絶縁状態にあった父が大病に。その時、息子は!? 家族愛をテーマに、笑いを交えて描くヒューマンドラマ

 俳優・野依健吾が主宰する劇団ぶたのちょきんばこ第三回公演は家族愛がテーマ。
 役者を志し上京して10年。大成できず酒浸りの日々を送る翔也に姉から連絡が入る。「父さんが病気なの」しかし再会を拒否する翔也。父の茂とは絶縁状態にあった。果たして2人は和解し、再び家族に戻ることができるのか?
 主人公の翔也役に山口翼、父・茂役に清水拓蔵、姉・早苗役に夕樹ゆうを迎えて贈るヒューマンドラマ。脚本・演出の野依と共に本作の見どころを語ってもらった。

―――作品が生まれた背景について教えてください。

野依「自分自身が役者なので、役者を題材にするのはあまり好きではないのですが、だからこそ敢えてやってみたいというのはありました。役者はなろうと思えば、ある意味だれでもなることができる職業だと思うんです。その安易に始められるところが、父親との確執がある中で不純な動機に見えたらいいなという部分も含めてこの設定にしました。脚本については現在鋭意執筆中です」

―――メインキャストの皆さんは作品についてどのような印象を受けましたか?

山口「役者を目指し、上京して10年経つものの芽が出ない主人公、日野翔也を演じます。
 僕自身も自由奔放に生きてきて、役者をやることに際して父親ともめた時期があったので、翔也と似ている部分があると思います。でもそれを出すと露骨になってしますし、役者が役者を演じることは難しい側面もあるので、少し違う引き出しを用意しないといけないかなと感じています。野依さんは家族をテーマにした作品を創られていて、翔也のような役者ではないけども、似たような経験をされた方もいると思うので、皆さんに共感を持って頂けるような芝居ができればなと思っています」

清水「家族愛と一言で言っても、色んな形があると思うんです。みんな誰しも愛に飢えていて、愛されているけどもそれが特に若い時は分からなかったりする。僕は特に役者なんかは、自分を見て欲しいという欲求から愛を求める傾向が強いと思うんですね。家族愛はアットホームでほのぼのとした印象がありますが、実はもっとドロドロしていて他人からすると理解できないものだったりもする。それをどの様にストーリーとしてみせていくか野依くんの手腕に期待したいころです。
 父親像は自分の父でしょうか。昭和一桁の生まれで戦争経験者。とても無口な人なので、今の子供と一緒に遊ぶ父親とは対照的ですよね。翔也の父・茂はどんなタイプの父親かは台本が出来上がってからになりますが、絶縁状態にあったという理由からして頑固で不器用な人間とも想像できますね」

夕樹「最初に野依さんから『台詞量が一番多いよ』と脅されたんですね。確かに断絶状態の親子を取り持つ姉・早苗はきっと状況を説明する台詞も多いでしょうし、それに対しての不安が一番にありました。私自身も弟がいて、よく母親に言えない事を相談受けた記憶があるので、異性の姉弟の方が話をしやすいのでしょうか。なので物語でも2人をつなぐ役割となるような気がします。
 野依さんとは共演経験はありますが、作品に出るのは初なのでどんな世界観かは分かりません。過去作を見たほうがいいのなかと思ったのですが、変に影響受けるよりは、素直な反応を楽しんだ方がいいと思いました。役者としては日々楽しんでいるポジティブな方という印象がありますが、その方がどんな作品を創るのか今から楽しみですね」

―――野依さんは元・芸人という経歴をお持ちですが、笑いも1つの要素になりますか?

野依「そうですね。僕の作品では笑いが6割ぐらい占めるでしょうか。頭・中盤・終盤という感じで結構入れてますね。恐らく自分の中で、シリアス1本でいくのが不安なんでしょうね。お客さん楽しんでくれるかな?という。笑いはちゃんと仕掛けていく感じのコントが中心です。なので主人公の山口君は結構大変だと思います。きっと何人もの人にツッコミを入れないといけないので(笑)。シリアスな家族の関係以外にも、仲の良い周囲の人達に振り回される様子を描く予定なので、その部分で緩急というかほっとできる部分も持たせられるのかなと思います」

―――皆さんが考える家族像はどのようなものですか?

野依「僕自身が昭和生まれなので、家族像はそこがベースですね。今の若い世代には昭和のアナログな関わり方が、ダサいという受け止められ方をするのは仕方がないと思っています。でも家族は切っても切れない存在であり、そういう家族との接し方もあってもいいんじゃないと。
 一方で、若い子達の感性が自分にはないので、稽古の中で彼らの意見をもらいながら膨らませていけたら面白いですね」

山口「僕の父も昭和寄りの人だったので、結構厳しく育てられました。野依さんのイメージに近いのかもしれません。あくまでも自分が経験した中でしか膨らませることができませんが、お客さんが作品を観た時に『ああ、こういう家族っていいな』と思ってもらえる家族像を見せたいですね」

清水「最近ではSNSで知り合って結婚という例もあるようですが、出会い方は人それぞれ。大事なのはそこからの繋がりや絆はデジタルではできない、生身のやりとりだと思うんです。ケンカしようが何しようが家族なんだという姿を舞台で表現できたらいいですね」

夕樹「清水さんが仰ったように、家族は色んな形がありますね。一見、仲が良さそうな家族でも、実は家庭内に問題を抱えていたりするケースもきっとあるはずで。そういう意味ではきっと共感して頂ける方が多い作品になると思います。
 翔也と茂の親子関係がメインになりますが、その間に立つ姉の苦しさみたいなものきっとあると思うので、是非そこにも注目して欲しいですね。
 どういう結末になるかは観てのお楽しみですが、どこか温かい気持ちになってもらえると良いですね。早苗については笑いの要素は少ないと聞いていますが、可能な範囲でちょいちょい参加させてもらえたらと(笑)。その為にも台詞をしっかり覚えたいと思います!」

―――作品を通じて伝えたいことはありますか?

野依「僕が幼少期から青春時代と触れあってきた人間関係よりも、現代のそれは確実に希薄になっていると感じます。いい意味で便利になったと言えばそうですが、例えば好きな子に連絡を取るにしても、携帯電話がなかった時代なので、実家にかけるしかないわけです。そうするとたいてい父親が出てしまう。今の子からしたらあり得ないかもしれませんが、両親にとっては娘の交友関係も把握できるわけです。
 そんな時代背景も映した本作を観る事で、家族間がうまくいっている人もそうでない人も、改めて家族との向き合い方について考えてもられたら嬉しいですね」

―――メインキャストの皆さんから読者にメッセージをお願いします。

山口「この舞台を観て家族に会いたいなとか、会話をしてみようかなと思ってもらえるようなきっかけになれば嬉しいです。是非、多くの方に観てもらいたいです!」

清水「ぶたのちょきんばこ3回目の公演ですが、若い俳優達からいい刺激をもらっています。本当に演劇と劇場が大好きで、そこに来てもらえるお客様も家族のように感じていますので、皆様とその時間と空間を共有できることを心待ちにしています。どうぞご覧ください」

夕樹「皆で1つの家族をつくりあげていく過程で、観ているお客様にもどこか応援する気持ちを持ってもらえるとより面白く観られるのかなと思います。コロナ禍で何かと人とのつながりが持ちにくい状況ですが、改めて大切な人達の事を思い出して久しぶりに連絡を取ってみようかな?と思ってもらえる作品にしたいです。皆様のご来場をお待ちしております」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

山口 翼(やまぐち・つばさ)
1994年8月23日生まれ、宮城県出身。近年の主な出演舞台に、『悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる』クラウス・セントリック役、HOME舞台『新春歌闘劇バトリズム TheLIVE』白鳳学院コウメイ役、『Ensemble』中西葵役、『ティアムーン帝国物語 THE STAGEⅡ』ブラン役、『極人』沼倉マサヨシ役、青春歌闘劇『バトリズムステージ INITIO』白鳳学院コウメイ役などがある。

清水拓蔵(しみず・たくぞう)
1965年5月21日生まれ、群馬県出身。21歳で東京キッドブラザースの扉を叩き演劇の世界へ。以後、音楽座で『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』主演、『マドモアゼル・モーツァルト』、『アイラブ坊ちゃん』等の作品に出演。30歳で今井雅之氏率いるエル・カンパニーに参加。『WINDS OF GOD』ではニューヨーク・ロンドン・ハワイ公演に参加し、その演技を賞賛される。また、ミュージカル『レ・ミゼラブル』にも出演。最近には、アンシュル・チョウハン監督の『東京不穏詩』、『コントラ』、『DECEMBER』(来年公開予定)にも出演するなど、マルチプレイヤーとして活躍している。

夕樹ゆう(ゆうき・ゆう)
1979年11月28日生まれ、千葉県出身。主な出演作品に、【ドラマ】NHK 土曜ドラマ『人生はフルコース』、CX 金曜エンターテイメント『新・細腕繁盛記』、ANB『相棒』、CX『はるちゃん』、【映画】『ザンナビアンカ』(渡邊豊監督)、【舞台】つかこうへい劇団13期公演 『売春捜査官』主演などがある。

野依健吾(のより・けんご)
1981年7月1日生まれ、神奈川県出身。俳優・脚本家・演出家。2020年に劇団「ぶたのちょきんばこ」を旗揚げ。第一回公演『哀たくて』、第二回公演『はんにん』の脚本・演出を手掛ける。出演作に、舞台『大奥』、『水戸黄門』、『疑惑』、『大人のこども』、『さろん』など。

公演情報

ぶたのちょきんばこ 第三回公演
『いつかの日まで』

日:2022年9月7日 (水) ~9月11日 (日) 
場:ポケットスクエア ザ・ポケット
料:特別席[前方両席・特典付・期間限定販売]7,000円 普通席6,000円(全席指定・税込)
HP:https://butatcho.stage.corich.jp/?_fsi=tdAT4xQI
問:ぶたのちょきんばこ
  mail:info.butatcho@gmail.com

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