現代日本の若きアスリートとその家族を描いたオペラが上演される。東京オリンピック・パラリンピックと同時期に創作され、本格的なオペラ形式での初演を迎える。演出を担う齊藤理恵子が、日本語による創作オペラの立ち上げについて語ってくれた。
「日本語によるオペラを創作しようという3年がかりのプロジェクトから生まれた作品です。新人の作曲家・作家を募集し、ワークショップを重ね、最終的にこの作品が選ばれました。四季・光・風といった自然美を丁寧に扱う言葉が使われ、日本語の持っている響きの美しさを生かしながら、1人の女性の挫折とそこから立ち上がっていく姿が描かれています。ただ挫折と言ってもグランドオペラにあるようなすごい事件が起きるのではなく、誰にでも起こりうる日常の隣にある物語で、マラソンが出てくるんです。オペラでマラソンをするってどうやろうかなと思っているんですけど(笑)、新しいものをやろうとしていることを、何かひとつでも感じてもらえたらいいのかなと。
西洋で生まれたオペラは、発声法からして日本語で歌うのが難しいんです。日常の会話を歌う日本語オペラを創作していますから、日本語を美しく伝えることに腐心して作家が書いた言葉やニュアンスを、作曲家が汲み取って音に乗せている。2人が作り上げた世界観を、如何に壊さずにお客様にお届けできるか?というのが演出家としての自分の役割ですね。2組の出演者が揃い、その人に会って感じたものを活かしながら舞台を作っていきますので、両方とも面白く観ていただけると思っています。
作品を演出するということに関しては、芝居・オペラ共にキャストが、どのように役としての感覚や気持ちを深め、それを如何にお客様に伝えるのかを探っていく作業であることは変わらず、特段違いは感じません。しかしそこに歌があり、作曲家がいるというのは大きなこと。作品に楽曲を書いていく時点で、作曲家は演出家でもあると思うので、その意図をどう自分の中に落とし込んでいくか、という大きな要素が加わります。歌に乗せて気持ちを吐露していくので表現の幅が広いですし、表に出している言葉とは異なる気持ちを音楽が伝えてくれるのも魅力の一部ですね。ただそうした音楽で伝えるという要素が同じでも、ミュージカルは気楽に観にいけるけれど、オペラだと難しいというイメージがあると思います。でも今回のオペラは、素晴らしい方達の歌を、ふらっと普段着で聴きに来ていただけるようなものにしたいんです。ヒーローが出てくる物語ではなくて、いま隣にごく身近にいる人がヒーローになっていく。そんな日常性のあるオペラを日本語でお届けしますので、是非気軽に聴きにいらしてください!」
(取材・文:橘 涼香 撮影:友澤綾乃)
『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ作)
「小さな時から、エンデファンです。茜色の布張りの大きな本でした。子供心に特別な本として大事にしていました。小学生の時この本を買ってもらい、読み終わってお友達に貸したら、返ってきませんでした。返して欲しいと言うには当時の私はあまりにも気弱で、もう少し大きくなってから自分でもう一度買いました。いつまででも物語の中に居続けられるような長編です。読んでも読んでも空想の世界に終わりはない。秋の夜長に異世界気分を味わえます」
プロフィール
齊藤理恵子(さいとう・りえこ)
日本大学芸術学部演劇学科卒業。劇団青年座文芸部所属。青年座スタジオ公演『レインディア・エクスプレス』で演出家デビュー。以降、『僕らは生まれ変わった木の葉のように』、『第十七捕虜収容所』、『人類最初のキス』、ミュージカル『アニークリスマスコンサート』、ヤングミュージカル『青い鳥』など、主に演劇・ミュージカルの演出を手掛ける。『月が水面に忍び来るがごとく』では2014年、韓国e daily文化クラシック部門 最優秀作品賞受賞。文化庁委託事業〈令和2年度次代の文化を創造する新進芸術家育成会事業〉の新作日本オペラ/竹内一樹作曲『咲く~もう一度、生まれ変わるために』のファシリテータを務めた。今回が日本オペラ協会初登場となる。
公演情報
日本オペラ協会公演 咲く 〜もう一度、生まれ変わるために〜 新制作
日:2022年11月25日(金)・26日(土)
場:としま区民センター 多目的ホール
料:S席8,000円 A席6,000円 B席3,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.jof.or.jp/
問:日本オペラ振興会チケットセンター tel.03-6721-0874(平日10:00~18:00)