オフ・ブロードウェイのヒット作『HEISENBERG』日本初上演! 2組の演出・キャストで描く、不確かな男女の会話劇

オフ・ブロードウェイのヒット作『HEISENBERG』日本初上演! 2組の演出・キャストで描く、不確かな男女の会話劇

 人々が行き交うロンドンのセント・パンクラス駅で、ジョージーはアレックスの首に突然キスをする。見知らぬ女性の突飛な行動に驚くアレックスに、ジョージーは身の上話を語り出し――。トニー賞作家サイモン・スティーヴンスの話題作『HEISENBERG(ハイゼンベルク)』が、この夏日本初上演を果たす。
 登場人物は70代 肉屋の店主アレックスと、風変わりな40代女性 ジョージーの2人。ドイツの理論物理学者ハイゼンベルクが提唱する「不確定性原理」を下敷きに、どこか噛み合わない2人の会話を通し、不確かで揺れ動く男女の関係性を炙り出していく。
 演出・キャストは2組(演出:小山ゆうな 出演:上條恒彦・りょう/演出:古川貴義 出演:平田満・小島聖)に分かれ、回替わりで上演。この不可思議な物語を各々どう演じ、どう描くのか、2つの作品世界の行方も大きな見どころだ。
 アレックスとジョージーを演じるキャスト4名に、本作へかける意気込みを聞いた。


―――台本を読んで、まずどんな印象を持ちましたか?

上條「自分が演じるという以前にまず読み物として面白い。挑戦したいとずっと思っていた世界が描かれていて、読めば読むほど良い台本だなと感じました。ただ僕はセリフを覚えるのが苦手で、何度読んでも覚えられない。年齢的にも記憶力が低下しつつあるので、今回はりょうさんについていこうと思います(笑)」

りょう「いえいえ、私の方がついていきます(笑)。物語は最初にジョージーがアレックスの首にキスをするというとても電撃的な出会いから始まり、そこから2人の人生が変わっていく。ジョージーの言動にはわからないことも多いけど、とても魅力的な女性でもある。ジョージーとしての核を持って演じつつ、お客さんをストーリーに巻き込んでいけたらという気持ちでいます」

小島「ジョージーの発する言葉は『一体どれが真実なの?』と思ってしまう瞬間もあります。わからないことを明らかにしていくことも大切かもしれないけれど、わからないことをわからないまま会話を進めていくと、もしかしたらそれが正しいことになるかもしれない。2人が会話を重ねる中で、そういう時間が見えたらいいなと思っています」

平田「普通だったら日の当たらないような2人の、まず惹かれ合うようなことはないだろう男女のラブストーリーが展開されていく。タイトルを見て科学者たちの素敵な会話劇かと思っていたら、若くもない男女の日常会話で物語が進んでいて、ちょっと面食らいました(笑)。恵まれていない2人がたまたま出会い、会話を重ねる。話は噛み合わないけれど、きっとこの2人は色々なことがあったんだろうなと、聞いてくれる相手がいるというのは幸せなんだろうなという気にさせられる。観ている方に、そんな生きている実感のようなものが伝わったらいいなと思っています」

―――役者として本作のどこに魅力を感じましたか? 出演を決めた理由をお聞かせください。

りょう「私の中で、いつか二人芝居にチャレンジしたいという気持ちがありました。演者が互いに信頼関係を持ってひとつのものを作り、最終的にお客さんが観てくださることで出来上がっていく、それが舞台の魅力。演者が少ないほど自分の役割も大きくなるし、やりがいも大きくなる。今をときめく演出の小山ゆうなさん、上條さんとご一緒させていただく、しかも中野 ザ・ポケットという小劇場が舞台となると、これはもうチャレンジするしかない。私の芝居人生、役者人生をかけるくらいの気持ちでいます」

上條「いつか二人芝居に出てみたいと思っていたのと、歌のない芝居というのもそうあることではなくて、今回その両方が叶いすごく楽しみにしています。だからオファーをいただいた時は、『ラッキー!』の一言でしたね(笑)。ただとても大変な作品なので、受けて良かったのかどうか――(笑)。とにかく頑張りたいと思います」

小島「まず平田さんとご一緒できること、あと中野 ザ・ポケットは私にとって初めての劇場で、新しい挑戦というのも魅力を感じたところです」

平田「僕はもともと小劇場出身なので、小劇場でお芝居がしたいという想いがありました。75歳の男とちょっと訳ありの40代女性の恋愛劇で、しかも予定調和で進まなければ、簡単に見どころを言えるような話でもない。見たことのない、演じたことのない、挑戦しがいがある芝居だなと感じています」

――本作はオフ・ブロードウェイでもヒットを果たしています。その魅力をどう考えますか?

上條「思ってもないような展開になっていて、最初に台本を読んだときはページを捲るのがすごく楽しかったし、僕自身そこはとても心惹かれたところでした。オフの舞台は観ていないけれど、アメリカの観客、ブロードウェイの観客はこの作品をどう受け取ったのか、僕もぜひ知りたいですね」

りょう「ゲームのような、スパーリングのような会話が繰り広げられていて、すごく心がゾワゾワする。さっきまでこうだったのに何でこうなるんだろうというスリリングな感覚があって、観ていて振り回される。やはりそこが面白いところであり、この作品の魅力と言えるのではないでしょうか」

小島「何かテーマを持って物語が構築され、結末に辿り着くような演劇もあれば、なんだかよくわからなかったけれど面白かった!と持ち帰る演劇もある。この作品は後者で、余白やムダのような事というのはやはりすごく面白いし、そんな空気感が素敵な物語のような気がします」

平田「アレックスは75歳で、一般的にはもう老人ですよね。普通はその年齢だと膝がどうの血圧がどうのという話題ばかりになってくる。でもアレックスはこの歳になっても恋愛できるんだと思わせてくれて、僕自身そこは魅力であり素敵だなと感じたところです」

―――どのように役にアプローチしようと考えていますか?

りょう「ジョージーはおしゃべりで風変わりで、衝動的にうわーっと捲し立てる。捉え所のない言動が多いけれど、考え過ぎずシンプルに真っ直ぐ演じ、それによりお客さまを揺らすことができたらと思っています」

小島「ジョージーのセリフは私にとって普段口にしないような言葉が出てくるので、それをどう日常的な言葉にしたらいいのだろうと思っています。キャラクターとしては、年齢的な部分も含めて違和感はないです。なにかを内に抱えている人たちが出会い、心の隙間に温かいものを求めたくなる気持ちというのはどこかわかる気がします。平田さんと本読みをしていると色々発見があるのでその瞬間を2人でたくさん見つけて積み重ねていければと思っています」

上條「ジョージーとアレックスの会話は噛み合っていないのになんだかとても素敵なんですよね。こういう会話を若い頃からずっと積み重ねていれば、もう少し素敵な人生だったのかなという気がしていて(笑)。まずは『自分だったらこんな風に言わないのに、彼はどうして言うんだろう?』というところから、少しずつクリアしていこうと考えています」

平田「ジョージーとアレックスは何か脚光を浴びるようなこともなく、かといって不幸に集中するような話でもない。2人の語る話は、嘘か誠かわからないけれど、嘘でも誠でもいい、その人物が生きてきた何かが見える瞬間を大切にしたい。どこをどう捉えるかでお客さんの受け止め方もまた違うはず。何が正解というものはなく、ただ観た方に何か持ち帰ってもらえるような作品になればいいなと思っています」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:岩田えり)

プロフィール

りょう
1973年生まれ。10代からモデルとして数々の雑誌やファッションショーで活躍。1996年ドラマ『ロングバケーション』で女優デビュー。近年の主な出演作品に、舞台『髑髏城の七人 season花』、『偽義経冥界歌』、『両国花錦闘士』、ドラマ『部長風花凛子の恋』、『わたし旦那をシェアしてた』、『黒蜥蜴』、『DIVER-特殊潜入班-』、『ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○』など。

小島 聖(こじま・ひじり)
東京都出身。1989年、NHK大河ドラマ『春日局』でデビュー。1999年、映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞受賞。コンスタントに映像作品に出演する一方、舞台女優としての評価も高く、話題の演出家の舞台に多数出演し、新たな魅力を発揮している。主な出演作として、ドラマ『ファーストクラス』、『FOLLOWERS』、映画『シーサイドモーテル』、『続・深夜食堂』、舞台『DISGRACED-恥辱-』、『この熱き私の激情』、『誤解』、『往転』、『もしも命が描けたら』、『ラビット・ホール』など。

上條恒彦(かみじょう・つねひこ)
1940年3月7日、長野県朝日村生まれ。高校卒業後、様々な職業を転々とした後、1969年にNHK『ステージ101』で歌手デビュー。1971年『出発の歌』で第2回世界歌謡祭グランプリ受賞。2000年、菊田一夫演劇賞受賞。主な出演作品に、舞台『ラ・マンチャの男』、『マイ・フェア・レディ』、『屋根の上のバイオリン弾き』、ドラマ『3年B組金八先生』など。

平田 満(ひらた・みつる)
早稲田大学在学中『つかこうへい事務所』旗揚げに参加。1983年、映画『蒲田行進曲』で第6回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ、多数の映画賞を受賞。2001年『ART』、『こんにちは、母さん』で第9回読売演劇大賞最優秀男優賞、2014年『失望のむこうがわ』、『海をゆく者~TheSeafarer~』で第49回紀伊國屋演劇賞個人賞、2020年『THENETHER』で第27回読売演劇大賞優秀男優賞受賞と舞台での受賞歴も多数。2006年、企画プロデュース共同体「アル☆カンパニー」を立ち上げる。最近の主な出演作に、映画『大河への道』、テレビ『リコカツ』、『青天を衝け』など。

公演情報

conSept Dialogue in Theater #2 『HEISENBERG』

日:2022年7月29日(金)~8月14日(日) 
場:中野 ザ・ポケット
料:S席[C列~ D列]9,800円 A席[E列~ L列]8,800円
  C席[M列~ O列]6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.consept-s.com/heisenberg/
問:conSept mail:info@consept-s.com

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