本作はロンドンのアルメイダ劇場のアソシエイトディレクターであるロバート・アイクが、1912年に発表されたシュニッツラーの『ベルンハルディ教授』を翻案し、自ら台本を手掛けて演出したもの。2019年に開幕するや否や大きな反響を呼び、ローレンス・オリヴィエ賞作品賞、女優賞にノミネートされた話題作だ。
待望の日本初演となる今回の公演では、栗山民也が演出を手掛け、主演には大竹しのぶを迎える。大竹はたまたま本作を英国で観ていたそう。
「『評判の芝居があるから、絶対に観た方がいい』と友人に教えてもらって、数行のあらすじだけを読んで観ました。難しい内容でしたが、11人の役者の演技が細やかで、リアリティがあった。すごく良かったです」
その中でも印象に残っているのが、主演のジュリエット・スティーブンソンの芝居だという。
「ほぼ同年齢の女優さんです。すごくエネルギーがあって、でもオーバーな演技ではなく、知的でクールで、格好いいなと思って。まさか自分が同じ役をやるなんて」
大竹が演じるのは医療研究所所長であり、エリート医師のルース。ある少女の死をきっかけに、宗教・ジェンダー・階級差など、あらゆる社会問題がルースの頭上に降りかかり、医師としての自分を見つめ直していくという物語だ。
「完璧な人間はいないし、孤独や寂しさを抱えている。強さだけではなく、弱さも出せたら」
ルースには「人間である前に、医師だと思っている」という信条がある。大竹に自身を「人間である前に女優だ」と思うか、と尋ねると「それは全くない」と笑うが、「ルースの信条には共感できる部分がある」という。
「日々命と向き合って、最適な治療法を探る。『この子を助けなくては』という感情ももちろんあるけれど、それ以上に『命は助けて当たり前』で、冷静な判断をしていく必要があるのだと思います」
依然続くコロナ禍の状況下、大竹自身も2020年に出演予定であった『桜の園』は中止になり、『女の一生』や翌年の『フェードル』は座席数を限定しての上演となった。改めて劇場での上演にかける想いを問うと。
「“お客様の前でお芝居ができることが当たり前ではない”と知り、そして再び舞台上に立った瞬間、お客様の期待と覚悟を肌で感じました。演劇の力を信じて、滞っている血を駆け巡らせるようなエネルギーを出していきたいです」
(取材・文:五月女菜穂 撮影:友澤綾乃)
プロフィール
大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)
1957年7月17日生まれ、東京都出身。映画『青春の門 −筑豊編−』(1975)ヒロイン役で本格的デビュー。その鮮烈さは天性の演技力と称賛され、同年、朝の連続ドラマ小説『水色の時』に出演し、国民的ヒロインとなる。圧倒的な存在感は常に注目を集め、映画、舞台、TVドラマ、音楽等ジャンルにとらわれず才能を発揮し、作品毎に未知を楽しむ豊かな表現力は主要な演劇賞を数々受賞し、2011年に紫綬褒章を受勲。2021年には、東京2020オリンピック閉会式に出演。世代を超えて支持され続けている名実ともに日本を代表する女優。
近年の出演作に、TVドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(2019)、『監察医 朝顔』(第2シーズン/2021)、舞台『女の一生』(2020)、舞台『フェードル』、『夜への長い旅路』(2021)など。
公演情報
パルコ・プロデュース2021『ザ・ドクター』
日:2021年10月30日(土)・31日(日)
場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
※他、東京・地方公演あり
料:9,000円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可
HP:https://stage.parco.jp/program/doctor
問:【チケットに関するお問合わせ】
サンライズプロモーション東京
tel.0570-00-3337(平日12:00~18:00)
※当面の間月~金 12:00~15:00
【公演に関するお問合わせ】
パルコステージ tel.03-3477-5858
(時間短縮営業中)