鈴木×松木コンビによる朗読新企画『アリア回想奇譚』登場! 声優の多彩な声と演劇の想像力を信じて臨む新たな朗読劇の世界を!

 長年創作活動における欠かせない名コンビとして活躍を続けている、鈴木コウタ プロデュース / 松木円宏 脚本・演出による朗読劇の新作、Hyo-eeN! -朗読-『アリア回想奇譚』が、9月23日~25日に新宿・シアターモリエールで上演される。
 親子として縁を結んでいても、子供にとって親が子供から大人になった時代は永遠の謎だ、という気が付きそうで容易には気づけない着眼点から、あるきっかけで少女が迷い込んだ不思議な世界は、でもどこかで懐かしい世界でもあった……という物語を、声優陣の豊かな声を軸に視覚的な要素も加えて展開する朗読劇だ。
 そんな作品を紡ぎ出す、脚本・演出の松木円宏と企画・プロデュースの鈴木コウタが、作品への意気込みと、長くタッグを組んできた互いへの信頼を語ってくれた。

───表現の形に囚われないエンタメ=「Hyo-eeN」という新しいフレーズですが、今回は朗読スタイルだと考えて良いのでしょうか?

鈴木「そうです。『アリア回想奇譚』は朗読劇ですが、ただ台本を開いて読むというスタイルではなく、“本”をひとつのパーツとして世界観に入れ込んでいます。ですから見方によっては舞台作品ともとれるかもしれないような、“本”が重要な鍵になる作品にできたらと。まだ台本が完成している段階ではないので(※取材は8月上旬)、細かい内容については松木がお話すると思いますが、1人の少女が心の中を旅していく、日常の生活からはひとつ離れた世界になっていくと思っています」

松木「そもそも人間だけが出てくる物語ではなく、ファンタジックな作品を何かやりたいね、という話から始まっていて、見えている世界だけにとどまらない、朗読だからこそ更に広がっていくような世界を作っていきたいなと思っています。
 タイトルの『アリア回想奇譚』の『アリア』は主人公の少女の名前です。そして『回想』はある出来事をきっかけに、アリアが自分の記憶の中に閉じこもってしまうというお話にしようと。今日こうして取材を受けることになって、『いったい僕は何を書きたいんだろう?』を改めて考えたんですね」

鈴木「今日それを考えたか(笑)!」

松木「そう(笑)。プロットはもう出来上がっているんですけど、もう一度そこに向き合ってみた時に、子供って親のことを知らないなって思ったんです。子供として親にはずっと接しているわけですけれども、親がどういうふうに子供を思っているのかですとか、おそらく子供を育てる為に1番大変だった時期のことは全く知らずに、僕自身もそうですが、好きなことをさせてもらいながら生きている。
 でもそもそも親にとっても、初めての子供を産んで育てる時に、『親』としての経験って全くないんですよね。にも関わらず、親なんだからこうして欲しい、と子供から言われたりするし、子供は子供で何も知らずにもっとこうだったらいいのに、ということばかりを考えていく。そういうずっと一緒にいるからこそ、友人とは全く違う、特別な存在だからこそのひずみが生まれてしまうと、それがどんどん広がってしまうし、いったん親元から離れると、妙に疎遠になってしまったりもする。そういった親の思いを知らないからこそすれ違ってしまうものに、記憶の中を巡ることによって再び向き合う時間を作れたらいいなと。それを壮大なファンタジーにして、現実と交錯させながら、ひとつの物語としてまとめ上げたいと思っています」

鈴木「親子ってお互いを知りすぎない方が健全なのかもしれませんが(笑)何かこうした物語がひとつのきっかけになって、お互いの絆を再構築すると言うか、改めて確認してお互いのことをはじめて知る機会になったらなと。
 僕も39歳ですけれども、親のことを一から十まで知っているか?と言えば、やっぱり知らないことがたくさんあります。でも何かのきっかけで、家の親にもこういうことがあったのか、と知ることによって、家族を再確認できる。そんなどなたにも、そういえば……という気づきがあるテーマの作品になったらいいんじゃないかなと思っています」

───こうしてお話を伺うと、あぁその通りだなと思います。普段はなかなか気づけない視点で非常に興味深いですが、そうしたある意味の精神世界ですとか、ファンタジーを描くにあたって、朗読だからこそできることや、作り手として感じる醍醐味についてはいかがですか?

鈴木「僕はリーディングのスタイルの作品を、もう12年くらいプロデュースさせていただいていて、松木とも長い付き合いなのですが、基本的にプロの声優の方をキャスティングさせていただいてきていて。もちろん舞台俳優でもリーディングの上手い方も大勢いらっしゃいますが、声優という職業の一線で頑張っている人たちの素晴らしいところは、声を操って、人間だけでなく、動物だったり、石だったりという様々なものに命を吹き込むことができることです。
 それは俳優が演じる幅よりも大変広い表現なので、朗読だからこそ観て、聞いている方々に、イメージを自由に膨らませていただける。もちろん絵としてバンと見せる良さもあると思うのですが、あくまでも観る人の想像力を掻き立てることがよりできるのが、朗読劇の1番の醍醐味ではないかなと思っています」

松木「僕はずっと舞台の台本を書いてきていたので、最初に朗読劇を書かせていただいた時には、舞台における台詞の掛け合いを意識して書くことが多かったのですが、やっぱり小説でいう所謂地の文を読み上げていった時に、イメージがより立ち上がっていくのが朗読の楽しみだなと感じました。
 だからこそどんな世界でも自由に描けますし、小説には読んでいる方一人ひとりが、独自のキャラクターを想像できる面白さがあると思いますが、感情を声で表したリーディングには、実際に目の前で言葉を受け、音を受けという体験があるので、同じ空間にひとつのものが作り上げられていく楽しさがあります。ですから観ている方達が同じ世界を一緒に体験していけたらいいなと思っていますし、言葉を使って世界を一緒に作ってきたいという思いで書いています」

───確かに目の前で声優の方が語り聞かせてくれていて、役柄が変わった時など、同じ方から全く違う声が出てくる瞬間を目の当たりにできると、びっくりするのと同時にすごく感動します。

鈴木「そうですよね! それに、例えば身長10mの人間って、舞台で生身の俳優が演じようがないんですよ。でも声で演じるのであれば、そうした存在もちゃんと芝居として成立できる。声優さんの力量って本当に素晴らしいです。
 日本が誇る文化としてよく『アニメーション』があげられますけれども、日本人の声優さんのレベルはすごく高いんです。ライブリーディングはそんな声優さんが持つ表現力や、キャラクターを演じ分ける幅広さを生で感じてもらえる、貴重な機会だと思っています」

───確かに俳優さんはご自身のビジュアルから極端に離れたものは演じにくいと思いますが、声でしたら何にでもなれる、それによって脚本を書かれる上でも世界が広がりますか?

松木「広がりますね。何を書いてもいいという、これは僕らの声優の皆さんへの信頼だと思うんですけど、今までコウタ君(鈴木)と一緒に色々な作品を作らせてもらってきて、こんなにも声優さんの表現の幅が広いのかと思うことがたくさんあって。何を書いても皆さんの中で世界を広げて演じてくれる、皆さん“物語”というものをすごく知っている方々なので、信頼して任せられるし、なんでも書けるんです。だから舞台なのに小説を書くかのような広がりがあります」

鈴木「人間だけが登場している作品のなかで、急に蟻が話し出す、ということも朗読だからこそできるので、そこは本当に豊かな世界になりますし、楽しいですね」

───そうした朗読劇の豊かさのなかで、今回の作品には視覚要素はどのくらい入ってきそうか、いまの段階で教えていただける部分はありますか?

鈴木「基本的には演出の松木に任せていますが、プロデューサー側の要望として、例えばみんな揃ってワイシャツを着てリーディングをする、ということではなく、客席から見た舞台全体がひとつの絵になっている、出演者もワンポイントでもキャラクターを表したモチーフのある衣装を身に着ける、ということには挑戦したいなと思っています」

松木「朗読劇には色々な形があると思うのですが、やっぱり登場人物が多くなった時に、お客様がどうやってその世界に入り込めるか?を考えると、視覚情報ってすごく大きいと思うんです。
 もちろん先ほどからお話しているように声優さんの声の使い分けは素晴らしいので、それを更に補完する材料として、キャラクターを表すモチーフやアクセントをつけることによって、多くの登場人物がより鮮明にイメージしてもらえると思っています。同じように、舞台背景にもコンセプトイメージを乗せることによって、よりこの世界に入りやすくなっていただけると感じるので、是非その方向で行きたいです」

───ストーリーの中でアリアが「私、ここに来たことがあるかもしれない」と思う、というくだりがありますが、お二人にはそうしたデジャブだな、と感じるような記憶はあるのですか?

鈴木「妙な話に聞こえるかもしれませんが、夢の中にもうひとつ別の世界があるんじゃないかと思うくらい、夢の中で言った風景の中に、昔この辺で遊んだなという現実世界の感覚がつながってくることがあります。実際にその場所に行ったことがあるのか?というと、全く思い当たらないんですけど、確実にここには1回来たことがあると思う、記憶にある場所なんです。未だにこうしてお話ししていてもやもやするんですが、夢と現実が全部繋がっていく感覚です。だから夢の中でもデジャブってあるんだなと」

松木「それすごいね。僕はここにきたことがある、というような場所ではないのですが、普通に会話をしていて『この会話、前にもしたな』と思うことが年に1回くらいあります。実際に同じ会話をしたはずはないんですけど、でもこの会話の流れは覚えている、と感じるんです。未来の記憶というとオカルトチックに聞こえてしまうかもしれませんが、人ってずっと生まれてから未来に向かって歩いていくわけだから、先の記憶があったとしてもおかしくはないんじゃないか、と思ったりもしますね」

鈴木「合理的な説明はつかないとしても、世の中の全てのことに説明がつくわけじゃないじゃないし、そういう説明がつかないことが存在すると信じてもいるから、僕はそれもあるだろうなって思う」

───こうしてお話を伺うほどに、本当にお二人の息はピッタリだなと感じます。

松木「出会ってからずっと一緒にいるんですよ」

鈴木「彼の企画している物に僕も出ていますし、僕の企画するものの脚本・演出をお願いしているので、とても長い付き合いになっています。お互いが描く世界を共有できるという信頼感は大きいです」

───その中で、イマジネーションも刺激しあっていらっしゃるのでは?

鈴木「そうですね。この『アリア回想奇譚』を作るにあたって、最初に言ってくださった『Hyo-eeN』という企画を立ち上げたのですが、まずそれを使った2人で作る新しいものとして、ギアをあげてエンジンをかけてみないか?と、気持ちを新たにしているところでもあります。ここからまた『鈴木×松木』で新しい挑戦をして、様々なものを産みだしたいなと思っているので、この作品をまずその第一歩としてね」

松木「そうだね!」

鈴木「この状況ですけど、楽しいことだけ考えていきたいです!」

───本当にこの状況だからこそ、楽しいものを拝見できるのを心待ちにしています。では新たに取り組まれる『アリア回想奇譚』に期待されている方々に、メッセージをいただけますか?

鈴木「色々な朗読劇がありますが、そのイメージを更に覆すような、ファンタジックでエキサイティングな作品を作りたいと思っています。これは是非ともLIVEで楽しんでいただきたいので、劇場に足をお運びいただけたら嬉しいです!」

松木「やっぱり物書きとしては、お客様に見ていただいた時、劇場で作品をご覧いただいた前と後で、何か残るものをお渡ししたいと思っています。もちろんこれを感じて欲しいと押し付けるような形では全くなく、物語のなかから何かが届いてくれたらいいなという思いがあるので、今回の作品を通して“家族”ですとか、“親と子”についてどこかで共感できる、物語を通して自分を回想してもらえるような時間になればと思っています。是非観にいらしてください!」

(取材・文&撮影:橘 涼香)

プロフィール

鈴木コウタ(すずき・こうた)
埼玉県出身。俳優、声優として多彩な作品で様々な活躍を続ける。2017年自身が代表取締役を務める株式会社スィンクエンターテインメントを設立。演劇ユニット「スキマニ」としての活動とともに「ことだま屋本舗☆ リーディング部」ではプロデューサーを務め、声優の声の豊かさに深い信頼を置いた、更なる活躍の幅を広げている。本作が盟友である作・演出の松木円宏との「鈴木×松木」コンビによる新たなプロジェクト「Hyo-eeN」の第1回公演となる。

松木円宏(まつき・のぶひろ)
2002年早稲田大学演劇倶楽部にて初舞台。以後小劇場を中心に出演作を重ね、2010年自身の俳優活動の基盤を築くべく、個人プロデュースユニット「ポムカンパニー」を始動し、脚本・演出も担当。2017年朗読企画「キクトコ」を立ち上げ、舞台と融合させた独自の朗読スタイルを築く。近年では俳優活動の他、外部作品への脚本提供・演出も担当。演技講師としても活躍している。

公演情報

Hyo-eeN! vol.3 -朗読- 『アリア回想奇譚』

日:2022年9月23日(金・祝)~25日(日)
場:シアターモリエール
料:前売4,500円 当日5,000円
  (全席指定・税込)
HP:https://think-ent.com/
問:スィンクエンターテインメント
  mail:event@think-ent.com

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