バレエの名作「くるみ割り人形」を現代のデジタル世界に置き換えた意欲作 選ばれたダンサー達によって、時間をかけて創り上げる新世代の作品

長いことヨーロッパ、中でもマルセイユを拠点にで活躍してきた遠藤康行。帰国して日本を拠点にしてからも横浜バレエフェスティバルや新国立劇場などで振付・演出家として活動していたが、並行して自らのカンパニー、Endo Ballet Atelierを主宰。昨年から本格的な作品発表を始めている。
そんなEndo Ballet Atelierが、バレエ作品の中でもよく知られている「くるみ割り人形」にインスパイアされたという「N-CRACKER/Clara Wakes」を7月に上演する。まだ序盤だという稽古場に伺って、様子を拝見した。


「くるみ割り人形」を翻案した作品はこれまでにも数多く発表されているが、本作では舞台をAIに管理されている未来に置き換え、くるみ割り人形=N-Cracker もアンドロイドという設定になっている。音楽もチャイコフスキーの原曲だけでなく、作曲家であり舞台やダンス、映画などに作品を提供している平本正宏が新たな音楽を用意するという。

最初に拝見したのはクララ(遠藤ゆま)とN-Cracker(石山蓮:新国立劇場バレエ団)の2人によるシーン。原版で言うなら「雪のシーン」の手前だという。コンテンポラリー・バレエ作品だが、遠藤による振付はクラシック・バレエの優雅さや柔らかさが強くにじみ出していて、いわゆるコンテンポラリーのイメージとは離れた印象を感じさせる。

続いてはマーチのシーン。スネアドラムがリズムを刻むこのシーンは耳にすれば誰でもうなずく部分だが、平本による音楽はそのリズムにノイズを採り入れることで、シーンの意味合いまで変化させているのが面白い。同じ方向に規則的に並べられた人間たちが、AIのドロッセルマイヤー(仲村啓:新国立劇場バレエ団)に幻想を見せられ、同じ動きを繰り返し、ときに排除されていく。ある意味不気味さを感じさせるシーンだった。

次はデジタル・ブリザードのシーン。原盤では雪がモチーフとして沢山出てくるが、本作ではそれをデジタル信号に見立てている。つまりこのシーンでは圧倒的なデジタル信号のなかをかき分けてクララとN-Crackerが進んで行くシーンになる。

そしてグリッチのシーン。グリッチとはプログラムの中で生まれる一時的なバグや、それが起因する不具合、乱れのことで、再現性なく現れる。その象徴としての”グリッチの王様”、グリッチキングとして登場するカンパニーメンバーの市ノ澤直希は体技を活かしたパフォーマンスを見せてくれる。

そのグリッチキングとクララ、AIドロッセルマイヤーの三人によるシーンが続くトリオのシーン。3つの身体が知恵の輪のように絡み合う様が面白く、思いがけないムーブメントがその度に目を惹くシーンだった。

最後にリハーサルしたのは通常2幕の「くるみ割り人形」には全くないアンダーグラウンドのシーン。まだクリエイションの最中だということもあり、遠藤はダンサーの動きを確認しながら振りをつけていく。2人一組となったアンサンブルの中心にいるのはロープで繋がれたクララとN-Cracker。”繋がり”をイメージさせるロープの演出は、建築家でもあり、遠藤とはいくつもの作品で共同作業をしている長谷川匠による舞台装置と相まって、これまでに体験したことが無い新たな世界を見せてくれることだろう。

本作ではさらにプロジェクション・マッピングを採り入れるなど、最先端の表現を凝縮した本作。5人のゲストと21人のカンパニーメンバーは、いうまでもなく誰もが遠藤の理念に共感し、クリエイションに参加している。自前のカンパニーを持つ意義として時間を掛けたクリエイションが出来る事という遠藤。まさに新世代のバレエ作品が生まれる瞬間を拝見した気がした。

(取材・撮影・文 渡部晋也)

公演概要

Endo Ballet Atelier 「N-CRACKER/Clara Wakes」
2026年7月7日 (火) ・ 2026年7月8日 (水)
各日19:00開演
セシオン杉並ホール(東京都 杉並区 梅里 1-22-32)

※ロビー開場は開演の60分前、客席開場は開演の30分前です。
※上演時間:約1時間45分

一般席:5,000円
(全席指定・税込)

出演
石山蓮(新国立劇場バレエ団,ファーストアーティスト)
仲村啓(新国立劇場バレエ団,ファーストアーティスト)
岡本壮太(フリー)
梶田留以(フリー)
南條健吾(フリー)
遠藤ゆま
市ノ澤直希
田代幸恵
先山実花
須貝紗弓
中川怜菜
河部円歌
染谷智香
小川更紗、斉藤真結花、酒井亜彌音、佐藤萌子、永沼華歌、野崎沙帆、三田ひかる、宮野愛葉、森實紗彩、山下沙羅、吉澤桃華、吉田瞳来、栃窪優花

スタッフ
芸術監督/構成,振付,演出 遠藤康行
美術 長谷川匠
音楽 平本正宏
照明 辻井太郎
プロジェクションマッピング 木本みいか
舞台監督 千葉翔太郎
音響 佐藤利彦
衣装 tomonaco 朝長靖子、Endo Ballet Atelier
バレエミストレス 原田舞子
HP.チラシ構成デザイン 遠藤ゆま
アナウンス 河部円歌
制作 Endo Ballet Atelier事務局

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