おぶちゃ5周年記念作は大部恭平自身の過去 時とともに、平々凡々な幸せな家庭に訪れる確執。これは彼らへ送る唯一無二の葬送曲。

 舞台俳優だけでなく、脚本・演出家として人間味あふれた作品に定評がある大部恭平の個人企画、おぶちゃ。5周年を飾る舞台は大部自身の家族の物語であり、過去を弔い、新しい出発の意味を込めた一作だ。主役に劇団四季ミュージカル『ライオンキング』ヤングシンバ役を始め、豊富な舞台経験を持つ髙畑岬を迎え、メインキャストにグラドル・女優と多彩な顔を持つ田中菜々、元アイドルグループ『転校少女*』の塩川莉世など、個性豊かなキャストが揃った。本作へ向けた意気込みを聞いた。

―――5周年記念に本作を選んだ理由について教えてください。

大部「個人企画のおぶちゃが今年5周年を迎えるにあたり、9月に本作『葬送曲』をやることを決めてから、年明けから9か月連続でお芝居やライブ、MV制作など、毎月何かしらの企画を進めてきました。
 そもそもおぶちゃは15席くらいの小さなバー公演から始まりました。僕1人で作・演出から制作や雑務までこなす中で、沢山の方々に助けられながらやってきた企画です。会話劇が大好きなのですが、セットを組んで舞台をやるとなると、当時はまだ採算が合わなくて。なので自分が出来る範囲から始めました。“おぶきょ(大部のあだ名)のチャレンジ”という意味から『おぶちゃ』と名付けました。

そこから5年。お客様や役者、スタッフの皆様の多くの方々のお力添えいただいたおかげで今があります。その事への感謝と次へのチャレンジという意味でこれまで最大スケールの規模と人数で取り組んだのが今回の『葬送曲』です。
 本作は会話劇に特化しつつ、華やかさ、迫力という要素を意識しました。葬送曲は読んで字のごとく、死を悼む曲ですが、一方で死者を弔うことで残された人間が前に進むという意味があることを知りました。ならば自分の実体験からくるモヤモヤした思いをぶつけることで、新しい何かが生まれるんじゃないかという期待を込めています。去年、別の方のエピソードを物語に落とす作業を通して新しい感覚を持ったことがあって、この感覚を掘り下げて僕と僕の家族の話を描こうと思いました。ちょっと照れくさいですが、いわば、自分の生きざまを作品に落とし込むべく、鋭意執筆中です!」

―――メインキャストの皆様にお伺いします。現段階での本作への印象をお聞かせください。

髙畑「『葬送曲』というタイトルにネガティブな印象は持たずに、普通の人の人生を普通に生きるとポジティブに考えました。
 でも普通の人の普通の人生を描くのは難しいと思うんです。僕も弟も幼少期から役者をやっている、ある意味特殊な家庭なので、普通の家庭に生まれた人達がどんな生活を送るかは想像しづらいですし、すごく気になる部分でもあります。主人公を演じるにあたっては、勿論、大部恭平というロールモデルがいますが、敢えて近づけようとは思っていません。そうすれば僕が演じるメリットも生かせますし、そこにおぶきょの感情や培ってきたものをうまく乗せられたらと思います」

田中「私は髙畑さんと違って、想像以上にショッキングな印象を持ちました。普通の家庭のお話だけど、良いことばかりではなくて、トラウマなど触れたくなかったできごとを掘り起こすのは辛い作業だと思うのです。なので、そこから本になって役者が咀嚼して舞台にしていく過程そのものが本作のテーマであり、大部さんの言う“弔う”の意味に結び付けば良いですね。私は大部さんの奥様を演じますが、家族を客観視できるポジションなのかなと思います。夫に一番寄り添う存在でありながら、家族の過去の出来事には関与できないわけで。その部分と向き合う姿をどう演じるかが課題だと思っています」

塩川「今回、初舞台なのでとても緊張しています。これまでアイドルとして活動させてもらっていましたが、舞台はまた違った世界ですし、お芝居にもまだ不安がありますが、オーディションでチャンスを頂いたからには全力で臨んで良い作品にしたいですね。
 『葬送曲』というタイトルを聞いたとき、最初はその意味すら分かりませんでした。死は悲しいものというイメージを持っていますが、もしかしたら自分の死に対する概念もこの舞台を通すことで変わるのかも知れません。私は大部さんの弟さんの奥様を演じますが、大部さんと弟さんの奥様はかなり前からつながりがあるということなので、もしかしたら重要な役になるかもしれません。一生懸命取り組みたいと思います」

―――これまで会話劇を中心とした作品が多いと伺いました。

大部「僕は日常の中に生きていることの楽しさや可笑しさを見つけるのが凄く好きなんです。ひねくれ者なのかもしれませんし、あるいは人間がとても好きなのかもしれません。なので、SFやファンタジー物を創るよりも、自分の感覚を信じて会話劇を主体にしようと思いました。
 それと、僕はいつも物語の結末はバッドエンドにできないんです。そうしようと思っても、結果的には登場人物を救ってしまう。良く周りからも『お前は陽キャ』だと言われますが、確かにそうだし、それが影響しているとも思います。
 もっとドロドロした不条理な演劇にも憧れがあって書きたいなと思うのですが、結局、人を救って、人生を肯定して、人間讃歌にしてしまうんです。これは自分の弱みであり、コンプレックスでもある反面、僕の個性・特色でもあります。なので、『葬送曲』というタイトルにした本作で、どんなエンディングに出来るか今から楽しみです。
 今回はシングルキャストとダブルキャスト合わせて史上最多数の編成で、これまで一緒にお仕事させて頂いた方と、今回初めての方がいらっしゃいます。きっと各チームで色の違いが表れるでしょうし、違いが出て欲しいと期待しています。人によっては3役以上任せることも考えていますし、これまで規模的にも出来なかったことなども含めて色々チャレンジしたいです」

田中「まだプロットの段階ですが、私はどちらかというと、救いがないと感じました」

一同「(笑)」

田中「大部さんとは長くお仕事をさせてもらっていますが、逆にそこに度肝を抜かれました。今までの作品を知っているからこそ、本当にありのままを吐き出したんだなという印象がすごく強くて。なので、最終的にどんな本に仕上がるのかがすごく楽しみです!」

髙畑「確かにあのままのプロットでいくと、相当重い話になるよね(笑)。
 僕にとっても会話劇は1つのチャレンジでした。元々、初舞台が『ライオンキング』という日常とは大きくかけ離れた世界なので、日々を生きる人間をどのように芝居したらいいかという難しさはありました。でも色んな芝居をやっているうちに、会話劇が楽しいと感じてくるんです。普通のテンションで芝居をすることがこんなにも楽しいんだと思うようになりました。勿論、『ライオンキング』のような飛びぬけた世界も楽しいですが、本作のように家族の普通の会話を届けられることはやりがいがありますね。でも会話劇は苦手です(笑)」

塩川「私も最初は会話劇と聞いてもピンとこなかったのですが、おぶちゃさんの舞台を観せて頂いた時になるほど!と思いました。それぞれの役が自分の気持ちをしっかりと相手に伝えている姿を観て、これが舞台なんだと実感しました。私自身、こう思っているとか、こうしたいとか、自分の気持ちを言葉にして伝えることが苦手なのですが、本作を通してそういう姿勢を身に着けることができたらなと思います」

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

大部「演劇が好きな方は勿論、そもそも舞台を観たことがない方にも楽しんでもらえる作品づくりを常に心掛けています。
 日常をテーマにした会話劇というジャンルは敷居が低いと思う一方で、やればやるほど難しさを感じるので、毎回がチャレンジです。多くの人間が集まって、1つの作品を一緒につくるという刹那さ、その瞬間瞬間を楽しむ芸術は舞台の醍醐味でもあります。
 また会場にお越しになれない方の為にも、カメラを5台使った本格的な映像配信もおこなっています。様々な形でこの作品が多くの方に愛されることを心から願っております!」

田中「舞台なのに?と思われるかもしれませんが、おぶちゃさんのすごい所は映像なんですよ。コロナ禍で配信をする団体さんも増えていますが、どうしても劇場と配信とでは迫力の差が出てしまう。でもおぶちゃさんはそこを覆すぐらい配信の技術が素晴らしく、配信のストレスが一切感じられないんです。それもおぶちゃさんの強みだと思うので、劇場と配信を通して1人でも多くの方に本作を観てもらえたら嬉しいです」

塩川「初舞台、色んな事を研究して吸収しながら、演者の皆さんと良い作品をつくっていきたいです。アイドル時代からのファンの皆さんも私が舞台に立つ姿は新鮮だと思うので、舞台の素晴らしさ、面白さも感じてもらえるように一生懸命頑張ります!」

髙畑「生きていく上で、一度も舞台を観ないまま人生を終えていく方もいるかもしれません。でもその中から1人でもこんな世界があるんだということを知ってもらえたら嬉しいです。あとは自分がどれだけこの役を演じ切るか。今から楽しみです!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

髙畑 岬(たかはた・みさき)
1993年生まれ、神奈川県出身。2003年、劇団四季ミュージカル『ライオンキング』ヤングシンバ役を演じる。2007年からはジャニーズJr.のメンバーとして活動。退所後は劇団四季研究生を経て、フリーとして活動。近年の主な出演作に、おぶちゃpresents『Joie!』、ミュージカル『忍たま乱太郎』第12弾 忍術学園学園祭2021 浜守一郎役、ミュージカル座2月公演『スター誕生』ぎっちゃん役など。

田中菜々(たなか・なな)
1996年生まれ、福岡県出身。2011年、葛飾区ご当地アイドルユニットT-BREAKのメンバーとして活動を始め、同年11月30日にイメージDVD『ぴゅあコットンシリーズ なないろエンジェル』でグラビアデビュー。その後発売された2ndDVD『生徒会長、大変ですっ!』で一躍、年間トップジュニアアイドルの仲間入りを果たす。2012年、高校進学をきっかけに学業優先のためユニットを辞め、イメージDVDアイドルとして活動していたが高校卒業を機に女優業にも挑戦。近年の主な出演作に、おぶちゃpresents『Joie!』、おぶちゃpresents『Bittersweet Flowers』、ハネオロシ『春征くキネマ、桜舞う』など。

塩川莉世(しおかわ・りせ)
2000年生まれ、山梨県出身。アイドルグループ「転校少女*」のメンバーを経て、2022年5月からはソロユニット「SHUGAR」として活動。ライブイベントのみならずテレビや雑誌など多チャンネルに出演する。本公演で初舞台。

大部恭平(おおぶ・きょうへい)
1988年生まれ、神奈川県出身。「おぶちゃ」主宰・脚本・演出。俳優として舞台を中心に活動。脚本・演出家としては、主に会話劇を扱い、人間味、温かみのある雰囲気・空間づくりの演出には定評がある。主な出演作に、ダイハツ企業CM「日本のどこかで~晩メシ篇~」、WINK CATV バラエティー「おねこうTV(レギュラー)」、などがある。脚本・演出としておぶちゃ全作品、キミに贈る朗読会『サトラレ~the reading~』(佐藤マコト原作)全作品、『無人駅で君を待っている』(いぬじゅん原作)など。

公演情報

おぶちゃ5周年記念公演
『葬送曲』

日:2022年9月28日(水)~10月2日(日) 場:中目黒キンケロ・シアター
料:SS席[特典付]9,900円 S席7,700円
  A席5,500円(全席指定・税込)
HP:https://sousou-kyoku.ofcha.biz
問:おぶちゃ
  mail:ofchachacha@gmail.com

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