「喜劇=笑える悲劇」の理念の下、コメディの中に鋭い風刺を交えた独特の作品を生み出してきた電動夏子安置システム(通称:電夏)が、2019年の第31回池袋演劇祭大賞受賞作を再演する。租税に関する啓発活動をする事業会を舞台に、様々な事情と思惑を抱えた一癖も二癖もある登場人物らが巻き起こすコメディは、1つの笑いを生み出すために論理を積み重ねて導き出す“ロジカル・コメディ”の手法も相まって唯一無二の作品となった。初演と同じキャスト、役柄で展開される再演は果たしてどんなインパクトを与えるのか? 主宰の竹田哲士、劇団員の道井良樹と新野アコヤ、そして2度目の客演となる森田晋平に本作の見どころについて語ってもらった。
※竹田哲士さんはリモートにて参加して頂きました。
一体、税金は誰のもの?
――――2020年8月に再演が予定されていましたが、コロナ禍で2年ぶりに再演が決まりました。税金というテーマはどうして思いついたのでしょうか?
竹田「私自身が小学生を対象にした税金教室に参加する機会があって、そこでの裏側の人間関係が非常に面白いと感じました。色々な悩みを持った大人たちが懸命に日々を送りながら、一方で子供達の前では笑顔で教室を続けるわけですね。それが喜劇的だなと思ったことが発想の1つにあります。あとは単純に僕の中に税金とはいったい誰のためのものなんだろうという疑問がありました。そういった社会的な投げかけがうっすらと作品の裏にあったほうがいいんじゃないかなと思ったのが出発点です。初演と異なるのは、コロナ禍で社会的な矛盾に直面している状況にあるという点です。今回はそういう部分も取り入れながら、困っている人を助けるための税金がなぜ有効に活用されないのかという視点を入れました。……というと立派に聞こえますが、そういう部分をひた隠しにして表面上はトコトン馬鹿らしくいこうと思います(笑)」
台詞が全然覚えられない!
――――客演の森田さんは初演に続き2度目の出演になります。電夏さんのお芝居の印象を聞かせてください。
森田「もう『ベンジャミンの教室』要員と言ってもいいかもしれませんね(笑)。とにかく台詞量が多いという印象です。僕は台詞覚えが早い方と自負していますが、『ベンジャミンの教室』だけは、全然覚えられなくて。僕の演じた役もかなりぶっ飛んだ役だったので、会話のスピードも相まって途中で自分でも何を言っているのか分からなくなりました(笑)。今回台本が新しくなると聞いたので、そこがどう変わっていくのか。楽しみであり恐怖でもありますね」
竹田「仰る通り、うちは台詞が多くてト書きがない。指示もほとんど稽古の時に出します。今回は付け足しで前回より10ページぐらい増えたかな。これから刈り込んでいくけども。そういう意味では役者さんには負担がかかる劇団かもしれません」
道井「さっき竹田が『うちはト書きがないと』と言っていて凄い頷いていたけど、やっぱりそう?」
森田「そうですね。困惑しかなかったです(笑)。とりあえずやってみて、試しながら芝居を作っていく作業が多かったですね。どうやってついていくか大変でしたが、同じ客演の人達と一致団結して頑張りました。もう2度目なので前回学んだことを生かして、今回はもう少し自分から発信できるものを増やしたいですね」
竹田「初演でご一緒するまで森田さんがどの様な役者さんか存じ上げなかったのですが、きっとこんな人だろうと想像しながら当て書きで台詞を書きました。そうしたらぴったり! ここまで残念な人を見事に演じ切ってくれました(笑)」
想定を超えるグルーブが生まれる瞬間!?
――――事前に登場人物の背景や心情をホームページで公開しているのも珍しいと感じました。
竹田「確かに物語のあらすじは結構詳しくHPに書いてありますが、実際に舞台を観てみると違った印象を持つと思います。僕らとしてもいかにあらすじを超えていくかという部分もあります。稽古場で物凄い面白いことが起こっているので、それを可能な限り舞台上に乗せたいですよね。
本作は池袋演劇祭で賞を狙いにいったかのような万人受けする舞台なので、初めてうちを観るという方にでも入りやすいと思います。手前味噌になるかもしれませんが、誰が演じても笑いが取れるような台本を書けるように心がけています。ある程度は稽古で想像の範囲内で展開していくのですが、本番ではその想定を超えるようなグルーヴが生まれる瞬間があるんですよ。一公演に一度あるかないかですが、劇場全体が揺れるような瞬間があって、“笑い待ち”をしなければならない時もあったりして。そういうコメディをやっている醍醐味をこの劇団だったら生み出せるなという強みがあると思います」
道井「『ベンジャミンの教室』ではそのグルーヴが2、3回はあったような気がするよね。初演時では70~80人で満席になるような小劇場でしたが、今回は300席のホールなので広さが全然違う」
竹田「確かに小劇場ならではの“密感”がまたそのグルーヴを倍増させていたのかもしれませんが、こういうご時世で席も間隔を空けないといけない状況で、コメディにとっては逆風ですが、どうにかまたその感覚を味わってもらいたいなという思いはありますね」
――――新野さんも電夏さんの独特の作風に魅せられた1人でしょうか?
新野「私がまだ団員ではなく客演で出ている時に、お客さんが『電動夏子なら観に行きたい』と言ってくださっていて、それほど言うならここは大丈夫だろうなと思ったのが、所属のきっかけです。入る前から思っていたのですが、コメディを主軸としているだけあって、みんな稽古通りの事をしてくれないんですよ。お客さんを見て違うことや新鮮なことをやろうとしてくるし、台詞の量も多いしすごく大変ですけど(笑)、メンバーの個性は魅力的でしたね
道井「あ! こういう流れだと、公演終了後にきっと森田君も劇団員になっているか……も!?」
森田「それは検討させて頂きます!」(一同笑)
道井「でも他所の団体に出ると、凄い台詞が覚えやすいでしょ?」
森田・新野「それはすごいある‼ 文法なのかな?」
道井「主宰は台本を書く上でそれを意識しているの?」
竹田「僕の本は会話になりそうでならない。多分なっていないから覚えにくいんじゃないかな」
森田「確かに。僕会話していなかったですもん。僕だけ会話になっていなかった」
竹田「会話に固執するとそれだけで先の展開が読めてしまうんですよね。会話らしく見せることが面白いんじゃないかと。突き詰めると誰も会話が噛み合っていないけども、引きでみると物語が動いてるように見せるのが特徴というか、うちが客演さんに嫌われている理由です!」(一同爆笑)
道井「だからお芝居が上手じゃないと大変なんだよね。常に流れに乗っかっていかないと取り残されちゃう。」
竹田「それはあるね。経験が浅い人だと物凄く芝居下手に見えてしまう。そういう意味では道井さんはうちの劇団で演技をしなくていいよね。ほぼ地だから」(一同笑)
軸には笑い。でも爪痕を残したい
――――風刺を笑いに込めた目的はありますか?
竹田「シンプルにコメディ全開に振った舞台も楽しいですが、笑いの中にもズキンと来るトゲの様なものを刺して終わりたいなというか、爪痕を残したい気持ちがあります。それはコメディが他のジャンルに比べてどこか安く見られる風潮が嫌で何か付加価値をつけたかった。それがこの風刺につながっていると思います。でも自分の軸にあるのは笑いであり、コメディ。人を笑わすのが好きなんです。そこはぶれずにいたいですね」
――――最後に読者にメッセージをお願いします。
森田「自分もコロナ禍で持続化補助金や一時支援金などのお金に関わることが最近増えていたので、タイムリーだなと感じました。税金となると、どうしても眉間にシワが寄るような印象を持たれるかもしれませんが、あくまでもコメディですので、日々のストレスを感じている人は是非いらして大笑いして帰ってもらえたら嬉しいです!」
新野「お芝居の中で、税金ってどういう仕組みなの?という感じで分かりやすく説明が取り入れられています。これまで“税金”を言われるがままには払っていたような方も知る良いきっかけになるかもしれません。初演と同じメンツで同じ役なので、さらに深い大人のコメディをお見せできると思います。是非、日常を忘れて笑って欲しいと思います」
道井「再演で全く同じキャストって珍しいですし、初演と同じように見えて実はかなり違って見えるかもしれません。初めて観る方は勿論、初演をご覧になった方も楽しめる内容になっていますので是非ご期待ください」
竹田「とにかく面白いもの作りますのでシンプルに笑って頂けたら十分です。税金は未来のために使うものであるという視点を入れていますので、未来的な展開を想像してもらえたら楽しめると思います。生きていく上で避けて通れないテーマなので、そこにちょっとだけ考えを巡らせてもらえたら、“社会貢献劇団”としての面目が立つかなと思っております」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
森田晋平(もりた・しんぺい)
1993年10月17日生まれ、千葉県出身。
高校生よりモデルとして活動。2016年『恋するブロードウェイ♪ 〜It’s festival!〜』にてデビュー。 2017年『グッバイエレジー』で銀幕デビューも果たした。2019年電動夏子安置システム『ベンジャミンの教室』で意識高い系の若手実業家、長崎穣示役を好演。近年の舞台に2020年、ミュージカル『刀剣乱舞』~幕末天狼傳~などがある。
道井良樹(みちい・よしき)
相撲寿司役者。寿司は握るのも食べるのも好き。相撲は取るのも観るのも好き。数多くのCMや映画と共に第2回公演から電動夏子に出演、いつの間にか劇団員になる。八王子生まれの天然パーマ。現在公開中、銚子電鉄の映画『電車を止めるな』に出演。
新野アコヤ(しんの・あこや)
5月24日生まれ、東京都出身。
日本映画学校卒業。テレビ映画CMにも出演中。第10回公演から客演として参加し、2014年(31回公演)入団。劇団ではおばさんの役から小学生の役まで幅広く演じる。
竹田哲士(たけだ・てつじ)
1977年6月6日生まれ、静岡県出身。
2000年に明治大学演劇研究部有志と電動夏子安置システムを結成。第1回公演より現在までに五十数本の脚本・演出を担当。状況と制約から生み出される笑い「ロジカル・コメディ」でお客様のご機嫌を窺い続けている。
公演情報
電動夏子安置システム 第31 回池袋演劇祭大賞受賞公演 『ベンジャミンの教室』
日:2021年9月16日(木)~20日(月・祝)
場:あうるすぽっと
料:4,500円
→大賞受賞感謝価格3,900円(サンキュー)
学割1,800円
高校生以下1,000円
配信チケット2,500円
※学割・高校生以下は要学生証提示
※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:http://www.dna-system.com/
問:電動夏子安置システム
mail:info@dna-system.com