人狼TLPTの原点にして究極! アドリブによって紡がれる千変万化の物語。生き残るのは人間か? 人狼か?

人狼TLPTの原点にして究極! アドリブによって紡がれる千変万化の物語。生き残るのは人間か? 人狼か?

 13人の出演者が人気パーティーゲーム「人狼」を用い、人間vs人狼の戦いを即興で繰り広げる舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)』という独自のジャンルを開拓し続けるオラクルナイツが代表作『VILLAGE XX(20)』を再上演する。村人に紛れた人狼を炙り出すため、毎日多数決で最も疑わしい者を処刑するという非情な覚悟を決めた人々。かくして悲壮な心理戦が始まった……。2013年の初演以来、回を重ねる事に世界を深めてきた20作目。果たしてその魅力はどこにあるのか?
 企画・総合プロデュースの桜庭未那、そしてプレイヤーと演出としてほとんどの作品に関わってきた池永英介の2人に聞いた。


原点回帰となる一作

―――人狼ゲームと舞台を融合させた『人狼TLPT』の代表作となる本作ですがどのような内容ですか?

桜庭「『VILLAGE』シリーズは人狼TLPTでも一番ベーシックであり、メインとなる作品です。
 13人の村人に潜む3匹の人狼をいかに炙りだすことができるのか?を目的に投票によって処刑されたり、人狼による襲撃を受けたりして1人1人減っていく中、家族や友人でさえも疑わないといけない究極の状況にゲーム性を持たせながらも、“命を大事にする”というテーマを貫いてきちんとお芝居として成立させています。過去にも色んな村が登場しましたが、今回の『VILLAGE XX』は村人が人狼との戦いを決意する仲間の死を描くという意味で、初めて観る方にでも楽しめる作品となっています」

池永「『VILLAGE』に限らず人狼TLPTの公演はシリーズ化されていて、だいたいサブタイトルが付きますが、その中でこの『VILLAGE XX』には付かない。その意図は桜庭さんの中にはあると思いますが、敢えてそれを聞かずに自分なりに考えて演出に反映していくのが一番だと思って勝手に動いています」

桜庭「それで正解でした(笑)」

池永「20という区切りであり、原点回帰の意味を持たせるべく、“原点”とは何かを考えながら臨んだ5月の公演でした。個人的には一定の所には立てたと思いますが、もっと掘り下げる余地はあるので、それを10月の再演では深めていけたらと思っています」

コロナ禍でのTLPT

―――コロナ禍となって従来の上演スタイルにも少なからず影響はあったのではないでしょうか。

池永「大きな事は客席導線が全く使えなくなりました。コロナ禍になる前はお客様が人狼を当てる解答用紙を役者が客席まで降りて回収する1つの楽しみがあったのですが、それが無くなってお客様は自己採点してもらって記念品を受け取って帰ってもらうスタイルになりました。あと序盤で死んでしまった人の正体をお客様にお見せする時間があって、その時のコール&レスポンスが定番だったのですが、それも無くなりました。
 僕らも勿論ですが、お客様もきっと寂しいと思いますね。コロナ禍で空いてしまった舞台上と客席の距離をいかにして埋めていけるか毎回、試行錯誤しているところです」

桜庭「あとは最初から無観客に決めて全ステージ配信に切り替えた公演もありました。当然、映像で観せる分の工夫は必要になってきます。当然、無観客がベストではないのですが、今後そういったフォーマットも必要になるかもしません」

池永「確かにアドリブ主体なので、10ステージあれば10ステージとも違う物語になります。全ステージ配信となれば、よりたくさんの物語をみたいという思いに応えやすくなるという強みはあります。でも板の上に立っている役者からすると、お客様の反応が帰ってこない中でアドリブをしても気持ちが持たない。ちょっと面白い事を言ったとしても当然、無反応ですから。例え有観客でもお客様はマスクをしているので、表情が見えないし、お客様も声を出したリアクションが取りにくい状況なので、本当に制約が多くなりました」

桜庭「お客様に笑ってもいいんですよと伝えても皆さん協力して自粛してくださる。舞台を大切にしてくださる気持ちが痛いほどわかるだけに私達としても非常に歯がゆい思いです。でも一方で、これまでは配信で観ている方には人狼を当てる推理には参加が出来なかったのですが、専用アプリを開発してリアルタイムで参加が出来るようになりました。まだベータテストの段階ですが、何回連続で当てているという詳細なデータも観られるようになって、カーテンコールで正解者発表も出来たらと思っています。コロナ禍でもそういったプラスの面もありますね」

ゲームと舞台どちらでも楽しめる

―――初めて人狼TLPTを観るという方にも本作はうってつけという事ですが、具体的には?

池永「そもそも人狼ゲームの世界観に沿っているので、ゲームを知っている方であれば馴染みやすいと思います。まさに人狼ゲームを舞台化したらこうだろうという作品です。加えて大切にしてきた人が突然人狼によって変えられてしまうという世界は日頃会っている人が突然、得体の知れない何かに変わってしまうという恐怖にもなります。確かに人狼ゲームの犯人捜しを楽しみにしてくださるお客様がいる一方で、生の役者達がどう疑ってどう信じあうかというヒューマンドラマを楽しみにしているお客様もいらっしゃいます。アドリブの流れによってはコメディ回になることもとあるし、人間関係ドロドロの昼ドラ回になることもあります(笑)」

桜庭「お客様から返ってきた好意的な声の1つに、『他のストレートプレイと比べても敷居が高くない』がありました。観劇経験が全くない方もゲーム感覚で観に来てもらいたいですし、人狼ゲームを全く知らない方でも物語を楽しんでもらえる。さらに言えば、ゲームも演劇もさっぱりという方でも、何分かおきに誰かが死んでいき、合間に緩いトークタイムが入るという緩急がついた展開は『最後まで集中が切れなかった』という声も頂きます。また観た後にいつまでも感想を言い合えると、親子でいらっしゃる方もいます。お客様にも『かつて人狼に殺された人々の魂』といった形に回ごとに役割を決めているのでお客様にもその世界の一部として楽しんでもらう事を心掛けています」

役者達との出会いが財産

―――海外で人気を博したイマ―シブシアター(観客没入体験型演劇作品)を日本で展開して9年。桜庭さんの中で何か変化は起きましたか?

桜庭「私の中では進化し続けていますが、根っこは同じです。来年の10周年に向けてさらに広げていくつもりでしたが、コロナ禍がなければという思いです。
 1つ言えるのは、この9年間の活動の中で人狼ゲーム以外の設定でもTLPT化できるという自信も得ました。でも一番の財産はTLPTを演じてくれる役者達と出会えたことですね。刻々と変化する展開でもまるで息をするかのように対応して、仲間が残した軌跡をきちんと拾ってエンディングまで持っていく技術は簡単には培えないものだと思います。そんな彼らを育成できたという運営側の気持ちもそうですが、そういった技術を持ちうる役者が自らの意思で継続出演してくれることで、この世界観が守られていると言えます。だからより多くの方に体験してもらいたいですし、役者の方にも是非挑戦してほしいと思います」

池永「確かにインプロ(即興劇)を楽しめる役者にとってはこれ以上の舞台はないですね。例えキャリアが浅くてもゲーム展開次第でその回の主役になれたりするんですよ。自分よりキャリアのある役者を差し置いて主役に躍り出るチャンスがいくらでも転がっている舞台はそうはない。そういう意味ではやりがい溢れるコンテンツだと言えます」

桜庭「それは失礼でもなんでもないですからね。もう仲間なので」

池永「そのステージの主役にならない役者もその役割を分かって、しっかり全うしてくれるので面白いですね。演出をする上で、世界観を壊さないように最低限のガイドラインは作りますが、それ以外はあえて曖昧にしています。インプロだから得られる爆発的コメディ要素も失いたくない気持ちはありますが、特に『VILLAGE』で見せたい要素はコメディやコントではないので、面白い瞬間があってもしっかりと悲劇的な要素や死線を生き抜いた人間のドラマに着地できるような枠組みを常に考えています」

桜庭「特に『XX』では池永君がオープニングでなぜこの村がこうなってしまったのか、人が死んでいくことを村人はどう思っているかなどを丁寧に描写してくれているので、よく知らずに来られた方も入りやすい作品です。毎日違うお話が昼夜展開されるので、自粛生活でお家にいる方でもご家族揃って推理を楽しめる内容になっています。お家で楽しめる時間の選択肢の1つに加えてくれたら嬉しいですね」

是非、“推し”を見つけてほしい

―――他に注目してもらいたい要素はありますか?

池永「今回久しぶりに参加する役者もいるのですが、初演の続投組とどのような化学反応を起こすかには是非注目してもらいたいですね。再演から初めて観られる方は村にどんな事が起きてなぜこの状況になってしまったのかという推理をしながら楽しんでもらえればと思います。
 人狼TLPTを観て人狼ゲームを始めると言う方もいましたし、その逆にこの舞台を観てお芝居にはまるというゲームファンの方もいらっしゃいました」

桜庭「初期はファン層が全く分かれていたよね。でもそれぞれがお互い逆の方に興味を持つという(笑)」

池永「人狼ゲームにも演劇についても良い導入になっているのなかと。是非どっちかしか知らない。あるいはどっちも知らないという方にも一度観てほしいなと思います」

桜庭「あと是非、“推し”を見つけてほしいですね。うちの役者は一度役名が付くと、基本的にはどの演目でも同じ役名を通します。洋風と和風の違いはさすがにありますが。
 なので自分の気に入ったキャストを追いやすい仕組みになっているので、是非、推しを見つけて一緒に推理してもらえると楽しいと思います」

池永「そして最終的には“ハコ推し”になってもらえると嬉しいです(笑)」

お客様を観客席に閉じ込めない

―――今後目指していきたい方向性はありますか?

桜庭「人狼TLPTに関しては初見の方のためにも1回1回を丁寧に創っていますし、その姿勢を継続していきます。一方で配信もより楽しんでもらえるような仕組みも進めていくつもりです。オラクルナイツは対面でその醍醐味を発揮するイマーシブコンテンツを創るべく立ち上げたカンパニーなので、コロナ禍で制約があるのは苦しいですが、それについても諦めることなく、安全にお届けできる形を模索しながら、お客様を観客席に閉じ込めずに一緒の世界で楽しめるコンテンツを今後も創っていきたいと思います」

池永「桜庭さんは0を1にする天才ですが、僕にはそれがないので、桜庭さんが出した1を10にも100にもすることを遠慮なくやることが僕を起用してくれた事への恩返しにもなると思います。
 イマーシブコンテンツも含めて魅力的な作品も多いので、是非多くの方に一度体験してもらいたいです!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

桜庭未那(さくらば・まな)
2012年10月に上演した自主企画の舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』を人気コンテンツへと育て、通算70演目(600ステージ以上)を公演。総合プロデューサーとして、アニメ・漫画・テーマパークとのコラボレーションや、映画祭への招待を受けるほどの人気コンテンツへと育てた。演劇と「人狼」ゲームをマッシュアップさせたように、観客参加型エンターテイメントの新しいアイデアに優れ、常に観客の目線とイマーシヴな世界の構築を心がける新時代のクリエイター。

池永英介(いけなが・えいすけ)
俳優・脚本家・演出家。劇団ひまわりにてミュージカル公演や学校公演に多数出演し、現在フリー。2013年1月より舞台『人狼ザ・ライブプレイングシアター』に参加。以降俳優としてほとんどの公演に出演するかたわら、いくつかの演目では演出も務める。アトラクション公演『WAR→P!』では、2014年の立ち上げ当初よりその構築に深く携わり、現在では出演しながら脚本・演出・クエストデザインなど公演の中核を担う。

公演情報

人狼TLPT
『人狼 ザ・ライブプレイングシアター #44: VILLAGE XX』

日:2021年10月19日 (火) ~24日 (日) 
場:シアターサンモール
料:一般席7,000円
  ゆったりシート7,000円(全席指定・税込)
HP:http://7th-castle.com/jinrou/perform.php?044
問:株式会社オラクルナイツ
  mail:info@oracleknights.co.jp

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