宅間孝行率いるタクフェスが、名作『ぴえろ』をこの秋上演。2001年初演、2005年再演、2013年には古田新太主演でドラマ化を果たし、今回実に17年の時を経て舞台で再演を迎える。
物語の主人公は、間抜けな泥棒コンビの沢木とヤス。ある夜、2人は東京・下町の寿司屋「すし政」に忍び込むも、あえなく見つかりボコボコに。だが翌朝、目を覚ますと『お帰り!』と大歓迎の嵐が待ち受けて――。
ヤスに扮するのは、タクフェス初参戦となる佐野和真。沢木役は初演、再演に続き宅間が演じ、両者の初タッグも注目される。2人に本作への想いと意気込みを聞いた。
―――佐野さんは今回タクフェス初参戦で、宅間さんとダブル主演を務めます。
佐野「宅間さんとはお会いするのも今回がはじめてで、ずっとドキドキしていたんです。というのも、色々な方から宅間さんはコワイ……、じゃなかった、厳しい方だという噂を聞いていて(笑)。ただ実際お会いしてみたら、想像していたイメージと違う。頼れる兄貴という雰囲気で、凄くアツイ方だなと思いました」
宅間「みんな周りにあれこれ言われてビビリながら現場に来るんですよね(笑)。でも僕は普段はこんな調子なので、大抵思っていたイメージと違うと言われます。ただ僕がこんな感じだからこそ、稽古が進むにつれてだんだん緩んでしまいがち。みんなにそこはお願いねと言っていて。最初は緊張しているからみんな好青年なんだけど(笑)」
佐野「なるほど、こちらの問題なんですね。でも僕はそんなに変わらないと思います。いつもこんな感じで、どちらかというと真面目すぎると言われるので。でも僕としてはそれが間違っているとは思ってなくて、どんな時も礼儀や尊敬を忘れず人と接したい。宅間さんをはじめ、先輩方にこの現場で揉まれたいと思っています」
宅間「素晴らしい! キャストの中には大先輩もいるけれど、たぶん同性同士の方が緊張感があると思う。そういう意味では、若い女子は柴田理恵さんのことをビビってるかも。でも柴田さんは若い男の子が大好きだから、佐野くんは完全に大丈夫(笑)」
佐野「良かったです、ひとつほっとしました(笑)」
―――宅間さんは初演、再演に引き続き沢木を、佐野さんはその相棒のヤスを演じます。どのように役にアプローチしようと考えていますか?
宅間「僕がはじめて沢木を演じたのは30歳くらいの頃。あれから私生活でも色々な経験をしたし、時代も移り変わって、価値観が僕の中で変わってきてる。若い感性で突き進んでいた当時と今ではやはり違う。ただ20年経った今の自分が正しいかどうかはわからないし、世の中とズレていく怖さというのもあって。そこは敏感でありたいし、見極めながら役と向き合っていきたいという気持ちでいます。けれど20年前と今で劇的に何が違うかというと、根本的な部分では変わってないと思う。男なんて中2から変わらないから(笑)」
佐野「僕ははじめてタッグを組ませていただくということで、本当にヤスになり切れるよう、まずはウザがられるくらい宅間さんにベッタリくっついていくつもりです(笑)」
宅間「僕の中でヤスに対して絶対こうあってほしいというものがあるわけではなくて、人間同士の関係性がしっかりあればそれでいいと思っていて。佐野くんは空気が読めるし、歳上の懐に入るのが上手そうだから、沢木とのコンビにぴったりだと思う。ただヤス自身は陰で沢木の悪口を言ったり、佐野くんと違って空気の読めないダメな奴だけど(笑)」
佐野「台本は読んだけど、過去の映像はまだ観てなくて。先入観がない方がいいのかなと考えたりもするし、そこは宅間さんに相談しようと思っていたんです」
宅間「過去作を気にすることはないけれど、2005年の再演時の映像は観てもいいかもしれない。ヤス役を演じた役者がある作品にチンピラ役でパンチパーマで出てて、その1ヶ月後に『ぴえろ』に出たらパンチが伸びてアフロになってた。もう見た目からしてズルイよね(笑)。本当にダメな2人組がいるって感じで、それが妙に生々しくて。あそこまでは求めないけれど、何かそういう間違っちゃった感があると楽しいコンビになるかもしれない」
佐野「ちょっと考えてみます……。でもあまり狙い過ぎると良くないですよね」
宅間「あれはケガの功名だったから、あえてそうしようとすると違ってくると思う。気持ち的な部分で、佐野くんもイケメンなりに愛されるキャラクターになったらいいですよね」
―――初演から20年以上が経っても色褪せない作品の魅力をどう考えますか? 本作への想いをお聞かせください。
宅間「これは僕が書いた2作目の作品で、お客さんにどうにかして足を運んでもらおうと頑張ってた頃。いつしか『東京セレソンデラックスは切ない作品で泣ける』と言ってもらえるようになったけど、その原点になった作品でもあって。方法論もそうだけど、全てのエッセンスがここにぎゅっと詰まってる。キャラクターの作り方だったり、ドラマの運び方にしてもそう」
佐野「今の僕より若い頃に作ったんですね。凄いですね!」
宅間「でも最初は小劇場で、寿司屋もカウンターだけの小さな店だったけど(笑)。あれから20年経って当時と時代背景が変わってきているので、今回はディテールを少し変えていくつもり。今はコロナ禍で飲食店が大変だけれど、もともとこの話はお寿司屋さんが経営難で大変だという設定がベースにあるので、そこにこの時代の状況を入れて現代版にアップデートしようと思っています」
佐野「宅間さんの作品にはご自身の人柄が詰まっている気がします。台本を読んでいると、悔しかったり、心が動かされたり、凄く胸が熱くなってきて。以前タクフェスの『くちづけ』を観た時もそうで、キャラクター全員が生き生きしていて、魅力的で、本当にそこに生きているような感覚になった。みんなそれぞれ悩みがあって、全力でバンとぶつかり合い、気付いたら僕も涙を流してた。きっと宅間さんは人間が好きなんだろうなって思います」
宅間「でも今どきは人と関わろうとするとすぐパワハラだセクハラだと言われるから気をつけないと(笑)。この話は下町が舞台で、人間の関係性が凄く濃くて、お隣同士で声を掛け合ったりする。観た人に“こういう雰囲気って懐かしいな”って感じてもらえたら。“あぁいうのってなんかいいな、ちょっと羨ましいな”って思ってもらえたらいいですね」
佐野「本当に素敵なお話で、同時にこれに僕が参加するんだというプレッシャーを感じています。僕自身役者としてステップアップできる作品だという予感があって、宅間さんのもとで一生懸命ヤスを演じたいと思います!」
宅間「こういう時代に改めて人と人との関係性に正面から向き合い、その魅力を伝えられるよう頑張ります。劇場へ足を運び、生の舞台の醍醐味を味わってもらえたら嬉しいです!」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:神ノ川智早)
プロフィール
佐野和真(さの・かずま)
1989年4月28日生まれ、神奈川県出身。2005年、ドラマ『大好き!五つ子GO!!』でデビュー。2007年、ドラマ『砂時計』で注目を浴びる。2010年、映画『音楽人』でダブル主演。その他の主な出演作に、ドラマ『法医学教室の事件ファイル』シリーズ、『肩ごしの恋人』、映画『ガチバン』シリーズ、『任侠学園』、短編映画『逃走あるいは闘争』など。
宅間孝行(たくま・たかゆき)
1970年7月17日生まれ、東京都出身。タクフェス主宰。俳優・脚本家・演出家。1997年、劇団「東京セレソン」を旗揚げ。2001年「東京セレソンデラックス」と改名するのを機に、主宰・作・演出・主演として活動。2012年12月に劇団を解散。2013年、「タクフェス」を立ち上げる。役者としてドラマや映画に多数出演する一方、脚本・演出家としても活動。劇団作品の映像化が多く、ドラマ『歌姫』、『間違われちゃった男』、映画『くちづけ』、『あいあい傘』などがある。現在配信中のYouTube連続ドラマ『THE BAD LOSERS』(21.22/監督・脚本・出演)など幅広く活躍している。
公演情報
タクフェス第10弾『ぴえろ』
日:2022年10月7日(金)~16日(日) ※他、地方公演あり
場:サンシャイン劇場
料:S席8,900円 TAKUFESシート[2階後方席]6,000円(全席指定・税込)
HP:http://takufes.jp/pierrot/
問:サンライズプロモーション東京 tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)