作家・演出家の中島庸介が会話から不意に生まれる特有のリズム(音楽的言語)を手法に「滑稽な人」の「ありそうでない日常」を綴る、創造の場「キ上の空論」。その最新作は21年2月上演のR-18指定『ピーチオンザビーチノーエスケープ』の続編となる。“狂愛”“共生”をテーマに若者の小さな世界の恋愛を覗き見る本作は、メインキャストにオーディションで選ばれた松原怜香、小林宏樹らの体当たりの演技と小劇場ならではの濃密空間も相まってさらに見応えのある一作になりそうだ。松原、小林に中島庸介を迎えて本作への意気込みを聞いた。
『ピーチオンザビーチ』を三部作に
―――最新作について
中島「本作は2021年2月に上演した『ピーチオンザビーチノーエスケープ』の第二作となります。
初演を客席で観ていた時に、新しい自分の作品が生まれた感覚になったんです。以来、自分の頭の中でその新しいものを極めていきたいという思い、周囲からの要望を踏まえて『ピーチオンザビーチ』を三部作で描いてみようと思うようになりました。“狂愛”“共生”というテーマは共通しつつも、三部作それぞれ違った物語となります。
僕自身、狂気という言葉にはネガティブなものよりも、純粋な印象を受けるんですね。僕が描く人物は基本うぶで純粋なので、純愛を貫くゆえに狂気になってしまうというストーリーを描きたいと思っています。前作『朱の人』とはまた違ったキ上の空論の表現を観てもらえると思います」
稽古場での立ち居振る舞いが良くて
―――メインキャストの松原怜香さん、小林宏樹さんはオーディションで選ばれたそうですが、決め手になった印象はありますか?
中島「お二人には前作『朱の人』で稽古場補佐を経験してもらったのですが、稽古場での立ち居振る舞いもすごく良くて。ならば舞台上でも見てみたいと思い、急遽、『朱の人』のアフターイベントで20分ぐらいの朗読劇を創って出てもらいました。
僕がキャストを選ぶ上で重要視していることの1つに、声があります。一度、松原さんと外部公演でご一緒させてもらった際、彼女が演じるシーンでゾクっと鳥肌が立ったことを覚えています。
オーディションでは台詞を話している姿に“感覚的に何か良いな”と思えたのが大きいですね。勿論、巧い下手もありますが、僕はその“何か”を大事にしたいなと思っているので。
小林くんはオーディションでも技術が秀でていて、彼が本を読んだ時にどっと笑いが起きたんですね。この反応は彼だけでした。それに人間性がとても良くて。松原さんを含めて2人の『作品を良くしていこう!』という姿勢が僕も学ぶことがあるなと思うぐらい熱心でした。『朱の人』には出演しませんでしたが、それでも常に作品を良くするために何が出来るかを考えて行動してくれました。なので彼らがメインキャストを担った時にはもっと違うアプローチで作品に向き合ってくれると期待して抜擢しました」
良い意味で“狂った作品”になる
――ーメインキャストのお二人は本作にどんな印象を持ちますか?
松原「初めてキ上の空論さんの作品を観させて頂いた時に、世界観や雰囲気も含めて直観的にすごい好き!と思いました。今年4月の本多劇場での『朱の人』のアフターイベントで朗読劇『エモっ!』に小林さんと一緒に出させてもらって、いつか本公演にも出てみたいという気持ちが強くなったのですが、本作はR-18ということで、オーディションの締め切り2日前まで迷いはありました。
でも自分がお世話になっている先輩に、『25歳までに自分の命を削ったという作品を一本は持て』と言われたことがあって。これからどんな作品に、どんな役になるのかとてもわくわくしていますが、きっと私にとって、命を削って取り組む価値がある作品になるはずと、思い切ってオーディションに応募しました。
『朱の人』で、実は当初稽古場補佐という立場で携わらせてもらい、本で読んでいる想像以上の世界が本番の舞台で広がることを間近で体験しました。今回はキャストとして作品に参加させて頂くので、どんな体験になるのか今から本当に楽しみでしょうがないです!
本作は男女の恋愛がテーマ。自分も割と破天荒な(笑)恋愛も経験した事があるので、その自分の内に秘めたものを舞台上でさらけ出すことも快感ですね。
前作以上にどんな作品になるのか全く想像もつかないのですが、きっと良い意味で狂った(笑)作品になるんだろうなと思っています!」
一同「(笑)」
小林「キ上の空論さんの作品はどれも面白いものばかりで、その看板を背負って芝居をやらせて頂くので、いかに中島さんの世界を表現できるかと勝手にプレッシャーを感じています。
恋愛に関しては松原さんとは対照的に割とピュアだったので(笑)、この『ピーチオンザビーチ』のテーマになっている“狂愛”の定義が良く分かりませんが、自分の中では純粋に好きという気持ちで恋愛をしているつもりでも、傍からみたら狂っていると思われるのかもしれないので、本作ではこんな愛し方が出来るんだという表現を出来たらと思っています。
松原さんとはずっと一緒にいて、戦友という感覚ですね。喋らなくても何を考えているか分かります。本作では男女で立場が逆転するダブルキャストなので、お互いどんな芝居をするかはきっと意識するはずです」
パフォーマンスを超えた面白さがある
―――本作は“恋愛”を切り口に若いキャストが揃いました。彼らとの創作については?
中島「僕はこの作品を若い世代に観てもらいたいし、演じてもらいたい気持ちはあります。ベテランの方とお芝居をしているとツーカーで伝わるし、勿論それも楽しいですが、若手とはツーカーにならない部分もあって、話し合って彼らが努力で埋めていく様子を見てみたいというのはあります。年齢的にも若手が成長していく過程を見るのが楽しいと思うようになりましたね。
経験が浅くても純粋な気持ちでお芝居に取り組む彼らを見ていると、0点か120点かという熱意が見えて、パフォーマンスを超えた面白さにつながることがあるんです。荒削りだけども無限の可能性を秘めた青春の光のようなものを脚本にも意識して描きましたし、お客さんにも注目して欲しいと思っています。
今や配信やサブスクなどで簡単にエンターテインメントを楽しめる時代ですが、お芝居は予約をして、サブスクより高いお金を払って、劇場に足を運んでと、観るまでの手間がかかりますよね。でも演劇でしかできない表現があるし、同じ演目でも1ステージ1ステージで見え方が違う。その手間を惜しまない人しか体験できない特別な時間があるので、そういう貴重な体験をこれからも提供していきたいです」
―――最後に読者にメッセージをお願いします。
小林「繰り返しになりますが、キ上の空論の看板を背負って舞台に立たせてもらうので、1番はお客さんに楽しんでもらい、どれだけ良い作品に仕上げることができるか。今まで以上に一層の覚悟を決めて臨みたいです。中島さんの世界を創る意味でも自分自身に勝負していきたいです」
松原「念願の本公演でメイン。しかもチケットは完売というこれまでにない状況で、私自身かなりのプレッシャーは感じていますが、間違いなく役者人生の節目となる作品です。キ上の空論のいちファンでもあるので、皆さんと素敵な作品を創れるように全力で頑張るのみです。自分でできる精一杯を注ぎ込む覚悟ですので、是非皆さんご期待ください!」
中島「今回は小屋選びから時間をかけました。濃密空間で男女のあれやこれやが描かれ、人の家の中を覗き込むような緊張感やハラハラ感がある作品です。他人の恋愛はどこか気持ちが悪いもの。僕はその不快感でさえもエンターテインメントだと考えています。気持ち悪さも面白がってもらえたら嬉しいです。急遽、追加販売も決定しましたので、たくさんの方のご来場をお待ちしています!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
松原怜香(まつばら・れいか)
11月14日生まれ、北海道出身。2016年デビュー。2022年6月24日公開『神は見返りを求める』(吉田惠輔監督)に出演。2021年 πTOKYOプロデュース『東京虹子、7つの後悔』(作・演出 中島庸介)、2022年 キ上の空論 朗読劇『エモっ!』(作・演出 中島庸介)などに出演。
小林宏樹(こばやし・ひろき)
9月6日生まれ。東京都出身。2017年、倉本聰 作・演出の舞台「走る」全国公演にてデビュー。主な出演舞台に、2017年『MOTHER マザー~特攻の母 鳥濱トメ物語~』、BQMAP『カムナビカンカン』、宮下貴浩×私オム『蛇の亜種』、2018年『風の音聞こえず、鈴音が落ちる』、2022年 キ上の空論 朗読劇『エモっ!』などがある。
中島庸介(なかしま・ようすけ)
9月19日生まれ、岐阜県出身。劇作家・プロデューサー。「キ上の空論」代表。2013年に個人ユニット「キ上の空論」を旗揚げ。全作品の脚本・演出を手掛ける。言葉遊びや韻踏み、擬音の羅列や呼吸の強弱、近年では若者言葉や方言など、会話から不意に生まれる特有のリズム〈音楽的言語〉を手法に「滑稽な人」の「ありそうでない日常」を綴る。2017年から2021年まで演劇プロデュース会社「オフィス上の空」で代表取締役を務める。他にもYouTube番組「CoRich舞台芸術!チャンネル」のディレクションとしても活動中。
公演情報
キ上の空論#16 狂愛と共生の三部作 第二弾
『ピーチオンザビーチノーマンズランド』R-18
日:2022年7月22日(金)~31日(日)
場:ウエストエンドスタジオ
料:6,700円(全席指定・税込)
※他、U-25割あり。詳細は団体HPにて
※18歳以下入場不可
HP:https://kijyooo.wixsite.com/peach2207
問:LUCKUP
tel.03-6770-3628(平日10:00~18:00)