福岡市を拠点に活動する人気劇団・万能グローブガラパゴスダイナモス、通称“ガラパ”が第30回公演として『運動会をやりたくない』を上演する。地域運動会をテーマに運動会をめぐる人間模様を描く最新作。伝統ある住民参加の運動会をやりたい派、やりたくない派に町の名士も加わって白熱の議論が繰り広げられ……!? 作品を代表して、作・演出の川口大樹に話を聞いた。
博多弁のセリフの面白みを探っていけたら
―――前作からコロナ禍を経て、やっと新作を東京で拝見できます。セリフで博多弁が飛び交う形は15周年作品『甘い手』公演からのスタイルですが、手応えはいかがでしたか?
「作品を作る側としてはちょっと避けてきたんですよね。ただやってみると役者達も普段使ってる言葉だからノリやすいしお客さんにも評判が良く、すんなり馴染んで意外と良かったですね。
博多弁ってちょっと強くてコメディでは笑いにくくなるのかなっていう恐れがあって、あまり使ってなかったんですけど、笑いとの相性も悪くなく、この方向性で全然いいんだなっていうのはやってみて感じた手応えですね。もっと早くやればよかったなと(笑)」
―――福岡出身の別の役者さんで、福岡凱旋公演があり地元の言葉で芝居をした時に、普段使っていた地元の言葉をセリフとして覚えるのはちょっと難しかったと、おっしゃっていて。
「気持ちはちょっとわからなくはないですね。気恥ずかしいというか、やっていくうちに慣れていきましたね。今後も100%ではないと思いますが、この博多弁の面白みを探っていけたらいいかなとは思っています」
大人が必死にならざるを得ない状況って面白い
―――最新作は運動会がテーマですが、そもそも本作が生まれたきっかけや着想はどこから?
「これはもう本当に偶然で、僕らの芝居を撮影してくれるカメラマンさんの地元がすごく運動会が活発な地域らしく、話を聞いたら本当にいいエピソードがたくさん出てきてすごく面白くて!
彼の所は毎回弱小地域で、毎年なぜかスポーツエリートが現れる強豪地区があったり、港町なので血気盛んな漁師の方が多い地域もあったりとか、まるで漫画の設定みたいなことが現実にあると聞いて、大人が運動会をするってあまり発想として考えたことがなかったなと。
運動会は学生がやる印象が強いですが、大人が必死にならざるを得ない状況って面白い、コメディの題材としてぴったりだなとピンときました」
―――地域運動会が残っていることに驚きます。
「僕も驚きました。ネットで調べると色々な話があり、その町内の政治みたいなことがやっぱりあって、あの人には逆らえないとか、運動会で出すお酒やジュースをどこに頼むんだ? みたいな。それこそオリンピックでいろいろ談合だ何だと出てきていますが、あれの地方版みたいな事がうっすらある。欲や見栄とか人間のあり様がけっこう凝縮されている感じがしています。そこも含めて、ただの運動会の話ではなくて、地域コミュニティの面白さも描いていけたらと思っていますね」
―――ちなみに川口さんは地域運動会の参加経験はあるのでしょうか?
「小さい頃に参加した記憶はあって、でもそれはお祭りみたいで楽しかったなっていう記憶ですけど、今思い返してみると学校の運動会よりも闘争心がバチバチだったなって(笑)。大人の方が気合いが入っていたなっていう、いま大人の自分が参加したら意外と面白いのかなと思いますね」
―――気に入らない相手にも堂々と挑めるというか……
「そうそう! 普段言えないことを競技で勝つみたいな。運動にかこつけてね(笑)」
負けるということがただのマイナスなことなのか
―――脚本の進捗はいかがですか?
「今(12月上旬)はプロットを練っているところで、概ね大きな関係性ができてきて、ストーリーを実際に描き出していくところです。普段もそうですが、メンバーにいろいろ話を聞いてみて、みんなの運動会の思い出とかもエピソードに入れようかなと」
―――脚本を書く上でテーマとしていることは?
「運動会をテーマにした時、勝ち負けはどうしたって出てきます。劇団員もやりたい派とやりたくない派に分かれていて、『ひとり運動が苦手で良い思い出がない』と言っていた彼女の話で印象的だったのが、運動会を思い返してみた時に、ずっと今まで運動会は嫌いだったけど、それって運動会のせいじゃなかったなと。つまり“運動が苦手だから運動会が嫌だった、そこにまつわる出来事がいろいろあって嫌いと思ったけど、自分のマインドだったり姿勢だったり、それが負けている方にいってたから、すごく嫌いだってことになっていたけど、それはもしかしたら運動会が嫌いっていうことではないのかもしれない”みたいなこと言っていて、それってすごく新しい気づきだなと。
負けるということがただのマイナスなのかネガティブなことなのか。人生っていろんな勝負があって負けることの方が多いなと思うんです。そうなると負け方が大事なのかもしれない。挑戦することから逃げる負けもあるし、立ち向かって負けることもある。負け方によって今後の生き方や人生が変わってくると思って。先日のワールドカップでは負けましたけど、負け方についても少し考えてみようかなと思っています。
負けた時にとてもドラマがあって、どう負けたのかがむしろ大事だなと思ったので、それも1つのテーマになるのかな」
―――大人だからこそ温度差もありそうですね。
「うちの劇団の中だけでも(運動会について)温度差があります(笑)。子供はシンプルに好きだ嫌いだで喧嘩できるけど、大人はなかなかいろんな思惑がありますからね、結構面白いことになるんじゃないかなあと思っています」
―――この人にこのキャラを、などキャスティングで考えていることは?
「メンバーで野間銀智という役者がいるのですが、彼女は典型的な運動嫌いでやりたくない派で、彼女にはそっち側をやってもらいたいなと思います。若手の友田宗大は高校時代サッカー部でバリバリ応援もやっていたので運動会やりたい側に置いて、そこはリアルな本人のキャラクター性をのっけて賛成派と反対派を作っていけたら。
またうちの代表・椎木樹人は年齢が上なので、町内会でも少し権力のある立場で悲哀のある感じの役とか、日常の関係性を発展させた形で作っていけたらなって思っていますね」
―――注目の出演者はいらっしゃいますか?
「オリジナルメンバーですが、最近入ったばっかりの千代田佑季という19歳の女性が本公演には初出演になります。19なのでガラパとしては親子ぐらいの関係性が作れたりするので、ニューフェイスとして注目してもらえたら」
―――そのほか見どころや、こだわっていこうと思っている所は?
「やはり博多弁で会話の応酬をすること。前回の『甘い手』では割と場面が行き来する構造でしたが、今回は比較的ワンシチュエーションに近い芝居にしようと思っていて、より密度の高い博多弁の会話劇を打ち出していけたらと思っていますね。博多弁は結構テンポが速くて勢いがある言葉なので、その勢いを堪能してもらえたら」
―――読者の方へお誘いのメッセージをお願いします。
「東京は3年ぶりの公演となります。ガラパの名前を思い出していただいて、駅前劇場に足を運んでいただけたら。博多弁の活きのいい芝居を持って行きますので、運動会が好きな人も、やりたくない人もみんなで一緒に来てくれたらと思います」
―――最後に2023年、ガラパ的にどんな年にしたいと思っていますか?
「若いメンバーが少しずつ入って来ているので、ガラパが今まで培ってきたものと新しい世代の感性や感覚みたいなものを積極的にミックスさせていきたいですね。僕自身ももっと新しいものを作りたいと思っているので、若いメンバーの力を借りて、まだまだ生きのいい劇団になっていきたいです。
椎木とも話していますが、過去作品の再演も新しい形で新しいメンバーを加えてリメイク的なことを来年以降やって劇団の財産をいい方向に使っていきたいですね。新作も生み出しつつ過去の作品に新しい息吹を吹き込む、そういった事を積極的にやっていけたらなと思っています」
(取材・文:谷中理音)
プロフィール
川口大樹(かわぐち・だいき)
1983年7月19日生まれ、福岡県出身。2005年に万能グローブガラパゴスダイナモスを旗揚げ。劇団公演のほぼ全ての脚本・演出を担当。俳優の傍ら、福岡内の専門学校やタレント事務所等、外部での演技指導を担当するなど幅広く活躍中。近作に、万能グローブガラパゴスダイナモス 第28回公演『バ・グガヘラヌ』、第13回公演『この中に裏切り者がいますよ』などがある。
公演情報
万能グローブ ガラパゴスダイナモス第30回公演 『運動会をやりたくない』
日:2023年2月9日(木)~12日(日)
※他、福岡公演あり
場:下北沢 駅前劇場
料:4,000円
U-25割引券[25歳以下]2,500円
※要身分証明書提示
(全席自由・税込)
HP:https://www.galapagos-dynamos.com
問:ガラパ制作部
mail:info@galapagos-dynamos.com