので」

『なるべく派手な服を着る』初演(撮影:谷古宇正彦)

―――前回は客演の方を交えての公演でしたが、今回は劇団員の方々と臨むというところに、どんな思いがおありでしょうか。

 「やっぱり私は劇団固有の表現にこだわりがあります。前回も素晴らしい俳優の皆さんに集まっていただいたので、作品創作としてはなんの不満もなかったんですが、やはり劇団としてメンバーのみでやるということには意義があると思っています。
 今、演劇界でもパワハラやセクハラの問題などが顕在化していますが、MONOはかなり前からそうしたことを全員で意識してやってきました。自分の劇団に、ある種のユートピアを見ているのかもしれませんが、人間関係を含めて劇団の表現だと思っているので。劇団の在り方自体がMONOの力だと考えています」

―――第50回公演とのことですが、「50」という数字に、節目のようなものはお感じになりますか? また、「もう50」でしょうか、それとも「まだ50」でしょうか?

 「つい数年前に『30周年』だったので、あまり50回目ということに意識はありません。そういう意味では『もう50』でも『まだ50』でもなく、『ただの50』という感じです。劇団を長くやっている中で、お客さんへのアピールとして第50回公演と書いているだけな気がしますね。実際、劇団内では全くその話題にもなっていませんので(笑)」

―――今回、伊丹・東京・豊橋・四日市・大府と、5つの都市を回られますが、土田さんが思う地方公演・旅公演のよさや、楽しみにしていることなど教えてください。

 「コロナ前だったら各地の美味しいものを食べられるというようなことでしたが、その意味では楽しみが減りました。
 ただ、MONO自体が京都の劇団で、あまり『どの地域での公演だ』ということへの意識はないんだと思います。各地にMONOのお客さんがいて、なるべく多くの場所で観てもらえる機会を作る。地方公演に関してはそのような認識です。実際、どの土地に行っても劇場に入れば帰ってきたというような感覚になります」

(取材・文:前田有貴)

プロフィール

土田英生(つちだ・ひでお)
1967年3月26日生まれ、愛知県出身。劇作家・演出家・俳優、劇団「MONO」代表。立命館大学在学中に演劇の世界に足を踏み入れ、1989年、MONOの前身となる「B級プラクティス」を結成。作・演出の多くを手がける。1999年、『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞 大賞を受賞。2001年、文学座に書き下ろした『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で、第56回文化庁芸術祭賞演劇部門 優秀賞を受賞。2003年には文化庁の新進芸術家留学制度で1年間ロンドンに留学した。近年は劇作と並行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。その代表作に、映画『約三十の嘘』、『初夜と蓮根』、テレビドラマ『崖っぷちホテル!』、『斉藤さん』など。2020年には初監督作品『それぞれ、たまゆら』が劇場公開された。

公演情報

MONO第50回公演 なるべく派手な服を着る

日:2023年3月3日(金)~12日(日)
  ※他、地方公演あり
場:吉祥寺シアター
料:一般4,300円 初日割引[3/3]3,800円
  25歳以下2,000円 ※要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://c-mono.com
問:キューカンバー tel.075-525-2195

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