演出家・長塚圭史らとともに初のミュージカルに挑戦 すでにある形をなぞってすませないから、信頼できる

 長塚圭史が手掛けるミュージカル『夜の女たち』は、溝口健二監督の同名映画の初舞台化である。出演する江口のりこもまた、初めてのミュージカルに向けて「新しい挑戦になると思う」と言う。

 「ミュージカルなので、芝居と芝居の間に歌が入ります。芝居だけだと、たとえば悲しみに暮れる台詞を言った後に黙っていればいい。でも、その後に歌わなきゃいけなかったりする。現場に入って稽古をしてみないとわからないことだらけですね」

 江口演じる大和田房子は戦後すぐの大阪・釜ヶ崎で、夫は戦地からまだ帰らず、家族は消息不明、自身も焼け出された後に病気の子を抱えて困窮している。

 「お話としてはすごく単純だと思うんですよ。でもそこにあるエネルギーや想いみたいなものがすごく大きな作品だから、それを俳優たちで作っていく。お話どうこうというより、もっとざっくりと大きな何かがあるというか……。『この作品は、この女の人の想いがどうこうで……』という舞台じゃない気がしています」

 長塚は上演にあたり、主にストレートプレイを中心に活動する俳優たちに集まってもらったそうだ。理由は、「新しい時代を描く時、未開の領域へ触れるパワーが作品の核心に近づくものになるだろうと考えたから」だ。

 前田敦子、伊原六花の他、江口と共演経験もある、福田転球、大東駿介、北村有起哉らが集い、江口は「心強い人ばかりなので、みんながいるから大丈夫だろうという気持ちもあります」と言う。また、長塚とは何度も舞台を共にしており信頼を寄せている。

 「新しいことを一緒にできる喜びみたいなものはありますし、圭史さんの芝居だから大丈夫だという思いもあります。これまで何本もやらせてもらってるから、あえてなにも考えなくてもすごく自然に構えることなく一緒の空間で仕事できる。芝居に関して思ったことは素直に言えるし、こちらが言う前に違和感を見つけてくれたりする。圭史さんにはやっぱり常に新しいことをしよう、挑戦しよう、冒険しようという気持ちがあるから、信頼できるし、一緒にまたやりたいなと思えます。違うことをやっているようでも形だけなぞってすませていく事ってあると思うんです。安心だし、確実だから。でも圭史さんはそういうやり方をしない人だから信頼もできるし、信用もできるし、一緒に頑張ろうって思えるんでしょうね」

(取材・文:河野桃子 撮影:平賀正明 ヘアメイク:稲垣亮弐(maroonbrand)

プロフィール

江口のりこ(えぐち・のりこ)
1980年生まれ、兵庫県出身。1999年に劇団東京乾電池の研究生となり、2000年に入団。2002年、三池崇史監督『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』で映画デビュー。2004年、タナダユキ監督『月とチェリー』で本編初主演を務めた。その後、ドラマ・映画など幅広く活動。第2回シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビション(CO2)女優賞、第44回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞を受賞。近年の出演舞台は、『お勢、断行』、『王将』、『Home,I’mDarling~愛しのマイホーム~』など。

公演情報

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース ミュージカル『夜の女たち』

日:2022年9月3日(土)~19日(月・祝) 
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉
料:S席10,000円 A席9,000円 A席[平日夜割]6,000円 B席7,000円 B席[平日夜割]4,000円 ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.kaat.jp/d/yoruno_onnatachi
問:チケットかながわ tel.0570-015-415(10:00~18:00)

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