『竹取物語』に生命にまつわるエピソードを纏わせた 女2人の芝居 妊娠中に舞台に立ち、見えたリアリティ。それを乗り越えた舞台がそこに

 『ひとよひとよに呱々(ここ)の声』は、日本最古の物語『竹取物語』を下敷きに、かぐや姫が性被害に遭うという設定に、妊娠・中絶といった話題が盛り込まれ、授かった子供を堕胎するかどうかの葛藤を描く。そもそも、かぐや姫自身が普通の“人”ではないとされる存在だが、その子供が“人”であるかのジャッジはどこでするのか。劇団の主宰であり、脚本・演出・出演の本坊由華子に、本作について話を聞いた。

 「貧困の中での妊娠や、レイプされて出来た子供は“人”ではないと考えて堕胎すべきなのか。“人”として産むべきなのか。そういった話です。
 もう1つ、人間の受精してから2の累乗で細胞分裂する早さと、竹の成長の早さ。さらに、もの凄く早かったと言われるかぐや姫の成長も重ね合わせています」

 今回、東京と広島での上演を予定。本作は3度目の上演となる。

 「2021年に福岡の「キビるフェス」に招聘された時に書き、まず愛媛と福岡で初演。続いて同じ年に、三重と兵庫。そして今回です」

 驚かされるのは再演のきっかけ。それは彼女自身の妊娠だった。

 「妊娠した自分が、あらためて戯曲をどう捉えられるかをトライしたかったので、再演しようと思い、三重と兵庫の公演を決めたんです。妊娠7ヶ月でした。妊娠しているからこそ言えない台詞もあったし、台本も推敲できました。女2人の芝居ですから相手を見て芝居をするわけですが、さらに体内の胎動も影響するわけで、胎児への意識を持ちながら舞台に立ち続けることは、役者としても作家としても良い経験になったと思います」

 そして昨年12月に無事出産となった。今回の公演は、産後の身体で取り組むわけで、またそこには変化が生まれるに違いない。昨今、演劇界や映画界でのセクハラなどが取り沙汰されているが、この物語もその波に影響されて書かれたのか。本坊は明確に否定する。

 「普段は精神科医として働いていて、毎日患者さんに会っています。そこではレイプや貧困という問題は日常で、10年前も10年後でも起こる問題。私には社会にいるマイノリティに焦点を当てたいという気持ちがあり、それに共通する悲劇を『竹取物語』に重ね合わせてみようと思いました」

 共演は熊本を拠点とする劇団「不思議少年」で活躍する森岡光。どんな二人芝居をみせてくれるのかが楽しみだ。

(取材・文:渡部晋也)

読書の秋、つい読み返してしまう本はありますか?

「グリム童話です。昔から、お伽噺や伝承や昔話が好きで幼い頃から読んでいました。幼少期は、子供用に脚色された絵本を読んでいました。大人になると、原文に近いグリム童話や、日本の昔話であれば古文原文から読むことを楽しんでいます。かなりグロテスクな描写があったり、生々しい肉体描写が鮮明だったりで、意外な発見が多々あります。また、原作者や翻訳者によってもニュアンスが異なっていたり、モデルになった歴史上の人物を調べて、興味深く考察しています。調べれば調べるほど興味深いです」

プロフィール

本坊由華子(ほんぼう・ゆかこ)
2017年に愛媛大学医学部演劇部を母体とした医師と医学生の劇団、世界劇団を結成。現役精神科医として医療に従事しつつ、現在は作品ごとに俳優・スタッフを集めるプロデュース形式で創作を行っている。数々のコンペティションに参加し評価を得る他、全国各地から俳優を集め、全国各地でツアー巡演を実施するなど、「拠点日本」を掲げ勢力的に活動している。

公演情報

世界劇団『ひとよひとよに呱々(ここ)の声』

日:2022年10月21日(金)~30日(日) ※他、広島公演あり
場:こまばアゴラ劇場
料:一般3,000円 U24[24歳以下]2,000円 ※要身分証明書提示(全席自由・税込)
HP:https://worldtheater.main.jp/
問:世界劇団 mail:sekaigekidan@gmail.com

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