良い作品を書こうと心に決めて続ければ、いつかは報われる 「演劇と劇場」をモチーフに丸尾聡×大西弘記が生み出す寓話劇

 毎回、濃厚な人間ドラマを描き出す劇作家の大西弘記が主宰するTOKYOハンバーグ。その最新作は大西が昔から憧れていた、劇作家・演出家の丸尾聡との共同執筆による『ハミダシタ青空ヲサガシテボクラハ』だ。日本劇作家協会プログラムの推薦作品にも選ばれたこの作品は、出演者25人という大所帯で座・高円寺の舞台で上演される。そこで、脚本の丸尾聡と共同執筆者で演出も担当する大西弘記に話を聞く。

―――この作品は「TOKYOハンバーグ」と丸尾さんの「演劇ネットワーク@丸尾」の合同企画ということで、脚本もお二人の共同執筆となっています。この形になった経緯から伺います。

大西「もう3年前くらいから僕が丸尾さんに一緒にやりたいと申し入れていました。そして座・高円寺の年間プログラムとして上演される、日本劇作家協会プログラムへの応募作品が通ったことで、実現に向けて動き出しました。最初は僕から丸尾さんにアウシュビッツを題材に現代に繋がる物語を書いてほしいとお願いしました。で、ポーランドへ取材に行こうとも言っていましたが、コロナ禍やウクライナの戦争が始まり、出来なくなりました。
 そんな中で丸尾さんが書けなくなったタイミングがありました。やはり脚本を書くのって大変なんです。その頃カフェで丸尾さんに会ったら凄く疲弊していて、このままでは丸尾聡を殺してしまう、とまで思ったので(笑)、丸尾さんから書きかけの脚本と構想のメモ書きをもらって、僕が書き進めて最後に丸尾さんに最終調整をしてもらいました。そんなわけで合同執筆となった訳です」

丸尾「いろいろありましたけれど結果としてよかったと思います。今回結構大人数の座組なので、稽古初日に完成原稿を出そうという演出家の意思もありましたし」

―――日本劇作家協会プログラムで選ばれると、座・高円寺で公演が打てるわけですね。以前にも選ばれていますよね。

大西「毎年出していて、6年続けて選ばれています」

―――それも凄いことですね。さて、年齢的にも、キャリアを拝見しても丸尾さんは大西さんからみてだいぶ先輩ですが、お二人が出会うきっかけはなんでしたか。

大西「もう10年以上前の話ですが、知人に誘われてスタジオソルトさんの『職員会議』という作品を見に行ったんです」

丸尾「2007年ですね。相鉄本多劇場で2週間公演をしました」

大西「その俳優の中に、金髪の変なオジサンがいてすごく気になっていました。
 一方、僕の先輩が丸尾さんがやっていた劇団によく出ていたので、丸尾さんの名前や作品は知っていたんです。その後、先輩がまた丸尾さんの作品に出るというのでどの人か聞いたら、あの金髪オジサンだったという(笑)。
それからお近づきになりまして、飲みに行ったり公演を手伝ったり。もちろん最初は緊張しましたね。何しろ憧れていた劇作家ですから」

丸尾「僕がハッキリ憶えているのは千葉での公演を手伝ってくれたときに、喫煙所で煙草吸いながら話した時ですね」

―――丸尾さんからすると教え子みたいなものでしょうか。

丸尾「教え子ということはありませんが、僕の脚本も読んでくれているし。作品も観てくれますね。大西君は凄く粘ってここまで来た人だと思うんです。突然彗星のように現れたわけでなく、地道に自分の劇団でやってきて、ようやくこの数年認められてきた。その成果は素晴らしいと思っていますし、ほかの若い人たちにも彼のように頑張っていれば、いつかは報われるよ、といいたいです」

大西「僕は高卒だし、俳優としての勉強は研究所でしたけれど、劇作家としての勉強はしていません。一度だけ丸尾さんの戯曲講座に行ったくらいですね。それでも良いものを書こうとして頑張れば、例えば演劇関連の賞には縁が無くても仕事は来るものです。僕はもらえる賞はもらったけれど(笑)」

―――丸尾さんはこれまでにTOKYOハンバーグの作品に役者としても参加されていますね。その他にも大西さんは劇作・演出家も兼ねる俳優さんを作品に呼ぶことが結構ある気がします。

大西「演出・劇作家だから出演オファーするのではなく、純粋に俳優として良いなと思うのでオファーしています。劇作家でもある丸尾さんはそちらからの視点でアドバイスをもらって、目から鱗的な想いを毎回感じています」

丸尾「特に最近は大西君がやりたいこと、描きたいことがハッキリしてきていて、それがわかるので外から見たアドバイスが出来るんです」

―――さて、今回の物語を少しご紹介いただきたいのですが。

大西「近未来型黙示録寓話劇というか、ちょっとリアルなお伽噺ですね。50年前と50年後が出てきますが、具体的にどこの時代というわけではありません」

丸尾「場所も日本であるような、無いような、ということですね。50年前の世界では戦争をしている設定です」

―――大所帯ということですが、確かに大勢ですね、25人ですか。

大西「丸尾さんからの推薦と、僕からの推薦。後はオーディションで選んだ役者さんです。選考には丸尾さんにも関わってもらいました」

丸尾「TOKYOハンバーグの常連メンバーや劇団員など大西ワールドがよくわかっている俳優も沢山いて、そこに初めての人間をプラスした感じになりました」

大西「オーディションには70人くらい来てくれて、結局12~3人を選びました。皆いい役者さんです。やる気もしっかりありますし」

―――普段とは少し風合いが違う作品になりそうですね。

丸尾「そもそもの題材として『演劇と劇場』がひとつのテーマになっています。ウクライナで劇場が攻撃されたり、コロナ禍で舞台芸術を続けるのが難しくなって、若い人が現場を離れたりする現実があり、世の中全体が何となく、きな臭い方向に行っている昨今です。単純に演劇を続けたい。自由な演劇をしたいと思っても、それが出来なくなる可能性もあるでしょう。では、その現実の中で、今まさに演劇をやっている僕等はどうすればいいのか。若い俳優たちもどんな行動を起こしていくべきか。そういった話ですね」

大西「でも、単純に戦争について描きたいわけではないんです。観て頂ければわかってもらえるかなと」

―――劇場も大きいですし、スケール感も変わってくるでしょうね。楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

大西弘記(おおにし・ひろき)
三重県出身。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始め、岸田國士、菊池寛、ブレヒトなどの作品に出演する。さらに外部出演などで俳優として活動し、2006年に自らの手による作品を上演する母体としてTOKYOハンバーグを立ち上げる。以降、全作品の脚本・演出を担当する。さらに外部への書下ろし、演出も数多く手がけている。

丸尾 聡(まるお・さとし)
長野県出身。世の中と演劇する オフィスプロジェクトMの活動を経て、現在は演劇ネットワーク@丸尾代表。日本劇作家協会運営委員。日本演出者協会会員。川崎演劇協会幹事。非戦を選ぶ演劇人の会実行委員。コロナ禍においては、劇作家協会コロナ対策室室長、演劇緊急支援プロジェクト事務局として、文化芸術・演劇支援のために奔走している。別役実追悼の信濃毎日新聞寄稿文が「ベストエッセイ2021」(日本文藝家協会編)に選ばれる。2022年2月より、オフィスプロジェクトMとして新たに活動を開始している。

公演情報

TOKYOハンバーグ合同企画Vol.4
+演劇ネットワーク@丸尾
『ハミダシタ 青空 ヲサガシテボクラハ』

日:2022年11月16日(水)~23日(水・祝) 場:座・高円寺1
料:一般4,200円
  ハンバーグ割引[11/16~18]3,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:http://tokyohamburg.com
問:TOKYOハンバーグ
  mail:info@tokyohamburg.com

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